よりよい未来の話をしよう

街中にもっと授乳室を。ポータブル授乳室「mamaro™」が目指す授乳に優しい街とは?

ある日たまたま耳にした「mamaro™」(※1)。気になって調べてみると、その正体は“ポータブル授乳室”だという。なんでも、街中における授乳室不足の解消を目指しているようだ。

私は結婚もしていなければ出産経験も無い。聞くところによると、子育て中のお母さん達の中には、外出先で授乳室が見つからず、仕方なくトイレの個室で授乳している方々もいるらしい。身近なところで困っているお母さんたちがいると知って、もっと街中の授乳環境が整備されてほしいと切に感じた。

※1 完全個室のベビーケアルーム
『mamaro』https://mamaro.trim-inc.com/

そもそも授乳ってどんなところが大変?

子育て中のお母さん達が授乳する時、どんな点に苦労しているのだろうか?現在2歳のお子さんがいらっしゃる女性に、外出先での授乳についてお話を伺った。

そもそも授乳はどれくらいの頻度で必要になるのでしょうか?

赤ちゃん一人ひとりによって違うみたいですが、中には20分に1回くらいのペースで欲しがる場合もあるようです。また、母乳が出にくい場合や赤ちゃんの吸い付く力が弱い場合は、1回の授乳に40分ほどかかることもあると聞きました。

外出先で、どのような場所に授乳室があったらいいと思いますか?

電車の中や駅のホームですね。車内は他人との距離が近く、授乳していると近くの人に何をされるか分からないからです。例えば座席に座っている時、正面に人が立っていると気になってしまいます。なので、電車内ではかなり授乳しづらく感じます。駅に着いてもホームには授乳室がないことが多く、離れた所まで探しに行かないといけないこともあります。

例えば新幹線の車内には授乳時に使えそうな個室がありますよね。

あのスペースは、乗務員の方に声をかけないと開けてもらえないことが多いんです。乗務員の人がいつ近くを通りかかるか分からないので、授乳したいと思ってもすぐにはできません。

外出する際は、事前に授乳室がある場所をチェックしておくのですか?

人それぞれだと思います。私は比較的周りの目を気にしない方なので、人前で授乳することにあまり抵抗がありません。でも周りの目が気になる方にとっては、外出先で安心して授乳できる場所が必要になってくると思うので、事前に調べて出かける人もいると思います。
私は、外出先では授乳室よりオムツ替えスペースの方が要りました。オムツ替えこそ人前ではしづらいですし、何より授乳の時とは違って赤ちゃんに寝転がってもらう必要があるからです。でも、例えばカフェなどの店内で地べたに寝転がらせるわけにはいきませんし、衛生的にも良くないですよね。専用スペースがない場合は仕方がないので、化粧室付近の人目につきづらい場所に行って、床の上にオムツ替えのシートを敷いておこなっていました。mamaro™はベビーベッドも備えているそうなので、オムツ替えスペースとしても重宝されそうですね。

授乳に関して、大変な事は他にありますか?

赤ちゃんの欲しがるタイミングと噛み合わず母乳を出せない時間が続くと、母乳が溜まっていき、胸がどんどん張ってすごく痛いんです。その痛みに耐えながら仕事をするのは結構大変でした。授乳できない時は搾乳機を使って母乳を出すという手もあるのですが、赤ちゃんに吸ってもらう時とは違って満遍なく出すことが出来ず、胸にしこりが残る場合もあるんです。それに、搾乳機は重くて持ち歩くには大変な場合もあります。人目に付くような場所では搾乳もしづらいですし。また、たとえ外出先に授乳室があっても、周囲からの視線への不安が拭えずなかなか赤ちゃんを連れて外出できない人はいると思います。その原因の1つとして、日本では「女性としての慎ましさ」を求める視線のようなものがあるのではないでしょうか。それに子育て自体への不安なども相まって、どんどん家に籠るようになり、一層社会からの疎外感を感じることもあるような気がします。

次世代の授乳室「mamaro™」とは

こんな状況の改善に乗り出しているのが、冒頭にも紹介した、「mamaro™」だ。

画像提供:Trim株式会社

木目があしらわれ丸みを帯びた、温もり感じる“箱”。mamaro™は、新時代の授乳室だ。一畳ほどのスペースながら、内部は十分な広さを確保している。鍵付きで完全個室型のため、カーテンで仕切られただけの授乳室とは違って周りの目を気にする必要も無い。ソファと椅子を繋げるとベッドにもなるため、オムツ替えスペースとして利用できるほか、離乳食や着替え、寝かしつけに使うこともできる。もちろん利用は無料。見た目もユニセックスなデザインで、男性やきょうだいも一緒に入りやすそうだ。

画像提供:Trim株式会社

施設側にとっても、mamaro™は導入しやすいようだ。コンパクトかつ可動式で、フロアを改装する必要も無い。しかも比較的低予算で導入できる。そのため、既に各地の商業施設や自治体、神社などで設置が進んでいる。

mamaro™を開発し販売及びレンタルを行っているのは、ITベンチャー企業のTrim株式会社(※2)。同社のアプリ「mamaro GO」では、mamaro™の空き状況を確認できるほか、街中の授乳室の設置場所情報も手軽に確認できる。2017年の本格導入開始からmamaro™は進化を続けており、最新型の「mamaro 2」はコンパクトさを残しつつ仕様を見直し、赤ちゃんをベビーカーに乗せた状態でも中に入れるようになった。また、内部に設置されたソファはベビーベッドにもなり、自動で赤ちゃんの体重を測ることができ健康管理も促進する。

画像提供:Trim株式会社

また、よりコンパクトな「mamaro lite™」の販売も開始された。これは段ボール製の組み立て式ベビーケアルームで、大人2人なら5分ほどあればすぐに組み立てられるそうだ。軽量でコンパクトなため、より導入しやすいようだ。解体も簡単でマジックテープで繰り返し使用できることから、イベント会場への設置や防災備蓄としての利用も拡大している。Jリーグのサッカークラブである清水エスパルスの本拠地・IAIスタジアム日本平にも、このmamaro lite™が設置されている。これがあれば、子ども連れのサポーターもより気軽にスタジアムに足を運ぶことができそうだ。
このように、街中では徐々に授乳室が増えており、子育てをする方々の不便が少しずつ軽減されていっているようだ。

※2 Trim株式会社 https://trim-inc.com/

子育てに優しい街へ

日本で徐々に授乳室が増えている一方で、海外ではどうなのだろう。アメリカでは、全50州の法律で、公私問わずどんな場所でも授乳することが認められている(※3)。また、イギリスでもあらゆる場所での授乳の権利を認める同様の法律があり、むしろ「トイレでは授乳しないように」とさえ言われている(※4)。あえて法律で、公共の場での授乳を“認める”ことで、子育てがしやすい社会づくりを推進しているのである。
それに対して日本では、まだこのような法律は存在しない。インタビューで女性が話していたように、全ての人が公共の場で気軽に授乳できるような環境も十分とは言い難い。
そのような状況にある日本で、赤ちゃんとその家族にとことん寄り添った空間を提供してくれるmamaro™は、私たちを子育てに優しい社会に導いてくれそうだ。それに、そもそも街中で自由に授乳ができるような、寛容な社会を目指す道もあるのかもしれない。

※3 全米州議会議員連盟
https://www.ncsl.org/research/health/breastfeeding-state-laws.aspx
※4 国民保健サービス(イギリス)
https://www.nhs.uk/conditions/baby/breastfeeding-and-bottle-feeding/breastfeeding/breastfeeding-in-public/

 

取材・文:髙山佳乃子
編集:白鳥菜都