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エコーチェンバー現象とは?問題点や具体例、偏らない思考のための対策を解説!

SNSが発達した現代。日常的にTwitterやInstagram、TikTokなどのSNSを閲覧し、インターネット検索を活用している人は多いだろう。自分に合った情報を提供してくれるSNSや検索エンジンのアルゴリズムは便利な反面、目に入る情報に偏りをもたらしている可能性がある。この記事では、そんなSNSや検索エンジンの特性によって引き起こされる「エコーチェンバー現象」について紹介する。

エコーチェンバー現象とは?

エコーチェンバー現象とは、ソーシャルメディアを利用する際に、自分の興味関心にしたがってユーザーをフォローする結果、自分と似た意見ばかり集まってしまう状況のことである。SNSを閲覧する場合には自分と類似した考え方や価値観を目にする機会が増え、自ら発信した場合にはその意見を肯定する返信が返ってきたり「いいね」や「リツイート」をされやすい。この現象を閉じた小部屋で音が反響する物理現象に例え、エコーチェンバー現象と呼ばれる。(※1)

エコーチェンバー現象の仕組みや特徴

エコーチェンバー現象はどのようにして起きるのだろうか。

エコーチェンバー現象の始まりは、SNSを使う際の一般的な行動にある。私たちはSNSを利用する際、自分と類似した意見や嗜好を持つ人を検索し、フォローしたり「いいね」したりするだろう。自ら意見を発信し、これに対し反応を受けることもあるだろう。SNSや検索エンジンはこのような情報を受けて、アルゴリズムによって検索結果や情報の表示を最適化する。閲覧や発信を繰り返すうち、次第に表示や「おすすめ」される情報が自分が「好むであろう」ものに占領されていく。自分と類似した意見や、それをサポートするような情報が目に入りやすくなる。その結果、自分と異なる意見や情報は排除され、自分の考えが偏っていることを認識しづらくなる。

フィルターバブルとの関連性

エコーチェンバー現象と関連する事象として「フィルターバブル」がある。インターネット活動家であるイーライ・パリサーが『The Filter Bubble』(2011)の中で提示した概念である。フィルターバブルとは、検索エンジンやSNSのアルゴリズムがユーザーの過去の行動を分析し学習することで、ユーザーが見たい(と思われる)情報を優先的に表示し、ユーザーが見たくない(と推測される)情報は排除して表示することである。(※2)ユーザーが求める情報を提供するため利便性が高い反面、考え方や価値観が類似した人ばかりが集まるため、「バブルの中に入って孤立しているかのように、自分のほしい情報しか目に入らない」状況に陥りやすい。

一見、利便性が高いアルゴリズムによって発生するフィルターバブルがエコーチェンバー現象を促進しているのだ。フィルターバブルは、自分の意志と無関係に発生している場合が多いため、自身の考えが孤立していることに気づきづらくなってしまう。

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サイバーカスケードとの関連性

エコーチェンバー現象と関連が強い現象として、「サイバーカスケード」がある。憲法学者キャス・サンスティーンが提唱した。サイバーカスケードはインターネットを通じて「集団極性化」が起きる現象である。インターネットは、検索やSNSを通じて同じ価値観や嗜好を持つ人をつなげることを容易にした。その結果、同じ考え方や価値観を持つ人たちが集まって先鋭化し、自分たちと異なる考え方や価値観を持つ人たちを攻撃する方向に走ることがある。それが「サイバーカスケード」だ。(※2)

エコーチェンバー現象によって閉鎖的な環境で自分と同じ意見のユーザーが集まり、それらの意見が先鋭化するサイバーカスケードが発生しやすくなる。その結果、ヘイトスピーチや陰謀論など極端ともいえる意見が拡散しやすくなってしまう。

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確証バイアスとの関連性

エコーチェンバー現象を発生させる心理的な要因として「確証バイアス」がある。確証バイアスは、認知バイアスの一種である。自分の仮説や信念を支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視してしまう傾向のことだ。(※3)

