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デジタルタトゥーとは?その意味や影響、リスク管理の方法を解説

デジタルタトゥーとは?その意味や影響、リスク管理の方法を解説

デジタルタトゥーとは

タトゥーとは皮膚上に自分の好みのデザインやアイデンティティを刻む行為だ。自身を表現することができる一方で、一度入れると完全に消すことが難しいという特徴がある。

デジタルタトゥーとは、オンライン上の情報がタトゥーのように簡単に消せないことを指す言葉である。一度オンライン上で発信したものが半永久的に消えない危険性やリスクを表現する言葉であり、デジタルタトゥーはタトゥーのネガティブな部分に着目した単語と言える。

デジタルタトゥーの定義

デジタルタトゥーは、Digital(デジタル)とTatto(タトゥー)を組み合わせた造語である。タトゥーが身体装飾であるのに対して、デジタルタトゥーはオンライン上で刻まれるものだ。タトゥーの場合は隠したい時に洋服などで隠すことができるが、デジタルタトゥーは自分の意思とは関係なしに他者の目に触れてしまうことも特徴の一つである。

デジタルタトゥーの概念の変遷

デジタルタトゥーの誕生は明確に定められているわけではないが、研究者のJuan Enriquez(フアン・エンリケス)は2013年に開催された「TED Conference」にて”エレクトリックタトゥー”(electronic tattoos)という言葉を使ったカンファレンスを行っている。(※1)

エンリケスはオンライン上に刻まれた”エレクトリックタトゥー”が人を「もてはやす」と同時に「けなす」要素になること、そして時には破滅や衰退をもたらすことを示唆している。


そして、エンリケスはオンライン上に刻まれたタトゥーが「私たちの身体を超えて生き続ける」としている。エンリケスが提唱するエレクトリックタトゥーの概念は、今日のデジタルタトゥーの概念と密接に結びついている。

日本では2010年前後に FacebookTwitterなどのSNSが登場し、その発達とともに、利用のあり方も変化してきた。近年ではメッセージアプリといったプライベートで利用されるアプリのデータも簡単に記録され、他人の目に触れる場所に載せることができるようになった。

デジタル社会の発展とともに、「黒歴史」などと呼ばれ「恥ずかしい過去」程度の扱いであったオンライン上でのデジタルタトゥーは、エンリケスが示唆したような「破滅」や「衰退」を人々にもたらす要素となっている。

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※1 参考 :TED「Your online life, permanent as a tattoo」https://www.ted.com/talks/juan_enriquez_your_online_life_permanent_as_a_tattoo

デジタルタトゥーの概念の変遷

デジタルタトゥーの種類

デジタルタトゥーにはさまざまな種類がある。個人情報、誹謗中傷・デマ、リベンジポルノ、悪ふざけ・いたずら、逮捕歴・前科といったものがその例だ。

・個人情報
SNSで気軽にアップした写真に住所、生年月日、会社名、学校名などといった個人情報が映り込んでいる場合がある。当該写真を削除したとしてもオンライン上から完全に消えるとは限らない。また、誰かがその写真を保存している可能性もある。

・誹謗中傷/デマ
ネットの掲示板やコメント欄、SNSでの誹謗中傷やデマは、近年よく観察されるデジタルタトゥーの1つだ。匿名のアカウントで投稿された誹謗中傷・デマであったとしても誰かからスクリーンショットをされていれば、投稿削除後も完全に消えることはなく、それを根拠に訴訟に発展するケースもある。また、書かれた方も情報を削除することは難しく、根拠のない誹謗中傷やデマに長期間にわたって苦しめられる可能性がある。

・リベンジポルノ
リベンジポルノとは復讐ポルノとも呼ばれ、過去に交際していたパートナーや配偶者のわいせつな写真や動画を許可なくインターネット上に掲載する犯罪行為である。2014年にはリベンジポルノ防止法が施行されたが、以下の表から分かるようにリベンジポルノに関する相談件数は年々増加している。2015年には年間1,143件だった相談数が、2022年には1,728件に増加しているのだ。(※2)

さらに、それだけではなく、加害者側には数年の懲役刑(または罰金)が科される一方で、被害者はそれより明らかに長い期間、場合によっては一生苦しむことになる深刻な問題である。

出典:警察庁「令和4年におけるストーカー事案、配偶者からの暴力事案等、児童虐待事案等への対応 状況について 1 私事性的画像に係る事案の相談等状況(1)相談等件数」より筆者作成

