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エシカルファッションとは?その意味やファッション業界が抱える課題、取り組みに向けた方法を紹介

エシカルファッションとは?その意味やファッション業界が抱える課題、取り組みに向けた方法を紹介

エシカルファッションとは

エシカル(ethical)とは、英語で「倫理的な」という意味を持つ。エシカルファッションとは、環境、社会や倫理的な要因を考慮して生み出されたファッションおよび、ファッションのアプローチのことである。

関心が高まったきっかけ

エシカルファッションは、従来のファッション業界が環境や労働者への配慮に欠け、さまざまな側面で負の問題を生じさせていた状況をきっかけに関心が高まった。

特に、2013年にバングラデシュの首都ダッカ近郊ビルで発生した崩落事故(通称:ラナプラザの悲劇)は、エシカルファッションへの注目が高まったきっかけの1つと言えるだろう。バングラデシュには、各国のアパレル企業の「ファスト・ファッション」と言われる低価格の衣料品などを、安い人件費で手がける縫製工場がおよそ3800か所あり、衣料品の輸出額は世界3位と、「世界の縫製工場」とも呼ばれている。(※1)

ラナプラザの悲劇は、建物の建築基準的問題も去ることながら建物内に詰め込まれるように設置されていた縫製工場の稼働や、多数の低賃金労働者が死亡したことから世界的な注目を浴びることとなった。「コスパが良い」からと購入していた洋服が、低賃金かつ劣悪な環境で働かされていた労働者の犠牲の上に出来上がっていることを世界に示した出来事と言っても過言ではないだろう。

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※1 参考:NHK「1136人死亡 バングラデシュの工場ビル崩壊から10年」https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230424/k10014047681000.html

エシカル消費との関係

エシカルファッションは、エシカル消費と密接に関係している。第一に、エシカルファッションはエシカル消費のいち形態である。消費者庁はエシカル消費を「地域の活性化や雇用などを含む、人・社会・地域・環境に配慮した消費行動のこと」と定義している。(※2)また、ケンブリッジ大学が発行した『Consumer Phychology』の中の『Ethical Consumption』において、エシカル消費は「良心、倫理観、道徳にかなった消費活動」と定義されている。(※3/筆者訳)

つまり、エシカルファッションとエシカル消費は持続可能な未来に向けた努力の一環として相互に影響を与え合っている概念であり、どちらも消費者および企業の倫理的標準の向上を後押しする考え方である。

※2 参考:消費者庁「エシカル消費」
https://www.ethical.caa.go.jp/ethical-consumption.html

※3 参考:Cambridge University Press『Consumer Phychology 19 - Ethical Consumption from Part III - Societal Structures』
https://www.cambridge.org/core/books/abs/cambridge-handbook-of-consumer-psychology/ethical-consumption/22719A2E7D4BE9AFA354D39B0053D942 

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なぜエシカルファッションが重要なのか

エシカルファッションの重要性に関しては、あらゆる観点から述べることが可能である。特に、環境や人権の観点はエシカルファッションの重要性を検討する上で大事な観点となるだろう。後述するが、ファッション業界はその華やかな側面を有する一方で、流行の急速な移り変わりや原価の高騰下落などの影響を多大に受ける業界でもある。業界での競争力強化やトレンドへの対応と引き換えに、環境問題や労働者の人権問題から目を背けていた事実は否定できない。

しかし、業界の熾烈(しれつ)な競争の結果、ファッション業界における環境や人権の面で問題がついに一般消費者の目に触れる形で露呈することとなった。その例が、前述したラナプラザの悲劇や、近年テレビで目にすることも増えてきた途上国の土地に積み重なる服のゴミの山といった問題である。

上記の内容からも、エシカルファッションの推進が、環境問題の解決、そして労働者の権利を守るための重要な課題であることがわかるだろう。

なぜエシカルファッションが重要なのか

エシカルファッションをめぐる日本での動き

エシカルファッションという言葉は比較的最近使われ始めた言葉であるが、日本で注目され始めたきっかけとしては、前述の2013年のラナプラザの悲劇や、中国によるウイグル族への強制労働がある。他にも、欧米が問題視する新疆綿(しんきょうめん)をめぐり日本の大手ファストファッションブランドであるユニクロ(ファーストリテイリング)や無印良品(良品計画)が名指しされたこと(※4)なども主な理由として挙げられるだろう。

また、近年爆発的な人気を得ている中国初のファッション通販サイト「SHEIN(シーイン)」に対して、スイスのNGO団体パブリック・アイ(Public Eye)が「現地の労働法に反して危険な労働環境で過度な残業が発生していると報告」を行ったことが話題となった。(※5)