人の心理的な傾向として、「自分の考え方を補強するような情報を集めたり、自分と類似した意見を探しがち」であるため、自然と自分と類似した考え方や価値観を集めやすく、エコーチェンバー現象に繋がりやすい。

※1 参考:笹原 和俊『フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』(DOJIN新書 2018)
※2 参考:総務省『情報通信白書令和元年版 第1部』「特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety5.0 第4節 デジタル経済の中でのコミュニケーションとメディア」(2022年10月5日利用)https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/html/nd114210.html#:~:text=%E3%82%A2%20%E3%82%A8%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%BC,%E3%81%9F%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B8%E3%80%82
※3 参考:箱田裕司、都築誉史、川畑秀明、萩原滋『認知心理学(New Liberal Arts Selection)』(初版第3刷 有斐閣 2013)

エコーチェンバー現象の5つの観点

エコーチェンバー現象は、複雑かつ多面的な問題であり、さまざまな興味深い観点から考察されている。ここでは、そのいくつかを紹介する。

心理学的観点

前章で、「確証バイアス」との関連性について紹介したが、これは心理学的な観点からエコーチェンバー現象を考察したものだ。確証バイアスは、情報を客観的に評価する能力に影響を与える強力な認知バイアスであり、エコーチェンバーの形成に寄与している可能性がある。

社会学的観点

社会学的な観点から考えると、エコーチェンバー現象は、社会的選別(人口統計学、信念、価値観の点で自分と似ている人と付き合う傾向)の結果と見ることができる。社会的選別は、均質な社会的ネットワークの形成につながり、既存の態度や信念を強化し、エコーチェンバーの発生につながる可能性がある。

政治的観点

エコーチェンバー現象は、政治的な言説やメディアの報道がもたらす偏向作用の結果と見ることもできる。断片的な情報は、人々が既存の政治的信念を強化する情報や視点にのみさらされ、エコーチェンバーを生み出し、政治的分裂を悪化させる一因となっている。

技術的観点

技術的な観点から、エコーチェンバー現象は、オンラインプラットフォームの設計とその運用を管理するアルゴリズムの結果と見ることができる。アルゴリズムによる情報のフィルタリングは、人々が過去に関与したものと類似した情報のみにさらされ、既存の態度や信念を強化する、パーソナライズされた情報バブルの創造に貢献する可能性がある。

文化的観点

文化的観点から、エコーチェンバー現象は、個人主義や断片化といった、より広範な文化的傾向の帰結として捉えることができる。教会や労働組合といった伝統的な社会制度が衰退し、コミュニケーションや娯楽が個人化してきている。その結果、社会的孤立感が生まれ、人々は自分のアイデンティティや価値観を強化する情報や視点だけを探し求め、エコーチェンバーが形成されると考えられる。

 

これらの5つの視点は、よりエコーチェンバー現象を理解する手助けをしてくれる。それぞれユニークで興味深い視点から、エコーチェンバー現象に対処するための戦略を考えられるようになるだろう。エコーチェンバー現象の心理的、社会的、政治的、技術的、文化的側面を考慮することで、この複雑な問題をより包括的に理解し、建設的な公の議論を目指すことができる。

エコーチェンバー現象の問題点

エコーチェンバー現象はSNSや検索エンジンを日常的に利用する私たちにとって身近な問題だ。では、エコーチェンバー現象は私たちにとりどのような影響があるのだろうか。

閉鎖的な環境の中で、間違いを認識できない

SNS上で自分と似た意見の人や趣味嗜好が同じ人をフォローし、自分と同じ考え方を持つコミュニティの中にいると、日常的に目にする意見や価値観が偏ってくる。自分と異なる意見はフィードから排除されるため目にしづらくなる一方で、自分の発信に対し多数の「いいね」がつく。自分や周囲の意見が、事実や世間の常識から大きくずれていても、「自分の意見が正しい」という思い込みにつながりやすい。

