※本コラムの内容は個人の意見であり、神職および神社関係者の総意ではない点にご留意願います。
皆様、新年あけましておめでとうございます。
初詣には行かれましたか?
お正月の神社には、たくさんのお守りやお札が並び、目移りしてしまいますよね。私が奉職している星川杉山神社でも、お正月はお守りやお札、おみくじを求める人の行列が途絶えず、賑わいます。
ところで皆さんは、神社ではどんな授与品を求めますか?お正月のタイミングでお守りを新調したり、破魔矢や干支の置物などを求めたりする方もいると思います。今回は神社で手に入る授与品について正しくお伝えし、神社のことをもっと知ってもらうためのコラムにしたいと思います。
授与品(じゅよひん)とは?
神社で入手できる品物を「授与品(じゅよひん)」といい、代表的なものには次のようなものがあります。
- お守り
- 神札(しんさつ・おふだ)
- おみくじ
- 絵馬
- 御朱印・御朱印帳
- 縁起物(干支物、破魔矢、熊手など)
他にも石、塩、砂など、それぞれの神社で独自の授与品をお分けしている場合もあります。
これら授与品に対しては、「売る」「買う」という表現を使いません。神社は神様がおられる場所であって、商売する場ではないという考え方があるからです。したがって、次のような丁寧な表現が用いられます。
神社側: (×)売る ⇒ (〇)お分けする、頒布(はんぷ)する
参拝者側:(×)買う ⇒ (〇)お受けする、頂(いただ)く
他にも「売る」「買う」という表現を用いない理由として、授与品によって得られたお金は「寄付金」だからという考え方もあります。実際、多くの神社は授与品の頒布やお賽銭等によってお預かりしたお金を、寄付金として扱います。寄付金は神様への捧げものと考えるため、このような丁寧な表現を使うのです。
この寄付金は、神職・職員の給料や社殿の修繕費用等に使われます。神社で授与品をお受けするということは、間接的に寄付を行い、その神社を支えることになります。
▼「神社のご利益」について紹介した、前回のコラムはこちら
授与品の役割・意味を知ろう
神社でお受けできる授与品はたくさんありますが、何を受けてよいか悩む方も多いでしょう。それを判断するためにも、まずはしっかりとその役割や意味を知ることから始めましょう。
授与品を紹介する前に大切なことをお伝えします。神道には「たま」という考え方があります。「たま」とはいわゆる魂(たましい)のこと。神道では「たま」が宿ることによって、人やモノに力や性格が与えられると考えます。「たま」の尊称を「みたま」といい、神様の力が宿ったモノに対して「みたまが入っている」などと言います。
とくに、神札やお守りといった授与品には「みたま」が込められていると考え、神様の力が宿っているものとして丁寧に扱うように心がけましょう。
それでは、代表的な授与品を紹介します。
神札(しんさつ・おふだ)
ほとんどの神社で頒布されています。「護符(ごふ)」ともいい、神様の「みたま」や神威(しんい・神様の力)が込められたものを言います。紙や木片で作られることが一般的ですが、木で作られたもののほうが高価であることが多いです。
神札は、大きく次の2種類に分けることができます。
神様の「みたま」を宿したもの
たいていの神社では、その神社名が記された神札を頒布しています。氏神札と呼ぶこともあります。
その神社にとくにゆかりのある神様の神札を、頒布する場合もあります。私が奉職している星川杉山神社であれば、境内にお稲荷さんを祀っているお社があるので、お稲荷さんの総本山である「伏見稲荷大社」の神札もお分けしています。
そのほか、神宮(伊勢神宮)の神札である「神宮大麻(じんぐうたいま)」も、全国ほとんどの神社で頒布されています。これは神宮のご祭神である、天照大御神(あまてらすおおみかみ)の神札です。天照大御神は日本人の総氏神(そううじがみ)であるとの性質から、全国のほとんどの神社で配布されています。
神様の力(神威)を宿したもの
「みたま」の中でも特定の神威が込められた神札で、願意ごとに分かれていることが特徴です。「家内安全」「商売繁盛」「無病息災」といった代表的な願意をはじめ、「火防」や「盗難除け」といった珍しい願意の神札をお分けしている神社もあります。
このほか、神社でご祈祷を済ませたあとに授与される「神璽(しんじ)」というものもあり、これも神札の一種です。「お受けしたご祈祷の願意が込められたもの」と考えてください。たとえば事業者などが商売繁盛のご祈祷を受けると、次のような神璽が授与されます。氏名や事業者名が記載されることが多いことも特徴です。神札に自分の名前が記載されていたら、なんだか有難い気持ちになれますよね。
