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文部科学省のSTEAM教育推進策とは?小学校での実践例、教材の効果的活用法

文部科学省が推進するSTEAM教育とは

日本では、文部科学省が中心となり「STEAM教育」を推進している。本章では、文部科学省が定める「STEAM教育」の定義や取り組み、推進理由について紹介する。

文部科学省の定義と取り組み

文部科学省は、「STEAM教育」を以下のように定義している。

STEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)に加え、芸術、文化、生活、経済、法律、政治、倫理等を含めた広い範囲でAを定義し、各教科等での学習を実社会での問題発見・解決に生かしていくための教科等横断的な学習を推進しています。

(※1)

STEAM教育は、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字を取った造語である「STEM教育」から派生している。STEM教育は、2000年代から各国で科学技術の人材育成を目的に推進され、その後、「意味を昇華させる」「体を使って知覚する」といった芸術的スキルの「Arts」を横断的に学ぶことで、さらに多面的な視点を身につけることができるとして、「STEAM教育」が推進され始めた。

2018年に文部科学省が発表した「Society5.0に向けた人材育成 ~社会が変わる、学びが変わる~」において、「STEAM教育」を推進する意向を示した。同時期に経済産業省もSTEAM教育を推進する意向を示したことで、日本の「STEAM教育」の注目がさらに高まった。

文部科学省の「STEAM教育」に関する主な取り組みとしては、2020年に改訂された学習指導要領で小学校では「プログラミング教育」が必修科目となり、2022年から始まる高等学校の新学習指導要綱では「理数探究基礎」「理数探究」が新設された。また、「STEAM教育」を推進するために、小学校と中学校では「総合的な学習の時間」を、高等学校では「総合的な探求の時間」として探求学習を実施するように学習指導要領を改訂した。(※2)

※1 引用:文部科学省『STEAM教育等の各教科等横断的な学習の推進https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/mext_01592.html
※2 参考:文部科学省『技術の進展に応じた教育の革新、 新時代に対応した高等学校改革について (第十一次提言)』https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/giji/__icsFiles/afieldfile/2019/08/30/1420732_009.pdf

文部科学省がSTEAM教育を推進する理由

文部科学省がSTEAM教育を推進する理由は、AIやIoTなどの急速な技術進展に伴う、社会の急激な変化に対応する人材の育成が求められているためである。そのために、各教科での学習を基に、様々な情報を活用し、課題発見や解決していく力を育成する必要があると考えている。

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小学校におけるSTEAM教育の実践

上述したように、小学校の学習指導要領では、「プログラミング教育」を必修科目とし、「総合的な学習の時間」を取り入れるように推進する記載が見られる。小学生で実践されているSTEAM教育の事例を通して、小学校からSTEAM教育を取り入れるべき理由やその効果を探ってみたい。

プログラミング教育

現代社会において、コンピュータをより適切に、効果的に活用していくことが求められており、コンピュータの仕組みであるプログラミングの理解も必要だと考えられている。そういった背景があり、2020年度から小学校でもプログラミング教育が導入された。小学校でのプログラミング教育の目的は、子どもたちのプログラミングに関する知識や技能の向上、コンピュータを主体的に活用する姿勢、論理的な思考力を育成することである。(※3)

学習指導要領では、算数や理科などでプログラミングを実践することや各教科でプログラミングを活用した課題の設定を推進する記載が見られる。
以下は、2017年に告示された小学校学習指導要領に、5年生が学ぶ算数の指導計画を作成するにあたり、配慮する必要がある事項として記載されている。

数量や図形についての感覚を豊かにしたり、表やグラフを用いて表現する力を高めたりするなどのため、必要な場面においてコンピュータなどを適切に活用すること。

(※4)

また、小学校学習指導要領には、プログラミングを体験し論理的思考力を身につける際の注意点なども記載されている。

※3 参考:文部科学省『小学校プログラミング教育の概要 1』https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/05/21/1417094_003.pdf
※4 引用:文部科学省『小学校学習指導要領(平成29年告示)』p92
https://www.mext.go.jp/content/20230120-mxt_kyoiku02-100002604_01.pdf