・悪ふざけ/いたずら
日本で「バカッター」「バイトテロ」「バカスタグラム」と呼称されるような現象は、まさしく悪ふざけやいたずらが起因したデジタルタトゥーである。主にTwitterや、YouTube、TikTokなどで迷惑な行為を遊び半分で配信したものが結果として大衆の目に触れて炎上、そしてデジタルタトゥーとして残り続ける。悪ふざけやいたずらに起因したデジタルタトゥーは、個人への信用失墜だけではなく、企業の信頼度低下や多額の慰謝料が発生する可能性も高い。

・逮捕歴/前科
インターネットの発展は、あらゆる記事やニュースをオンライン上に拡散、記録させることを可能にした。過去の犯罪歴や前科は、検索欄を通じて簡単に知ることができる。また、それらのニュースは本人が投稿したものでないため、削除することも容易ではなく文字通り半永久的にネット上に情報が残ることになる。

※2 参考:警察庁「令和4年におけるストーカー事案、配偶者からの暴力事案等、児童虐待事案等への対応 状況について 1 私事性的画像に係る事案の相談等状況(1)相談等件数」
https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/stalker/R4_STDVRPCAkouhousiryou.pdf

デジタルタトゥーをテーマにした作品

近年社会問題化しているデジタルタトゥーに関して、テレビドラマや映画といった分野で取り上げられることも増えてきた。

NHKでは2019年に連続ドラマ『デジタル・タトゥー』を放送した。

<あらすじ>

インターネット上での誹謗(ひぼう)中傷や個人情報の拡散に苦しむ人が後を絶たない。他人に知られたくないプライバシーを暴かれ、人格を否定される苦しみ。匿名性に隠れた“悪意”はネット空間にいつまでも残り、消えることがない。ネットに刻み込まれた傷を刺青(タトゥー)にたとえ、“デジタル・タトゥー”と言う。このドラマは、インターネットには全く疎い50代「ヤメ検弁護士」と、動画サイトで荒稼ぎする20代ユーチューバーがバディーを組み、デジタル・タトゥーに苦しむ人々と向き合い、救いだす姿を描くサスペンス。

(※3)

また、2020年にはこちらも『DIGITAL TATTO』というタイトルで短編映画が公開されている。(※4)


この映画は、自分ではなく自分の身近な人が残した投稿が、自分の未来に影響を与えるかもしれないという「他者のデジタルタトゥーと自身の未来」を描いた作品である。

デジタルタトゥーは自分だけではなく、他者の選択の障壁になる可能性も高いが、デジタルタトゥーに関連する作品はデジタルタトゥーが内包するあらゆるリスクに示唆を与えている。

※3 出典:NHKアーカイブス「デジタルタトゥー」
https://www2.nhk.or.jp/archives/movies/?id=D0009051062_00000

※4 出典:短編映画『DIGITAL TATTO』(2020)
https://digitaltattoo-movie.com/

デジタルタトゥーが生まれるプロセス

デジタルタトゥーにはさまざまな問題が潜んでいるが、そもそもデジタルタトゥーはどのようにして生じ、どのようにして社会問題化してきたのだろうか。

利用者の若年齢化

デジタルタトゥーが深刻化してきた要因として、まず利用者の若年齢化が挙げられるだろう。インターネットの適切な使用方法に対しての分別がついていない状態で、世界中に情報が発信されるSNSを利用することでデジタルタトゥーの発生を招いてしまう。小中学生でも携帯電話を持ち歩く時代なのだから、教育現場や家庭でインターネットリテラシーに関して学ぶ機会が必要だろう。

インターネットリテラシーの未修得

年齢に限らず、インターネットリテラシーが適切に身についていなければデジタルタトゥーを生じさせる十分な原因になりうる。匿名で投稿された誹謗中傷やデマが、蓋を開けてみれば会社員によるものだったということは近年珍しい事案ではない。社会においてインターネットリテラシーを学ぶ機会はそう多くはないかもしれないが、簡単にでもインターネット利用時の注意事項などを確認しておく必要はあるだろう。

インターネット空間のグローバル化

SNS上で投稿した内容が、日本国内ではなく国外で炎上する可能性もある。悪意の有無に関わらず、投稿した内容がどこかの国の風習や文化に対して不適切なものであったり、不快にさせる内容であったりする場合、炎上を引き起こしてしまう可能性がある。リスクを100%避けることは難しいかもしれないが、アカウントを公開にしている以上はある程度の緊張感を持って発信をしなければいけないことも事実だろう。

