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食べ続けるためにできることは?フードロス&ウェイスト|小林涼子コラム

私たちは基本的に毎日3回、単純計算でも1年間に1,095回の食事をする。

1人で空腹を満たすために食べる「食事」、みんなでワイワイ楽しく食べる「食事」、一概に食事といっても様々なシーンがあるだろう。

けれど、あなたは昨日1日のなかで、目の前のお皿の中身を全て食べただろうか?

冷蔵庫の中に置いたままの食材はないだろうか?

世界では貧困や紛争、様々な要因で食糧が得られず、飢餓に陥っている人が沢山いる。

そんなニュースを横目に、自分たちはまだその実感を得られず、生産された食糧を毎食消費しきれず、一部を廃棄せざるを得ない状況にある。にもかかわらず、何を食べようか迷うような飽食の毎日を過ごしている。私たちは一度、この現状に向き合うべきではないだろうか。こんな日々がずっと続くような気がしているが、本当にそうだろうか。

日々沢山のメディアで見聞きするようになった「食品ロス」や「フードロス」。AGRIKO FARMを営むなかで、生産者であり、消費者でもある立場から改めて考えてみることにした。

身近になってきたフードロスという言葉

日本でも耳にする機会が多い「フードロス」という言葉。レストランでは「フードロス削減のため完食にご協力を」と呼びかけられ、スーパーに行けば「フードロス対策で、賞味期限間近のものを販売」「不揃いな野菜を販売」のポップが並ぶなど、食品にまつわる様々なシチュエーションで使われていて、私たちにとっても馴染み深い言葉になってきているのではないだろうか。だが以前、外国に暮らす友人との会話の中で、「フードロス」という言葉への認識の違いに気付かされた経験がある。

日本や海外のフードロス

日本における「フードロス」は、フードサプライチェーン(※1)の全体で発生するものを意味する場合が多いようだ。「食品ロス」は、本来食べられる状態であるにもかかわらず廃棄される食品を指すので、正しいように思う。しかし、国連食糧農業機関(FAO)では、「食品ロス」は「フードロス」ではなく、「フードロス&ウェイスト(Food loss and waste) 」と呼ばれているのだ。

「フードロス」と「フードウェイスト」、そして「食品ロス」。一体何が違うのか、改めて確認してみたい。

※1 用語説明:製造・加工・流通・消費・廃棄までの一連の流れを指す

参照:NPO法人日本もったいない食品センター「食品ロスとフードロス」
https://www.mottainai-shokuhin-center.org/foodloss/ を元に筆者作成

フードロス(Food loss)

フードロスとは、国連食糧農業機関(FAO)によると、“フードサプライチェーンにおいて製造・加工・流通の過程でのみ発生するもの”と定義されている。(※2)つまり、消費を含まない状態を指しており、日本でいう「フードロス」は、厳密に言えば、世界基準とは少し異なるようだ。

国内のフードロスの例を挙げると、傷や曲がりのある、いわゆるB品野菜など、サイズや見た目による規格外品の廃棄、食品メーカーの「3分の1ルール」という、賞味期限の前半3分の1の期間しか商品を小売店へ納品できず、小売店も賞味期限の前半3分の2の期間しか消費者に販売できないというルールなどがある。規格外として販売ができないものや、業界独自のルールに当てはまらないものなど、「フードロス」にはさまざまな要因が絡んだ廃棄物がある。

※2 参考:ヤフーニュース「「食品ロス」と「フードロス」は違う?その理由をSDGsとFAOの定義から読みとく」
https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20210702-00245977

フードウェイスト(Food waste)

フードウェイストとは、フードサプライチェーンにおいて消費後または未消費の状態で廃棄される食品全体のことを指す。日本語でいうと、廃棄される食品の総称である「食品廃棄物」の一部に含まれる。

