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アロマンティックとは?その意味やアセクシュアルとの比較、人間関係に与える影響を解説

アロマンティックとは?その意味やアセクシュアルとの比較、人間関係に与える影響を解説

アロマンティックとは?

アロマンティックとは

アロマンティックという言葉をご存じだろうか。

恋愛的指向の1つで、一般的には「他者に恋愛感情を抱かない」人や指向を指す。アロマンティックへの価値観や自認は人によって様々なため、「アロマンティック=こうである」という定義は存在しない。

アロマンティックや、性的欲求を抱かないセクシュアリティであるアセクシュアルの研究機関であるAs Loopによって"アロマンティックやアセクシュアルを自認する、もしくは近しいと感じている"人を対象に行われた「Aro/Ace調査」によると、自認している恋愛的指向がアロマンティックである人は2020年には44.7%(1693人中)だったが、2022年には48.5%(2331人中)となった。(※1)

僅かな増加数ではあるものの、アロマンティックという恋愛的指向の当事者認知は少しづつ増えてきている。

アロマンティックの傾向

アロマンティックに対する考え方や感じ方は多様であり、人によって捉え方は異なる。自身をアロマンティックだと自認するまでの過程も人それぞれのため、特徴を挙げることは難しいが、その中でも多く見られるアロマンティックの傾向は以下である。

・他者に対してときめきを感じない

・恋愛描写のある物語に共感しない

・他者との恋愛話に違和感を覚える

・キスや手をつなぐなどの身体的接触に嫌悪感を抱く

アロマンティックの人が誤解されやすいのは「誰に対しても愛情を抱かない」と思われることである。アロマンティックは恋愛感情は抱かないが、愛情を感じないことを意味するわけでは決してない。家族愛や友人愛を感じたり、他人に対して性的感情を抱いたりする場合もある。

アロマンティックとアセクシュアルの比較

様々なセクシュアリティが存在するため、なかにはそれぞれの違いが広く認識されていないものも存在する。その中でも、アロマンティックと混同されやすいのがアセクシュアルである。アセクシュアルとは、一般的には「他者に対して性的欲求を抱かない、または抱くことが少ない」セクシュアリティを指す。

また、アセクシュアルの定義は日本と英語圏で異なることもある。英語圏では「他者に性的魅力を感じない」という意味で、日本では「恋愛感情も性的な欲求もない」 という意味で使われる場合が多い。これは、個人の性的指向を定める際に日本では「恋愛感情の有無」を元に判断しがちな傾向が影響していると言える。一方英語圏では「性的魅力の有無」で性的指向を定めるため、アセクシュアルの中でも「恋愛感情の有無」も加味する場合、以下のラベルで分類される。(※2)

・aromantic asexual(アロマンティック・アセクシュアル)
 他者に性的魅力を感じず、恋愛感情も抱かない

・romantic asexual(ロマンティック・アセクシュアル)
 他者に性的魅力を感じないが、恋愛感情を抱く

アロマンティック・スペクトラム(Aromantic spectrum)

恋愛的指向には多様性があり、アロマンティックを軸に広がる無数のグラデーションを、総じてアロマンティック・スペクトラムという。アロマンティックといっても、たとえばデミロマンティック(※3)やクエスチョニング(※4)等固有のラベルがあるものや、アロマンティックとデミロマンティックのどちらも兼ねている人など、その組み合わせは自認する人の数だけある。(※5)つまり「自分はアロマンティックである」と自認する人から、「自分はアロマンティックかわからない(だが、関連性は感じる)」と自認する人まで、様々な当事者がいるのだ。

※1 参考:As Loop「Aro/Ace調査2022概要報告資料」
https://asloop.jimdofree.com/aro-ace%E8%AA%BF%E6%9F%BB/%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E7%B5%90%E6%9E%9C/2022%E5%B9%B4%E5%BA%A6/
※2 参考:asexual.jp「アセクシュアルについて」
https://www.asexual.jp/info/

※3 用語:強い絆や信頼関係で結ばれている相手に対してのみ、稀に恋愛感情を抱く恋愛的指向
※4 用語:自身の性自認や性的指向が定まっていない、もしくは意図的に定めていないセクシュアリティや恋愛的指向
※5 参考:三宅大二郎 ・平森大規「日本におけるアロマンティック/アセクシュアル・ スペクトラムの人口学的多様性―「Aro/Ace調査2020」の分析結果から―」
https://cir.nii.ac.jp/crid/1390009226284532480

