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NHKドラマ『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』の制作スタッフに聞く、次世代へ戦争記憶を伝承するために

終戦の日である2024年8月15日に、NHK総合で特集ドラマ『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』が放送された。

本作は、椰月美智子の同名小説をドラマ化した作品で、11歳の拓人と81歳の田中さんの友情が描かれ、次世代に向けた戦争記憶の伝承をテーマとしている。

終戦から79年が経ち、戦争経験者や戦争の語り部が減少している現代において、過去の日本の戦争をどう次世代に伝承していくかは重要な課題となっている。まさに本作は「いま私たちが観るべきドラマ」ではないだろうか。

そこで、本作の制作統括を担当した櫻井壮一さんとプロデューサーを担当した鈴木航さんに、制作背景や戦争記憶の伝承への思いなどについて伺った。

本稿は作品の内容に一部触れています。

櫻井壮一(さくらい・そういち)
本作の制作統括を務める。これまで連続テレビ小説『ブギウギ』(2023年)、夜ドラ『あなたのブツが、ここに』(2022年)、よるドラ『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』(2021年)などを担当。

鈴木航(すずき・わたる)
本作のプロデューサーを務める。これまで連続テレビ小説『ブギウギ』(2023年)、特集ドラマ『アイドル』(2022年)、大河ドラマ『青天を衝け』(2021年)などを担当。

特集ドラマ『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』

小学校6年生のスケボー好きの男の子、拓人が神社の管理人をしているおじいさん、田中さんと出会う。田中さんは70年、神社の敷地内で一人ぼっちで暮らしてきた。拓人は田中さんと交流を深めていく中で、田中さんの戦時中の体験を聞く。拓人は田中さんのことをみんなに知ってもらいたいと思い、田中さんの講演会を開くことを提案する。

NHK総合で2024年8月31日(土)午後4:40〜5:53に再放送予定の他、NHKオンデマンドでも配信中

(放送実績)
8月15日(木)総合 午後10:00~11:13
8月17日(土)BSプレミアム4K 午前7:30〜8:43

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【原作】椰月美智子 『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』
【脚本】櫻井剛
【音楽】小山絵里奈
【出演】中須翔真、岸部一徳、木村多江、森永悠希 ほか
【スタッフ】制作統括:櫻井壮一 プロデューサー:鈴木航 演出:川野秀昭
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いま放送する価値がある

本ドラマは、椰月美智子さんの『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』(双葉社が原作です。この作品をドラマ化しようと思った理由を教えてください。

櫻井:私がたまたま書店で手に取ったことがきっかけなんですが、読んでみて、私も拓人たちと同学年ぐらいの子どもがいるので、「子どもが非常によく書けているな」というのが第一印象でした。また、いまの時代に私たちやその子どもたちの世代がどう戦争を捉えていくべきか、どう考えたらいいのかということも、非常にしっかりと良い形で書かれてるなと思いました。

現代の子どもが主人公で戦争を描いたドラマは他にもあると思いますが、いま放送する価値があるのではないかと思い、企画しました。

「いま放送する価値がある」と感じたのはどうしてですか?

櫻井:終戦から79年が経って、戦争を経験した人がどんどん減っている時期に、改めて戦争をどう捉え、考えていくのかということに、非常に示唆を与えてくれる物語じゃないかなと感じたからです。自分ごととして「どうアプローチしていいんだろうか」「どう考えていっていいんだろうか」と考える際には、本作が1つのヒントになるんじゃないかなと思います。

終戦から79年経ち、戦争を経験されている方が減っているなかで、戦争の記憶が風化している現状があります。そのことについてはどのようにお考えでしょうか?

