よりよい未来の話をしよう

鎌田安里紗に聞く、矛盾も含めた“ファッション”のいま

SDGsのかけ声のもと、社会との向き合い方が各企業・業界に問われている。ファッション業界も、その変化のうねりの中にある業界の1つだ。エシカルファッション、サステナブルファッションという言葉が身近になってきた反面、毎日触れている「衣服」という分野において何をしたら良いのかわからない、そんな人も多いのではないだろうか。

そんなファッションの分野で行動を続けているのが、エシカルファッションプランナーの鎌田安里紗さんだ。高校時代に単身上京し、アパレル店員、モデルといった形でファッションと関わった後、現在は衣服の生産地を訪ねるスタディ・ツアーの企画、種から育てて服を作る“服のたね”の主宰など、多様なアプローチで社会とファッションをつないでいる。様々な切り口からファッションに向き合ってきた鎌田さんから、ファッションとの向き合い方のヒントを得られそうだ。鎌田さんがいま見ている「社会とファッション」について、お話を伺った。

社会課題に目を向けることは、ファッションの“外側”じゃない

ずっとファッションに関わってこられたと思います。小さい頃から好きだったのですか?

おしゃれはずっと好きでした。中学生の頃にギャルファッションがかわいいと思い、髪を染めて、メイクをし始めました。でも、勉強することも好きだったのですが地元の徳島県では偏差値が高い学校ほど校則が厳しくて、好きな格好ができませんでした。なので徳島を出て、別の地域で偏差値が高くて校則が緩い学校に通おうと思いました。学校のホームページに茶髪の生徒が映っていたら校則は緩いはずだと思い、関心のあった国際系の勉強ができる学校を北海道から沖縄まで探して、東京の高校に決めました(笑)。

それで単身上京までされている。すごい行動力ですね。ファッションの課題に向き合い出したのは、フェアトレードを知ったことがきっかけだと伺いました。

高校1年生か2年生の頃、授業でフェアトレードを知りました。食品に関する話題が多いなかでふと「服は大丈夫かな?」と思い、インターネットで「ファッション フェアトレード」と調べたことをきっかけに、生産者の労働環境の悪さや環境に大きな負荷をかけている生産工程など、様々な課題を知るようになりました。当時はファストファッションが台頭してきた頃で、安い服が急激に増えて「なんでこんなに安いの?」と思っていた時期でもあったので、問題が山積していることを知ってもショックというよりは「そりゃそうだよね」と感じましたね。

当時はアパレル店員、モデルなどの形でファッションに関わっていたと思います。業界全体の課題に関心を持っていることに対して、周りからの反応はいかがでしたか?

「えらいね」という反応がほとんどでした。「いいことをしている」というよりも「起きてしまっている問題が少しでもマシになれば」という感覚でしたが、「社会貢献をしている鎌田さん」と紹介されることも多く、すごく違和感がありました。ファッションビジネスのなかに含まれる課題なのに、“外側にあるオプション”のように捉えられていること自体が問題だと感じていました。

当時モデルをしていた雑誌の連載でファッションの課題を発信したいと提案したときも、「誰も興味ないよ」と書かせてもらえくて。なので、自分のブログで書き始めたんです。そうしたら同世代を中心に「こういうことを知りたかった!」とたくさんのコメントがきて、関心を持ってくれる人もいるんだと実感しました。そこから、業界が抱える問題にも目を向けた上で、ファッションを楽しむことについて発信する必要性を感じるようになりましたね。

企業、デザイナー、消費者…みんなで関わってこそ変化が加速する

いまのファッション業界でも、社会課題に向き合うことは“外側”にある印象ですか?

いえ、変わってきていると思います。10年前は「社会貢献」と「ビジネス」は繋がらないというイメージが強かったですが、いまは環境や人権のことを考えることがむしろビジネスをする上での通行許可証のようになっています。これまでのファッション業界では、エシカルファッションやサステナブルファッションと言うと、「そういう系の人たちいるよね」と別カテゴリーにされることが多かったのですが、いまではラグジュアリーブランドもファストファッションブランドも、「サステナビリティ」というタグがWebサイトにあるほどに浸透しました。それはここ数年の大きな変化だと思います。

良い方向に変わってきた反面、新たに見えてきた歪みもあるのでしょうか?