「食品廃棄物」と言われると、飲食業者さんがメインで、自分とはあまり関係ないことに感じてはいないだろうか。たしかに、スーパーやコンビニで陳列された弁当や惣菜の賞味期限商品切れによる廃棄、レストランの食べ残しによる廃棄なども含まれているが、じつは家庭で発生する生ゴミなどの廃棄も、ここに含まれている。こちらは、上で説明したフードロスとは違い、主に消費者の判断(買う、売る)や行動(食べる、食べ残す)によって生じる。

フードロス&ウェイスト(Food loss and waste)

「フードロス」という言葉は、世界共通と思い込んでしまっていたが、実際は、日本語とは少し異なった意味を持ち、私にとって勉強になる貴重な経験だった。改めて語源を知った上で、国際基準に基づき考えてみると、フードサプライチェーンすべての工程を含む日本語の「食品ロス」を英語にするときは、Food loss だけではなく、「フードロス&ウェイスト(Food loss and waste)」と表現されるのが1番正しいようだ。

このように、なんとなく知っている言葉でも意味を正しく知ることで、取り組みを細分化して深く考えることもできるのではないだろうか。また、SDGsの目標12「つくる責任つかう責任」でも、フードロスとウェイストの両面から掲げられているように、どちらも重要かつ取り組むべき課題である。

食品ロス(Food loss and waste)の量

日本における食品ロス(Food loss and waste)は、農林水産省の統計によると、その量なんと年間522万トン。日本だけで見れば過去最少ではあるものの、家庭で廃棄される食べ物の量ランキングでは世界14位と、まだまだ日本の順位が高いのが現状だ。(※3)

ここまで大きな数だとピンと来ないかもしれないが、自分ごとに置き換えてみると、日本人のひとりあたりの食品ロス量は1年で約42kgであり、これは「日本人ひとりあたりが毎日お茶碗一杯(114g)ほどのご飯を捨てている」状態なのだ。

その食品ロスはどこから出ているのだろうか。例えば、農林水産省の発表によると、2020年のスーパーやコンビニの売れ残り、飲食店の廃棄などの事業系食品ロスは、年間275万トン。賞味期限切れや家庭の食べ残しなどの家庭系食品ロスは年間247万トンも排出されている。この数字からわかるように、飲食に携わる事業だけでなく、全体の約半分にあたる量が一般家庭から排出されており、私たち1人ひとりの生活からも大量の食品ロスが出ているのだ。

私たちの生活に密接した「家庭系」のその中身をもう少し詳しく紐解くと、その内訳は「野菜類」が47.7%、「果実類」17.8%、「調理加工食品」10.2%となっており、その5割近くを野菜類が占めているのだとか。(※4)家庭系の食品ロスと言われると、主に食べ残しが多いと予想していたのだが、その半分が食材そのものだったことは、正直驚きの調査結果だった。

冷蔵庫で冬眠している賞味期限切れの食品、食べたくて買ったのに食べきれなかった果物、さらには、じゃがいも、玉ねぎ、牛蒡(ごぼう)、にんじん…。長期保存ができるからと買い込んで芽が出てしまったり、腐らせてしまったり、誰しも心当たりがあるのではないだろうか。

※3 参考:農林水産省「食品ロス量が推計開始以来、最少になりました」
https://www.maff.go.jp/j/press/shokuhin/recycle/220609.html
※4 参考:農林水産省「平成26年度 食品ロス統計調査(世帯調査・外食産業調査)」https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/syokuhin_loss/

AGRIKO FARMで収穫されたじゃがいも

私たちとフードウェイスト

普段はアクアポニックス栽培(養殖×水耕栽培)で主に葉物野菜を作っているAGRIKO FARMだが、実は、今年2月末から6月末にかけてじゃがいもを生産した。畑を耕し、元肥を入れ、土を整え、種芋を植えてから約4ヶ月。その間、雑草を取り、虫と戦い、土寄せ、追肥と、土の中に埋まるまだ見えぬ芋を想像しながら、1株1株手間と愛情をかけた甲斐あって、試し掘りの1株目(写真)から種芋を除くと、大きな芋が5つ、小さな芋は7つ収穫できた。どの株も同様に良く実り、沢山の収穫ができたように思う。