総合的な学習の時間

「総合的な学習の時間」では、子どもたちに探求的な視点や考え方を活用した横断的・総合的な学習を行うことを通して、課題解決に必要な資質や能力を育成することを目的としている。

学習指導要領では、育成する資質や能力を、「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」と記載している。特に探求的な学習において、課題の設定、情報収集、収集した情報の整理・分析、気づきや考えをまとめて表現するプロセスを重視している。

総合的な学習の時間によって、子どもたちだけでなく教師に対しても良い効果が見られており、価値観の形成や授業に対する姿勢に良い影響を与えている。また、子どもたちは総合的な学習の時間で地域住民と深く関わることができる。その結果、子どもたちと関わった地域住民自身にも変化が見られており地域の問題に目を向ける機会を得たり、子どもたちの学びを支えるために連帯したりする姿が見られるようになっている。(※5)

※5 参考:文部科学省『今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開』https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/sougou/20210422-mxt_kouhou02-1.pdf

STEAM タグラグビー

「STEAM タグラグビー」とは、腰につけたタグを取られないようにラグビーを行う「タグラグビー」と、算数とプログラミングを融合した戦略志向型の教材である。タグを取られないようにしながら、ゴールに向かうための戦略を立てる際に、算数や数学で学習する俯瞰力を活用することができるのだ。

また、試合における戦略を、AIを用いて検討することもある。具体的には、チームメンバーそれぞれに、ゴールまでの進み方やパスを受ける動き方を、事前にプログラミングで設定し、その結果をAIで確認する。プログラミングでの設定と実施を繰り返し、効果的な戦術を身体を動かすことなく検討することができるのだ。

実際にSTEAMラグビーを行った子どもたちには、問題解決能力や情報収集能力、対人関係能力の向上が見られた。(※6)

※6 参考:未来の教室『STEAM タグラグビー』
https://www.learning-innovation.go.jp/edtech-library/el008/

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日本におけるSTEAM教育の3つの課題

2020年より文部科学省が中心となりSTEAM教育を推進しているものの、いくつか課題が存在する。本章では「STEAM教育」を推進するなかで日本が抱える課題を紹介する。

STEAM教育に対する教員の理解や知識不足

課題の1つに、教職員の日常的な業務量の逼迫(ひっぱく)により、STEAM教育を実施するまでの時間を確保できないことが挙げられる。また、「プログラミング」などSTEAM教育の専門知識を持つ教員が不足していることも課題となっている。

そのため、教職員の業務負荷の改善とSTEAM教育の実施に必要な専門知識を持つ教職員の育成や専門知識を持つ外部教師の採用が求められる。

また、教職員の負担軽減のために「STEAMライブラリー」の活用が挙げられる。(※7)「STEAMライブラリー」には、STEAM教育の教材や指導計画などが掲載されているため、STEAM教育の実施や専門知識の習得負荷を減らすことができるのだ。

※7 参考:STEAMライブラリー『STEAMライブラリー -未来の教室』
https://www.steam-library.go.jp/

ICTツールが活用されていない

STEAM教育を推進するためには、自らの課題を探求・解決するためのICTツールが必要となる。そこで、文部科学省は小・中・高等学校で生徒1人に対してコンピュータまたはタブレットの端末と高速大容量の通信ネットワークを整備した。

ただし、すべての学校で安定したインターネット環境を整備できないことや、教職員のICTリテラシー不足により、効果的に活用されていないという課題が見られる。そのため、さらなるICT利用環境の整備と教職員のICTリテラシーの向上が求められている。

この課題解決に向けて、文部科学省はネットワーク向上のための財政支援や通信契約の見直しを実施するなど、利用環境の整備を進めている。(※8)また、教員向けに「ICT活用指導力の基準(チェックリスト)」を作成したり、ICTに関する研修プログラムの計画を実施したりなど、教職員のICT活用力の向上を進めている。(※9)

※8 参考:文部科学省『学校ネットワークの現状について』
https://www.mext.go.jp/content/20240426-mxt_jogai01-000035663_1.pdf
※9 参考:文部科学省『第7章 教員のICT活用指導力の向上』https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/056/gijigaiyou/attach/1259399.htm