鈴木:風化は自然なことで、しょうがないことだとは思いつつ、忘れた先にまた同じような不幸があることを、私たちは歴史から学んでいるはずなんですよね。その先を知っているのだから、忘れないために考えるきっかけを作ることは、私たちメディアの仕事でもある。私の場合は、ドラマを使ってできることを考えることが、1つの使命かなと思っています。

広島や沖縄などでは、戦争を体験していなくても語り部を継いでいる方たちがいまもいらっしゃいます。自然に生活していると忘れてしまうものを、どう忘れずに繋いでいけるかということは、試行錯誤を続けるしかないのではないかと思います。

櫻井:ドラマでも主人公の拓人くんが大きくなって、田中さんのことを自分よりも若い世代に伝えていこうと決めますが、「直接体験していない私たちが、これからどうやって過去と向き合って考えていくか」に尽きると思っています。どんなことでもいいので、どうしたら向き合えるんだろうか、と考え行動し続けるしかないんじゃないかと思います。

次世代に戦争の記憶を伝承していくことが、本作のテーマだと思います。次世代に伝承していくことの難しさは、どう感じていますか?

鈴木:今回のドラマの顔合わせをしたときに、子役の子どもたちは「戦争のことはよく分からないですけど」と言っていて、本音だろうなと思いました。

私は42歳で、おそらく肉親から戦争の話を聞いたギリギリの世代です。想像以上にいまの小学生ぐらいの子どもたちにとって、戦争は遠い世界だろうなと思います。まず興味を持ってもらうことすらすごく大変で、彼らからしたら興味を持つ理由があまりないのだろうなと思うので、戦争に興味を引き寄せて学んでほしいし、知ってほしいです。その興味の入り口を作ってあげることは難しいけど、大切だと思います。

櫻井:一口に戦争って言っても、現在も世界各地で戦争が行われていますし、過去に日本が行った戦争についても様々な出来事があります。単純に知るといっても、膨大な情報があるので、知り切ることは本当に難しいとは思うんです。

だけど、終戦の日がある8月だけでも、ドラマや特集番組を観ることで、少しでも戦争を知るきっかけになって、その後は自分で勉強したり、考えたりすればいいと思っています。

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知識と体験の違い

ドラマのなかで、印象に残っているシーンやセリフについて教えていただきたいです。

鈴木:終盤に田中さんが小学校の体育館で、生徒たちや地域の皆さんに自分の戦争体験を語る場面があります。もちろんドラマの中のお芝居ではあるんですけど、岸部一徳さんの熱演もあって、体験した人の生の声を聞くことの重要さを感じました。そして、この機会が本当にいまなくなろうとしてるんだなということを、ひしひしと感じました。

あと、田中さんに向けて意地悪な質問をする男の子が1人いるんですが、質問に対する田中さんの真摯な答えを聞いてもなお、分かったのか分かっていないのかという微妙な顔をしたお芝居をされていて。そこもすごくリアルだなと思いました。

戦争について知らない子どもたちに、戦争の事実を伝えたいと必死に話したからと言って、すぐに「伝わりました」という簡単な話じゃないし、そこは難しいと思っています。でも、やらなければ機会は失われつつあると感じました。

戦争を経験された田中さんが、自分の言葉で喋るシーンが私も印象的でしたが、拓人たちが講演会の企画をクラスメイトに相談するシーンで「戦争があったなんて、みんな知ってる。教科書に書いてあるやろ」と話す子どもがいました。教科書で知ることと経験された方から実際にお話を聞くことの違いは、どのようなところにあると感じていますか?

鈴木:書物で読んだり、映像で聞いたりして知ることはあくまで「知識」で、戦争体験の有無にかかわらず、語り部などの生の声から聞くことは「体験」だと思っています。それは、目と耳から知る以上にからだに入ってくるものがあると思っていて、勉強するだけではきっと届かない深いところに届くと思うんです。直接会って、生で聞くことの力の強さはあると思いました。

子どもたちが講演会の企画に反対する際に、1人のクラスメイトが「戦争の話なんて聞きたくありません。人が死んだ話なんて、怖くて悲しい気分になるし」というセリフがありました。このシーンを入れた理由を教えてください。

櫻井:「怖いから聞きたくない」というのは、すごくリアルな反応だなと思っていて、実際にうちの子どもも、怖い話をテレビでやっていたら「怖いから嫌だ」と言います。

また、このドラマでは描いていないですが、いまの子どもたちってYouTubeやTikTokなどでも戦争に関する情報を見ているなかで、実際に生の声を聞くことや自分の頭で考えようとすることは、なかなか難しいことだとは思います。

だけど、主人公の拓人くんも自分で考えて、自分の道を切り開こうとするし、田中さんも自分で一生懸命考えて最終的に「戦争には反対です」と考え、周りに伝えられるようになる。その過程が非常に大事かなと思います。

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世代が離れた人々との交流

現代は幅広い世代での交流が希薄になっていると感じています。一方で、このドラマでは81歳の田中さんと11歳の拓人たちという、年代の離れた人々が交流し「友達」となるシーンがあります。幅広い世代で交流することについては、どう考えていますか?

