あなたは自宅の電気のエネルギー源を知っているだろうか。引っ越しをしたことのある人であれば経験があるかもしれないが、現在の日本では契約する電力会社及びエネルギー源を選択できる。しかし、多くの人があまり深く吟味することがなく大手電力会社と契約しているのではないだろうか。
エネルギー源の話に戻すと、日本は化石燃料による発電の割合が高い国だ。2019年度時点では、国内の一次エネルギーの供給においては、天然ガス22.4%、石炭25.3%、石油37.1%となっている。(※1)これは国際的に見ても、化石燃料の使用割合が高い部類に入る。
地球温暖化が叫ばれるようになって長い時間が経つが、発電方法の変更は地球温暖化防止の観点から最重要項目のひとつだと言えるだろう。2021年11月に開かれたCOP26では、気候変動の原因として「化石燃料」への言及もあった。世界中で石炭の使用廃止が段階的に進められていくとされている。
※1 参照:経済産業省『エネルギー白書2021』「第1章国内エネルギー動向」P.86
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/pdf/2_1.pdf
化石燃料に代わる発電方法
化石燃料による発電の代替として普及し始めているのが再生可能エネルギーの活用だ。再生可能エネルギーとは、名前の通り、繰り返し再生して使用することのできるエネルギーのことを指す。枯渇せず、自然の中に常に存在するエネルギー源を活用して発電することで、CO2の増加も抑えることができる。
それらの再生可能エネルギーのなかでも、太陽光や風力・水力などの自然現象を活用して作ったエネルギーを自然エネルギーと呼ぶ。自然エネルギーに含まれない再生可能エネルギーには、森林の間伐材や家畜の排泄物を燃料として作られるバイオマスエネルギーや、廃棄物を燃焼して得られる高熱・高圧の蒸気でタービンを回すことで作られる廃棄物エネルギーなどがある。
日本国内では、2020年時点で年間発電電力量に占める自然エネルギーの割合は推計21%に達している。(※2)世界規模では、2020年時点で再生可能エネルギーの割合が36.6%に達した。(※3)自然エネルギーを含む再生可能エネルギーの使用割合は年々大きくなっており、今後も様々な方法が生み出されそうだ。
※2 参照:NPO環境エネルギー政策研究所「【速報】国内の2020年度の自然エネルギー電力の割合と導入状況」
https://www.isep.or.jp/archives/library/13427
※3 参照:日本貿易振興機構「世界で存在感増す再生可能エネルギー 新型コロナ禍でも導入容量は増加」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2021/0401/9bb217569e0e61d1.html
ユニークな発電のデザイン
そんな再生エネルギー事情だが、存在は知っていても、実生活に取り入れるイメージが湧かないという人もいるのではないだろうか。しかし、発電方法は日々、私たちの身近な生活に溶け込むようにどんどんと変化している。ここでは、ユニークな発電のデザイン事例を3つ紹介したい。
<1:壁に取り付ける家庭用風力発電機>
ひとつめは、最近アメリカで開発され、密かに話題になっている「WIND TURBINE WALL」と呼ばれる家庭用の風力発電機だ。風力発電と聞くと大きな風車を想像する人が多いだろうが、この発電機はそのイメージを一新する。
アメリカ人デザイナー兼起業家のジョー・ドーセット氏が発明したこの発電機は壁に取り付けて使用する。通常の大型の風力発電機とは異なり、小型のタービンを大量に取り付けることで発電機として成立させた。それぞれの家庭に合わせてサイズやデザインは変更することができるという。
気になるのが発電量だが、この家庭用風力発電壁は、1年間で1万kWhほどの電気を生み出すとされている。これは日本の一般的な家庭が1年に使用する電力量の2倍以上だ。まだ一般発売は開始されていないこの発電機だが、今後の動向に注目だ。
<2: プロペラのない風車>
次に紹介するのも風力発電機だ。プロペラ型の風力発電機の設置には様々な条件がある。安定した電力を賄うために、風車を回し続けることのできる一定以上の風量と風速を保てる場所に設置する必要があるのだ。そのため、日本国内では東北を中心とした山間部や海岸部など、一部の地域にしか風力発電機を設置できない状態にあった。
しかし、現在、従来の風力発電機とは異なるプロペラのない発電機が登場している。例えば、株式会社チャレナジーが開発している「垂直軸型マグナス式風力発電機」もそのひとつだ。 両サイドに取り付けられた円筒が自転しながら風を受けることで発生するマグナス力で風車が回転することで電気が発生する。一方向だけが正面となる従来の風力発電機と異なり、360度全てが正面となるため風向に影響されずに発電を行うことができる。プロペラは台風などの強過ぎる力を受けると破損することが懸念されたが、このマグナス式風力発電機であれば、そのような恐れはない。むしろ、台風のような強力な力をエネルギーに変換することができるのである。
このようなプロペラのない発電機は、日本国内だけではなく海外でも開発・導入が進んでいる。スペインのスタートアップ企業Vortex Bladelessは羽などが一切ついていない円筒形の風力発電機「Vortex Tacoma」を開発している。風に反応して円筒の上部が揺れることで電気が生まれるという。
<3:うどんで発電>
もうひとつ、日本ならではとも言えるかもしれない発電のアイデアを紹介したい。エネルギー源となるのは、なんと「うどん」だ。プロジェクトを進めるのは香川県の産業機械メーカー「ちよだ製作所」である。
2013年から始まったこの取り組みでは、廃棄されるうどんを元にしたバイオマス発電によってエネルギー供給を行う。「うどん県」こと香川県では、うどんの消費量もさることながら、廃棄量も多く、年間千トン単位の廃棄うどんが出る。そんなうどんを活用してエネルギーを作ろうという発想だ。
切れ端や規格外となったうどんを細かく砕き、大きなタンクの中で発酵させ、発酵によって出てきたメタンガスでエンジンを回し発電する。身近な食材までもが発電の材料になるとは驚きだ。
広がる再生可能エネルギーの可能性
エネルギーの問題は、気候危機・気候変動の問題を考える上で避けては通れないポイントの一つだ。そんな状況のなか、ここで紹介した以外にも発電の方法や発電機のデザインは日々進化している。発電の効率や安定供給の可否など、様々な条件を満たすためのユニークな発電方法が次々に生まれているのだ。そしていま、地域によって差はあれど消費者としては電力会社を選ぶこともできる。自分が使用している電力のエネルギー源は何なのか知るところから始めてみるのもいいかもしれない。
文:白鳥菜都
編集:森ゆり