よりよい未来の話をしよう

わたしと気候変動#3|未来の危機に、解決の種を蒔くのは私たち。ユースが取り組む気候変動

気候変動が起きている。

いまや、「その事実を知らない」人はいない。それなのに、「日々の生活のなかでその問題を意識し、行動できているか?」と問われたら、胸を張って手を挙げる人は少ないのではないだろうか。

気候変動、どうして自分ごとにならないんだろう?

この連載では、すでにみんな知っているにも関わらず「日々意識して対策に取り組んでいる!」となかなか宣言しきれない…そんな気候変動というトピックについて、6/5の世界環境の日を機に立ち止まって考えてみたい。

第1回の記事はこちら

第2回目の記事はこちら

連載最終回となる今回は、気候変動に取り組むユースに話を聞いてみた。

気候変動と社会運動について考えるとき、10代や20代といったユースの存在は無視できない。2018年、当時16歳だったスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさんが自国で気候変動対策を求めストライキを実施したその姿は、多くのメディアに放映され、国連でスピーチをするまでに至った。彼女の行動は世界の同世代に行動を促し、現在では日本でも様々な団体が活動している。気候変動に向けて行動しているユースは、どんな未来を目指しているのだろうか。

今回お話を聞かせてくれたのは、国際環境NGO 350.org Japan(以下、350 Japan)で活動する現在26歳の飯塚里沙さん。気候変動に向き合うようになったきっかけをはじめ、現在の活動について、そしていまご自身も大切にしているという「息長く活動を続けていくヒント」も話してくれた。

飯塚 里沙(いいづか・りさ)さん。
1998年生まれ。2023年から、若者や市民の草の根の運動を軸に気候変動への活動を展開する、国際環境NGO 350.org Japanの職員として働く。

「育った街が沈んでしまう」ーーオランダで感じた危機

飯塚さんが気候変動に危機感を抱いたきっかけは、幼い頃から22歳まで住んでいたオランダでの出来事だという。

「幼少期から家族と一緒にオランダに住んでいたのですが、気候変動の話を最初に聞いたのはそのときです。オランダは海抜が低く、このまま海面上昇が続くと、比較的早く海に沈んでしまうと言われています。それを聞いたとき、私の住んでいた家や遊んだ公園、学校、全てが『海の中の忘れ去られた都市』になってしまうと感じました。将来孫ができたとして、『おばあちゃんが住んでた家は、いま海の中の伝説の都市って言われてるのよ…』と話さないといけないと思ったら、すごく悲しくて。それが、最初に気候変動の危機を感じた経験です」

オランダで生活していた頃の飯塚さん

22歳から日本で生活することになった飯塚さんは、帰国後、自分が関われる気候変動の活動をインターネットで探した。いくつかのコミュニティに関わるなかで、縁あって行き着いたのが現在所属する350 Japanだ。350 Japanはアメリカに拠点を置く国際環境NGOの日本チームで、市民が中心となって気候変動を解決するムーブメントの構築を目指し、情報発信や啓発活動などを行う。飯塚さんはボランティアやインターンを経て、2023年から正式な職員となった。

オランダで受けた衝撃から現在まで、気候変動へのアプローチを継続できている理由には、コミュニティの魅力もあるという。

「活動を続けているのは、ポジティブな理由とネガティブな理由、両方あると思います。

異常気象が毎日起きていることをニュースで見たり、洪水や森林火災で人や動物が死んだと聞いたりすると恐怖や不安を感じますし、そういうものに動かされていると思うときもあります。

一方、ポジティブな面として、気候変動の活動をしている人には素敵な人が多いんです。コミュニティの温かさや、『一緒に頑張ろうよ!』と言ってくれる人たちがいるからわたしも続けられている、という思いもありますね」

いまの社会問題は、未来を生きる自分たちの問題

350 Japanで一緒に活動するメンバーと

飯塚さんのまわりの同世代は、同様に気候変動の活動をしている人が多いのだろうか。

「見る限り、20代の人たちは気候変動に限らず、いろんな社会問題に対して『何かしなければ』という危機感を抱いている人が多い気がします。

日本社会全体的には、まだまだ比較的高齢の男性が意思決定の立場にいることが多いじゃないですか。でも気候変動にしても世界で起きている紛争にしても、20代は未来を長く生きる分、より影響を受ける立場にいます。そう考えたとき、それらの問題が自分の未来であることに気づいて、『本当にいま、私が動かなきゃいけないんだ!』と考えている人は多い印象です」

