毎年3月8日は国際女性デーだ。20世紀初頭の3月8日に起こったニューヨークでの婦人参政権を求めるデモを起源としている。このときに掲げられたスローガンが「パンとバラ」、つまりパン=賃金とバラ=参政権(尊厳)を女性たちにも渡せというものだった。このデモをきっかけに世界各地で3月8日に女性の地位向上を求めるデモが行われるようになった。その後、1975年には国連が定める記念日の1つとなり、今では国際女性デーは世界的にも有名だ。近年では日本でもこの日に合わせた企業のキャンペーンなども見受けられる。
この記念日、イタリアでは「ミモザの日」として男性から女性へとミモザの花を贈る日とされている。それも相まって、現代ではミモザの花や黄色が国際女性デーのシンボルとして認識されている。
この記念日の動きを含め、近年再び盛り上がりを見せるフェミニズム運動だが、未だ日本国内において女性たちが置かれている状況は決して望ましいものではない。今回の記事では直近の日本におけるジェンダーギャップをいくつかの視点から数字で可視化してみたい。
ジェンダーギャップ指数の変化
ジェンダーギャップというと、おなじみになりつつあるのが「ジェンダーギャップ指数」だろう。毎年、世界経済フォーラムが2006年より毎年発表している数値で、教育、経済、保健、政治の4つの分野において国ごとに性別に基づく格差を数値化して表す。政治は3、経済は5、教育は4、健康は2と合計14項目を設け、それぞれ女性÷男性で指数を出す。指数は0が完全不平等、1が完全平等を表し、順位では1位に近づくほどジェンダーギャップが少ないことを示す。2021年の1位はアイスランドであった。 対して2021年時点で日本の総合順位は156か国中120位だった(※1)。詳しくは後述するが日本は特に政治や経済の分野における差が大きいことからこのような順位になっている。
ジェンダーギャップ指数は毎年変化しているが、調査が始まった2006年時点でも日本は調査対象国115か国中80カ国と比較的ジェンダーギャップの多い国であった。
※1参照:世界経済フォーラム「 The Global Gender Gap Report 2021」
https://jp.weforum.org/reports/global-gender-gap-report-2021
共働き、でもお金のない女性たち
日本におけるジェンダーギャップが大きい分野の1つが経済だ。「女性の社会進出」が叫ばれ始めて何十年も経つ。日本でも、会社の中を見渡せば男性と同じくらいの数の女性たちが働き手として動き回っている。しかし、日本における経済面のジェンダーギャップ指数は、2021年時点で0.604(※1)だ。経済分野だけで見ると156か国中117位となっている。未だ、性別による経済格差は大きいままなのである。どんなことが起きているのか詳しくみてみよう。
まず、長い間私たちの前に横たわっているのが賃金格差の問題だ。世界的に叫ばれている問題だが、日本は特に差が大きい方だと言われている。2020年では、男性の平均賃金は338.8千円なのに対し、女性の平均賃金は251.8千円であった。(※2)
賃金格差の背景には、雇用形態や役職の格差といった問題が大きい。男性に比べ、女性はパートやアルバイト、派遣社員など、非正規雇用で働く人の割合が高く、このような雇用形態では賃金が低くなりやすい。さらに根本の問題まで遡(さかのぼ)れば、出産や子育てに関連して仕事を辞めざるを得ない女性たちがいること、男は仕事・女は家庭といった考え方がまだまだシステムに根強く残っていることが分かる。
※2 厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2020/dl/01.pdf
経済格差の下地にあるもの
さらに、経済格差の下地になっているのが教育格差だ。日本国内では2020年時点で大学(学部)進学率は女子50.9%、男子57.7% (※3)となっている。
文野別に見てみるとさらに差が浮き出てくる。例えば、医学部・歯学部では、2020年の大学生における女性の割合は36.3%だった。医学部入試において女性受験者を一律減点するという不正が大きな話題になったことも記憶に新しいのではないだろうか。ただし、合格率で見てみると、逆転が起こり始めている。文部科学省の調査によると、医学部医学科を置く全国の81の大学が実施した2021年度入学者への入試で、女子の平均合格率が13.60%、男子は13.51%となり、女子が男子をわずかに上回った。合格者数にはまだ差があるが、事件の報道をきっかけに入試における性差別の是正が進み始めているのかもしれない。しかし、医学部以外でも理系には女性が少なくなる傾向があり、工学部では15.7%、理学部では27.8%などとなっている。この格差には得点操作以外にも原因はありそうだ。
