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グレートリセットとは?その意味や目標、具体的な取り組みを解説

グレートリセットとは?その意味や目標、具体的な取り組みを解説

グレートリセットとは

グレートリセットとは、金融、社会、経済をはじめとした既存の社会システムを見直し、より良い世界の実現のために再構築していこうという考え方である。

グレートリセットの起源

グレートリセットは、アメリカの都市経済学者リチャード・フロリダの著書のタイトルにもなっており、世界経済フォーラムの年次総会であるダボス会議にて2021年のテーマとして制定され注目を集めた。グレートリセットがテーマとして制定された背景には、新型コロナウイルスによって社会システムの至る所にある綻びが顕在化されたことにあった。

ダボス会議は1971年に創設された世界経済フォーラムの年次総会として毎年1月に開催されており、世界の経済や政治のリーダー、有識者がスイスに集まり世界の諸課題について議論する会議である。元々は「経営」に関する議題を取り扱う会議であったが、第4次中東戦争の開始とブレトンウッズ協定に基づく固定相場制の崩壊に伴い「経済および社会問題」を取り扱う場へと拡大した歴史がある。

世界経済フォーラム(WEF)との関係

世界経済フォーラムの創設者でもあるクラウス・シュワブ氏もグレートリセットの重要性を強調していることから、世界経済フォーラムはグレートリセットの代表する推進者としての役割を果たしていると言えるだろう。

また、世界経済フォーラムの年次総会であるダボス会議で制定されたテーマに注目が集まることには理由がある。ダボス会議がきっかけで歴史が動いたという経緯があるからだ。1990年には、東西ドイツの統一について東ドイツのハンス・モドロウ首相と西ドイツのヘルムート・コール首相が会談をした。また近年で言えば、2020年スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリが地球の環境問題について演説を行った場所でもある。

世界経済フォーラムが推進することで、社会全体でその問題について大きくアクションを起こすきっかけになる可能性が高いのだ。

グレートリセットが注目された背景

グレートリセットが注目された背景

内閣府は世界経済フォーラムが発表した資料「The Great Reset: A Unique Twin Summit to Begin 2021(グレートリセット:2021年に始まる二つの特徴的なサミット)」を元に、日本の経済再生に向け必要な経済対策や成長戦略の方針が明記されている基礎資料の一部を作成している。この資料から、グレートリセットが注目されるに至った背景を読み取ることができる。

以下の資料で登場する「今回の危機」は、新型コロナウイルスの流行を指している。

1.公平性の確保

  • 今回の危機は、社会の結束、機会の不平等、包摂性の観点で、古いシステムが持続可能でないことを明らかにした
  • グレート・リセットにより、全ての人間の尊厳が尊重される、新たな社会契約を作る必要がある

2.第4次産業革命の加速

  • 今回の危機は、第4次産業革命の時代への移行を加速している。
  • デジタルやバイオ等の新たな技術が、人間中心であり続け、社会全体に貢献し、全ての人々が公平に利用できるものとする必要がある。

3.国際協力の回復

  • 今回の危機は、我々がいかに相互に接続しているのかを示した。
  • 今後50年の課題を解決するための、スマートな国際協力に関する実効的な仕組みを回復しなければならない。

4.ステークホルダー資本主義

  • 短期から長期志向へ、株主資本主義からステークホルダーとしての責任へと、我々の考え方を変えることが必要。
  • 環境、社会、良いガバナンスを、企業や政府の説明責任の一部としなければならない。

(※1)

新型コロナウイルス流行前から問題であった、経済・社会分野での不平等、情報技術へのアクセスの不均衡性、複雑に絡み合った国際社会、企業や政府の説明不足といった課題がコロナ禍によって露呈した。それらの問題は解決の必要があるが、その解決のために「グレートリセット」という概念が必要だということになる。

※1 引用:内閣府 内閣官房日本経済再生総合事務局『基礎資料』
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai42/siryou2.pdf

