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人生のプライオリティ|小林涼子コラム

「人生100年時代」と言われる今日この頃。どんな人生が「幸せ」なのか、あなたは考えたことがあるだろうか。燃えるように全力で働き、何か成果を残すのが幸せだろうか。それとも、愛する人たちに囲まれて最後を迎えるのが幸せなのだろうか。昨年祖父母が立て続けに亡くなり、棺に収まる2人の顔を眺めて、こんなことをぼんやりと思った。

わたしは、どんな人生を生きたいのだろう。

現在、33歳。義務教育が終わって、自分で人生の舵取りを始めた頃から考えると、約18年がたつ。この連載でもつづってきたように、私の人生は俳優業と共にあり、沢山の選択肢の中から、仕事を基軸に、最良だと思う道を日々選択し自分の人生を作ってきた。類は友を呼び、周りにも業種を問わずバリバリと働く人が多く、そんな仲間と「忙しいことはいいこと!」と、たまに会ってはお互いの仕事の大変な話をシェアしてきた。

しかしながら、最近疲れて仕事を辞めてしまったり、転職や移住、独立をする友人知人が急激に増えた。かくいう私も、祖父母との別れや周りの変化によって、「人生のプライオリティ(優先順位)」や生き方について改めて考える機会が増えたように感じている。何か明確な答えを提示できるわけではないが、だからこそ一緒に模索し、これからの人生を選び、切り開いていく際の考え方の1つとして知ってもらえたらと思い、今回はこの「人生のプライオリティ(優先順位)」というテーマを深掘りしていきたい。

選択肢

私の1日のスケジュール

人生におけるプライオリティを決めるに当たって、まずは「選択肢」を洗い出す必要がある。選択肢とは、いまの自分を構成する要素を項目ごとにまとめたものである。もし、これを読んでいるあなたが実践する場合は、普段慌ただしく過ごしている自分の日々はどんな要素で構成されているのか、考えてみるといいだろう。その場合、まずは思いつく限り自分を構成する要素を紙に書いてみることをおススメする。

万が一それがわからなければ、「この1日で何をしたか」を書いてみると、自分が何をして生きているかを可視化できるのではないだろうか。そして、それらを選択肢としてまとめていく。

「仕事」好きな職で働くこと

「地位」成果をだし、評価をされること

「家族」との時間や関係性を大切にし、愛し愛されること

「友人」と過ごす時間や遊ぶこと

「お金」を沢山稼いで経済的自由を手に入れること

「趣味」に時間を費やすこと(食や旅行、音楽などの娯楽は大体「趣味」に分類する)

他にも様々な要素があるとは思うが、次に優先順位を決めていく際に使うものなので、あえてシンプルな項目にまとめると分かりやすいだろう。

(20歳の成人式 / 33歳の近影)

要素の優先順位

つぎに、先ほど書き出した選択肢に優先順位をつけてみよう。とはいえ、いきなり順位をつけるのはとても難しいので、まずは「大切なもの /そうでもないもの」の2つに分類してみると良い。さらに、「大切なもの」の中から「より大切なもの」を見つけて順番に並べていくと、だんだんと自分にとっての優先順位がみえてくるはずだ。しかし、ここで考えすぎてしまうとどれも大切に思えてしまい、優先順位を付けるのが難しくなってしまう。なので、ここはあえて直感的につけてみることをおすすめする。

例えば、現在30代の私にとっては「家族」と「仕事」は同じくらい大切なものであり、その後は「趣味」「お金」「友人」という並びになった。しかしながら、20代の自分を振り返ってみると、きっとこの並びにはならなかったように思う。

「仕事」にがむしゃらで、誰かに認められる「地位」が欲しくて、「友人」とも遊びたいし、自由になる「お金」が欲しくて、「家族」は大切だけど当たり前だし、「趣味」は特になかった。では、なぜこんなに変化したのだろうか。

私にとっては「家族の体調不良」という経験が大きかったように思う。20代の頃に当たり前の存在だと思っていた家族は、もちろんずっとそばにいる訳ではない。想像したくはないけれど人生には必ず終わりが来ることを悟り、「家族」に甘えてきた自分に気づき、自分が愛されてきたように私も「家族」を守りたいと思ったのだ。

30代の自分も、優先順位として「仕事」が主軸にあること自体は変わらないが、たまに仕事が忙しく比重が大きくなりすぎてしまうと家族を大切にできているか悩むようになり、万が一ギスギスしてしまったときは反省するようになった。こんなふうに、自分が重ねてきた経験や年齢を振り返ると、「家族と一緒に幸せに過ごせる時間やお金があれば幸せだ」と、30代にして感じるようになったのはごく自然な流れのように思う。

ただ、何者かになりたくてギラギラしていた20代の私も私だし、30代の私も同じ私であることには変わりない。人生の置かれている状況やライフステージによって優先順位は変わるものであり、一生の優先順位を決める必要もないし、過去の自分と比べて落ち込む必要もない。