AGRIKO FARMで収穫されたじゃがいも

芋の数だけを見ると、1つの芋から約12個も収穫できるなんて!と思う方もいるかも知れないが、栽培前の準備に4ヶ月かかってしまったり、栽培期間での人件費や資材などのコストの高さを考えると、「芋一つでこんなに手間や時間がかかるのか」と正直驚きを感じざる得ない。

現在スーパーに並ぶじゃがいもはだいたい1kgで160円であり、買い物に来た私としては、安いに越したことはないと思う反面、約半年にわたる農家の労働や、高騰する資材費用を考えると、これは適正価格なのだろうかと疑問を感じる。

これは、お米においても同じである。

5月の田植えから約4ヶ月。天候に合わせて水量を毎日調整し、ようやく収穫期を迎えても、稲刈り直前に台風が来たり、時には猪が入ると「臭くて食べられない!」と、一夜でダメになることもある。稲作自体は4ヶ月ほどだが、田おこしやしろかきなどの田んぼを整える作業、育苗、ハウスや農機具の整備、収穫後の脱穀、精米、乾燥…と、実るまで八十八の手間がかかるから「米」という漢字の由来になったと言われるほど、労力がかかっているのだ。しかし、お茶碗のお米を食べている時に、そんなことを考える人はどれだけいるだろうか。正直、私も農業に携わるまで、考えたことはなかった。

食べることが大好きで外食に行く機会も多く、時には頼みすぎたり、買いすぎてしまうこともあった。もちろん注文したものは食べきろうと思うし、もったいないとは思うものの、「しょうがない」とどこか他人事だったのかも知れない。

しかし、生産をしてみて思うのは、米一膳を食べることは10分もあれば容易にできるのに、一膳分のお米を作るのは容易いことではないということだ。

なぜ食品ロス(Food loss and waste) を語るのか

食料そのものを無駄にするということが悪いのはわかる。だが、食品ロスをしてしまうことの本当の意味を理解しているだろうか。

例えば、食べきれずに無駄にしてしまったその食料を育てるために働いた農家の人件費や土地代、作物を育てるための水資源や飼料、肥料、輸送する燃料などを想像してみてほしい。

米少し、芋1つ、パンひと切れ…実際に目で見える部分は少しかもしれないが、目の前の食べ物を無駄にするということは、その背景にある沢山の労力、環境資源やエネルギーが無駄になっているのだ。さらには、それを処理する為にさらなるエネルギーやコストが必要となる。

スーパーに行けば食材が当たり前のように並び、お金を出せば何でも買える気がしている。さらに、お金を出したんだから、それをどうしようと勝手だろうと思う人もいるかもしれない。しかし、例えば、鳥インフルエンザが蔓延した時には一瞬で卵が高騰し、鶏肉がスーパーから消えたように、生産そのものができなければ、食べることすら出来ないのだ。

毎日何を食べようかと迷えるほどに飽食な状態は、当たり前ではない。あなたの目の前に届くまでに生産から運搬、加工、小売りと、たくさんの人たちの努力とバトンがつながってきているのだ。フードサプライに携わる全ての方々に感謝すると同時に、その一員である消費者として「冷蔵庫の中で冬眠している食品はないか」「買い物する際には安いからと無駄に買いすぎていないか」と、自分達のできることからまずは考えてみてほしい。

 

小林涼子
俳優・株式会社AGRIKO代表取締役
8クール連続でドラマに出演し話題を集める。
直近の主な出演作品は、映画「わたしの幸せな結婚」、4月期TBS火曜ドラマ「王様に捧ぐ薬指」、7月スタートテレビ朝日系木曜 21時「ハヤブサ消防団」。
様々な経験を生かし、J-WAVEラジオのナビゲーターとしても活躍。
俳優業の傍ら、家族の体調不良をきっかけに自身が代表の株式会社AGRIKOを設立。
世田谷区桜新町にて農福連携ファームを運営。

 

文:小林涼子
編集:たむらみゆ