よりよい未来の話をしよう

「僕にとっての落語は新しいカルチャー」 落語家 桂枝之進さんインタビュー

f:id:tomocha1969:20220301093300j:plain

「落語は僕にとって、全く新しいカルチャーなんです」

そう語るのは、若手落語家でクリエイティブチーム「Z落語」を主宰する桂枝之進(かつら・えだのしん)さん。2020年10月、渋谷スクランブルスクエア内にある「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」で5G技術を用いたオンライン配信落語会を開催し、以来注目を集めるZ世代の落語家だ。

古くから受け継がれる日本の伝統芸能、落語。けれど、枝之進さんは「僕にとって落語は古典じゃなく、むしろ新鮮なカルチャー」だと語る。「あしたメディア in Podcast」にもゲスト出演し、落語の魅力を存分に語ってくれた枝之進さん。そんな枝之進さんが語る、“落語の魅力とこれから”に迫る。

落語は“古典”じゃないから面白い?

枝之進さんは、子どもの頃から落語が大好きだったという。

「初めて落語に触れたのは5歳のときで、その後、9歳ぐらいから独学で落語を演り始めました。小学校の卒業文集にはすでに、将来の夢に落語家と書いていました。中学生になると、年間で150本ほど高座(※1)に上がったりしていました。プロの落語会にも同じくらいの頻度で通っていましたね」

お母さんに連れられ初めて落語を観た5歳のときから、落語一筋。その他にも色々と興味を持つことはあったそうだが、軸は落語から一切ブレていないという。小学校の図書館で落語の台詞が書かれた「速記本」(※2)を見つけて読むようになり、2017年1月、中学3年生の時に三代目桂枝三郎門下に入門。それ以来、全国各地で数多くの公演を成し遂げてきた。

f:id:tomocha1969:20220301094536j:plain

そんな枝之進さんに「落語の魅力とは何なのか?」と問うと…。

「僕は落語に対して古典的なイメージが全くないんです。初めて見たのが5歳の頃で、「落語」という言葉も知らず、全く先入観がない状態で落語に触れたので、僕にとっては全く新しいカルチャーでした。伝統的にずっと語り継がれている噺って、変わらない日本の感覚というか、この国で生きていたら絶対に感じたことのある何か趣のようなものが含まれていると思っていて。誰しもが感じたことがある「面白み」が必ずあるので、時代を越えて通じると思うし、これから先、50年100年経っても変わらない感覚なのかなと思います」

※1 寄席などで、演芸をする者のために設けた一段高い席、またそこで演じること。
※2 落語や講談の速記を書物としたもの。速記文字と呼ばれる簡単な線や記号で作られた文字を使用して書かれている。

「ちゃんとウケるんだ!って感動しました。」同世代に伝わった喜びと衝撃

f:id:tomocha1969:20220301094904j:plain

誰にでも伝わり、普遍的な面白味を持つという落語。ここで、同世代の若者を巻き込み活動する「Z落語」について尋ねてみた。

「Z世代の日常生活に落語への導入設計を作るのが、Z落語でやっていることです。Z世代って、恐らく触れる機会が少ないだけで、落語自体が嫌いな訳ではないっていう前提があると思っていて。同世代向けに行った落語に対する意識調査でも、「次の休みの日に友達や恋人に落語デートに誘われたら?」という質問に対しては、過半数以上がポジティブな反応でした。とにかく、落語に触れるための接点が無いだけなんです」と語る枝之進さん。

Z落語は、「100年先の世界を豊かにするための実験区」というコンセプトの下、若者が行う実験的な取り組みを応援するプロジェクト「100BANCH」にも採択されている、Z世代の視点で落語を再定義・発信するクリエイティブチームだ。枝之進さんの他、同世代のデザイナーやカメラマン、エンジニアなどのクリエイターと共に活動している。冒頭の5G落語会を成功させた2ヵ月後には、落語とクラブカルチャーをミックスしたイベント「YOSE」を渋谷で初開催。DJブースやカクテルバーのある寄席で話題となった。

観客の大半がZ世代だったというYOSE。来てくれた人のリアクションはどうだったのだろうか?

