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エンパシーとは?その意味と高め方、シンパシーとの違いを徹底解説

2014年、アメリカ・スタンフォード大学の卒業式で式辞のスピーチを勤めたビル・ゲイツ夫妻は、5万人を超える観客の前で、次のように語った。

「エンパシーなしのイノベーションでは、意味がない。エンパシーは、イノベーションと同じくらい重要だ。エンパシーこそ、様々な障害を打ち破り、未来への希望を開拓してくれる力である」

ゲイツ夫妻が未来への希望を託した「エンパシー」とは何なのか。これからの時代に必要なその“力”について解説する。

エンパシーとは?

Cambridge Dictionaryによると、“empathy(エンパシー)"とは「その人の立場になったことを想像して、どのように感じているか、どのような経験をしているかを分かち合う能力」とされている。(※1 筆者訳)心理学の世界では、「共感性」と訳され、学術的にも研究が進められている。

エンパシーは、物事について考えたり理解したりしようとする認知的アプローチと、他の人がどんな気持ちを抱いているか理解しようとする感情的アプローチによって発動する。エンパシーが機能することによって他人と分かち合えるものには、「感情」、「思考」に加え、他の人が恥ずかしい思いをしている時に自分も顔を赤らめてしまうなどの「身体的反応」の3種類がある。

※1 参考:Cambridge Dictionary「empathy」参照日 2022年7月27日
https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english-japanese/empathy

シンパシーとは?

シンパシーとは、「同情」や「共感」を意味する言葉だ。Cambridge Dictionaryによると、"sympathy(シンパシー)"は「他者に対する思いやりや理解を示す感情」とされている。(※2 筆者訳)

人の痛みや不幸、悩み、悲しみを気の毒に思ったり、気にかけたりするときには、シンパシーが働いているといえる。また、そのような状況にある人に対して、何かしてあげたいと思う気持ちを指すこともある。

シンパシーはギリシャ語の「syn(=一緒)」と「pathos(=苦しむ)」を組み合わせた言葉に由来し、「仲間のように共に苦しみ、共に感じる」ことが語源といわれている。

※2 参考:Cambridge Dictionary「sympathy」参照日 2022年7月27日
https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english-japanese/sympathy

エンパシーとシンパシーの違いについて

エンパシーとシンパシーの違いは、それが知識や経験を必要とする作業かどうかにある。

例えば、テレビのニュースで、戦火を逃れ難民キャンプで過ごす人々を見たとき、どんなことを思うだろうか。「故郷を追われてかわいそう」、「食べるものがなくて辛そう」と感じるのは、シンパシーだ。

一方、「この国はどんな歴史を辿ってきたのだろうか」、「現地の人々はどんな影響を受けたのだろう」と背景に興味を持ち、歴史的事実や国の状況を調べ、彼らが“なぜ、何を、どのように感じている”を考えるのが、エンパシーである。当事者に寄り添った目線で考えることができれば、本当に必要とされている支援や声がけができる可能性も高まる。

知識や経験が豊富であればあるほど、あらゆる選択肢や可能性について考慮することができる。エンパシーは、鍛えられる「能力」なのだ。

エンパシーが高い人の特徴

エンパシーが高い人には、以下のような特徴がある。

  • 他の人が何か言おうとしているとき最後まで話を聞こうとする
  • よく人から相談される
  • 他の人が無理をしていることに気がつける
  • 分け隔てなくさまざまな人と関わろうとする
    (※4)

この他にも、エンパシーが高い人にはいくつかの特徴や傾向があるが、他の人を気にかけ、知らないことや分からないことでも前のめりになって向き合う姿勢が共通している。

※4 参考:verywellmind "What is empathy?"
https://www.verywellmind.com/what-is-empathy-2795562#toc-tips-for-practicing-empathy

エンパシーの重要性

エンパシーは、他者の気持ちを理解し、その状況に適切に対応できるようにするために重要とされている。エンパシーは一般的に社会的行動と関連しており、共感力が高まるとより多くの他人に対して援助行動につながることを示す多くの研究がある。

人間関係

エンパシーは人間関係に影響を与える。兄弟姉妹を対象としたトロント大学の研究(※6)によると、兄や姉が優しく、温かく、協力的な子どもは、兄や姉にこれらの特徴がない子どもよりも共感性が高く、お互いにより温かく接することができることがわかっている。

恋愛関係においては、エンパシーを持つことで、ケンカ時などに「相手の許しを得る」能力が高まることがわかっている。

職場環境

エンパシーは職場でも重要だ。職場におけるエンパシーは、従業員がお互いの状況に共感できる関係を築き、人間関係とパフォーマンスを向上させることを意味する。また、リーダーシップに不可欠な能力としてもエンパシーは重要だ。近年、多様性を尊重した環境づくりをしている企業も多く、マネージャーはチームメンバーの事情や背景を理解し、思いやりを持って管理することが大事である。

直属の部下に対してエンパシーが高いリーダーシップを発揮しているマネジャーは、より良い業績を上げていることが研究でもわかっている。(※7)

※6 参考:HUFFPOST「Brothers And Sisters Teach Each Other About Empathy From A Young Age」https://www.huffingtonpost.co.uk/entry/siblings-impact-child-development-empathy_uk_5a8ade9ce4b05c2bcacd8abd?utm_campaign=share_email&ncid=other_email_o63gt2jcad4

※7 参考:SIX DEGREES「Why Empathy is an important leadership skill」https://www.sixdegreesexecutive.com.au/your-career/2022/04/why-empathy-is-an-important-leadership-skill#:~:text=A%20Catalyst%20survey%20of%20889,psychological%20safety%20in%20the%20workplace

エンパシーを高める方法

エンパシーを高めるための具体的な方法としては、例えば以下のようなことが考えられる。

たくさんの人と話す

自分とは異なる価値観やバッググラウンドを持つ人々と関わり、「普段どんな生活をしているか」「いまどんなことを考えているか」を話してみることは、他の人が何を考えているか、どんなことを感じるかを想像するための視点を増やすことにつながる。

映画を観たり、本を読んだりする

物語の登場人物たちの心情や考えを理解しようと試みることは、実世界において他者に寄り添う姿勢と変わらない。実際、文学作品を好んで読む人は、そうではない人よりも共感力を測るテストで良い成績を残したという調査結果がある。(※8)

行ったことのない国や都市に行く

普段自分が生活している国や町以外の場所に行くと、異なる文化や価値観に触れることができる。ニュースなどで見聞きして感じていたこと、一方的に抱いていたイメージについて、考えを改めるきっかけにもなるだろう。慣れた自分の生活と離れ、別の環境や生活観を知ることは、自分の視点を増やすことにつながる。

※8 参照:THE NEW SCHOOL "READING LITERARY FICTION IMPROVES “MIND-READING” SKILLS
FINDS A STUDY FROM THE NEW SCHOOL FOR SOCIAL RESEARCH"
https://www.newschool.edu/pressroom/pressreleases/2013/CastanoKidd.htm

 

まとめ

エンパシーの意味を象徴する言葉として、“walk a mile in someone’s shoes” という英語の慣用句がある。他人の靴を履いて歩くのは、違和感に満ちた体験だろう。しかしだからこそ、それまで分からなかったことに気づくことができるのである。
価値観が多様化する時代。異なる価値観や考え方を「理解できない」と突き放すのではなく、「どうしてそう考えるのだろう」と立ち止まって考えたい。


文:柴崎真直
編集:日比楽那