上記のような例から、日本でもエシカルファッションへの取り組みがなされてきた。環境省では、「ファッションのあり方をアップデートして、次世代の環境につなげよう」との文言の元、ファッション消費に関する問題や取り組みについて映像やイラストを用いながら分かりやすく解説している。

※出典:環境省Youtube「これからのファッションをサステナブルへ ~ Sustainable Fashion ~」

※4 参考:BUSINESS INSIDER「決断迫られるファストリ、無印。ほぼ全ての日本人が新疆綿使う現実どう考える?」
https://www.businessinsider.jp/post-233909

※5 参考:WWD JAPAN「話題の『シーイン』、労働環境の実態は? スイスの人権団体が『違法』と報告」
https://www.wwdjapan.com/articles/1464917

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ファッション業界の課題

エシカルファッションを考えるにあたって、ファッション業界が抱えている課題に着目することは必須であろう。エシカルファッションが重要である理由は環境と労働者の人権に大きく関わっていると前述したが、それらのトピックとファッション業界が具体的にどのような関係にあるのかここで見ていく。

環境への影響

まず、ファッション業界が環境に与える影響についてだ。南米チリでは、世界から集まった服がゴミの山になっている場所がある。

放置された大量の服は環境問題を引き起こしていることがわかっている。例えば、「服には自然界で分解されない化学繊維が使われているものも少なくなく、砂に埋もれていくと土壌を汚染」し、2021年には「野ざらしになった服が燃え、大規模な火災が発生。大量の有毒ガスが発生する事態」にも陥った。(※6)

また、消費者庁の資料によると「ファッション業界は毎年、930億立方メートルという、500万人のニーズを満たすのに十分な水を使用し、約50万トンものマイクロファイバー(石油300万バレルに相当)を海洋に投棄」しているそうだ。(※7)

このようにファッション産業は、土壌、空気、海といった人間を取り巻く自然環境に大きなダメージを与え続けていることが明らかになっている。

※6 参考:NHKみんなでプラス「私たちのファッションが途上国にしわ寄せ!?【インスタ画像でわかりやすく解説】」
https://www.nhk.or.jp/minplus/0019/topic072.html
※7 参考:環境省「ファッションと環境」https://www.caa.go.jp/policies/future/topics/meeting_006/materials/assets/future_caa_cms201_1209_02.pdf

使われるリソース

服を作るためには、水、石油などを始めとする原料から、金属(ファスナーなど)、プラスチック、コットンやポリエステルなどさまざまな素材が必要となる。材料が多岐に渡ることから、サプライチェーンも複雑に重なり合っていることもファッション業科の特徴として挙げられる。(※8)

※8 参考:環境省「SUSTAINABLE FASHION これからのファッションを持続可能に」https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/

廃棄物と汚染

環境省によると、ゴミとして出された服が再資源化される割合は5%程で、ほとんどはそのまま焼却・埋め立て処分され、大型トラックに換算すると約130台分を毎日焼却・埋め立てしていることになるそうだ。その重さは年間48万トンに及ぶという。(※8)

また、焼却による大気汚染や埋め立てによる土壌汚染はいうまでもなく発生しており、ファッションと「廃棄」や「汚染」は切っても切り離せないものとなっている。

ファッション業界の課題

労働者の権利

ファッション業界の課題として挙げられる2つ目の大きな課題は、労働者の権利である。私たちの手元に洋服が届いたとき、私たちはその服がどのように作られたのか、その服は誰によって作られたのかを想像することはほぼないだろう。

過酷な労働条件

2015年にはファッション業界の労働環境を描いた映画『ザ・トゥルー・コスト~ファストファッション 真の代償~』が公開された。

洋服の製造に携わる労働者たちが置かれる環境は予告編に目を通して知ってもらうことをお勧めする。予告編においてある労働者は「服を作るのがどれだけ大変か人は知りません ただ買って着るだけ でもその服は私たちの血でできています」と話す。

ファストファッションの製造に携わる労働者たちは、長時間労働、劣悪な就労環境、低賃金といった過酷な労働条件の中で労働を余儀なくされている現状がある。

児童労働と不当な賃金

ファッション業界における児童労働は、ファストファッションが抱える最も重大な問題とも言える。児童労働問題に取り組む認定NPO法人のACE(エース)はファッションビジネス専門誌 繊研新聞社のインタビューにおいて、インドのコットン生産産業において「児童労働者は35万人以上、そのうち約15万人は14歳以下、全体の60~70%が女子という報告があった」と明らかにしている。(※9)

