よりよい未来の話をしよう

マンスプレイニングで女性を見下す男性の心理と撃退法とは?

立場や経験が上の人から一方的に知識を解説されるような行為を「マンスプレイニング」という。本稿ではマンスプレイニングをする人の心理とマンスプレイニングを受けたときの撃退法について、具体例を交えながら紹介していく。

マンスプレイニングとは

マンスプレイニングという言葉について目にしたことがある人は多いのではないだろうか?本章では、マンスプレイニングの定義となぜ問題視されているのかについて紹介する。

マンスプレイニングの定義

マンスプレイニングとは、一般的に男性が女性に対して相手が自分よりも多くを知っているという可能性を考慮しようともせず、女性を見下しながら、何かを解説・助言したりすることを指す。man(男)とexplain(説明する)からくる造語で、家庭内や日常生活で発生する知的ハラスメントの別名だ。(※1)

マンスプレイニングという言葉は、海外だけでなく日本でも浸透しつつある。2024年、朝日新聞が行ったオンラインアンケートによると、回答者全209人のうち、マンスプレイニングを知っていると回答した人は全体の71.3%、自分がされたことがあると回答した人は59.3%に上った。(※2)

また、この言葉を一躍有名にしたきっかけとされている、アメリカ人作家のレベッカ・ソルニットが発表した “Men Explain Things to Me”の日本語訳版である『説教したがる男たち』(ハーン小路恭子訳、左右社、2018年)に対しても様々な反応があった。翻訳を担当したハーン小路恭子は『説教したがる男たち』に対して多くの人が「待っていた」本であり、「マンスプレイニング」と名前がついたことで人々がジェンダーの問題に気づくことができた点に意味があると述べる。(※3)

▼マンスプレイニングについてより深く知る

※1 参考:瀬地山角・中村圭『図解ポケット ジェンダーがよくわかる本』(2022年、秀和システム)
※2 参考:朝日新聞デジタル「知っていますか? マンスプレイニング」
https://www.asahi.com/opinion/forum/201/
※3 参考:朝日新聞デジタル「出るべくして出た本だった『説教したがる男たち』が広げた言葉の力」
https://www.asahi.com/articles/ASS5212Y6S52ULLI002M.html

社会におけるマンスプレイニングの影響

マンスプレイニングの社会的影響は多岐にわたり、不平等な支配関係、不公平な社会を生むことにもつながりかねない。

例えば、職場環境でマンスプレイニングが起こると、女性が知識や能力を過小評価されることで意見を述べる機会が減少し、職場での女性の発言力の低下、昇進やキャリアの進展に対する意欲低下に繋がる。また、女性が男性とのコミュニケーションを避ける可能性もあり、そうなるとチームワークや信頼関係の構築が困難になり、職場全体のモラルを低下させる恐れがある。

マンスプレイニングの影響は私生活にも及ぶ。繰り返しマンスプレイニングを受けることで自己肯定感が低下する可能性があり、大きなストレスや不安の原因となる。

▼「ガラスの天井」についてより深く知る

マンスプレイニングの実例

マンスプレイニングとは実際にどのようなものなのだろうか。今回は職場、私生活、公共の場と3つの場面を想定して、マンスプレイニングの具体例を紹介する。

職場での典型的なシナリオ

職場では立場や権限の違いから上司から部下に対して起こりやすい。例えば、以下のようなケースが想定される。

  • 会議で部下が専門知識に基づいて提案や意見を話している途中で上司がその意見を遮り、同じ内容を繰り返し説明する
  • プレゼンテーションの後に上司が内容を補足として再度説明し、部下の発表があたかも不完全であったかのように振る舞う
  • 日常の業務中の質問に対して、部下が専門知識を持っているにも関わらず、基本的な内容から説明する

私生活での遭遇例

趣味において上級者が女性や初心者に対して一方的に知識や技量を押し付ける人は「教え魔」と呼ばれ、問題視されている。

あるボウリング場では「STOP!教え魔」という張り紙をしたことがSNSでも話題となった。(※4)張り紙には「全国のボウリング場の悩みランキングナンバー1は、お客様がお客様にボウリングのコーチングをする『教え魔』がいること」との記載があり、ボウリングの他にもゴルフ練習場やジム、将棋道場などでも教え魔の存在が問題視されている。

教え魔の求められていないアドバイスにより初心者が困惑し、やがて趣味の場に来ること自体を避けることにつながるのだ。また場合によっては上級者が初心者に対してコーチング料金を要求し、金銭トラブルに発展することもある。

※4 参考:文春オンライン「ウザい『お節介教え魔』が日本人に多すぎる訳
https://toyokeizai.net/articles/-/421463

公共の場での事例

アメリカでは “Men Explain Things to Me”が出版された後、専門家や博士課程の女性がマンスプレイングを受けた経験を共有する「アカデミア版説教したがる男たち」というウェブサイトが立ち上がった。

サイト上には、大学で働く何百人もの女性たちから寄せられた、性別を理由に経験してきた高圧的な態度や過小評価、仲間外れにされたなどの事例が掲載された。その中から2つ事例を紹介する。(※5)