鈴木:世代を問わずお互いを知ることが、物事を身近に引き寄せて考えることの入り口だと思う反面、「どんどん機会を作りましょう」と言っても、いまや生活上難しいものになっているとも思います。今回のドラマで生まれた世代間の交流は1つの偶然で、みんなに起こり得るわけではないと思います。

ただ、作中で拓人たちが最初は敬遠していた田中さんを、知れば知るほど面白がって、戦争のことについても自分のこととして捉えていきます。その人のことをもっと知ることが、私たちにとって物事を身近に考えるために一番良いことだと思います。

櫻井:現代社会では世代の離れた人と話す機会が乏しいなかで、交流する機会は大事だなと思います。

個人的に、木村多江さんが演じた拓人のお母さんの描かれ方もいいなと思っているのですが、子どもをちゃんと信頼して見守っている。深入りはしないけど、田中さんみたいな人に対しても、敬遠したり排除したりしないで、拓人たちとの交流をちゃんと見ているところがいいなと思っています。

だから、機会も大事だし、そういう経験をすることを周りが見守ったり、応援したりすることも大事かなと感じています。

確かに制限せずに見守ることは大事ですが、なかなか難しくなっているようにも感じます。

櫻井:いろんな人と接点を持っていく子どもたちをどう見守るといいのか、子どもたちを心配してしまうなど、難しい面もたくさんありますが、信頼すべきときは信頼して、応援するという姿勢を持つことが大切ではないかと考えています。

母親もそうでしたが、拓人たちにとって田中さんは存在自体を肯定してくれる存在だと感じました。

櫻井:拓人くんが田中さんに心を開いた理由は、拓人くんを否定しない人だったからだと思います。拓人くんを肯定して、話を黙って聞いてくれるという部分です。

だから、田中さんも拓人くんのことをちゃんと見ていたし、拓人くんも田中さんのことを見ていたというところが2人の友情だったと感じています。

「戦争反対」のもう一段階深くに

お二人は過去にも戦争を扱ったドラマを制作されてきましたが、戦争を描く際に意識されていることを教えてください。

鈴木:「いまの価値観」で描かないようにしようと気をつけています。

今回のドラマの講演会のシーンで、「戦争をするのがおかしいことやと思わなかったんですよね」と子どもが田中さんに聞いて、「戦争にも絶対勝つと信じていました」と田中さんが答える場面がありました。このシーンもそうですが、いまの私たちから見た「戦争反対」という思いや、当時の人々は辛く苦しかっただろうという思い込みでは描かず、当時の人は一生懸命青春してたし、戦時中だって楽しいことも苦しいこともあったということを意識して描いています。

当時の人が私たちと同じく一生懸命生きていたと伝えることで、本当の戦争の惨さが見えてきて、ちゃんと視聴者に伝わると思っています。

「戦争反対」はみんな思っているけれども、そのもう一段階深く、「これからも戦争をしないためにどういうことができるだろうか」というところまで、ドラマでも描かれているように感じましたが、こちらはどのように考えていますか?

鈴木:「なんで戦争反対なのか」を自分自身で考えることが大切だと思っています。

「戦争反対」と言う方は多いですが、「そう教わったから」というだけで、戦争反対の理由と背景をしっかりと言えない人もいると思っています。実際の体験を通して、戦争の惨さや辛さを味わった田中さんだから、「戦争には反対です」と信念を持って言えるわけで、私たちのような戦争を実際に体験してない世代や、戦争を遠い昔の歴史のことだと感じている私よりも下の子どもたちが、「戦争反対」という4文字だけを言うのではなく、実際に起こることや背景を分かった上で「戦争反対」と言えることが大切ではないかなと。そんな人が1人でも増えたら、その先の結果に繋がるのかなと思います。

