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ファストファッションとは?その意味や課題、具体事例を解説!

ファストファッションとは

ファストファッションとは、安くて早い「ファストフード」になぞらえた造語で、2000年代半ば頃から使われるようになった言葉である。

ファストファッションの定義

具体的には、最新のトレンドが反映された低価格帯のアイテムを短期間で大量に企画・生産・販売するビジネスモデルを指す。トレンドの移り変わりが早いアパレル業界において、消費者のニーズに応えるのと同時に消費者に積極的な購買を促すことができる。

ファストファッションとSPAの関係

ファストファッションは、SPAと呼ばれるビジネスモデルを利用し成長したという見方ができる。

SPAとは、もともとは「GAP」が1986年に自社を定義した「specialty store retailer of private label apparel」の略で、直訳すると「独自ブランドの専門ストアを展開する小売業者」となり、企画、開発、製造、販売までを統合した業態のこと。

日本でSPAが広がった背景には、繊維・ファッション業界の専門誌『繊研新聞』がある。GAPの急成長を知り取材を行っていた繊研新聞の記者が「SPA(製造卸小売業)」という見出しで記事を書いたことにより日本でも知られるようになったと言われている。

ファストファッションの歴史

日本で有名なファストファッションブランドには、先に挙げたGAPの他に、ユニクロ、GU、ZARA、H&M、Forever 21などが挙げられる。

国内ブランドでは、ユニクロ第1号店が1984年に広島県に誕生。1998年には原宿店のオープンと「フリース1900円」が話題になり、ユニクロブームが巻き起こった。その後、ユニクロを手がけるファーストリテイリングがGUをスタートさせたのが2006年である。

GAPは1969年にアメリカで誕生した後、1995年に日本に上陸。1990年代〜2000年代にはZARAH&MForever 21も日本上陸した。

これらのことから日本では特に、2000年代からファストファッションの盛り上がりが見られたのだと言える。一方、2017年にはGAP系列のOLD NAVYが、2019年にはForever 21が日本から撤退するなど、現在はファストファッションの盛り上がりが落ち着いている側面もある。

ファストファッションが広がった要因

ファストファッションが拡大した要因として、主に以下の2点について解説する。

低価格帯の多種多様な商品

1つ目に、その業態ゆえに実現できた低価格であることが挙げられる。

従来、服の企画から販売までにある数多くの工程には、それぞれ別の会社が関わっていた。一方で、企画から販売までを一手に行うSPAにより、企画・生産から販売までの効率があがり、多様かつ低価格の商品を大量に生産することが可能になった。

迅速なトレンド反映と市場への供給

2つ目は、トレンドを迅速に反映する商品企画と市場への迅速な供給だ。ファストファッションブランドは、工程の効率化と自社によるデータ分析により、トレンドを反映した商品を生産し、在庫補充を含め迅速な供給ができる。

よって、消費者がトレンドを押さえた服を気軽に手に入れられる状況が作り出されている。背景には、「シーズンごとに新しいトレンドの服を着たい」という消費者心理を利用したマーケティング戦略があるだろう。

ファストファッションが抱える課題

自らのファッションに気軽に流行を取り入れられるファストファッションだが、様々な問題も抱えている。社会面と環境面に分けて問題を見てみたい。

社会面

社会面では、ファストファッションの高い価格競争力の背景に人件費の削減があることが問題として挙げられる。

ファストファッションの大量生産は、人件費の安い国で行うことで成り立っており、それらの国に建てられた縫製工場では、働く人々が劣悪な環境で長時間労働を強いられている場合も多い。2013年にバングラデシュの商業ビル「ラナ・プラザ」が崩壊した事故では、死者1,127人、行方不明者約500人、負傷者2,500人以上の被害があった。

ラナ・プラザには27のファッションブランドの縫製工場が入っており、事故で犠牲になった人の多くは工場で勤務していた若い女性たちだった。調査の結果、事故の原因はずさんな建物の安全管理であったが、大量消費に応えるためにそこで働く人々は普段から劣悪な環境で労働していたことが明らかになった。

▼企業の人権に関する取り組み「人権デューデリジェンス」については以下をチェック

環境面

環境面では、製造過程での環境汚染と、大量生産によって生じる売れ残りや短期間での廃棄の問題が挙げられる。国連の報告によると、衣類の年間生産量は2000年から2014年にかけて2倍になった。(※1)その急増の原因の1つとされるのがファストファッションの広がりだ。

