よりよい未来の話をしよう

「全社員テレワーク」「管理ゼロ経営」を成功させたソニックガーデンが考える社会貢献。 プログラマー不足の構造問題を紐解く

本記事では、BIGLOBEが運営する「社会を前進させるための情報発信」をコンセプトとしたウェブメディア「あしたメディア(https://ashita.biglobe.co.jp/)」と「クリエイティブ×ビジネス」をコンセプトとしたウェブメディア「FINDERS(https://finders.me/)」のコラボ企画として、ソニックガーデン(https://www.sonicgarden.jp/)代表取締役社長の倉貫義人氏のインタビューをお届けする。

同社はITソフトウェア開発企業として、2011年の創業以来「IT業界の構造的な課題を解決する一助になるような成果を上げつつ、より良い働き方を実現できないか」を追求し続けてきた。月額制のIT顧問としてユーザー企業に寄り添い続ける「納品のない受託開発」のビジネスモデルを軌道に乗せ、一方で全社員テレワークで完全フレックス制、管理ゼロ・ノルマゼロの社員セルフマネジメント制度を採用。また倉貫氏はこうした取り組みの情報発信にも積極的で複数の著書も出版し、これらの斬新な取り組みはIT業界以外からの注目も集めている。

そんなソニックガーデンは、2021年に創業10周年を迎えたことを機に「社会に目を向けた活動」を積極化していくという。一体どのような取り組みを進めていくのか、話をうかがった。

「プログラマーが足りない」と言われ続ける構造問題はなぜ解消しないか

創業10周年に際した別のインタビューで「この10年は生き残れればいいという生存戦略でしたが、これからの10年は社会に目を向けます」とおっしゃっていました。どのような方向転換を考えていらっしゃるのでしょうか。

倉貫:10年前に5人で創業し、資金調達も大会社の後ろ盾もなく経営してきたので、自分たちが生き残るので精一杯だったというのが正直なところです。それでも10年やってこれたことで経営、ソフト開発、サービスのノウハウが溜まってきましたし、財務的な体力もついてきました。

これまでソニックガーデンは社員全員がセルフマネジメントで仕事をすることを目指していたので、採用にはかなり時間をかけてきましたし、その結果どうしても中途入社してくれる人の年齢は高めになっていました。それを、これからはセルフマネジメントや技術を修得していく必要のある若い人にも働く機会を提供できないかと考え始めました。

「社会に目を向ける」と言っても、私たちにできるのはプログラミングであり、そうであればプログラマを育てていくことではないか、と考えました。というのも世の中を見ると、ソフトウェアの価値がいまだかつてないほど高まっています。2000年代のIT化、10年代のSsaSの登場、20年代は事業会社でもDXが進んでいくでしょうし、事業・業務のソフトウェア化が必須になってきている。個々人の生活もITソフトウェアなしで成立しない社会になってきましたし、エンジニア人材のニーズは圧倒的に高まっています。

そうした背景の中でプログラミングスクールが沢山できて注目が集まる一方で、そうしたニーズに応えられるほどエンジニアが増えていません。ウェブで無料または安価で学べる環境がどんどん増えているし、それらがきっかけでプログラミングを始めた人も増えていますが、まだまだ足りないんです。

それはどの辺りに構造的な問題があるのでしょうか?

倉貫:求められている人材とのミスマッチでしょう。そもそもソフトウェア開発は、とても高度で個人の力量による影響度の大きい仕事です。未熟な人でも集めて人海戦術すれば解決できるようなものではないのです。

というのも、ソフトウェア開発は設計図と決まったプロセスのもとで大量生産するものではないからです。それで言えば設計図やプロセスを決めることがソフトウェア開発であり、プログラミングは手を動かすのではなく、頭を動かして設計する仕事だからです。

たとえば、料理を作るのではなく、料理のレシピを作る仕事だとイメージしてください。レシピ通りに料理を作ることはソフトウェア開発には必要ありません。それはコンピュータの仕事です。コンピュータが動くレシピを作ることが設計であり、プログラミングです。一つのレシピを作るのに何十人も集まる必要はありませんね。

その設計する仕事で成果をあげられるようになるには多くの経験が必要です。プログラミングスクールで知識は得られたとしても、経験が足りないのですぐに活躍するのは難しいでしょう。しかし、今の世の中で求められているのは、経験を詰んだエンジニアなのです。その絶対数がニーズに対して足りていないので、報酬も高騰しているということだと思います。

高度な教育を提供する機関がまだ足りないということでしょうか。

倉貫:教育の場ではなく実戦経験が積める場所が圧倒的に足りないと思っています。先ほどもお話しした通り、個人で学ぶだけならば環境はかなり良くなってきていますが、プログラミングというのは学習しただけでできるようになるものではありません。音楽やスポーツのように練習や鍛錬を重ねない限り、現場で求められるような実力は身につけられません。

社会がプログラマーを求めているということは、プログラミングスクールを出たような未経験に近い人材を採用する企業も増えているのではないでしょうか?