神札の祀り方
いずれの神札も、常に持ち歩くものではなく、神棚に飾っていただくことを想定しています。神社でお受けした神札は、自宅の神棚に飾るとよいでしょう。いまは神棚がない家も多いと思うので、その場合は棚の上など、できるだけ高い位置に置いて大切に祀りましょう。
神札の取り換え
神札は、1年ごとに新しいものと取り換えるのが良いとされています。神道では、新年を新しい神札で迎えることが望ましいとの考えから、毎年12月に新しい神札を受ける人が多く、神社でも毎年12月に複数の神札を一式にしたものを頒布することが多いです。
たとえば、私の奉仕している星川杉山神社では、「一式」に次の4点が含まれています。
- 神宮大麻(神棚に飾る)
- 氏神札(神棚に飾る)
- 歳神札(神棚に飾る)
- 荒神札(かまど、つまり台所を守る神様。キッチン周辺に飾ってお祀りする)
これら神札の一式は毎年お受けするものなので、神職や町内会の人が、新しい神札を家庭に配ってまわる風習がいまでも残る地域もあります。これを配札(はいさつ)といいます。皆さんの住む地域でも、近くに神社があれば配札の風習が残っているかもしれませんね。
古い神札は、神社に返納するのが一般的です。年末から年始にかけて、多くの神社では古い神札を納める場所(古札納所)が設置されることもあります。神札はできるだけ12月に新しいものに取り換えたうえで、新年を迎えましょう。
お守り
お守りの前身は「護符」、つまり神札です。お守りの成立理由は諸説ありますが、神札を持ち運びしやすくするために生まれたという説があります。
ところで、お守りの中に何が入っているか、気になったことはありませんか?お守りの中にはご祭神の名が書かれた木片や紙などが入っており、これを内府(ないふ)と呼びます。そして内府には「みたま」や神威(神様の力)が込められているとされます。
お守りの選び方
通常のお守り(特定の願意が書かれていないお守り)のほか、合格祈願、安産、交通安全など特定の願意に特化したものなど、その種類は様々あります。神社によっては十種類以上のお守りを取り揃える場合もあり、どれを選んでよいか分からないという声をよく聞きます。このようなときは、皆さんの中に「特定の願意があるか」で判断するとよいでしょう。
たとえば、
- 恋愛関係にお悩みなら、縁結びや良縁成就のお守り
- 病気や健康面でお悩みなら、病気平癒
といったように、いま最も関心のある願意に合わせてお受けすることをお勧めします。
とくに強い願意がない場合は、特定の願意が書かれていないお守りを選ぶとよいでしょう。これは氏神守りとも言い、氏神様の「みたま」が込められているお守りです。皆さんの住まいの近くの神社(氏神神社)では、このような通常のお守りを受けることをおすすめします。「1年間守ってください」という気持ちで、常に携帯しておきましょう。
おみくじ
「神社では凶のおみくじが出ないのですか?」
まれに、そう聞かれることがあります。
答えは、「おみくじで凶を出すかどうかはその神社のスタンスによる」です。神社は縁起の良さを大切にする場所でもあるので、あえて凶を出さない神社は多いと聞きます。
もともとおみくじは、重要な意思決定や吉凶判断が必要なときに「神意を伺う」ものでした。おみくじを引くことは、神様の意志を伺うということです。凶を出すことで引いた方の注意が促進され、その結果良い方向に導かれるのであれば、凶を引いたことが必ずしも悪ではないといえるでしょう。
大切なのは結果ではなく、そこに書かれている文面です。そして、おみくじは神意を問うものという性質上、まずはお参りを済ませたうえで引くように心がけましょう。
縁起物(破魔矢、熊手など)
縁起物(えんぎもの)とは、文字通り縁起が良いとされるものです。有名なものでは、酉の市の熊手、お正月の鏡餅や破魔矢などがあります。
「みたま」や神威は込められていませんが、自宅や社屋に飾ることによって神様のご加護が得られ、縁起良くいられます。
これも選び方が分からないという声を聞きますが、その縁起物の持つ意味と会社や家の方針とを照らし合わせて選ぶとよいでしょう。会社であれば商売繁昌の縁起物である熊手、自宅であれば災い除けとなる破魔矢といったように。
神棚を置くことで、謙虚でいられる?