アロマンティックの誤解と偏見

当事者は恋愛的な魅力を感じない、または限定的にしか感じないという特性から、多くの誤解と偏見に直面する。これは、一部の人々がアロマンティックな人々を理解するのが難しいためである。以下に、アロマンティックに対する一般的な誤解と偏見をいくつか詳述する。

・“冷淡”または“感情的に欠落している”との誤解

一部の人々は、アロマンティックな人々が恋愛的な感情を経験しないため、「冷淡」または「感情的に欠落している」と誤解することがある。これは明らかな誤りで、アロマンティックな人々は情緒的な深さと複雑さを持ち、親友、家族、ペットなどとの強く、意味のある関係を築くことができる。彼らは恋愛的な愛とは異なる形での愛を経験するが、それはそれでも有意義なのだ。

・“適切なパートナーを見つけていないだけ”との見方

一部の人々は、「適切なパートナーを見つけていないだけだ」というアロマンティックな人々への誤解を持つことがある。しかし、これは彼らの性的指向を単なる一時的な状態と誤解することになり、アロマンティックな人々の指向を否定することにつながる。アロマンティックな性的指向は一時的なものではなく、恒久的な特性であり、他の人々が持つ恋愛的な魅力の経験とは異なるものだと考えられている。

・“成熟していない”や“自己中心的”と決めつけられる

一部の人々はアロマンティックな人々を「成熟していない人」や「自己中心的な人」と見なす傾向がある。これらの見方は、恋愛を成熟や自己発展の指標とする社会的な規範から来ている。しかし、アロマンティックな人々は恋愛的な感情を体験しないだけで、それ以外の多くの形で感情的な成熟や他者への配慮を示すことができる。

これらの誤解や偏見は当事者にとって、理解されず、受け入れられず、価値ある人間関係を築くことが困難になる原因となる。これらの誤解を解消し、偏見を克服するためには、アロマンティックな性的指向についての教育と理解が必要だ。

アロマンティックが人間関係に与える影響

アロマンティックが人間関係に与える影響

アロマンティックの当事者のなかには、家族や子どもが欲しいなどの理由から、恋愛以外の動機でパートナーと共に家族になることがある。2022年にNHKで放送されたアロマンティックやアセクシュアルを題材にしたドラマ『恋せぬふたり』では、アロマンティックやアセクシュアルの当事者同士が、恋愛感情がないのになぜ家族になるのか葛藤するシーンで「家族になることは“味方”になること」と表現される描写がある。恋愛感情がないからといって、他者との親密さや連帯感、味方を望んでいないわけでは決してないのだ。アロマンティック、とひと言で言い表しても、そこには1人ひとり違った個性があり、そこを理解しながら心地よい人間関係を探ることが重要である。また、恋愛に依らず様々な愛の形を考えることは、1人ひとりの個性や生き方を肯定することに繋がり、人間関係全体についても広い視野を与えてくれるのではないだろうか。

アロマンティックにおける課題

近年、LGBTQIA+をはじめとする性的マイノリティの認知度が高まっている一方で、アロマンティックなどの恋愛的指向の認知度はまだ低いのが現状である。2020年に電通ダイバーシティ・ラボが実施した「LGBTQ+調査2020」では、LGBTという言葉の浸透率は80.1%だった一方で、アセクシュアルやアロマンティックを知っていると回答した人の割合は5.7%に留まり、言葉を聞いたこともないし、意味も知らないという人は81.4%にのぼった。(※6)

アロマンティックという言葉が社会に浸透していないことから、当事者は周囲とのコミュニケーションの中で恋愛への捉え方の違いに疎外感や不安感を抱くことがある。「恋バナが理解できない」「恋愛に対するトキメキを感じられない」ということを説明するのも難しいし、説明できたとしても周囲の理解が得られないケースが多い。ときには恋愛的な関心を持つことを前提に“いつかその時がくる”と諭されることもあるという。

他にも、「男女の恋愛結婚」が主流の現代社会では、パートナーを見つけ、結婚し、子どもを持つことが「あたりまえ」だとする社会的圧力の影響はとても大きい。これにより、当事者が自身に何か問題があるのではというスティグマ(※7)を押し付けられ、疎外感や不安に繋がることもある。また、こういったマイクロアグレッションにより、アロマンティックという恋愛的指向がそもそもなかったことにされるのも課題といえるだろう。これらの課題を解決するためには、まず私たちがアロマンティックという恋愛的指向への理解を深めることが重要である。

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恋愛伴侶規範(amatonormativity)について