また、デロイトトーマツのレポートには以下の記載がなされている。

児童労働の7割はコットン、カカオやエビなどの農林水産業に集中しています。米国労働省は2018年にインドなどの17カ国で綿花生産プロセスに児童労働または強制労働が存在すると報告しています。ただ、農場での綿花の受粉作業や収穫に加え、紡績、染色、刺繍等のアパレル製造工程における労働実態を最終財メーカーは把握しにくいのが実状です。

児童労働が無くならない要因の一つは、企業間の熾烈(しれつ)なコスト競争です。低賃金な地域での児童労働を伴う下請工場が収益を支えてきました。しかし、ひとたび児童労働が発覚すれば、ブランドの不買運動を招きます。米国大手アパレル企業では1兆円超の売り上げ減少となった試算もあります。

(※10)

上記の内容にもあるように、児童労働はコストを少なく抑えることができるといった面から根絶に至ってないことが見てとれる。また、各アパレルメーカーが複雑なサプライチェーンの中でどのような労働が行われているのかを把握しきれていないことも児童労働の問題と密接に関わっていると考えられる。

※9 参考:繊研新聞社「【ファッションとサステイナビリティー】“児童労働”問題の現在地は? 認定NPOのACEに聞く」
https://senken.co.jp/posts/fb-sustainability-ace
※10 引用:デロイトトーマツ「繊維・ファッション業界の指針となるSDGs 第10回 児童労働に対する繊維業界の責任」
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/strategy/articles/cbs/sdgs-senken-10.html

エシカルファッションの成立条件

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エシカルファッションの成立条件

ファッション業界が抱える問題からもわかるように、エシカルファッションの推進は急務になっているとも言える。そのような現状の中で、イギリスロンドンに本拠地を置く「Common Objective」は持続可能なファッションをビジネスの柱に据え事業を展開している。ファッションにおける持続可能性とは、環境問題や労働環境に配慮したビジネスに取り組むことであり、エシカルファッションの推進と同義と捉えて差し支えないだろう。

「Common Objective」は、持続可能性を商業的、社会的、環境的という3つの側面にわたる成功と定義しており、具体的には以下のような項目を持続可能なファッションの成立条件として定めている。

・Protecting the Environment:環境保護

・Recycling & Waste:リサイクルと廃棄物(再利用やアップサイクルの推奨)

・Environmentally Friendly Materials:環境に優しい素材の使用

・Fair Trade:フェアトレード

・Decent Working Conditions:健全な労働環境

・Support Traditional Skills:伝統の技術のサポート

・Ethical Sourcing & Supply Chain Management:倫理的な調達とサプライチェーンの管理

・Animal Friendly:動物に優しく

(※11/筆者訳)

これらの項目が遵守されているほど、エシカルファッションに近づけると言える。環境だけ、人権だけ、人間だけ、新しさだけを優先するのではなく、多様な観点を重視したアプローチが必要だ。

※11 参考・引用:Common Objective HP「Sustainability Definitions」筆者訳 https://www.commonobjective.co/how-co-works#sustainability-definitions-tab

エシカルファッションの実践に向けて

エシカルファッションの実践に向けては、政府、企業、個人など多様な面からのアプローチが必要になってくる。個人ができる取り組みに関しては後述するが、政府や企業などの消費者側ではない機関の取り組みも非常に重要になってくる。

本文中で何度か言及したが、環境庁や消費者庁はエシカルなファッション消費を促している。政府がそれらを推進することで国民に一定の影響力を与えることが考えられるだろう。

また、下請け企業やメーカーの取り組みも必須だ。熾烈な価格競争から脱却し、ファッション産業に関して独自の戦略を生み出すことが重要であろう。しかし、言葉で言うのは簡単でも、実践に移すのは困難だ。競争から抜け出そうと、既存のやり方を見直している間に他の企業に追い越され企業そのものの存亡にも影響を与えることがあるからだ。

そのような事態を避けるためには、やはり政府の力も必要となってくるだろう。サプライチェーンの透明化やエシカルファッションの推進を行っている企業への優遇や、下請け企業への支援などが挙げられる。また、サプライチェーンを把握するNPOなどの活動もエシカルファッションの実践に欠かせない重要な要素の一つだ。

エシカルファッションに取り組んでいる代表的なブランド

エシカルファッションに取り組んでいる代表的なブランドには、パタゴニアやステラマッカートニーなどが挙げられる。特にパタゴニアは早くから環境問題の解決に取り組んでいるだけではなく、フェアトレードプログラムに参加し6万6000人の労働者を支援している。