グレートリセットが求められる分野

日本経済研究センター参与でありJETRO運営審議会委員でもある小島明氏はウェブ記事「コロナショック下の世界と日本:グレート・リセットの時代」において、グレートリセットについて以下のように述べている。

コロナ危機は従来からの政策、制度、経営、生活様式、さらには国際関係にまで影響を及ぼしつつある。グレート・トランスフォーメーション(大転換)、グレート・リセットの時代なのだろう。

(※2)

このように国際関係、社会、経済、金融といったマクロな点から、生活様式、習慣といったミクロな点まであらゆる点においてグレートリセットが求められている。

※2 引用:国際経済推進連携センター『コロナショック下の世界と日本:グレート・リセットの時代』
https://www.cfiec.jp/2021/0035-kojima/

グレートリセットの目標

グレートリセットの目標

グレートリセットが必要とされる分野は多岐にわたるため、すべての分野において明確な目標が定められているわけでない。ただ、複数の分野においてグレートリセットの概念を用いた改革への言及や、グレートリセットの実践に活かせる技術への言及がなされている。

環境

環境面でのグレートリセットの特徴は、脱炭素化であろう。

キヤノングローバル戦略研究所の記事では以下の言及がなされている。

資本主義が大きく変わり「グレート・リセット」されて、2050年にはCO2排出量がゼロになる(=脱炭素)、という将来シナリオがある。このような将来シナリオは今や、国連、G7(主要7カ国)政府、日本政府、日本経団連などの大手経済団体、NHK・日本経済新聞・朝日新聞などの大手メディアが共有する「公式の将来」となっている。

(※3)

NHKにおいても「グレート・リセット〜脱炭素社会 最前線を追う〜」(※4)と題した番組が放送されており、炭素に依存してきた現代社会が脱炭素化に向けて「グレートリセット」をはかっている流れがみてとれる。

※3 引用:キヤノングローバル戦略研究所『グレート・リセットは実現するか? 3つのグローバル・シナリオを考える』
https://cigs.canon/article/20220126_6507.html
※4 参考:NHK「グレート・リセット〜脱炭素社会 最前線を追う〜」https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/KV8V3QMW3V/

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テクノロジー

環境省が発表している資料『新時代の地域づくりハンドブック~自立分散でつながりあう地域を目指すデジタル活用とパートナーシップ~ 』においてグレートリセットへの言及がなされている。

私たちはこれから、人と自然の共生の重要性を再認識し、従来型の大量生産・大量消費・大量廃棄の経済・社会システムや日常生活を見直しながら、環境・経済・社会を統合的に向上する社会へと変革を進めていく必要があります。世界経済フォーラムで示された「グレートリセット」(これまで以上に持続可能で公平な世界経済を早急に作り上げるべきだという考え方)という言葉に象徴されるように、今までの延長線上ではない、市民一人ひとり、そして社会全体での行動変容が求められているのです。

さらに、グレートリセットの実践には、人工知能(AI)や IoT(Internet of Things)などのデジタル技術の活用が必要不可欠といえます。世界は今、グリーンとデジタルへの移行を加速化させているのです。 

(※5)

この記載からも読み取れる通り、グレートリセットが一日二日で魔法のように達成されるのではなく、市民一人ひとりの行動が少しずつ変化していくことで達成されるものだ。その実践のために、テクノロジーやデジタル技術が必要となる。

※5 引用:環境省『新時代の地域づくりハンドブック~自立分散でつながりあう地域を目指すデジタル活用とパートナーシップ~ 』
https://www.env.go.jp/content/000060794.pdf

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グレートリセットが起こるとどうなるのか

グレートリセットが起こるとどうなるのか

ステークホルダー資本主義の実現、企業における長期的視点の導入、第四次産業革命への移行はグレートリセットの掲げるものである。

企業におけるステークホルダー資本主義の実現を例にとって考えてみよう。ステークホルダー資本主義の考え方に基づけば株主だけを重視するのではなく、顧客、地域社会、従業員、取引先といった多岐に渡るステークホルダーへの配慮が必要になる。そうなることで、企業のあらゆるステークホルダーを重視する経営形態が評価されることになるだろう。