インターネット空間のグローバル化

デジタルタトゥーの影響

デジタルタトゥーにさまざまな種類とリスクがあることはみてきた通りであるが、私たちの生活にどのような影響を与えるだろうか。

プライバシーへの影響

まず、オンライン上で個人情報の掲載をした(してしまった)際には、プライバシーへの影響が考えられる。インターネット上に掲載した生年月日、居住地、本名などが、悪用されることもある。また、近年では、人物の目に映った景色から個人の家や滞在場所を特定できてしまうため、予期せぬ自分の発信が詐欺やストーカー被害の対象になる可能性もある。

就職活動におけるリスク

SNSでの投稿が原因となって就職活動が不利になるケースもないとは言い切れない。内定承諾後にデジタルタトゥーが原因で内定取り消しになる場合だけでなく、それ以前の選考段階でデジタルタトゥーが原因で不採用になる場合もあるかもしれない。リスク回避のためにも、誹謗中傷、学校を特定できる情報などの発信は避ける必要がある。

オンラインの評判やブランディング

デジタルタトゥーは個人だけのものではなく、企業や団体にも適応される。例えば、企業のSNSアカウントで過去に差別的な投稿があった場合(悪意の有無に関わらず)、消費者が当該企業の商品を避けたり、企業自体の評判が下がったりすることは往々にしてある。あるいは、個人が飲食店や小売店内で行った行動がSNSに投稿され炎上した場合、個人だけではなく、その企業自体への客足が遠のく場合もある。

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デジタルタトゥーのリスク管理

それでは、デジタルタトゥーのリスク管理のために、私たちはどのような行動をする必要があるだろうか。

ソーシャルメディアのプライバシー設定

ソーシャルメディアのプライバシー設定を管理することも手段の一つである。X(旧:Twitter)やInstagramのアカウントがその例である。Instagramではストーリーズの公開設定を限られたユーザーのみを対象に設定することもできるので、投稿の内容に合わせて公開範囲を選択するのもいいだろう。投稿内容がスクリーンショット等で記録されるリスクもあるが、不特定多数の人に自身の投稿内容を見られるリスクは減らすことができる。

データの削除や非表示

デジタルタトゥーを削除したい場合は、専門機関への相談も有効だ。一般社団法人セーファーインターネット協会は民間主導の団体であり、違法・有害であると認定したデータをインターネットサービスプロバイダやサイト管理者に連絡し、削除要請を行っている。リベンジポルノや誹謗中傷の相談も行うことができる。(※5)

出典:一般社団法人セーファーインターネット協会ホームページより

https://www.safe-line.jp

また、総務省の要請で運営されている「違法・有害情報相談センター」にも相談が可能である。違法・有害情報相談センターのホームページには以下の場合に相談対応が可能であると記載されている。

・氏名、住所などを無断で公開された。

・誹謗中傷にあたると思われる書き込みをされた。

・自分の写真が許可なく掲載されているので、削除したい。

・誹謗中傷を書き込んだ人を特定したい。

・プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求書/送信防止措置依頼書がきたが対応方法が分からない。

(※6)

あるいは、警察や弁護士への相談も有効となるだろう。デジタルタトゥーに自力で対応するのは難しい場合もあるため、上記で紹介したような専門機関に相談することも検討してみると良いだろう。

※5 参考:一般社団法人セーファーインターネット協会「セーフライン」
https://www.safe-line.jp/

※6 引用:違法・有害情報相談センターホームページ 
https://ihaho.jp/

まとめ

近年では、SNSを収入の基盤にしている人も大勢いる。彼らにとってSNSは生活を支えてくれる存在であるとともに、常時デジタルタトゥーのリスクを有しているものでもある。また、SNSを仕事のツールとして利用していない人々にとっても、SNSは友人の近況を知ったり、思い出を記録したりと生活になくてはならない存在である人も多いのではないか。

しかし、時には行き過ぎた自己顕示欲や承認欲求から引き起こされる深刻なデジタルタトゥーの温床にもなるのがSNSだ。個人的な投稿が常に人の目に触れていることを自覚しながら、オンラインの世界とうまく付き合っていく必要がある。

 

文:小野里 涼
編集:吉岡 葵