理数科目への苦手意識

日本は世界と比較して、理数科目に苦手意識のある子どもが多い。国際数学・理科教育動向調査(TMSS2019)のポイントによると、「算数・数学の勉強は楽しい」と答えた日本の小学生は65%、中学生は39%である一方で、小学生の国際平均は79%、中学生の国際平均は65%と、いずれも日本の学生の方が低い。また、「理科の勉強は楽しい」と答えた日本の中学生は59%であり、中学生の国際平均は77%と、日本の学生の方が低い。そのため、子どもたちの理数科目に対する苦手意識を改善することが求められている。(※10)

国際数学・理科教育動向調査(TMSS2019)のポイント より筆者作成

※10 参考:国立教育政策研究所『国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2019)のポイント』
https://www.nier.go.jp/timss/2019/point.pdf

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STEAM教育に活用できる教材・ゲーム

ここでは学校や自宅でSTEAM教育に活用できる教材・ゲームの一部を紹介する。

JAXAが提供する無料ゲーム教材

JAXA宇宙教育センターでは、STEAM教育を推進しており、無料で学べるゲーム教材を提供している。(※11)

・LUNARCRAFT(ルナクラフト)

月周回衛星「かぐや」から取得したデータを基に、JAXAがマインクラフトで月ワールドを再現して制作したメタバースゲーム。月ワールドでは月面探査や月面基地を建設することができ、ゲームを通して月や宇宙の事を学ぶことができる。対象年齢は小学生以上で、PC版のMinecraftで利用できる。

SLIM THE PINPOINT MOON LANDING GAME

「SLIM」は、月の狙った場所へのピンポイント着陸を、小型軽量装置で実現する技術を研究し、実証するJAXAのプロジェクトである。「SLIM」を体験できるゲームとして開発され、ゲーム内で着陸の難しさや意義を説明しており、ゲームを通して、「SLIM」についての理解を深めることができる。対象年齢は小学校高学年から中学生で、一部PCやiPadまたはwebブラウザで利用できる。

火星衛星探査計画MMX君もJAXAのエンジニア

火星探査計画の「MMX」とは、火星衛星の起源や火星圏の進化過程を明らかにすることを目的とした計画である。本ゲームは火星探査計画の「MMX」を題材として、宇宙探査機の設計を行うゲームである。ゲームを通して、火星や衛星、MMXの計画について学ぶことができる。対象年齢は小学生で、一部PCやiPadまたはwebブラウザで利用できる。

※12 参考:JAXA宇宙センター『デジタル教材』
https://edu.jaxa.jp/contents/digital/index.html

Music Blocks

「Music Blocks」は音楽と算数をプログラミングと一緒に学ぶことができる学習ソフトだ。楽器やリズムなどを指示するブロックを組み合わせたり、音程の数値を変えたりする直感的な操作によって、子どもがゼロから楽曲を制作できる。楽曲制作を通して、プログラミングの考え方を学ぶことができる。対象年齢は小学生で、webブラウザ版で利用可能である。(※13)

※13 参考:Gakken STEAM『Music Blocks』
https://gakken-steam.jp/music_blocks/

STEAM教育における知育玩具の活用

小学生以上が対象となることの多いSTEAM教育だが、幼児期からでも創造性を育むことはできるため、幼児向けの知育玩具が多く開発されている。ここではSTEAM教育に活用できる玩具を一部紹介する。

トイザらスの「STEAMトイシリーズ」

STEAMトイシリーズとは、玩具・子ども用品の総合専門店である「トイザらス」が開発し、未就学児から小学校高学年の子どもまでが、簡単に観察や実験、工作などを楽しむことができる玩具である。(※14)

アリの暮らしを観察できる飼育セットやダンボールで作るハンディ扇風機など、自宅でSTEAM教育を実施できるものを多く提供している。

※14 参考:トイザらス オンライン『トイザらス、遊びながら学べる『STEAMトイシリーズ』を7月15日(金)に発売!』
https://www.toysrus.co.jp/pressroom/product-108