結果としてそれは会社の長期的な存続にもつながる。投資家はステークホルダー資本主義の考えに基づいている会社に投資を行うようになり、それはESG投資(※6)とも関連してくるものだ。

グレートリセットは、今までの評価基準を大きく転換させ、企業の生存戦略にも関わるものになる。企業だけではなく、国家、個人にとっても政策や行動を転換させるものとなるだろう。

※6 用語:投資先の環境、社会、ガバナンスへの取り組みを評価して投資を行うこと。

グレートリセットに向けた取り組み

グレートリセットに向けた取り組みは企業や政府、個人単位でもなされている。企業が近年ESG投資に力を入れていたり、脱炭素化に向けた取り組みを行っているのもグレートリセットを実現するための行動ともいえよう。

また、グレートリセットの支柱の一つである第四次産業革命に向けた取り組みも行われている。第四次産業革命とは、IoTやAI、ビッグデータを用いた技術革新により社会や経済の構造が大きく変革する時代のことを指している。内閣府は、具体的に以下のような技術革新を指すと述べている。

一つ目はIoT及びビッグデータである。工場の機械の稼働状況から、交通、気象、個人の健康状況まで様々な情報がデータ化され、それらをネットワークでつなげてまとめ、これを解析・利用することで、新たな付加価値が生まれている。

二つ目はAIである。人間がコンピューターに対してあらかじめ分析上注目すべき要素を全て与えなくとも、コンピューター自らが学習し、一定の判断を行うことが可能となっている。加えて、従来のロボット技術も、更に複雑な作業が可能となっているほか、3Dプリンターの発展により、省スペースで複雑な工作物の製造も可能となっている。

(※7)

ビッグデータやAIを用いた取り組みが、政府、企業において多くなされていることは疑いがないだろう。それらの技術を用いた取り組みも、グレートリセットに向けた取り組みということができる。

他にも個人の取り組みとしては、例えば洋服を買う際に、それがどんな環境で、どのように作られたのかを調べてから購入することなどが挙げられる。大量生産、大量消費のあり方を見直して、環境や人権に配慮した商品を選ぶこともグレートリセットのための取り組みとも言える。

これらの取り組みは本メディアでも紹介したエシカル消費とも関連するものであり、グレートリセットがあらゆる分野と結びついていることがわかる。

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※7 引用:内閣府『第2章 新たな産業変化への対応(第1節)ー第1節 第4次産業革命のインパクトー』
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2016/0117nk/n16_2_1.html

グレートリセットに対する懸念点と誤解

グレートリセットに対しては、懸念点や誤解も存在している。

CNN.co.jpの記事において、「パンデミック後の格差・気候危機対策として打ち出された世界経済フォーラムのイニシアチブ『グレート・リセット』」が気候変動に関する情報は政府によって管理され操作されているという陰謀論の盛り上がりに「拍車をかけた」と述べられている。(※8)

陰謀論だけではなく、グレートリセット実現に向けて政府が介入してくることによって自由が失われることへの懸念、社会主義化への懸念、そもそも権力を持った人たちが集まって決められたグレートリセットという概念自体への不信感があるのも否定できない。※8 参考:CNN.co.jp「『15分都市』が世界規模の陰謀論に変容するまで」https://www.cnn.co.jp/world/35200855-2.html

グレートリセットに対する懸念点と誤解

まとめ

グレートリセットという概念はあまりにも多くの分野を包括するものであるが、個人がより良い世界のために取り組む小さな努力も結果としてグレートリセットにつながっていくのではないだろうか。まずグレートリセットや今の社会について理解することもその一歩となるだろう。途方に暮れることなく、それぞれの立場の人々が着実により良い世界の実現のために努力していくことが必要であろう。

 

文:小野里 涼
編集:吉岡 葵