倉貫:個人的には、多くの企業では難しいと思っています。

一部の大手では教育に注力しているところもありますが、未経験からプログラマーとして活躍できるようになるには5〜6年ぐらいはかかる可能性があります。そう考えると、事業成長を目的とした企業である限りは、経済合理性で見れば経験者を中途採用する方を選ばざるを得ません。しかもエンジニアの場合は人材流動性も活発なので年収の引き上げ合戦も起こっており、せっかく自社で1から育成しても転職されてしまうリスクがあります。

システム開発で人月ビジネスをしているSES(システムエンジニアリングサービス)企業やSIer(システムインテグレータ)企業であれば、未経験者も採用しているケースもあるかと思います。月いくらで時間を売るので、労働時間が長くなりがちにも関わらず、それほど高収入にはなりにくい構造のビジネスです。プログラマーとして一定の経験は積めますが、それは配属・担当する現場や環境に大きく依存しますし、人月という構造上、企業としても技術力を高めて生産性をあげるモチベーションは持ちにくいものです。

濃い実践経験を積む場所づくりと同時に「遊びとしてのプログラミング」を広める

そうした構造的な問題を解決していくために、どのような手立てを考えているのでしょうか。またそれは倉貫さん個人の活動と、ソニックガーデンとしての活動のどちらになるのでしょうか?

倉貫:個人か会社かで言うと境界はあまり無い気がしていますが、ソニックガーデンとしてできることとして、去年からプログラミング未経験者・初学者がWEBアプリをゼロから作成する経験が得られる「ソニックガーデンキャンプ」と、経験者がスキルを高めるためにコードレビューの機会が得られる「ソニックガーデンジム」(https://www.sonicgarden.jp/sgcamp_sggym)の2つを実験的にやってみました。

「ソニックガーデンキャンプ」は高専生または大学・大学院生、既卒3年以内までの人を対象としており、文系や未経験であっても参加可能です。完全オンラインで平日込みの約3週間集中して取り組み、Ruby on Railsでゼロからアプリを開発する経験を積んでもらいます。講義形式ではなく、わからないところは自分で調べて参加者同士で助け合いながら進めていく形式で、前半のチュートリアル期間と後半の実践期間に分かれており、前半をクリアできた人だけが後半に進むことができます。「プロとして活動するための第一歩としてのハードな合宿」というイメージです。

「ソニックガーデンジム」は経験者向けで、「こういうアプリを作りましょう」というお題だけがあり、3カ月かけてソニックガーデン社員によるコードレビューを何度も挟みながら開発していくプログラムです。会社の業務ですと「品質の良いソフトウェアを納期までに完成させる」ことが最優先になるのでどうしても「プログラマーとしての実力を高める」という側面が二の次になってしまうのですが、そこを補うために開催しています。課題を全て修了された方で、ソニックガーデンへ就職・転職を希望される場合、書類審査と技術試験を免除しますが、もちろん必須ではありません。

いずれ募集人数が10名以下と、応募側にも「本気でなければ参加できないだろうな」ということが伝わっていると思いますが、実際にどのような人が集まったのでしょうか。

倉貫:「キャンプ」は平日ガッツリ参加しなければならないので、25歳前後ぐらいの、学生かたまたまこのタイミングで就職していない人が多かったですね。スタートアップで働いていたものの会社が解散してしまった人もいれば、元事務職でプログラミングスクールを出たけどもっと腕を磨きたいという人もいました。応募は10数人あった中で選抜されて、最終的に9名が参加しましたが、脱落者はゼロでした。

「ジム」は「エンジニアとして働いていてRuby on Railsも使ってはいたけど、自分の作っているプログラムが客観的に良いかどうかわからないから指導を受けてみたい」という方などが来ていました。