ここまで、神社でお受けできる授与品の数々を紹介しました。
神社でおみくじやお守りを求めたことはあっても、神札まで求めたことのある人は少ないと想像します。それは、やはり「どう扱ってよいかわからない」という意識からではないでしょうか。そこで、おすすめしたいのが「自宅に神棚を置く」というものです。
私は神職のほかに、普段は経営コンサルタントとしても働いており、企業を訪問する機会が多々あります。その際には、いつもオフィスに神棚があるかを確認しています。理由は、神棚がある企業の社長は謙虚であることが多いからです。
中小企業では、社長が一番強い権限を持つことがほとんどで、どうしてもワンマン経営になりがちです。また、商売がうまくいっているときは「自分の経営手腕がよかったのだ」と、傲慢な気持ちになってしまうこともあります。もし神棚があれば、神様という“社長よりも上位の存在”を作り出すことができ、「神様という大きな存在に見守られているから、謙虚でいなくては」という気持ちで、神様と対話を続けられる効果があると考えています。
社長がこのマインドを持つことはとても重要だと思います。たとえば皆さんもご存じの企業、パナソニック。創業者は経営の神様といわれた松下幸之助さんですが、あのような成功者であっても、自前の神社を建立し祈りを捧げていたといいます。他にもトヨタや資生堂など、日本の名だたる大企業では、社屋内外に自前の神社を設置している例が多々見られます。
またクラシック音楽の最高傑作としてしばしば語られる、バッハの「マタイ受難曲」や「ロ短調ミサ曲」は、ジャンルで言えば宗教音楽にあたります。それらが“クラシック音楽の最高傑作”とされるのは、バッハ自身が敬虔なクリスチャンであり、作品を“神への捧げもの”と考えていたからだと思います。それゆえに、誰も気づかないような細部まで手を抜くことなく、芸術の高みに達する作品となったのでしょう。
この「大きな存在に見守られている感覚」は、神道に限らず、あらゆる宗教が持つ感覚といえます。これがあるからこそ、誰も見ていない細部にまで気を配り、ひいては優れた成果をもたらすのです。
▼「経営コンサルタント」としての石井さんが執筆した、起業に関するコラムはこちら
「大きな存在に見守られている感覚」の重要性
一方で、この感覚を持ち合わせないがために、「バレなきゃいい」という安易な気持ちで罪を犯す人も多いように思います。窃盗や盗撮、最近ではSNSでの匿名による誹謗中傷などが典型ではないでしょうか。
私たちは不完全で弱い存在です。だからこそ、神様という「大きな存在に見守られている感覚」は全ての人にとって必要な感覚であると思います。
その感覚を意識するために、まずは神社に行って神札を求め、それを祀るための神棚を設置してみてはいかがでしょうか。日常的に神様という上位の存在と対話することで、「大きな存在に見守られている感覚」が醸成されることでしょう。
石井 里幸(いしい さとゆき)
中小企業診断士。ITコンサルタントとして、ウェブマーケティングおよびIT活用支援を専門としている。
また、社家の出身ではないが神職資格を持ち、神職としても活動。中小企業の支援を通じて得たノウハウと神職での実務経験を活かし、神社に対しても支援活動を行っている。
寄稿:石井里幸(神職・中小企業診断士)
編集:大沼芙実子
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