よりよい未来の話をしよう

韓国大衆音楽賞(KMA)の魅力とは?韓国音楽の豊かさを見つめ続けてきたアワードを紐解く|文筆家・つやちゃんコラム

韓国音楽ファンから根強い支持を集めるKMA(韓国大衆音楽賞)の特色とは?

さる2024年2月29日、1年に1度の韓国音楽の祭典『韓国大衆音楽賞(한국대중음악상/Korean Music Awards)以下 KMA)』が開催され、各賞が発表された。毎年のことながらKMAの批評眼には唸らされる。特定の音楽メディア・雑誌の年間ベストといった企画ならまだしも、いわば“アワード”として20年以上も継続していることについて驚きを隠せないし、着実に一定のカラーが根づいていることに尊敬の念も感じてしまう。一体、KMAの何がそれほど面白いのか?本稿では、これまであまり紐解かれることのなかったアワードの特色について紹介していきたい。

韓国では、年末年始にかけて数多くの音楽賞が開催され注目を集める。アジア最大級の音楽アワードとして、昨年末には初めて東京ドームでも行われた『MAMA(Mnet ASIAN MUSIC AWARDS)』、ストリーミングサービスMelOnが主催する『MMA(MelOn Music Awards)』など、世界的にも注目される場が数多く用意されている。

とりわけ、昨年末の『MMA2023』はすばらしかった。初のK-POP専用スタジアムとしてオープンしたインスパイア・アリーナにて、階段や椅子を効果的に使い絶妙なスタイリングで魅せたNewJeans、バンドサウンドに乗せてこれぞSMエンターテインメントと言いたくなるようなドラマティックなショウを披露したRIIZEやaespa、グループの勢いがそのまま表れたようなゴージャスな舞台を演じきったIVEなど、どの出演者も圧巻のクオリティで4時間があっという間に過ぎたのだった。韓国のメジャーなアワードからは、アイドルの新たな魅力をどれだけ引き出せるかという野心のようなものが感じられる。その日だけのアレンジやスタイリングによって、何度も聴いたヒット曲や目にしたコレオグラフィがさらなる可能性を手にし、結果的にファンダムのエンゲージメントはより一層高まっていく。昨今はアワードが乱立しすぎたことで演者側への負担が高まり、賞疲れというネガティブな傾向が生まれている側面は無視できないが、多くのオーディエンスがK-POPの加速し続けるビジネスサイクルの中にすでに組み込まれた一大イベントとして、各種アワードを楽しんでいるのは確かだ。

 

そのような中で、KMAのカラーだけは一線を画している。多くの音楽賞が音源セールスやストリーミング数、視聴者投票を重要な指標としているのに対し、KMAはジャーナリストやエディターたちによる選出を基本としているからである。ポップミュージックを専門とした大学教授らも選考員に名を連ねることがあり、そのラインナップはユニークだ。また、選出がジャンル別に行われるのも特徴的で、メタル/ハードコア、エレクトロニック、ラップ/ヒップホップ、R&B/ソウル、フォーク、ジャズといった、実に幅広い領域にスポットが当てられる。

ただ、そういった仕組みや設計をしてKMAの優秀性を語るつもりはない。アワードとは組織運営の側面を持っており、いち評者が選出するその年のベスト・レコードといったものとは全く別の難易度があるからだ。時代の風を読む力と個々の審美眼を携えながら、ある一定のコンセンサスを固めつつ選考を進めていく過程には、もちろん政治も折衝もあるだろう。そういった諸々を経ながら、結果的に選ばれた作品が何年も蓄積されていくことで、賞の信用は形成されていく。その点、KMAの受賞作は毎年絶妙なバランスで組まれており、やはりすばらしいと言わざるを得ない。実際、筆者の周囲でも「毎年KMAはチェックするようにしている」といった声をよく聞くし、ノミネート作品をひそかに楽しみにしている人も多いように感じる。決して華やかでメジャーな賞ではないが、韓国音楽のファンにとっては着実なブランド力を築いている賞であると言ってよいだろう。