Osmo

「Osmo」とは、元Googleエンジニアたちが制作したデジタル学習システムである。ICTツールのiPadと、パズルのような付属パーツを用いた、リアルとデジタルが融合された玩具であることが特徴である。子どもたちの創造力やコミュニケーション力、問題解決能力などを育てることができ、全米の31,000以上の教室や学校で活用されている。

「Osmo」には、iPadと付属のゲームピースを用いて英語や算数、物理などの学力や非認知能力を鍛えることができる「ジーニアス スターターキット」や、ブロックを組み合わせることで直感的にプログラミングを体験できる「コーディング スターターキット」など、複数の知育玩具が存在する。各玩具によって異なるが、対象年齢は3歳から12歳までとなっている。(※15)

※15 参考:学研ステイフル『Osmo』
https://www.gakkensf.co.jp/osmo/

日本のSTEAM教育の事例

日本でも先進的にSTEAM教育を実践している事例があるため、いくつか事例を紹介する。

聖徳学園中学・高等学校

東京都の聖徳学園中学校・高等学校では、「自由な発想で新しい価値を生み出すクリエイティビティ」を養うために、STEAM教育を推進している。

例えば、中学校1年生の授業では、粘土や紙を使ったアニメーションを制作した。アニメーション制作のために、シナリオ制作や粘土の整形が必要になるが、シナリオ制作では国語力を、粘土の整形には美術や数学、化学、物理などの視点を用いるため、アニメーション制作を通じて、教科横断的な学びを実践している。(※16)

※16 参考:聖徳学園中学・高等学校『STEAM|聖徳学園中学・高等学校』https://jsh.shotoku.ed.jp/gakkou/steam_education/

日出学園中学校・高等学校

千葉県の日出学園では、芸術科、技術科、家庭科、情報科、総合探究科の5つの教科で構成される「STEAM科」がある。

芸術科の1つである音楽科の授業では、グループワークを取り入れた自己表現や協調性を学ぶ機会を創出したり、スマートフォンアプリを用いた作曲の授業を実施したりしている。また、情報科の授業では、プログラミング実習や3Dプリンタ造形実習などのカリキュラムが存在する。授業内で制作した作品は学外のコンクールやコンテストに応募し、過去には多くの生徒が入賞している。(※17)

※17 参考:日出学園『STEAM教育』
https://www.hinode.ed.jp/high/education/effort/steam/

NPO法人クロスフィールズ

NPO法人クロスフィールズは、VR/360度映像を活用し、社会課題の理解を深めるデジタル教材を開発した。具体的には、気候変動や子ども兵、視覚障害者などの社会課題を現地の360度映像やインタビュー映像を視聴できるデジタル教材である。

2022年9月から2023年2月にかけて、全国の中学校と高等学校の計5校で活用された際には、探求テーマの発見や授業の取組姿勢の変化、議論の活発化などの効果が得られた。

現在は、自治体や教育委員会、学校以外の教育機関との連携により、他校や他地域での活用を進めている。(※18)

※18 参考:NPO法人クロスフィールズ『360度/VR映像を活用した国内外の社会課題の疑似体験教材の活用事例の創出と展開』
https://www.learning-innovation.go.jp/cms/wp-content/uploads/2023/04/f9888c0975a43cbcf4563357a04e9ddb.pdf?240730

まとめ

AIやIotなどの技術革新や世界情勢の変化により、今後もより一層、将来の予測が困難となるだろう。そのような中で、将来を担う子どもたちが、今後の社会をよりよく生きていくためには、教科を学習することを目的化せずに、学習した内容をどう活かすのかという思考力が必要となるのではないか。

特に幼児期や小学生の間からSTEAM教育を取り入れることで、子どもたちの思考力などを伸ばす効果があると考えられているため、今後は幼少期からSTEAM教育を推進することがより一層求められるだろう。

そのため、政府や企業、NPO法人などがSTEAM教育に注力し、子どもたちを育てていくことを期待したい。

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文:前田昌輝
編集:吉岡葵