良いことをしているようにアピールしているけれども、事業全体の中ではごく一部の取り組みだったり、表面的な取り組みしか行っていないグリーンウォッシュ(※1)も多くあると思います。一方で、いきなり全てを変えることができないのも事実です。完璧でないからといって直ちに批判しないこと、また企業側は、全体としていつまでに何を完了することを目指していて、そのうちどこまでがいまできているのか、と丁寧に正直に伝えていくことが重要だと考えています。また、良い取り組みを促進するためには、企業が取り組みやすくなるようなルールの整備が必要だと思っています。いまはリサイクル繊維など、サステナブルな素材を使うとコストが上がるという課題があります。ですが、たとえば未使用・未加工のバージン素材に重い税金をかけ、リサイクル素材にはほとんどかからないようにすれば、みんなリサイクル素材を使うようになります。いま、ファッションに関する法規制は、ヨーロッパやアメリカでも進んでいますが、そういう仕組みが日本でもできたら、ファッション企業は一層動きやすくなると思います。

それを実現していくためには、どんなアプローチが有効なのでしょう?

国に声を届けるためには、産業としてファッションと向き合っている人たちが連帯して発信していくことがパワフルだと思っています。いま私は、ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)(※2)という、ファッション産業企業が連帯し、サステナブルファッションについて情報交換し、アクションを起こしていく企業連携プラットフォームに事務局として携わらせてもらっています。JSFAには、繊維メーカさんからアパレルさんまで、多様な企業が集まっていますが、会員間でファッション業界をより良くしていく為にはどんな仕組みが必要かを話し合い、各省庁に提言を行うなどの活動をしています。やはり実務として日々課題と向き合っている、産業界が必要だと感じる変革を求めていくことが大切だと感じています。このアライアンスから提言が行われることで、実情が伴った意味のある提言ができるのではないかと期待しています。

様々な関係者との連携や、それぞれに見合ったアプローチが必要なのですね。

そうですね。ファッション業界は関係者が本当に多いんですよ。素材の原料で言うと、化学繊維は科学的な知見を持つ技術者が製造していますし、コットンは農産物なので農業の話になります。だからみんなで集まって話しても、お互いわからないことばかりなんですよ(笑)。「それ、何ですか?」っていう会話をしてしまうくらい。それが面白さでもあるし、同時に多くの課題を生んでいる原因でもあるとも言えます。

ご自身でもサステナブルファッションについての教育や情報発信を行う「unisteps」を運営されていらっしゃいますね。

はい。サステナブルファッションを考えるときには、前提となる仕組みを動かしている政府や企業・新しいシーンを生み出してくファッションデザイナーやクリエイター・それと生活者(消費者)の3者の関連も非常に重要です。たとえば、ファッション産業はデザインによって多くの物事が動いています。デザインの時点で製造における環境負荷の大部分が決まるとも言われており、サステナブルな服作りには、生み出す側の意識を変えることもとても重要です。なので、unistepsではデザイナー向けのプログラムも「FASHION FRONTIER PROGRAM」も運営しています。また、消費者の意識を変えていくことも重要です。企業も行政も「消費者が求めてないことはできない」と言う一方で、消費者は企業が作ってくれないと買えない。なので、それぞれが自分の立場や目線でサステナブルファッションを知り、みんなが当事者になっていくことが大切だと思います。

※1  環境に配慮した、またはエコなイメージを思わせる「グリーン」と、ごまかしや上辺だけという意味の「ホワイトウォッシュ」を組み合わせた造語。本当は環境に良くない商品やサービスを、消費者の誤解を招く表現を用いて、環境に配慮しているように見せかける「ビジネス戦略を指す。
※2 ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)
https://jsfa.info/

