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カカオの未来をひらく。明治が取り組む「持続可能なカカオ」

筆者が仕事や勉強に疲れた時、リフレッシュしたいときに食べるのはいつもチョコレートだ。同じように「チョコレートで一息」がルーティンになっている人も多いのではないだろうか。そんなチョコレートの原材料カカオの生産地・西アフリカ諸国では、カカオ生産に伴う様々な問題が発生している。このままだと、カカオの供給が止まり、チョコレートを食べることができなくなってしまう日が来るかもしれない。本記事ではカカオにまつわる問題と、持続的なカカオの供給のために問題解決に尽力する株式会社 明治(以後、明治)の取り組みについて紹介する。

カカオ産地が抱える児童労働と森林破壊問題

カカオの栽培には、雨の頻度や湿度、気候など複数の条件を満たすことが不可欠で、すべての条件を満たし、カカオを栽培できる国は限られる。世界のカカオ生産量1位はコートジボワール、2位がガーナとどちらも西アフリカの国だ。(※1)日本でのカカオの栽培は気候の観点からハードルが高い。そのため、私たちが日頃何気なく食べているチョコレートは西アフリカのカカオ生産国に支えられている。一方で、これらの国ではカカオの栽培を行う際、問題が発生している。

1つ目の問題は児童労働だ。シカゴ大学内に設置されている社会調査等の実施や研究を行う独立研究機関であるNORCが行った調査によるとコートジボワールでは38%、ガーナでは55%もの子どもが労働を強いられている。(※2)生産量の多い国ではカカオの生産が国を支える産業になっていることが多い。生産量を保つための労働力として児童労働の割合が高くなっているのである。児童労働に関わった子どもは十分な教育を受けることができず、大人になっても貧困層から抜け出すことができない場合が多い。さらに低収入の状態で結婚し子どもができると、家族を養うためには子どもにも働いてもらうしかない。このように、児童労働が将来の児童労働を生む悪循環により貧困層から抜け出せない農家がいるのが現状だ。

2つ目の問題が、森林破壊だ。近年のカカオの需要拡大により、生産地ではカカオの増産のために森林破壊が行われている。2019年から2021年の3年間で破壊された森林の面積は、コートジボワールで19,421ヘクタール、ガーナで39,497ヘクタールに及んだ。驚くことにこの合計面積は、東京23区の面積に匹敵する。(※3)森林破壊はその地域に生息する野生生物にも影響を及ぼしている。熱帯雨林に生息するチンパンジー、コビトカバなどが森林破壊による生息地の減少などの要因で絶滅危惧種野生動物に指定された。このまま森林破壊が続くと豊かな生物多様性が喪失してしまうかもしれない。

※1 参考:外務省「カカオ豆の生産量の多い国」(2022)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ranking/cacao.html
※2 引用元:NORC at the University of Chicago「Assessing Progress in Reducing Child Labor in Cocoa Growing Areas of Côte d’Ivoire and Ghana」
https://www.norc.org/Research/Projects/Pages/assessing-progress-in-reducing-child-labor-in-cocoa-growing-areas-of-côte-d’ivoire-and-ghana.aspx
※3 引用元:MIGHTY EARTH「SWEET NOTHING How the Chocolate Industry has Failed to Honor Promises to End Deforestation for Cocoa in Cote d’lvoire and Ghana」(2022)
https://www.mightyearth.org/wp-content/uploads/MightyEarthSweetNothingsReportFINAL.pdf

森を再生する農業「アグロフォレストリー」

森林破壊が進むなか、環境保護が期待される「アグロフォレストリー」と呼ばれる農法がある。農業を意味するアグリカルチャーと林業を意味するフォレストリーを掛け合わせた造語だ。

アグロフォレストリーは、森林伐採後の荒廃した土地に多種の農林産物を共生させながら栽培することで自然の生態系を再現する農法だ。メリットは大きく2つ存在する。

1つ目が自然保護だ。植樹によって炭素吸収源が増加し、気候変動対策になる。さらに森が維持されることは生物多様性にも良い影響を与える。

2つ目は、農家にもたらされるメリットだ。経済面では、収入源を1つの農作物に依存しないため年間を通じて安定した収入を得ることができる。1つの作物が不作の場合や売れ行きが芳しくない場合でも他の作物の売り上げで補完できたり、多種の農林産物を栽培しているため年間を通じて収入を得ることができる。また、農家にとって経済面の観点以外でもメリットがある。多種の農林作物が育つと土壌が整う。その結果、肥料や農薬をまく必要が無くなり、労力を減らすことができる。

明治も、アグロフォレストリー農法で栽培されたカカオ豆を用いて製品を販売している。「アグロフォレストリーミルクチョコレート」はその1つだ。この製品で使用しているのは、アグロフォレストリー農法で作られたブラジルトメアスー産カカオ豆だ。

明治が目指す「持続可能なカカオ」

アグロフォレストリーなどの取り組みがある一方で、カカオ産地を取り巻く諸問題は未だに解決していないものが多い。このままだと、カカオの供給が止まり、チョコレートを食べることができなくなってしまう日が来るかもしれない。そのような危機感から、明治は「持続可能なカカオ」のため、環境や生産地に配慮したチョコレート生産の取り組みを展開している。いくつか例を見てみよう。