その背景には、SNSの存在も大きいという。地球の裏側で起こっている洪水や干ばつなど、テレビで報道される機会が少ない出来事でも、SNSを通じて自分で情報を取得することができるからだ。

主にユースのメンバーで構成される、気候変動対策を求め活動する団体
「Fridays For Future」のメンバーと一緒に活動する様子

若い世代を中心に活動する団体も複数ある。分野は異なっていても、それぞれに取り組む社会課題に関して情報共有をしたり、連携したりすることもよくあるそうだ。

「それぞれのトピックで重要なタイミングがあるときには、『いま、すごく大切なタイミングだから、こっちも応援してね!』というようなやり取りもあります。気候変動でいうと、2024年はエネルギー基本計画の見直しのタイミング。私達はそこに対してできることを全力でやるために、他の活動をしてる人たちにも関心を持って協力してもらえるように呼びかけています」

気候変動の分野では、やはりグレタ・トゥンベリさんの存在も大きい。飯塚さんも「グレタさんがきっかけで気候変動を知ったり、活動を始めたりした人はすごく多い」と話す。

「それまでも多分、みんなモヤモヤしてたと思うんです。社会の色々なところで、若者としてできることは何もないと、感じてしまう部分があった。選挙権もないし、何か考えていることがあっても、黙るしかないというか…。でもグレタさんは『16歳だけど、大切なことだから伝えなきゃ!』と行動を起こしていて、多くの同世代のインスピレーションになったと同時に、大人に影響を与え、社会全体の目を、気候危機に向けさせました。つまり、若い人が社会を変えられないと言われていましたが、実際にはできるということを、証明したんです!

興味が持てない人も、「その人のせい」じゃない

いわゆるユースである「Z世代(18歳〜24歳)」の特徴としては、社会課題への関心の高さが挙げられることが多い。実際に2023年にBIGLOBEが実施した調査(※1)でも、回答者のうちZ世代の半数は「地球温暖化に関心がある」という回答をしている。

一方で、この調査のもう半数が示すように、「気候変動に関心がない」という人もいるだろう。飯塚さんのように気候変動の活動をライフワークにする人は、関心がない人たちのことをどのように捉えているのだろうか。

「気候変動に限らず、教育システムや日常的な報道を見ていると、社会課題に興味がないのは当たり前だとも感じるというか…関心がないのはその人たちだけのせいじゃないと思うんです。

教育のなかでも、社会運動や気候変動について大きく取り上げないことが多いし、選挙権を得てからもどうやって候補者の情報を知り、どう判断をしたら良いのか教えてくれません。そんな状況では、何かのきっかけがない限り、自然と興味が湧いて来ることはないと思います。

でもだからこそ、少しでも社会運動や気候変動に興味を持ってもらうための工夫が必要だと思っています。学びの機会を作ったり、署名をするだけでも立派に参加しているんだよ、ということを伝えたり、どんどんハードルを下げていくことが重要じゃないかな、と。わたしが350 Japanで取り組んでいることもそうですが、気候変動への取り組みを、みんなが広く参加できる運動にしたいなと思っています」

350 Japanで一緒に活動するメンバーと

「みんなが広く参加できる運動」にしていくこと。飯塚さんは、これまでの社会運動の歴史をふまえ、「これこそが、いま活動している世代が、社会運動をさらに発展させるためにできること」だと話す。350 Japanが定期的に実施している『気候変動基礎クラス』やInstagramでの発信もその一環だ。そんなふうに、様々な人が活動を継続した結果、少しずつ社会全体の意識が変わってきていると感じているそうだ。

こうやって参加のハードルを低くしていくことは、多くの人が活動を「息長く続けていくヒント」にもなるという。強い意志を持った人だけが少数で頑張っても、どこかで息切れしてしまう。未来に向けて、長い時間みんなで取り組むべき問題だからこそ、構えすぎることなく、誰でも参加できるような場所であることが、活動が続いていく重要な要素になりそうだ。