“いまの自分”で手に届く服と、一緒に一歩を踏み出せばいい

改めて考えると、“ファッション”とひとことで言っても、包摂している意味が多義に渡ると感じます。

日常生活では、みんな服を着ていますよね。なのに“ファッション”と言った途端に「興味ないです」「私には関係ない」という距離感になってしまう人もいます。そういう状況に出くわすたびに、“ファッション”という言葉が含んでいる世界が広すぎて、混乱を生んでいる気がしていて。芸術品を作るように服を作っている人もいれば、多くの人に手に取ってもらう服を作ってる人もいる。また、服は人に元気を与えるものにもなる一方で、その労働環境の悪さなどから作っている人が死んでしまうこともあります。すごく幅のある言葉なんですよね。それが全部同じ“ファッション”という言葉で語られることに、ちょっと無理があるんじゃないかな、という気もしています。

確かに、“ファッション”という言葉の持つ多面性について考えたことがなかったかもしれません。

この言葉1つとっても、いろんな矛盾があると思うんです。おしゃれをしたいという気持ちも、環境負荷を下げたいという気持ちも、相反するように思われがちですが、“ファッション”という切り口は同じです。わかりやすく削ぎ落として言葉を解釈したくなるけれど、この矛盾した現状を受け入れた上で、できることを考えていきたいと思っています。メディアなどでは、わかりやすい正しさがピックアップされて、正しさが強化されていきます。なので、100%正しい人しか向き合えない課題のように見えてしまいがちなのですが、私自身も日々矛盾と向き合いながら、目の前の選択肢の中からちょっとでもベターな方を選ぶことを続けているんです。1つのアクションで大きな変化を起こすことが難しい問題だからこそ、この言葉のはらむ矛盾も含めて向き合う姿勢を見せ続けていきたいと思っています。

「限られた人しか語れない課題」のように、特権的に見えてしまう側面があるのかもしれませんね。

たまに「サステナブルファッションに興味があるけれど、私は金銭的にファストファッションしか買えない。そのことに罪悪感があります」という声を聞きます。その洋服が、もしかしたらサステナビリティに配慮した環境下で作られた洋服でないかもしれない、それでもそれを買う選択しかできないことがもどかしいと。それに対してどう答えたらいいのかなと考えていたのですが、先日、友人にヒントをもらいました。「その服を着て戦えばいい」って。自分の境遇では安い服しか買えない。ならば買えばいい。そしてその服を着て、「私はこれを着ています。でも、もしこの服が環境や労働者に過度な負担をかけているのだとしたら、罪悪感を感じるのでその状況を変えて欲しい」と企業に伝えていけばいいんだと。自分の美意識を保ちながら着たい服を着ることと、社会構造に異を唱えることは、矛盾してるように感じてしまいそうだけれど、その矛盾を抱えるからこそ上げられる声があるんですよね。私自身もハッとしました。

まずは、好きなブランドに質問してみよう

消費者である私たちは、まず何ができるでしょうか?

ファッション業界の課題を耳にして少しでも引っかかることがあったなら、自分の好きなブランドにぜひ聞いてみてほしいです。「最近こういうニュースを聞いたんですけど、何か取り組んでいますか?」「素材はどうやって選んでいるんですか?」とか。ブランドにとって売り場でのリアルな声はとても重要で、その動向を見て商品を作っていくので、最近環境問題のことをよく聞かれるとなれば、企業はそれに応じた行動を選択していきます。よくフォロワーさんから「サステナブルなファッションブランドってどこですか?」と聞かれますが、もし自分の好きな世界観のブランドがあるんだったら、そのブランドにサステナブルなスタイルに変わってもらった方が楽しいですよね。ぜひ色々質問してみて欲しいです。これはかなり大きな効果があります。

確かに、サステナブルな服を購入する為には、自分の好きなブランドの世界観やデザインなど、何か諦めないといけないものがあるイメージでした。ブランド側に変わってもらえる可能性があるのはワクワクしますね。

あと、必ずしも“新しいもの”を買うことでしか高揚感を得られないわけじゃないと思うんですよね。古着やお直しという選択もあります。服を買うとき、新品を売っているお店は“新品屋さん”とは言わないのに、古着は“古着屋さん”って言われますよね。新品がスタンダードになっていることにも違和感があります。個人的には、新品屋さんと古着屋さんとあとお直し屋さんが、同じぐらいの割合で存在したらいいなと思っています。ちなみにお直しは本当におすすめです。地味だと思われていますが、丈を切ったりウエストを詰めたりするだけで、自分の体に馴染む服になります。1番の理想は、各ファッションブランドがお直しサービスを持ってくれることだと思っています。そのブランドの世界観を保ったままにお直ししてもらえたらとても嬉しいですよね。でもまずは、ちょっとお直しするだけでこんなにテンションが上がるんだ!ということをぜひ体験してほしいです。本当に良い体験ですよ。