あるアジア系アメリカ人の女性が英文学の博士号を取得し、論文執筆を教えるため飛行機で大学に向かっていた。隣に乗っていた男性との会話の中でなぜその大学に行くのかと尋ねられたため、「英語を教えている」と答えた。すると男性は「違う」と否定したため、女性は再度「英語を教えている」と答えた。

対して男性は「ほら、教える(teach)と 学ぶ(learn)を混同している。あなたは英語を学んでいるのです」と言った。

(筆者訳)

科学雑誌を読むのが好きな男性が同僚の女性に対して、ブラックホールとは何か、ブラックホールの存在を予測するために「複雑な数学方程式」が使われていることを説明した。女性は大学で核天体物理学を専攻していると話したばかりだった。

(筆者訳)

このように公共の場であるにも関わらず、マンスプレイニングに遭遇する場合がある。相手との関係性、状況など関係なく、突然一方的な思いこみを押し付けられるのだ。

※5 引用:Academic Men Explain Things to Meより筆者訳
https://mansplained.tumblr.com/

女性を見下す男性の心理

前章を通してマンスプレイニングは職場、私生活、公共の場など様々な場面で起こりうることを紹介した。本章では、マンスプレイニングを起こす人に焦点を当て、マンスプレイニングを引き起こす心理について紹介する。

なぜマンスプレイニングをしてしまうのか?

マンスプレイニングをしてしまう人の背景について、”Men Explain Things to Me”の著者レベッカ・ソルニットは「自信過剰と無知」という心理的組み合わせから来るものだとしている。(※6)これらはどのようにして、マンスプレイニングを引き起こす原因になっているのだろうか。

※6 参考:Rebecca Solnit「Men Still Explain Things to Me
https://www.thenation.com/article/archive/men-still-explain-things-me/

自信過剰

マンスプレイニングは学歴や社会的地位の高い男性が起こしやすいとされている。(※1)この背景には相手より自分のほうが経験を積んでいる、自分のほうが正しいという過剰な自信があり、これらが一方的なアドバイスの押し売りに繋がる。

高学歴や地位の高さを理由に自分の言動を正当化し、女性や初心者の考え方を頭から否定して自分の考えを押し付け、自分の思いどおりに動かそうとしてしまうのだ。また、相手の意見を受け入れることができないプライドの高さもマンスプレイニングにつながると考えられている。

無知

マンスプレイニングを起こす一因として、相手を無知だと一方的にみなし、コミュニケーションにおける配慮が不足していることも挙げられる。(※7)

上司と部下、上級者と初心者のような上下関係において、上の立場の人が相手を無知だと一方的に決めつけてしまうような思い込みや偏見もマンスプレイニングに繋がる。また、自分の経験や知識、技術を伝えようとする行動が、教えられる立場からするとマウンティングを取られているように受け取ってしまう場合もある。配慮不足のために、善意から起こした行動が、受け取る人によっては、迷惑行為に思われてしまうのだ。

自分の行動がマンスプレイニングと思われないためにも、どのような立場の人であっても話をよく聞き、敬意をもって話すことが必要なのではないだろうか。

※7 参考:東京新聞「高圧的に説教する男性、それって…女性を見下す『マンスプレイニング』とは」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/163736

▼ミソジニーについてより深く知る

マンスプレイニング撃退法

マンスプレイニングは様々な場面や相手から起こされる。それではマンスプレイニングを受けてしまったとき、どのように対応すれば良いのだろうか。

証拠を求める

マンスプレイニングを起こす人は漠然とした質問や訂正をすることが多いため、その主張の証拠や証明を求めることが有効だ。(※8)

例えば、相手が根拠のないことやあいまいなことを言うたびに、誤りや問題点を示す根拠の提示を求めたり自分の知見について明確に述べたりすることで、論点の整理を促すことができる。

※8 参考:International Association of WOMEN「How to Shut Down Mansplaining Professionally」
https://blog.iawomen.com/how-to-shut-down-mansplaining-professionally/

会話をコントロールする

会議や学会などの発表の場では会話をコントロールすることで対策が可能だ。(※9)

発表を始める前に「会議には時間制限があるため、プレゼンテーションの最後にまとめて質問の回答をさせていただきます。」と伝えることで発表の中断を防ぎ、最後まで話を聞くよう促すことができる。

また議論の途中でマンスプレイニングが起こってしまった場合は会話を方向転換させるのも有効な手段だ。例えば、相手が話を遮った段階で前提を確認する、同席している上司など別の専門家に話を振る、部屋全体に聞こえるようにもう一度発言してもらうなど、周りを巻き込みながら相手に自身の言動に問題があることを自覚してもらう。

反応しない

状況や相手によっては相手の話に反応しないことが最善の撃退法となることもある。(※7)

高圧的な態度をとられるとつい反論したくなるが、それによってマンスプレイニングを助長し逆効果になる場合もある。

マンスプレイニングをエスカレートさせないためにも、状況によっては話を途中でさえぎり、席を外すなど態度で示すことも有効だ。

まとめ

マンスプレイニングをしてしまうリスクは一部の男性や特権を持つ人たちだけでなく誰しも抱えている。

誰でも対等に話すことができる場を作るためには、全ての人が自分自身の行動を日頃から内省し、相手の立場に立って考える必要があるだろう。

 

文:Takeuchi Takae
編集:吉岡葵