「今の自分にとって」ということが1番大切なので、素直に自分の声に耳を傾けてほしい。また決して間違って欲しくないのは、優先順位を決めることは善悪や優劣を決めるのではないということだ。他の誰かと比べたり、自分の優先順位を誰かに伝えたり批判を受ける必要は絶対にない。

優先順位をつける意味

そもそも、何故優先順位をつけるのか。現代社会では日々仕事や学業に追われて、日々生きていくのにはもちろん、友人たちと遊ぶにもお金が必要で…そのためにも、そんな毎日の中でさらにスキルアップをして、時には転職を考えて…とマルチタスクが求められる場合も多い。もちろん全てこなせればそれはすごいことではあるが…。

幸せになりたくて色々なことを必死で頑張っているのに、そのために日々に余裕がなくいっぱいいっぱいになり、苦しくなってしまっては本末転倒ではないだろうか。まずは自分のことをよく理解し「何を大切にすれば自分は幸せになれるのか」がわかると、予定を入れる時にも「何を優先して決めていくか」の指標になる。それにより、24時間の使い方が変わってくるはずだ。その24時間の積み重ねが1年を作り、1年が5年先の将来をつくり、結果将来の私自身を作るのだと思う。

なりたい自分になれないのなら、今の自分に何か不満があるのなら、まずは自分の日々の過ごし方における優先順位をつけることから始めてみてほしい。

物事との向き合い方

同じ優先順位の人がいたとしても、だからといって誰1人と同じような人生にならないのが不思議なところ。その理由の1つに、物事との向き合い方の違いがあるように思う。

たとえば、とある選択肢に対して、自分の持ちうる力の120%で頑張りたい人もいるし、80%程度で臨みたい人もいる。この違いは、私がパラレルキャリアをしていく中で感じた1番の発見でもあった。

俳優業は、本番に向けて毎日アクセル全開で頑張る必要があり、私はつい「今日も!明日も!なんでも!」と、120%の力を注ぎ込みたくなる。今まではまわりに同じような人が多く、そのことに対して違和感を覚えたことはなかった。しかし、会社経営をしてみると当たり前のことながら皆が皆わたしと同じではないと知った。今までの私であれば、120%の力を出したい自分と比較して、80%の人になんだかモヤッとした言語化しにくい感情を抱くこともあっただろう。

しかしながら、自分を俯瞰して眺めてみると、120%全力投球の私は、実は出来にムラがあり、思うように120%の力を出せなかったりもする。けれど、そんな時でもコンスタントに80%でいてくれる人のおかげで、組織としてのクオリティが落ちずに救われることがあるのだ。

そのことから、「毎日が本番!今日が勝負!」の俳優業とは異なり、会社経営となると3年5年10年20年…と長期的に安定して頑張り続ける必要があり、120%の力で今日をやり抜くこと以外にも、80%で常に良い状態でいることも大切だということを知った。今回は言語化するために120%、80%とわかりやすく数字に置き換えてみたが、そもそも他人からみた数字なんて気にする必要はない。職業や個人の特性によって様々な物事との向き合い方があり、それぞれが心地よい向き合い方で関わっていけば良いのである。

ドラマで亡くなるシーン撮影時のオフショット

誰のためでもない、自分のために

近年はSNSも発達し、華やかな経歴や素敵な生活が溢れていて、隣の芝の青さがよく見えるようになった。その分羨ましく見える機会も増え、気づけば自分もつい誰かと比較してしまう。その度に何か足りない気がして苦しく感じたり、無理をして頑張りすぎてしまってはいないだろうか。

誰しもが常に全力で輝ける場所を探す必要はないし、他人に評価されるために才能や輝ける場所を探し、何かを成し遂げることだけが人生ではない。冒頭で触れたように、ただ愛する家族に囲まれる人生もある。私の知人や友人も、人生や自分の幸せについて見つめ直すことで、プライオリティや向き合い方が変わったのだ。

「幸せ」は、いつか誰かが勝手に運んできてくれるわけではない。彼らのように年齢や環境に合わせて都度自分の人生のプライオリティーを明確にすることで、自分がどうしたら幸せになれるのか向き合い、貪欲に、幸せをつかみ取っていって欲しいと願う。自分を幸せに出来るのは自分自身でしかないのだ。

小林涼子
俳優・株式会社AGRIKO代表取締役
10クール連続でドラマに出演し話題を集める。直近の主な出演作品は、映画「わたしの幸せな結婚」、4月期TBS火曜ドラマ「王様に捧ぐ薬指」、7月スタートテレビ朝日系木曜21時「ハヤブサ消防団」出演。
10月14日(土)スタート 毎週土曜深夜2:30〜『18歳、新妻、不倫します。』テレビ朝日(関東)にて放送中。
様々な経験を活かし、J-WAVEラジオでナビゲーターとしても活躍。

俳優業の傍ら、家族の体調不良をきっかけに株式会社AGRIKOを設立。農林水産省「農福連携技術支援者」を取得し、自然環境と人に優しい循環型農福連携ファーム「AGRIKO FARM」を運営。

 

文:小林涼子
編集:たむらみゆ