  • RSPO認証パーム油への代替

チョコレートの生産には、パーム油と呼ばれる植物性油を使用することがあるが、その栽培方法が環境に影響を及ぼしている。パーム油とは、西アフリカ原産のアブラヤシの果実から得られる植物油で、産業としても人気が高い理由の1つに、単位面積当たりの収穫量が多いことが挙げられる。一方、その需要の高さから農園を拡大するために熱帯雨林を伐採するなど環境に影響を及ぼしている。その他にも、土地をめぐる先住民との紛争や、移民労働者の不当な扱い、低賃金、健康や労働安全への配慮が乏しい劣悪な労働環境などの労働問題に発展しているケースもある。(※4)

これらの問題に対して関係者で協議していくために生まれたのがRSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil 日本語訳:持続可能なパーム油のための円卓会議)だ。RSPOは持続可能なサプライチェーンを用いているかの認証制度で、生産から流通までの各工程を認証の対象としている。明治では2021年時点で84%のRSPO認証パーム油への代替を実現しており、2023年には100%の切り替えを目指して取り組んでいる。(※5)

  • メイジ・カカオ・サポート

明治では2006年より「メイジ・カカオ・サポート」と呼ばれるカカオ農家支援活動を行っている。(※6)栽培に必要な肥料や苗木の入手が困難であることや生産に関する知識の習得の難しさなどから問題視されているカカオの持続的な生産を支援する。「メイジ・カカオ・サポート」では、社員が実際に現地に赴き、農家と話し合った上で農家が必要とする支援を提供する。過去には、発酵法や栽培方法の技術指導、肥料の無料配布、苗木センターの開設などのカカオ農家の生産性や収益を向上させる支援を行った。また、カカオ農家の人々の生活環境を豊かにする取り組みも行っている。井戸や学校の寄贈や、アートクラスの開催、教育備品の寄贈などの教育支援が例だ。明治は上記のような農業支援をした地域で生産した「サステナブルカカオ」の使用比率を2026年までに100%にすることを目標としている。(※7)

こうした活動はすぐに農家の環境を改善することには繋がらないかもしれないが、積み重ねていけば、将来的な環境の改善につながるのではないだろうか。

※4 参考:WWF JAPAN「RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証について」(2020)
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3520.html
※5 参考:株式会社明治 「カカオでかえてくおうえんだん 明治と、カカオと、環境」https://www.meiji.co.jp/learned/cacaosdgs/environment/
※6 参考:明治ホールディングス株式会社「統合報告書2019」https://www.meiji.com/investor/library/integratedreports/2019/pdf/integrated-reports_2019_ja_all.pdf
※7 参考:株式会社明治 「サステナブルもメイジのだいじ
https://www.meiji.co.jp/sustainability/meijinodaiji/

明治サステナブルイベント「カカオ、ひらく。LAB」

上記のような取り組みを行ってきた明治だが、2022年に「ひらけ、カカオ。」をテーマとし、カカオの未知なる可能性を開拓する取り組みを発表している。明治の公式ホームページには、「ひらけ、カカオ」特設ページ が用意されており、カカオ原産地の映像や明治の取り組みについての動画を視聴することができる。

取り組みの一環として、9月8日に「カカオ、ひらく。LAB」というイベントが開催された。イベントには学生約30人が参加した。前半はチョコレートの歴史やカカオ農家の現状、明治の取り組みが紹介された。後半は「カカオの新しい“栄養や食べ方”の価値や可能性を持続的に広げていくにはどうしたら良いか?」をテーマに、明治が開発を進めている、チョコレートに留まらないカカオの新しい栄養や食べ方が持つ可能性に関するグループでのワークショップを行った。

ワークショップでは「カカオで石鹸を作り、赤ちゃんからお年寄りまで楽しめるようにする」や「カカオレザーでランドセルを作る」などユニークなアイデアが発表された。「カカオを生産している人たちにもカカオの魅力を知ってもらいたい」「老若男女にカカオの魅力を伝えたい」と学生ならではの型にハマらず、多角的で斬新な発想が次々と挙がった。

明治はこのように、イベントを通じてカカオの裏にある問題やカカオの秘められた可能性について考える機会を設けている。いつの日かこれらの活動が実を結び、新しいカカオの価値が創造され、今までのカカオの概念を変革するようなユニークな商品が生まれることを期待したい。

おわりに

普段何気なく消費している製品の裏側で起きている問題を知ることは、私たちの行動を変えるきっかけになるだろう。実際に筆者も、チョコレートを買う時、味や値段以外にも、販売している会社の取り組みも考慮して選ぶことが増えた。環境に配慮している商品を手に取るようになったり、企業の取り組みに関心を持つようになったりするかもしれない。カカオを取り巻く問題に限らず、私たちの生活の下にはあらゆる問題が潜んでいる。それらの問題は一朝一夕で解決するものではないかもしれないが、問題に目を向けて企業も個人も自分たちにできることを考え、1つ1つの行動を積み重ねることが大きな問題を解決することに繋がっていくだろう。

 

取材・文:吉岡葵
編集:Natsuki Arii

 

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