他者の意見に不寛容になる

エコーチェンバー現象が発生すると、SNSや検索エンジン上で自分と異なる意見を目にしづらくなる。しかし、現実の社会や人間関係においては当然、自分と同じ考えを持つ人ばかりでなく、異なる価値観や考え方も存在する。自分と類似した意見に慣れていると、異なる意見に対する寛容さを失い、オフラインやパブリックな場においても分断につながるリスクがある。

不確かな意見が力を持ち、伝播してしまう可能性がある

上記のとおり、エコーチェンバー現象が生じるとサイバーカスケードが発生しやすい。情報の真偽が見極められないまま拡散される恐れがある。「いいね」やリツイートなどで拡散された情報が力を持ち、真偽にかかわらず、真実であるかのように伝わってしまう。

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エコーチェンバー現象の具体例

上述したとおり、エコーチェンバー現象は社会的な問題に発展しうる。そのようなケースは、記憶に新しいニュースにも例を見ることができる。

米選挙戦におけるドナルド・トランプ氏の例

2016年のアメリカ大統領選挙で、メディアの予想に反してトランプ氏が大統領に当選したことにもエコーチェンバー現象が関わっていると言われている。支持者はトランプ氏の発言や、対する民主党のヒラリー・クリントン氏のスキャンダルを拡散した。一方でトランプ氏の性差別的発言や、排外主義であることは目に入れようとしなかった。

さらに、クリントン氏が不正投票によって票を獲得しているとする情報がSNS上で広まった結果、トランプ氏の支持者が選挙の不正を訴えてホワイトハウスを襲撃する事件も発生し、最終的なトランプ氏の当選につながった。(※4)

コロナ禍で拡散されたフェイクニュースの例

コロナ禍でも、エコーチェンバー現象により真偽が定かではない情報の拡散が散見された。「トイレットペーパーがなくなる」というフェイクニュースを目にした人がお店に殺到し、トイレットペーパーが店舗から売り切れた。その他にも、「新型コロナウイルスは26~27度のお湯を飲むと予防できる」「漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)を飲むと新型コロナウイルスに効果がある」「コロナウイルスのワクチンを打つと不妊になる」などの情報が真偽がはっきりしないまま行き交い、混乱が生じた。エコーチェンバー現象によって正しいかどうか分からない情報を信じ込んでしまう人が増加した例である。

ロシアのウクライナ侵攻に関する例

直近では、ロシアのウクライナ侵攻に関してもエコーチェンバー現象によってウクライナ批判が広まった。2022年2月にロシアが発した「ウクライナ侵攻はウクライナによるデマである」や「ウクライナ侵攻は、ウクライナ防衛のため」などの虚偽の情報が拡散された。(※5)東京大学と日経新聞の調査によると、「ウクライナはネオナチ」などロシアに沿った内容を発信したアカウントの9割は新型コロナウイルスに関しても誤情報を発信していた。東京大学大学院工学系研究科教授の鳥海不二夫氏によると、この情報が1.1万回も拡散されたのは、政府やメディアを信じない特定のアカウントが仲間うちで情報を拡散した結果だという。(※6)ここでもエコーチェンバー現象により、同じ考えを持つユーザー間で情報が間違いと認識されぬまま拡散された。

※4 参考:INDEPENDENT「Social media echo chambers gifted Donald Trump the presidency」(2016年11月10日)
https://www.independent.co.uk/voices/donald-trump-president-social-media-echo-chamber-hypernormalisation-adam-curtis-protests-blame-a7409481.html
※5 参考:NHK「ウクライナ情勢とフェイクニュース ファクトチェックがあばく”嘘”【平和博教授が解説】」2022年3月2日)https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0016/topic035.html
※6 参考:日経新聞「ウクライナ批判のSNS投稿者、ワクチンでも誤情報発信」(2022年5月17日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC174630X10C22A3000000/