パタゴニアは自社HPにおいて、自社のフェアトレード事業について以下のように記載している。

アパレル労働者は世界で最も低い賃金で働いています。パタゴニアは製品を製造する工場を所有していないため、労働者の賃金を管理することはできません。しかしフェアトレードを通して、彼らの暮らしを向上させる具体的な恩恵を提供することができます。

パタゴニアはフェアトレード・サーティファイド縫製ラベルの付いた1点の製品ごとに賞与(プレミアム)を支払います。この賞与は工場の労働者に直接送られ、彼らがその用途を決定します。

(※12)

また、かつて6年間「イッセイ ミヤケ メン(ISSEY MIYAKE MEN)」のデザイナーであった、高橋悠介氏がディレクターを務める「CFCL」は国内屈指のエシカルファッションに取り組むブランドである。

CFCLはClothing For Contemporary Life(現代生活のための衣服)の頭文字を取ったものである。ソフィスティケーション、コンシャスネス、コンフォート&イージーケアを3つの柱に据える同ブランドが掲げる理念はHPで以下のように記載されている。

CFCLは、Clothing For Contemporary Life(現代生活のための衣服)の頭文字です。3Dコンピューター・ニッティングの技術を中核に据え、時代に左右されない衣服を提供します。同時に、衣服としての機能性、環境への配慮、最適な素材の選択、サプライチェーンの透明性を追求します。これが、今私たちの考える現代生活に求められる衣服の定義です。実験的で先進的な姿勢を携えながら、今の時代を生きる人々のための製品を提案します。

(※15)

また、上記の理念の実施のために、「社員自身が心身ともに健全で、長期的かつ、常に柔軟に会社経営が行えるよう、多様性とバランス感覚のある職場環境を構築し、不正や腐敗を未然に防ぐ仕組みを取り入れ」るとしている。(※15)

CFCLは「B Corporation」を日本のアパレルブランドで初めて取得している。(※13)B Corporationとは、アメリカを拠点にするNPO「B lab」が設計している国際認証であり、透明性・説明責任・持続可能性・社会/環境パフォーマンスの分野において248の評価基準を設けている。(※14)前述のパタゴニアやTHE BODY SHOPなども認証を得ているが、その取得ハードルは非常に高い。

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CFCLは日本だけではなく国際的に見てもエシカルファッションの先端をいくブランドとして台頭している。

このように海外だけではなく、日本でもエシカルファッションに取り組むブランドは増えている。また、ファッションブランドのみならず伊藤忠商事が環境系ベンチャー企業の「ecommit(エコミット)」と提携し繊維製品の回収サービス「Wear to Fashion(ウェア・トゥ・ファッション)」を開始するなど、サプライヤーや企業によるエシカルファッションへの取り組みも見られる。

※12 引用:Patagonia「フェアトレード」
https://www.patagonia.jp/our-footprint/fair-trade.html
※13 参考:CFCL「CONSCIOUSNESS」
https://www.cfcl.jp/pages/consciousness
※14 参考:WWD「ビーコープ (B CORP)」
https://www.wwdjapan.com/sustainability_tag/b-corp
※15 引用:CFCL「CORPORATE INFORMATION」
https://www.cfcl.jp/pages/corporate

私たち一人ひとりにできること

エシカルファッションの推進に向けて私たちにはどのような取り組みができるだろうか。エシカルファッションであることの認定バッチがついている洋服を買ったり、エシカルファッションの取り組みを行っているブランドを探してそこで買い物をしたりといったことが代表的な取り組みだろう。

しかし、エシカルファッションはファストファッションと比べれば値が張ることは否定できない事実だ。安くて良いものを買えるのであればそれを購入するのは消費者の合理的な選択だという点も考慮する必要があるだろう。給料が上がらず生活水準が向上しているとは言い切れない日本社会の中で、今まで購入していた水準より高価なものを購入することは難しいかもしれない。

ただ、私たちはニュースや動画、SNSなど多大に発展したあらゆる媒体を通してファッション産業に従事している労働者の現状について知ることができる。自分が身につけているものがどのような人々によって、どのような過程で作られているのか、まずは実際に知ることでファッションとの関わり方を変えていくきっかけになるのではないだろうか。私たち一人ひとりにできることは、現状を知り、他者のことを想像し消費の前に1度立ち止まって考えてみることだ。

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まとめ

エシカルファッションという言葉は、自分とは馴染みがなく遠い言葉のように考えてしまうかもしれない。しかし、簡単に言えばそれは「環境を保護し、あらゆる人々の権利を守った上で出来上がった服」だ。それらが守られていない環境で出来上がったものよりも、穏やかな環境の中で出来上がったものを身につけたいと考える人は案外たくさんいるのではないだろうか。

 

文:小野里 涼
編集:吉岡 葵