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雑談は苦手だった。そんなわたしがリモート講義・リモート就活で気がついた「スモールコミュニケーション」の大切さ

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(Photo:Nattakorn_Maneerat/Shutterstock.com)

コロナ禍で大きく変化した学生生活

季節が一巡し、今年もまた春がやってきました。平常時であれば、芽吹きの季節がもたらす新たな出会いに心踊らせる方も多いことと思います。

しかし、依然としてコロナ禍が収束する見通しは立っていません。思えば、withコロナの時代に「新しい生活様式」という言葉が生まれ、さまざまなわたしたちの「あたりまえ」が変化しました。その一つに、「コミュニケーションの取り方」があるのではないでしょうか。

具体的には、大学や企業においてさまざまな対面形式での活動がリモート形式に代替されました。オンラインでのコミュニケーションは便利である一方、戸惑いを感じる方、あるいは孤独感を感じる方も少なくないと思います。

学生生活にフォーカスすると、2020年はコロナ対策で講義・就活において対面を避ける動きが強まりました。

学生生活において大きな比重を占める「講義」と「就活」は、コロナ禍でどう変化したでしょうか。ここでは遠隔で講義・就活を行うことをそれぞれ「リモート講義」、「リモート就活」と呼び、体験談をお伝えしていきます。

リモート講義の現状は? 学生はキャンパスへ行かなくなった

まず、リモート講義に関する現状です。文部科学省が発表した「大学における後期等の授業の実施方針等に関する調査結果」によると、夏時点では図表のとおり、80%以上の大学が後期の授業について、リモート授業の併用を方針づけていました。

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引用:「大学における後期等の授業の実施方針等に関する調査結果」(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/20200915_mxt_kouhou01-000004520_1.pdf
(2021年2月24日に利用)

また、株式会社マイナビが行った調査によると、以下の結果が判明しています。

学校に週何日通っているか(オンライン授業は除く)聞いたところ、全体の平均は1.8日だった。前年は4.1日だったので、その半分も通えていないことになる。文系は平均1.2日、理系は平均2.9日で、文系学生は週1日通っているかどうかという状況だ。年次推移でみると、調査開始の14年卒から前年21年卒まで、文系は3.8日~4.0日、理系は4.6日~5.0日の間で大きな変化がなく、今年急に減ったことがわかる。

出典:「マイナビ2022年卒大学生のライフスタイル調査<withコロナ編>~ 学生生活はwithコロナでどう変わったか ~」(2021年2月9日公開)
https://saponet.mynavi.jp/release/student/life/mynavilifestyle2022_1/

筆者が通う大学院でも、2020年度はほとんどの講義がリモートに切り替わりました。本来であれば平日は週に4日キャンパスを訪れ、十数コマの講義を受ける予定でしたが、実際の対面授業は週に1度、たったの1コマしかありませんでした。

閑散としたキャンパスを思い返す上で、特に印象的だったのが学生食堂(以下、学食)利用時のエピソードです。

通常であればお昼時に学食を利用すると、順番待ちの列で10分程度待たされることが当たり前です。しかし、昨年度はいつ学食を訪れても行列を目にすることはなく、人のいない寒々とした建物の中で食事を取りました。待たされないのは本来嬉しいはずなのに、何だか複雑な気持ちになったことを思い出します。

就活もオンライン選考が主流に

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就職活動もコロナの影響でオンライン選考が大々的に導入されるようになりました。HR総研が上場・非上場企業240社を対象に行った「2021年卒&2022年卒採用動向に関する調査」(※)によると、

大企業(従業員数1001名以上の企業)の84%がオンライン選考を既に導入している

そうです。加えて、企業説明会・OB/OG訪問も対面ではなく、アプリやオンラインツールを用いて実施するものが主流になりつつあります。

※出典:HR総研(2020)「2021年卒及び2022年卒採用活動動向調査 結果報告」(2020年8月13日掲載)https://hr-souken.jp/research/1643/

このように、コロナ禍でリモート講義・リモート就活が学生にとって身近な存在になりました。

リモート講義・リモート就活を経験して気が付いた、「雑談」の大切さ

筆者自身も2020年の4月に大学院に進学し、リモート講義・リモート就活を経験しました。確かに、リモートで講義や就活をすることにはメリットもあります。例えば、通学時間が不要になった分、他のことに時間を割けるようになった人もいるかもしれません。就活生は、わざわざ時間を掛けて多くの企業オフィスを行脚する必要がなくなりました。