「いま好きなひとはいる?どんなひと?」

こんな話題を投げかけられたことはあるだろうか。私たちが生きる社会では、恋愛は当たり前に存在し、とくに若者の間では恋愛に関するコミュニケーションは盛んに見られる。ドラマや映画などのメディアでも、恋愛や結婚の要素は数多く存在するし、そこには恋愛がすべての人にとって共通の幸せであるという考え方が存在しているようである。しかし、アロマンティックを自認する人に限らず、恋愛を当たり前とする風潮は多様性の欠如に繋がりかねない。

フェミニスト哲学の専門家であるエリザベス・ブレイク(Elizabeth Brake)は、「人は誰しもが、2人きりで恋愛的かつ性愛的な愛の関係性で結ばれることを求めているし、そうした関係性でこそ1番幸せな人生を送ることができる」という考え方や社会的圧力を「恋愛伴侶規範(amatonormativity)」と定義し、有害な固定概念であると批判している。(※8)

※6 参考:電通ダイバーシティ・ラボ「電通、「LGBTQ+調査2020」を実施」https://www.dentsu.co.jp/news/release/2021/0408-010364.html
※7 用語:一般と異なるなどの理由から、個人の持つ特徴に対して否定的な意味やネガティブなイメージを他者から付与されることを指す。古代ギリシャ語で奴隷や犯罪者などの皮膚に押された「烙印(らくいん)」が語源となっている。
※8 参考:Elizabeth Brake「amatonormativity」
https://elizabethbrake.com/amatonormativity/

社会の中でアロマンティックを理解する重要性

アロマンティックを理解することは、より良い社会を築く上で極めて重要であると考えられている。このセクションでは、その理由を詳しく説明する。

・多様性の認識と受け入れ

当事者は、社会の一部であり、彼らの経験はユニークで価値がある。彼らの存在と経験を理解し、尊重することで、社会全体の多様性を認識し、受け入れることができる。この多様性の理解は、私たちが他者を尊重し、誤解や偏見を排除し、社会の一員としての彼らの価値を認識する上で不可欠だ。

・マイノリティへの配慮と理解

当事者は、自身の性的指向に関して誤解や偏見に直面する可能性がある。これらの誤解や偏見を排除し、当事者に対する社会的認知を高めることで、彼らが自分自身を自由に表現し、自己認識を高める手助けができる。

・対話と教育の促進

アロマンティックの理解は、より包括的な対話と教育を促進する。アロマンティックについての知識を広めることで、私たちは人間の感情と恋愛に対する多様な視点を認識し、尊重することができる。これは、人々が互いに理解し、共感するための鍵となる。

・健康な人間関係の築き方

当事者の経験を理解することは、異なる感情とニーズを持つ人々との健全な関係を築くためにも有益だ。アロマンティックな人々の感情を理解し、彼らが築きたい人間関係を尊重することで、全ての人々が相互に理解し尊重し合う関係を築くことができる。

以上の理由から、アロマンティックを理解し、その存在を認識し尊重することは、より良い社会を築く上で不可欠だ。当事者が直面する困難を理解し、それを解決するための助けを提供することが求められている。

アロマンティック当事者をサポートする方法

もし、自分の周りにアロマンティックを自認する人がいる場合、アロマンティックという恋愛的指向を尊重、理解する試みが重要である。

たとえば、アロマンティックを完全には理解していないとしても、まず「そういう考え方や恋愛的指向がある」ということを念頭に、アロマンティックに寄り添い、サポートする姿勢を示すことが重要である。また、“人に愛情を向けないのは冷淡である”とか、“これから良い人に出会うのではないか”などの価値観の押し付けをしないことや、思い込みによる誤解を招かないようにするのも重要である

アロマンティックに限らず、多様に存在する恋愛的指向・性的指向を完璧に理解するのは難しい。ただその中でも、まずその人が置かれた状況を知り、寄り添うことが何よりも大切である。

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まとめ

まとめ

アロマンティックという恋愛的指向は、まるで透明なマントを被せられたかのように存在しないものとして扱われることもある。とはいえ先述の『恋せぬふたり』の放送をはじめとし、日本でもアロマンティックの存在は少しづつ広まってきている。その中で何より重要になるのは、アロマンティックという恋愛的指向の理解に努め、当事者に寄り添うことではないだろうか。

またひとくちにアロマンティックと言っても、当事者によって捉え方は様々だ。その中で、自分らしい生き方や周囲との結びつきを肯定する姿勢も、きっとより良い生き方を見つけるヒントになるだろう。恋愛結婚だけに限らず、多くの人が様々な自分らしい生き方を選択することこそが、アロマンティックの当事者を含む、私たちのコミュニティがより良くなる第1歩ではないだろうか。

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文:たむらみゆ
編集:篠ゆりえ