今後、ジムとキャンプはどれぐらいの頻度で開催するのでしょうか。

倉貫:開催側としてもかなりのコミットが必要なので大変ですが、できれば年2回はやりたいですね。無償の社会貢献という位置づけではありますが、ジム・キャンプの卒業生でソニックガーデンに入社したいと言ってくださる方もいるのでメリットはあります。

ソニックガーデンでこれまで中途採用した人は大体10年ぐらいの実務経験があり、前職でエンジニアリーダーやCTOをしているような人ばかりでした。そうした完成されたエンジニアが提供する「納品のない受託開発」がソニックガーデンのメイン事業でしたが、ようやくある種の「育成枠」の人を採用し時間をかけて育成する余裕ができてきたこともあり、会社のあり方を変えていくきっかけにもしていきたいと考えています。

今後「社会に向けた活動」としてやってみたいことは他にありますか?

倉貫:個人的に思うのは、より多くの人が楽しく、遊びのようにプログラミングできる社会を作る活動ができないかということです。

例えば世の中には草野球やフットサル、ピアノ演奏などを楽しむ人がたくさんいますが、その人たちに対して「プロになれなければ意味はない」なんて言わないですよね。Jリーグが発足してから、クラブがプロチームだけでなくユースチームも整備したことでより一層親しむ人が増えたという例もあります。親しむ人の裾野が広がれば、多くの人がプロの仕事の凄さもわかるようになって、プロとしての価値も高まります。

そうした「草プログラミング」的な取り組みの先駆けとしては、世界的に子ども向けに無料のプログラミング教室を提供する「CoderDojo(コーダー道場)https://coderdojo.com/」があり、自分たちの住む地域で開催しているソニックガーデンの社員もいます。

今後もっと「草プログラミング」の人口をもっと増やす活動をしていきたいのですが、学習コンテンツとして出すことに注力するか、コミュニティづくりに注力するか、力の入れどころに迷っています。

自分もプログラミングを学ぶことに興味がないわけではないのですが、ちょっとネットで調べてみると「漫然と講義を受けたり本を読んだりしても大抵は身につかない。それよりも『自分が作ってみたいもの』を探してそれを作るための技術を学んだ方が早い」と言われていることが多く「作ってみたいもの、見つからないな…」と尻込みしてしまっているところがありました。

倉貫:確かにそれもよく言われますが、あまり良くない影響も生じてしまっているなと感じます。草野球や休日のピアノ演奏などと比べて、プログラミングが経済活動に結びつければいけないと思われすぎているのは不健全です。

僕は10歳からプログラミングを始めましたが、目的なんかありませんでした。プログラミングはコードを打ち込むとコンピュータから何か返ってくるというインタラクティブそのものが楽しいですし、今の子どもがなぜマインクラフトを楽しんでいるかというと、何かを作れるからではなく動かして遊ぶことそのものにたくさんの楽しみが詰まっているからですよね。

今後は、プログラミングで高みを目指す人材を育てていくこと、プログラミングを遊びとして嗜む人を増やしていくこと、縦と横に山を広げていければと思っています。プログラミング思考を身につけた人が一人でも多く増えることを目指しています。

取材・文・編集:神保勇揮

 

プロフィール:
倉貫義人
株式会社ソニックガーデン 代表取締役社長。「納品のない受託開発」という月額定額&成果契約で顧問プログラマを提供する株式会社ソニックガーデンの創業者で代表取締役社長。アジャイル開発のエヴァンジェリスト。1974年生まれ。京都府出身。大手SIerにてプログラマやマネージャとして経験を積んだのち、2011年に自ら立ち上げた社内ベンチャーのマネジメント・バイ・アウトを行い、株式会社ソニックガーデンを設立。「納品のない受託開発」という斬新なビジネスモデルは、船井財団「グレートカンパニーアワード」にてユニークビジネスモデル賞を受賞。会社経営においても、全社員リモートワーク、本社オフィスの撤廃、管理のない会社経営などさまざまな先進的な取り組みを実践。2018年には「働きがいのある会社ランキング」に初参加5位入賞と、「第3回ホワイト企業アワード」イクボス部門受賞。著書に『ザッソウ 結果を出すチームの習慣』『管理ゼロで成果はあがる』『「納品」をなくせばうまくいく』『リモートチームでうまくいく』がある。
ブログ:https://kuranuki.sonicgarden.jp/