このように、リモートでの活動は効率的に時間を使うことが可能になるため、忙しい学生にとっては必ずしも悪いことばかりだとは思いません。

しかし、その一方で、リモート講義・リモート就活では「スモールコミュニケーション」が失われていると感じます。いくつか具体的なエピソードをご紹介します。

まず、リモート講義に関してお話しします。

講義を受けていると、ちょっとした疑問が生まれることがあります。対面授業であれば、同じ講義を履修している友人と議論を交わすことで解決する場合がほとんどでしょう。

しかし、オンライン講義では顔を合わせる場がないため、ちょっとした疑問を同級生と共有したい場合、わざわざLINE等のチャットアプリを用いてテキストベースで送る必要があります。

オンライン講義が始まった4月は修士課程に進学したばかりで、まだ同級生の人となりを知る前でした。「そこまで親しくない相手にこの内容を送っても良いのか?」「初歩すぎる質問だった場合、内心馬鹿にされるのではないか?」そのような不安から、一旦入力した文章を送ることができない日々が続きました。

次に、リモート就活についてお話しします。

リモートで進められる選考には、日本全国の学生がエントリーしてきます。私も応募したインターンのうち、いくつかは不合格となり、その度に届く「お祈りメール」にじわじわとメンタルをやられていきました。

しかしそんな時にいて欲しかった、同じ業界を志望し、悩みを共有し合える相手はなかなか見つかりませんでした。なぜなら、リモート就活は効率的に就職活動を行える一方で、選考会や説明会に参加していても学生間で話す機会がほぼ設けられていないからです。

新たな環境で友人もなかなかできず、その年の夏までは常に不安と戦いながら講義を受け、そして就活をしていました。

それが少し変わったのは夏の終わりでした。あるコンペティションへの出場と対面授業の一部再開を受けて、定期的に同期の学生と顔を合わせる機会ができました。

週に一度ではありますが、教室に向かう途中にふと顔を合わせて話す――。それは時間にすればほんの数分です。しかし、そこでようやくいろいろなことを話し、情報交換ができるようになりました。講義の話。就活の話。「ああ、あの講義は難しかったよね」「就活は本当に大変だよね……」わずかな会話を積み重ねることで、抱えていた不安は少しずつ小さくなっていきました。

オンラインの時代だからこそ心がけたい、「対面でのあたりまえ」

このコロナ禍で、対面では無意識のように行っていた「スモールコミュニケーション」が失われています。少し前に話題になった音声SNSアプリClubhouseや、Twitterの音声コミュニケーション機能「スペース」の盛り上がりも、「ちょっとした会話」に飢えている人が多いからかもしれません。

正直なところ、私はあまり「ちょっとした会話」が得意な方ではありません。性格診断で「話の糸口を見つけるのに苦労する」という項目が設けられている場合、大きく頷いて「はい」と答えてしまうタイプです。

しかし、コロナ禍の生活を経て、チャットベースであっても意図的に人とコミュニケーションを取るようになりました。

なぜなら、ちょっとした会話の積み重ねが相手との関係性を円滑にすることに気がついたからです。

誰しも対面でのコミュニケーションにおいては、相手の雰囲気や言動から「この人にはこの話をしても良いだろうか」と適切な距離を推し測っていることでしょう。しかし、オンラインベースのコミュニケーションでは五感から得られる情報が制限され、相手の感情が推測しにくいため、用件のやり取りに終始してしまいがちです。

職場や学校において、はじめは人となりを知らない相手に連絡することに抵抗を覚える方もいるかもしれません。

しかし、本当に怖いのは、私のように「相手に自分をさらけ出して良いのか」という不安を抱えたまま、いざという時に必要なコミュニケーションを躊躇してしまうことではないでしょうか。

まだまだコロナ禍が収まる気配は見えません。学校でも職場でも、オンラインベースでのコミュニケーションがしばらく続くのではないでしょうか。特に、春から新生活が始まった方にとっては、慣れない環境でのオンラインコミュニケーションは対面よりもハードルが高く感じるかもしれません。

しかし、少し勇気を出して自分の意見を相手に話す時間を作る、意識的に雑談をする、そういった「対面でのあたりまえ」をオンラインでも心がけることが、コロナ禍での不安を取り除く鍵なのかもしれません。

 

文:Mizuki Takeuchi
編集:まあすけ