体験してみる、ということもキーワードですね。

私の行なっている活動に、「服のたね」(※3)という企画があります。コットンの種を参加者に送り、育てて服にするまでを経験してもらう企画です。うまく収穫できる人も、途中で枯れてしまったり、天候の影響で弱ってしまったりする人もいるのですが、コットン生産は農業なので、これらはすべて起こりうることですよね。そういったプロセスを知ることで、値段が高い服でも単に高いと思うのではなく、その価格の意味がわかると思うんです。コロナ前は生産地に行くスタディ・ツアーなども実施していましたが、いろんな人の工夫や知恵が積み重なって自分の服ができていると思うと本当に感動するし、それを毎日着られるってすごく贅沢なことだと思うんですよね。体験することを通じて、新しいファッションの楽しみ方に出合えると思います。

※3 ITONAMI「服のたね」https://ito-nami.com/pages/fukunotane

未来でもファッション業界の多様性を保ちたい

これまでお話を伺って、行動力が素晴らしいなと感じます。その力はどこから来るのでしょうか?

計画性がないので「とりあえずやってみる」ができるのかもしれません。高校進学を機に1人で東京に出てきたときも、上京してから東京に友達がいないことに気がついて、後から寂しくなりました(笑)。一緒に仕事をしている人からも、勝手に色んなことを決めてきちゃうから計画性がないと言われるんですけど、欠点でもあり、長所でもあるかもしれません。でも、もしかしたら1年後の自分は全然違うところに飛び込んでるかもしれない、というワクワク感はありますね。

最後に、「こんな未来であって欲しい」と鎌田さんが考える未来は、どんな姿でしょうか?

ファッション業界の多様さが失われていない未来ですね。共同代表を務めているunistepsでは、「多様性のある健康的なファッション産業に。」というビジョンを掲げています。 産地ではその土地ならではの技術があって、デザイナーさんにはそれぞれの哲学とそこから生まれた服があります。そういう多様な技術や哲学・美意識があることで、より1人ひとりにマッチする服に出合える可能性が高まるので、 面白い物作りをしている人たちを応援して、ファッション業界の多様さが失われないで欲しいと思っています。

「毎日着ている身近な存在なのに、あまりにもファッションについて知らない」、インタビューを通じて感じたことはこれに尽きる。筆者を含め、おそらく「何から始めたら良いかわからない」「私が語っても良いのかな?」と思ってしまう気持ちの背景には、ファッション業界の持つ課題や、またファッションという言葉に包摂される矛盾も含めた様々な要素が見えていないことがあるのではないだろうか。

“ファッション”という言葉の持つ多くの側面を知ることで、新しいファッションの楽しみ方も、自分なりの課題への向き合い方も徐々に見えてくるはずだ。矛盾やすぐには解決できない課題も含めて、いまの“ファッション”と向き合っている鎌田さんの姿勢から、いま等身大の自分で手の届く関わり方でファッションを楽しみ、無理のない範囲で少しでも社会に良い方を選択していきたいと強く感じた。

 

鎌田 安里紗(かまだ ありさ)
1992年徳島市生まれ。高校在学時よりアパレル販売員と雑誌『Ranzuki』のモデルを始めたことをきっかけに、ファッション産業のあり方、特にものづくりの現場に関心を寄せる。2010年より、衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開。種から綿を育てて服をつくる「服のたね」、生産現場を訪ねるスタディーツアー「めぐる旅」、衣服を取り巻くモヤモヤについてともに学び考えるプラットフォーム「Honest Closet」など。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。 2020年より一般社団法人unistepsの共同代表に就任。
一般社団法人unisteps : https://unisteps.or.jp/


取材・文:大沼芙実子
編集:おのれい
写真:服部芽生