※1 ビッグローブ株式会社「Z世代『日本の未来に希望を感じる』3割弱『あしたメディア by BIGLOBE』が『若年層の意識調査』第1弾を発表」
https://www.biglobe.co.jp/pressroom/info/2023/09/230925-1

気候変動の難しさは、50年後の危機の打ち手をいま決めること

では、実際に活動をされている飯塚さんからみて、気候変動に対してとくに取り組んでいきたいポイントはどこにあるのだろう。飯塚さんは、まず1つ目に、政策の意思決定者の構成を挙げる。

「いま政府ではエネルギー基本計画の見直しが行われていますが、その審議会のメンバーには60代や70代のメンバーが多いんです。『2050年の気候変動がどうなるのか』を視野に議論をする内容なのに、この計画の結果に大きく左右される時代を生きる世代が数名しかいないのは問題だと思っています。

気候危機の問題の難しいところは、今日する決断が30年後、50年後、100年後の地球環境に影響してくるという点です。その意味では、たとえば50年後に直接的に影響を受ける世代が、もっと意思決定プロセスに関われると良いなと思います

エネルギー基本計画の見直しに関する活動の様子

もう1つ、気候変動の解決策を「個人」が負いすぎているのではないか、という思いも聞かせてくれた。個人の取り組みだけでなく、他のもっと大きな要因に対してアプローチしていくことも忘れてはいけないという。

「気候変動の解決策は、『個人』に委ねられ過ぎているように感じます。あなたの生活で省エネをしてね、CO2を減らそう、ってよく言われますよね。それも大切です。でも、現代社会ではどうしても電気に頼らないと生きていけないし、生活に余裕がなくてそこまで考えられない人もいる。『よりエコな生活』が分かっていても、それを選択できずモヤモヤする人もいると思います。

だからこそ個人の生活以上に、もっと大きな割合で気候変動の原因を作っているものに対して、みんなで働きかけていくことが大切だと思うんですよね。企業や政府など、相手はそのときによって変わりますが、ある程度影響力のある、大きな原因を作っているものの存在も、解決策として無視してはならない。それを常に覚えておきたいと思っています」

コミュニティ探しから始めてみては?

最後に飯塚さんは、気候変動に対して行動をしていきたいと思った人たちには、「まず自分にとって居心地の良いコミュニティを見つけて、そこから初めて見たらどうでしょう」というアドバイスをくれた。

「何かを始めよう!と思っても、自分で何かするにはハードルが高いときには、私と同じルートをたどって、まずコミュニティに所属してみるのも良いと思います。若い人であれば、Fridays For Future Japan(※2)という団体が全国各地で活動しています。私たち350 Japanも、いつでもウェルカムです!

私自身、長期的に活動をする中で1番大切だと思うのは、やはり一緒に活動できる人やコミュニティを見つけることなんです。気候変動という大きな壁を目の前にすると、みんな多分、少なからず不安な気持ちを抱えるんじゃないかなと。そういうときこそ、『誰かと一緒にいる』というのが大切だと思います」

*350クルー(ボランティア)に登録したい方はこちらから

※2 補足:Fridays For Future Japanへの関わり方には、年齢制限を設けている場合があります。詳細はホームページを確認のうえ、直接お問い合わせください。

連載最終回では、周りの人と手を取り合って気候変動の活動を続ける、飯塚さんを紹介した。飯塚さんをはじめ、様々な社会課題に対して当事者意識を持って行動する20代の姿には、励まされる部分が大きいのではないだろうか。

この連載では、「わたしと気候変動」と題して、気候変動の現状を捉え直し、そこに取り組む人に話を聞いてきた。気候変動は間違いなく、いま生きる人にとって危機となる状況である。その一方で、「どうして自分ごとにならないのだろう?」という疑問や課題に対しては、今回お話を伺ったことで、少なからずヒントが見えたように思う。

「自分の生活」のなかで負いすぎるのではなく、少し大きな流れに身を委ねてみること。「1人」ではなく「みんな」で取り組むこと。ハードルを上げすぎず、肩肘を張らずに向き合うことで、より前向きに気候変動に向き合い、行動できるのではないだろうか。

自分なりの「自分ごと」の距離感で向き合うことを始めると、新しい関わり方が見えてくるかもしれない。

 

取材・文:大沼芙実子
編集:conomi matsuura
写真:350 Japan提供