KMA2024のレビュー

先日のKMA2024においても、そのセレクトは非常に興味深かった。NewJeansの2年連続三冠は話題になったが、Beenzinoの『NOWITZKI』も昨年発表された韓国音楽のレコードの中で抜群のクオリティだったのは間違いなく、Silica GelやCIFICA、jerdやyouraといった面々も予想通りの選出を果たした。Yujun Kimの2年連続となる(!)ベスト・ジャズ・ボーカル・レコードについては選考員側の強い意思を感じ驚いたが、何より個人的に嬉しかったのはKISS OF LIFEの新人賞であった。選考員からは、端的に意訳するならば「Y2Kのアメリカのヒップホップ/R&Bを吸収したK-POPらしさがありつつも、斬新な形でアウトプットすることで、K-POPがまだ新しさを生み出すことができることを証明した」といった選評が寄せられており、ファレル・ウィリアムスの往年のR&BサウンドがK-POPのユニークなフォルムで再構築されるかのようなKISS OF LIFEの魅力に憑りつかれていた私にとって、それは非常に共感を覚える結果であった。

 

というように、KMAは、一部のメジャーなK-POPに情報が偏りがちな韓国音楽において、魅力的な作品を一年間探し続けてきた愛好家同士におけるある種の「答え合わせ」のような側面を持っているように思う。さらに重要なのは、KMAの基本的なスタンスとして、メジャー/インディと分け隔てのないセレクトをしている点ではないだろうか。とかく“音楽性”を重視することで、メジャー作品を十把一からげに無視してしまう分断的価値観が蔓延りがちな音楽評論界において、良質な音楽であればメジャー/インディを問わず選考の俎上に乗せてきた。ダンス/エレクトロニック曲部門で過去にf(x)の「Electric Shock」や2NE1の「I Am the Best」が選出されている事例などは、まさにそれを証明しているだろう(もちろん、アイドルのファンダムから選考結果について度々批判されてきたという経緯もあってのことなので、この辺りについてはより複雑な背景を有しているのだが)。

ただ一方で、音楽性を称えるというKMAの信念を守り抜く反面、大衆への訴求については常に苦戦してきたことも確かである。現在は行政機関である文化体育観光部と準行政機関である韓国コンテンツ振興院がスポンサーについているが、昨年からは予算の関係上オフラインの授賞式はなく、YouTubeでの配信にとどまっている。スポンサーから支援されている予算はわずか1,000万ウォンで、現在はトロフィーの製作だけで底をついてしまう状況とのこと。これまでも数々のスポンサーから支援が生まれてはなくなるという事態が繰り返されており、2009年には授賞式の直前に文化体育観光部が支援をキャンセルし混乱に陥るという出来事もあった。

KMAの歴史とは金銭面の工面に振り回されてきた歴史でもあり、大勢の選考員たちも基本的には無報酬で審査に関わっているという。それでも、賞は少しずつ信用を積み重ねてきた。KMA2007でアルバム『Prestige』がダンス/エレクトロニック部門において選出された際の、オム・ジョンファの喜びの弁は有名である。彼女は「私の家にはたくさんのトロフィーがあるけれど、今日いただいたこのトロフィーが最も意味のあるものだと思うし、自慢したいです」とコメント。インディ・シーンで活躍している人たちはもちろんのこと、メジャーのフィールドで称賛を浴びてきたアーティストこそ、音楽的評価という点でKMAに対するひそかな憧れを抱いている者は多いのかもしれない。

昨今K-POPがグローバルにおいて注目を集めている中で、その音楽性が画一的であるという語りになぜか時々出くわすことがあるのだが、私はメジャー・シーンだけでもかなり多面的な顔を持っているのがK-POPだと思っているし、それだけでなく、インディ・シーンも含めると韓国音楽というのは実にさまざまな音楽性を持ち合わせている。KMAのような賞は、そのような多様性に対して常に光をあててきた。韓国音楽の魅力を幅広く知りたいという方は、ぜひKMAのオフィシャルサイトに宝箱のように敷き詰められたノミネート作品から聴いてみてほしい。そこには、まだまだ多くのオーディエンスに聴かれるべき、珠玉の傑作が並んでいる。

KMA2024オフィシャルサイト: https://koreanmusicawards.com/

 

つやちゃん
文筆家。音楽誌や文芸誌、ファッション誌などに寄稿。メディアでの企画プロデュースやアーティストのコンセプトメイキングなども多数。著書に、女性ラッパーの功績に光をあてた書籍『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)等

 

文:つやちゃん
編集:Mizuki Takeuchi