また、意外に思う人も多いかもしれないが、社会科学の分野においても女性の比率は低く、2020年では女子学生の割合は35.7%となっている。社会科学の分野には法学部や経済学部も含まれている。法曹界のジェンダーギャップも大きく、2020年には司法試験合格者は男性1.083人、女性367人であった(※4)。これら医師や裁判官、弁護士など高所得になりやすい職種における人数の差が経済的ジェンダーギャップに結びつくことは、イメージできるだろう。
※3 男女共同参画局「男女共同参画白書 令和3年版」
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r03/zentai/html/honpen/b1_s05_01.html
※4 日本弁護士連合会『弁護士白書』p.61
https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/statistics/2020/1-3-2.pdf
決定権のない女性たち
格差は連鎖する。経済格差や、教育の格差はロールモデルの不足を産む。「前例がない」ことはさまざまな取り組みの壁となり、根深いジェンダーギャップを作ってしまうのである。
その点において、なかなか変わっていかないのが、政治の分野だ。2021年には衆議院選挙もあったが、ジェンダーの観点で見ると、大きな格差があることが分かる。465人が当選した衆議院選挙において、女性の当選者はたった45人(※5)。割合にして9.7%だ。日本ではそもそも立候補者が数年前から増えておらず、政治の分野において女性の参入を増やすことが大きな課題となっている。
また、政治界での活躍も含め、女性のキャリアには「ガラスの天井」が存在すると言われる。ガラスの天井とは、能力があり実績を積んだとしても女性を含めたマイノリティは一定以上の昇進ができない状況を指す。世界的に見ても国家のリーダーに女性が立つことは少なく、特に日本では大臣になれる女性も限られている。
そして、ガラスの天井は経済の部門にも存在する。2021年に全国約117万社の事業会社を対象に行われた調査(※6)では、女性社長は全体の8.1%だという。また、同年に全国1万992社の回答を得た調査では、女性管理職の割合が8.9%とされている(※7)。ともに10%にも満たない数字を叩き出しているが、これでも前年比では増加しているようだ。さまざまな面で女性のリーダーが不足している。これは、最終決定権を持つことのできる女性が少ないことを示す。
※5 JIJI .COM 「女性比率、1割満たず【21衆院選】」
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021110100864&g=pol
※6 帝国データバンク「全国「女性社長」分析調査(2021年)」
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p210702.html
※7 帝国データバンク「女性登用に対する企業の意識調査(2021年)」
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p210805.html
格差は地続きに
今回の記事では、性別による格差を可視化することを目的にあえて数値データを元に執筆してみた。意識だけは変化してきているように見える現代でも、改めて割合や金額を確認してみれば、多くの分野においてジェンダーギャップが根強く残っていることが分かる。
ここまで書いてきたように、これらの格差は連鎖している。意識の変革はもちろん重要だが、ジェンダーギャップの解消にはシステムの変化が重要だろう。例えば、クオータ制度(※8)を取り入れている国もある。このように数字で現れる問題に対して解決方法を数字で考えることも可能なはずだ。
2022年のジェンダーギャップレポートも3月末には公開されるだろう。日本のジェンダーギャップの現在地を認識するためにもチェックしてみてはいかがだろうか。
※8 議員や企業の役員など、性別などの属性に基づいてあらかじめ定員を決める方法。
文:白鳥菜都
編集:竹内瑞貴