思考が偏らないようにする具体的な対策

自分がエコーチェンバーの中にいるのかを知る

まずは、自分自身がエコーチェンバー現象の中にいるのか確認してみてはどうだろうか。先述した、東京大学大学院教授の鳥海不二夫氏が作成した以下のサイトでは、自分がどの程度エコーチェンバーの中に入っているのかを客観的に評価することができる。

エコーチェンバー可視化システムβ版

自分が興味のある分野や、閲覧に偏りはあっただろうか。

エコーチェンバー現象は、人間の心理的な傾向やアルゴリズムなど、一個人がコントロールしづらい要因で発生しているように思える。それでもエコーチェンバー現象による様々なリスクを防ぐために私たちが個人としてできることはあるのだろうか。以下に挙げるような考え方や情報への接し方が、エコーチェンバー現象を低減させる助けになるかもしれない。

「自分が正しい」と思い込まない

第1に、自分と異なる意見の存在を認識することが必要だろう。自分の意見を常に客観視し、「自分が正しい」と思い込まずに異なる主張も受け入れる土壌を持っておくことで、自分と異なる考え方や価値観に出会っても過剰に反応することはなくなるだろう。

さらに、エコーチェンバー現象の存在を認識していれば、SNSで自分が形成したコミュニティ内の意見を一歩引いて見ることができる。アルゴリズムや自らの確証バイアスを認識することで、自分と異なる意見も積極的に目に入れるようなインターネット行動を取ることができるかもしれない。

情報を鵜呑みにせず、一次情報に当たる

また、情報を目にしたときに一次情報を探すことも有効だろう。SNSで拡散されている情報には、投稿者の主観が混ざっている場合が多い。情報の出どころと一次情報を見つけ、真偽を確認したうえで発信や拡散をすることで、サイバーカスケードを防ぐことができるかもしれない。

アルゴリズムに学習させない設定にする

そのほか、検索エンジンやSNS上の表示設定を変更する方法もある。アルゴリズムは私たちの行動を日々分析し、「賢く」なっている。しかし、その便利さが自分の考えを固定化しないよう、ある程度制御することもできる。プライベートモードやカスタマイズモード、レコメンド機能のオフなどで履歴を残さないようにすることが有用だろう。

現代社会においてエコーチェンバーに向き合う重要性

現在、あらゆる情報をインターネット上で手に入れることができるようになっている。SNSで情報を集めることも当たり前になり、SNSを使いこなすことは情報収集や発信の手段として重要である。しかしインターネットに頼る弊害として、エコーチェンバー現象が生じやすくなっている。目当ての情報が手に入りやすい反面、アルゴリズムによって表示される情報が最適化され、情報が偏る傾向にあるためだ。インターネットを使って正確な情報を手に入れるために、エコーチェンバー現象を防ぐ必要がある。

また、社会では性別や人種などを超えて個人を尊重することが重要視されている。多様なバックグラウンドや価値観を持つ個人が、カテゴリーでなく「個人」として尊重されることが求められている。自分と類似した意見やバックグラウンドを持つ人でできたコミュニティに縛られて自分や他人をカテゴリー化せず、多様な他者に寛容であるべきだろう。エコーチェンバー現象は、人と人、コミュニティ間の対立や分断を防ぐことの邪魔をしているかもしれない。

まとめ

SNSや検索エンジンは情報収集に非常に便利なツールであり、求める情報や自分の味方(自分の好みや興味などを受け入れてくれる人)を効率的に見つけることができる。しかしその利便性の裏には、偏ったコンテンツが目に入りやすい仕組みがあることも確かだ。個人に最適化されたアルゴリズムがエコーチェンバー現象を引き起こし、私たちの視野を狭め、他者に不寛容にしているかもしれない。エコーチェンバー現象の対策は個人に任されている。私たち自身が「自分がエコーチェンバー現象に陥っていないか」を客観視し、自分で対策を取る必要があるのだ。

 

文:Natsuki Arii
編集:白鳥 菜都