ファストファッションで使われる生地には環境に有害な染料で加工されたものや自然界で分解されない化学繊維が使われているものがある。それらが海や土壌を汚染するのみならず、大量の商品を輸送するのにも膨大な温室効果ガスが排出されている。

また、シーズンごとにトレンドを反映させた多種多様な商品が発売されるため、廃棄される衣服も大量にある。南米チリの砂漠には「衣類の墓場」と呼ばれる場所があり、世界中から集まった衣類が不法投棄されている問題がある。

※1 参考国際連合広報センター「国連、ファッションの流行を追うことの環境コストを「見える化」する活動を開始」
https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/32952/

ファストファッションとスローファッション

近年、そんなファストファッションと対置され注目を浴びているのが、スローファッションという概念だ。

ファストファッションとスローファッションの比較

スローファッションとは、人権や環境・動物に配慮する考え方や、そうして生産されたファッションアイテムのこと。大量生産のファストファッションに対して、スローファッションは消費者が本当に必要なものを長く使ってもらえるような生産方法、生産量になっている。

また、流行に左右されないようなタイムレスなデザインや、リペアなどで手を加えながらファッションを楽しむこともスローファッションだ。

▼古くなったものに新しい価値を与える「アップサイクル」って?

手放される衣類のなかには廃棄されるものもあればリサイクル、リユース、リペアされるものもあるが、国内衣類のマテリアルフローに関するデータを参照すると、2020年から2022年の間にはリペアされる衣類の量が減少している。やぶれやほつれ、壊れた部品を交換するリペアによって衣類廃棄物を減らすことができ、環境保護に貢献できるという認知が十分に広がっていないのではないだろうか。(※2)

株式会社矢野経済研究所『環境省 令和4年度循環型ファッションの推進方策に関する調査業務 -マテリアルフロー-』より筆者作成

※2 参考:株式会社矢野経済研究所『環境省 令和4年度循環型ファッションの推進方策に関する調査業務 -マテリアルフロー-』
https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/goodpractice/case26.pdf

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スローファッションのメリットと持続可能性

スローファッションのメリットの1つは、職人や生産に関わる人に正当な賃金を支払い、適切な環境を提供している点にある。働く人の人権を守ることは持続可能なブランド運営にもつながる。

もう1つは、生産量を抑えることで廃棄物を減らすことにつなげ、かつ環境や動物に配慮した過程で生産している点が挙げられる。では、環境や動物に配慮した生産とはどのようなものだろうか。

農薬や肥料の使用を最小限にした素材、あるいはオーガニックの素材を使うこと、自然由来の染料を使うこと、動物の命を奪わないファーやレザーをつくることなどが環境や動物に配慮した生産になる。

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ファストファッションの課題に対する各ブランドの対策例

ファストファッションが抱える課題に対する各ブランドの対策を紹介する。

ユニクロ・GU

ファストファッションブランドの国内最大手であるユニクロとGUでは、インナーやソックス、グッズ商品を含む全商品をリサイクル、リユースする取り組みを行っている。

回収された服のなかからリユースできるものは難民キャンプや被災地など、世界中の服を必要としている人たちへ届けられ、リユースできないものは燃料やリサイクル素材として活用される。

ZARA

ZARAを展開するInditexグループは、2019年に「2025年までにサステナブル素材を使用した同社の製品づくりを100%にする」、「本社、工場、および店舗で消費されるエネルギーの80%を、再生可能な資源にすること」などのサスティナビリティ目標を掲げた。

また、サスティナビリティ目標を掲げるなかでスタートしたプロジェクト「JOIN LIFE」では、オーガニック繊維や再生繊維を利用し、環境に配慮した製造過程を経たコレクションを多数ラインナップしている。

まとめ

多くの人にとって身近な存在であり、トレンドの衣服を安価で手に入れられるという価値を消費者に提供しているファストファッション。その背景には、搾取や環境汚染の問題がある。

一方で、今回取り上げた「スローファッション」や以前ソーシャルグッド用語辞典で取り上げた「エシカルファッション」の考え方も広がり、ファストファッションブランドもサスティナビリティを考慮した取り組みを始めている。

思考停止して衣服を消費するのではなく、その衣服が自分たちの手に届くまでにどのような道を辿ってきたのか注目してファストファッションブランドに「つくる責任」を果たしてもらうことが、私たち消費者の「つかう責任」なのではないか。

▼佐藤玲さんと一緒に考える「劇場における環境配慮」

 

文:尾崎はな
編集:吉岡葵