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プライド月間は誰のため、何のためにあるのか

毎年6月は、LGBTQ+の権利を啓発する活動が世界中で行われるプライド月間だ。企業からレインボーカラーのグッズが売り出されたり、キャンペーンやイベントが開催されている。毎年決まった時期になるとSNSやメディアでも特集が組まれたりして、突如として動きが盛り上がる。

日本において、プライド月間が大きな動きになったのは、ここ数年のことだろう。多くの人にとって、いつからか6月になるとレインボーのシンボルが目に入るようになった、といった感覚なのではないだろうか。

このレインボーの意味を知っている人はどのくらいいるのだろうか。プライド月間がなぜ6月なのか知っている人はどのくらいいるのだろうか。そしてプライド月間は何のためにあるのだろうか。改めて、プライド月間の背景と現状について考えてみたい。

そもそもプライド月間とは?

プライド月間の原点は1969年6月28日未明に、ニューヨークで起きた「ストーンウォールの反乱」にある。「ストーンウォール事件」「ストーンウォール暴動」とも呼ばれるこの出来事を記念して、6月がプライド月間とされた。

1969年当時、アメリカでは多くの州でソドミー法という法律が残っていた。これは「自然に反する」とされる性行動を犯罪だとし、同性愛者をはじめとしたセクシュアルマイノリティを逮捕する根拠とされた法律だ。これによって、同性愛者であることを理由に逮捕される、仕事を解雇されるなど、セクシュアルマイノリティの人々が置かれている環境は、今よりもさらに厳しかった。ゲイバーなどのナイトクラブへ警察が踏み込み、むやみに取り締まるなどの事態も発生していた。

そんな中で、ニューヨークにあるゲイバー「ストーンウォール・イン」にも警察が踏み込んだ。多くの場所でこのような警察による手入れは起きていたが、この日は店内にいた200人余りの客や群衆が警察に真っ向から反発した。騒ぎを聞きつけた人々が集まり最終的には600人ほどにもなった群衆と警察による暴動が起こったのである。これは、史上最大級のLGBTQ+当事者らによる暴動とも言われ、その後のセクシュアルマイノリティの権利獲得運動に大きな影響を与える転換期となった。

1970年には、この「ストーンウォールの反乱」から1周年を記念して、ニューヨークで世界初のプライド・パレードが開催された。以来、6月はセクシュアルマイノリティ当事者にとって記念すべき月とされるようになった。

レインボーの意味

プライド月間、プライド・パレードのシンボルといえば、レインボーだ。でも、なぜレインボーなのだろうか。

実は、レインボー以前にもLGBTQ+の象徴とされるマークはあった。それは、「ピンクトライアングル」だ。名前の通り、ピンクの逆三角形で、ナチスの強制収容所で男性同性愛者に付けられていたマークに由来する。人権が脅かされた迫害やヘイトがあった事実を忘れずに、別の意味合いを持たせることで当事者を解放していこうと、偏見や差別、暴力に屈しないシンボルとして使われていたのである。

歴史的に重要なシンボルではあったものの、ネガティブなイメージを感じさせるとして、1970年代に新たなシンボルとしてレインボーが生み出されることになった。担当したのは美術家のギルバート・ベーカーだ。「人間の多様性を守ること」をテーマに虹のシンボルが作られた。ちなみにLGBTQ+を意味するときに掲げられるレインボーは6色である。元々8色で構成されていたレインボーのシンボルだったが、活動の活性化とともに大量に印刷しやすくするために6色にされたという逸話もある。

「プライド」月間にがっかりする当事者たち

「プライド」月間なのだが、ここで言う“プライド”とは何なのだろうか。一言で言えば、「誇り」だ。自分のセクシュアリティに、自分自身に、自信を持って恥じることなく生きようという意味が込められている。だから、プライド月間はこれまで可視化されてこなかったセクシュアルマイノリティ当事者の存在を可視化し、コミュニティをエンパワーメントするための重要な機会なのである。

しかし、筆者の周りでは、プライド月間には落ち込むことが多いといった当事者からの声もよく聞く。なぜなのだろうか。

背景にあるのが「ピンクウォッシング」という概念である。「ピンクウォッシング」とは元々、イスラエル政府がパレスチナ人への人権侵害をしている事実を隠し、LGBTQ+支援に積極的な姿勢を打ち出して人権的に先進国であるとするイメージを作りだそうとする戦略のことを指す。転じて、LGBTQ+フレンドリーであるように見せかける国や企業の行ないも「ピンクウォッシング」と呼ばれるようになった。近年ではプライド月間以外でも目立つ、LGBTQ+フレンドリーであることをブランディングやマーケティングに利用する企業の姿勢が指摘されている。

例えば、最近大きな話題になっていたのは、アパレルECのZOZOTOWNの事例である。アプリやSNSのロゴをレインボーカラーに彩り、ホームページには

「個性を尊重するということ。多様性という言葉が広がる中で、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーといった様々な個性が、広く認められるようになりました。」

というメッセージが掲げられた。セクシュアルマイノリティという特性を「個性」という言葉にひとまとめにし、現実的にある困難を見えにくくしてしまう、「認められる」といった表現にマイノリティとマジョリティの非対称性が滲み出ていると感じる、などの批判の声が寄せられた。この特設ページの制作者の真意は分からないが、いずれの表現もこれまでにも何度も当事者から指摘が繰り返されてきた表現だろう。

また、2022年4月には大手コンビニエンスストアのファミリーマートより発売されていたレインボーグッズにも批判が集まっていた。セクシュアルマイノリティの支援を名目に「ラインソックス レインボー」が販売され、「売上の一部を、LGBTQ支援団体へ寄付いたします」と発表されていた。

しかし、店舗や商品のパッケージなどにはセクシュアルマイノリティの支援に関する表記がなく、一見ただのかわいいアイコンとして6色のレインボーが扱われていた。さらに、寄付先が明かされておらず、ブランディングのためだけに利用されているのでは、という声が寄せられたのである。

当事者たちが「プライド」を掲げるためのレインボーのシンボルであり、記念月間であるにも関わらず、不適切な表現の使用や不明瞭な支援活動によって、結果として「プライド」を傷つけてしまうといった事態が発生している。

プライドは1ヶ月で終わらない

多くの人がプライド月間やセクシュアルマイノリティのエンパワーメントに関心を持ち、企業や自治体が動き始めること自体は、決してネガティブなことではない。しかし、問題なのは、歴史的背景や現実的に起こっている問題から目を背け、「ハッピー」なイベントに矮小化されてしまうことだろう。

街に出れば、大型店の窓に貼られた6色のレインボーのステッカーが目に入ってくる。しかし、これらは6月30日の夜中には剥がされてしまうことだろう。そして6色のレインボーに染められたグッズたちも、在庫処分とされてしまうだろう。セクシュアルマイノリティの可視化は、1ヶ月で強制的に終了され、7月にはなかったことにされてしまうように感じる。

プライド月間は終われど、セクシュアルマイノリティ当事者の生活は続いていく。ウォッシングに乗っかって消費するだけではなく、永久的な権利獲得に向けたアクションへと動いていくべきなのではないだろうか。

文:白鳥菜都
編集:おのれい