櫻井:私自身も戦争を勉強するなかで知りましたが、戦時中に戦争に反対した人って、ほとんどいないんですよね。いまの目線で見ると「当然戦争には反対するべきだ」と思ってしまいますが、当時はほとんどの人が戦争を当たり前に捉えていたということを、みんなもう忘れていると感じます。

たとえば、鈴木さんと一緒に担当した『ブギウギ』(※)というドラマでも、戦争が始まったときは、主人公が周りの人と一緒に万歳をする描写にしました。それが当たり前の時代だったということを、ちゃんと残したいなと思っています。

今回のドラマでも、田中さんは軍国少年として父と兄の出征を誇らしく見送った結果、家族全員を失った。その後、自分で考えて「戦争反対」という考えに至ったという過程が大事だと思っています。

参考:2023年10月から2024年3月までNHKで放送された連続テレビ小説。「東京ブギウギ」で知られる歌手の笠置シヅ子さんをモデルとした、戦後を明るく照らしたスターの物語。

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メディアとして戦争を描き続ける意義

NHKでは、戦争に関する番組を毎年8月に放送していますが、この放送によって、戦争について知り、考える機会を与えていると感じています。メディアとして「戦争を伝え続けることの重要性」はどう考えていますか?

櫻井:戦争を知るきっかけがなくなっていくとすると、非常に大きな問題だと思います。そのために、きちんと戦争を伝えていくことが私たちの仕事だと思っています。

鈴木:「きっかけ作り」を続けていくことしかできないと言えばそうですが、毎年この時期だけでも戦争を思い出してもらうことが重要かなと思います。もちろん、8月以降も継続して考えていかなければならない問題ではあるんですけどね。

戦争について知り、考えるきっかけがないままだと、社会がどうなってしまうと考えますか?

鈴木:いまも多くの人は、外国の戦争を対岸の火事のように、自分とは遠いものとして消費してしまっているように感じています。

ただ、昔日本でも酷いことがあったという視点を1つでも持っているだけで、戦争のニュースを観た際に、現地の人々に思いを馳せることができるのではないかと思います。そのために、自分たちの国や土地で何が起こっていたのかを知ることが、重要だと感じています。

櫻井:戦争だけではないと思うんですが、いまの社会にある問題を番組やドラマとして取り上げて、人々に眼差しを向ける機会を与えること自体が、私たちの役割だと思っています。眼差しを向けていかないと、過去の問題がなかったことにもなりかねないと思うので、私たちの問題として取り上げた方がいいと思うことについては、きちんと取り上げていく必要があるかなと思います。

改めて、ドラマを鑑賞された方にどのようなことを感じてほしいですか?

鈴木:終戦の日を境に、日本で戦争報道は一気に減ると思うので、むしろ観ていただいたその先が重要です。このドラマは、とある関西の小さな町の空襲を描いているので、自分に引き寄せて、戦争のときに何があったかということを、とくに子どもたちに考えてほしいなと思います。

櫻井:幅広い方に観ていただきたいですが、とくに10代の学生や20代の方に観てもらいたいです。観ただけでは分からないこともあると思いますが、このドラマをきっかけに、家族や友達と話したり、自分で調べたりしてもらえると嬉しいです。

いまもなお、世界各地で戦争や紛争が起こっている。近隣国の情勢を鑑みても、日本で生きる私たちにとって戦争は遠い存在だと言い切れないのではないだろうか。これ以上戦争を起こさないためにも、過去の戦争の教訓を次世代へ伝え続けることが、より一層重要となるだろう。

終戦から79年が経ったいまでは戦争経験者が減り、戦争を経験していない世代がどう伝えていくかは大きな課題である。とくに、戦争経験者が身近にいた最後の世代とも言える私たちの担う役割は大きい。

そのため、本ドラマを通して、未来のために何ができるのかをいま一度考えるきっかけとしてほしい。

『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』は、2024年8月31日(土)午後4:40〜5:53に総合テレビで再放送予定。また、NHKオンデマンドでも配信中。

 

文・取材:前田昌輝
編集:大沼芙実子
写真:NHK大阪放送局提供