「最初、普段寄席でかけている古典落語を演ったらびっくりするくらいウケて、「ちゃんとウケるんだ!」って舞台上で感動しました。僕たち同世代にとって落語って、やっぱり新しいカルチャーで、初めて聞いたときにみんな衝撃があるんだなって。落語通の方にとっては当たり前すぎて流しているポイントでも、意外と笑いが起きたりして、そういう同世代の感受性に、毎回多くの発見や気づきがあります。皆さん「面白いもの見つけた!」みたいな感じで楽しんでくれています」

f:id:tomocha1969:20220301095154j:plain

温故創新を胸に、落語業界で前進していく

とはいえ、まだまだ世間では“伝統芸能”としてのイメージが強い落語。「今後、より幅広い世代の方に楽しんでもらうためにも、何を残して何を変えるかをきちんと考える必要がある」と言う枝之進さんは、「落語自体の持つ面白さは変えすぎず、今の感覚に合わないことは変えないといけない」と考えている。

「普遍的なテーマの落語は時代を越えて語り継がれていると思うのですが、例えば、社会におけるジェンダー観は昔と今で大きく変化しています。落語の中でも、男女の出てくる話だと必ずそこにはその時代のジェンダー観が反映されています。でも、それが今の時代にそぐわなかったら、お客さんは笑えない。なので、その時々の社会の感覚を落語界も随時アップデートし、反映していく必要があるなと感じています」と語る。

f:id:tomocha1969:20220301105523j:plain

時代に合わせて落語を変化させていくにあたって、枝之進さん自身も気を付けていることがあるという。

「普段落語界で活動していると、落語界の感覚に染まっていってしまう自分がいるんです。でも、20代の若者としての感覚も自分の中にちゃんとあって、この二つの感覚をバランスよく保っておくことが一番大事なのかなと思っています。僕は「温故創新」という言葉を大事にしています。落語の稽古や寄席での経験を積み「古きをたずねて」、渋谷を拠点にZ落語の活動をしながら「新しきを創る」ことで、落語界の若手世代として積極的に前に進んでいきたいです」

世代や価値観を越えるコミュニケーション手段として「笑い」を届けたい

枝之進さんが目指すのは、「誰かと同じ感覚を共有できていることを認識するコミュニケーションとして、笑いを届ける」落語だそうだ。

「笑う必要とかお笑いが持つ役割って何なのかなって考えたら、やっぱりコミュニケーションだと思うんです。1人だったら声に出して笑うことってあまりない気がしていて、2人以上いるから、声に出して笑うことに意味が生まれるのだと思います。同じ感覚を共有できていることを、言語じゃなく確認できる。その意味で、コミュニケーション手段として笑うことってすごい大事だなと思います」

f:id:tomocha1969:20220301105651j:plain

「これまでZ世代を対象に様々な企画を制作してきましたが、まだ落語を見たことがない人へ届けるための導入設計デザインという文脈では、海外も視野に入れています。最近はAIの自動翻訳機能の精度も上がってきているので、例えば、リアルタイムで字幕を表示できる公演が成立すれば、言語の壁や国境を超えて落語を届けることができます。世界中のエンタメから国境が無くなる日も近いのではないかと思います」と笑顔で語る枝之進さん。

落語の魅力って何?から始まったインタビュー。気がつくと、ひたむきに落語への想いを語る枝之進さんの、その熱量と心意気に、胸踊らされていた。高座に上った彼から届けられる笑顔は、きっとあらゆるものを越え伝わってゆくに違いない。

コロナ禍で笑いを直に共有できる場が少なくなってしまった今、枝之進さんの創る新しいカタチの笑いの場に集ってみるのはいかがだろうか?

桂枝之進
2001年兵庫県神戸市生まれ。5歳から落語を聴き始める。15歳で三代目桂枝三郎に入門し、「桂枝之進」となる。2017年12月天満天神繁昌亭、枝三郎六百席にて初舞台。2020年8月には落語クリエイティブチームZ落語を立ち上げ、Z世代の視点で様々な企画を制作している。


取材・文:柴崎真直
編集:白鳥菜都
写真:服部芽生