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ニューロダイバーシティとは?神経や脳における多様性と取り組み事例を紹介!

ニューロダイバーシティとは?

ニューロダイバーシティ(Neurodiversity)とは、英語で脳や神経を表すNeuroと多様性を表すDiversityが組み合わさった言葉である。日本語では「神経多様性」と訳されることが多い。

1990年代からは「すべての人々の受け入れと包摂を促進することを目的」とするニューロダイバーシティ運動も勃興している。(※1)

ニューロダイバーシティ(神経多様性)の定義

経済産業省のレポートによると、ニューロダイバーシティは「脳や神経、それに由来する個人レベルでのさまざまな特性の違いを多様性と捉えて相互に尊重し、それらの違いを社会の中で生かしていこう」(※2)という考え方および取り組みのことを指す。

ニューロダイバーシティへの関心が高まる背景

ニューロダイバーシティとはその言葉の通り、「多様性」に関連する概念である。近年では、ジェンダーや民族、人種、性的指向といったあらゆるカテゴリーにおいて多様性を尊重するべきであるという価値観が広まってきている。

ニューロダイバーシティへの関心が高まっている背景にも、そのような多様性の尊重の一面があるだろう。分野を問わず、影響力があり人数も多いマジョリティが作り上げてきた社会において、マイノリティ側に属する人々は包括されない生きづらさを感じながら生活することを余儀なくされてきた。ニューロダイバーシティへの関心の高まりは、これまであまり目を向けられることがなかった発達障がいの人々を始めとする多様な人々との共生を目指す社会の始まりを意味する。

ニューロダイバーシティの主要なタイプと特徴

ニューロダイバーシティ(神経多様性)において取り上げられる例として、主に以下のようなものがあげられる。

・自閉スペクトラム症(ASD):言葉や、言葉以外の方法、例えば、表情、視線、身振りなどから相手の考えていることを読み取ったり、自分の考えを伝えたりすることが不得手である、特定のことに強い興味や関心を持っていたり、こだわり行動があるといったことが特徴付けられる(※3)

・注意欠陥・多動症(ADHD):発達水準からみて不相応に注意を持続させることが困難であったり、順序立てて行動することが苦手であったり、落ち着きがない、待てない、行動の抑制が困難であるなどといった特徴が持続的に認められ、そのために日常生活に困難が起こっている状態(※4)

・限局性学習症(LD、学習障がい):全般的な知的発達には問題がないのに、読む、書く、計算するなど特定の学習のみに困難が認められる状態(※5)

 

上記の例は、発達障がいの主な例である。ニューロダイバーシティでは上記のような発達障がいにおいて生じる現象を「能力の欠如や優劣ではなく、『人間のゲノムの自然で正常な変異』」(※1)と捉える考え方でもある。

ニューロダイバーシティと個人の特性

ニューロダイバーシティの取り組みの例に挙げられる「自閉スペクトラム症」や「注意欠陥・多動症」、「限局性学習症」などの発達障がいは「幼少期から現れる発達のアンバランスさによって、脳内の情報処理や制御に偏りが生じ、日常生活に困難をきたしている状態」(※6)のことであり、「特定のことには優れた能力を発揮する一方で、ある分野は極端に苦手といった特徴」(※6)が見られる。その特性のために、発達障がいは今まで「周りに馴染めない特性」とされてきた。

しかし、ニューロダイバーシティの考え方において上記の発達障がいの特徴はネガティブなものではなく、社会で生かすことのできる「個人の特性」としてポジティブに解釈される。 

※1 参考:Harvard Health Publishing「What is neurodiversity?」https://www.health.harvard.edu/blog/what-is-neurodiversity-202111232645
※2 参考:経済産業省「イノベーション創出加速のためのデジタル分野における『ニューロダイバーシティ』の取組可能性に関する調査」p.3
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/neurodiversity/neurodiversityreport2021.pdf
※3 引用:NCNP病院 国立・精神神経医療センター「自閉スペクトラム症(ASD)」
https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/disease06.html
※4 引用:NCNP病院 国立・精神神経医療センター「ADHD(注意欠如・多動症)」
https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/disease07.html
※5 引用:国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 知的・発達障害研究部「限局性学習症(学習障害:LD)」
https://www.ncnp.go.jp/nimh/chiteki/about/disability
6 参考:NHK福祉情報サイト ハートネット「大人の発達障害ってなんだろう? ハートネットに寄せられた声から」
https://www.nhk.or.jp/heart-net/hattatsu-otona/about/

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ニューロダイバーシティと社会

LGBTQ+をはじめとする性に関わるダイバーシティ、人種のダイバーシティと同様に、ニューロダイバーシティとは神経学的な特徴の多様性を認めて社会で自分らしく、生きやすい環境づくりを目指す考え方である。

ニューロダイバーシティにおいて少数派の人々(=ニューロマイノリティ)は社会においてどのような位置付けであったのか、そして社会とどのように関わってきたのだろうか。

ニューロダイバーシティの人々の権利と社会的認識

これまでニューロダイバーシティが重要視されていなかった社会においては、ニューロマイノリティの基本的な権利は十分に認められていない状況にあった。

全国各地で差別に関する事例が、当事者あるいはその家族、関係者への聞き取りの元に取りまとめられている。その中には、ニューロダイバーシティにおいて少数派である発達障がいを持つ人々に対する差別に関する事例も多数存在している。

警察や図書館などでサポートを受けられるよう、公務員に自閉症について研修を受けてもらいたいと言ったら、「本が読めない自閉症の子を図書館へ連れて行く必要があるかな」と言われたことがあります

(※7)

中学の個別支援級担任。LDの息子に計算ミスをしたと頭を叩く。漢字は努力して覚えろと言う。

(※8)

ニューロダイバーシティの取り組みにおいては、発達障がいの人々への理解は必要不可欠なものだ。しかし、上記にあるようにニューロマイノリティである発達障がいの人たちは、基本的な人権や働く権利などを軽視されたり、無視されたりしている状況が分かる。

※7 引用:千葉県「条例制定当時に寄せられた『障害者差別に当たると思われる事例』(その他)」
https://www.pref.chiba.lg.jp/shoufuku/iken/h17/sabetsu/sonohoka.html
※8 引用:横浜市「(障害者差別事例3)発達障害 学校等」
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/fukushi-kaigo/fukushi/sabetsu/jireikensaku/gakko/hattasu/0459.html

ニューロダイバーシティにおけるスティグマ

ニューロマイノリティの人々には、さまざまなスティグマが与えられてきた。スティグマとは、「精神疾患など個人の持つ特徴に対して、周囲から否定的な意味づけをされ、不当な扱いをうけること」(※9)を指し、日本語の「差別」や「偏見」などに関連する言葉だ。

ニューロマイノリティへの差別の事例は前段落で紹介したが、「偏見」の事例にはどのようなものがあるのか。神戸大学大学院人間発達環境学研究科 鳥居研究室は、高校生を対象に「発達障がいの基本的理解」を促進するためのプログラムを提供している。

漫画形式で展開される当該コンテンツの中には、ADHDと診断された生徒に対して「けんとくん、ADHDなのじゃあ、あばれちゃうの?」といった発言や「けんとくんは サッカーがすごくうまいでしょう。それでも、ADHDなの?」といった同級生の発言が掲載されている。(※10)

ADHDの人は理由なく暴れるといったものや、特技がある人はADHDではないという表現から、発達障がいに対するスティグマが見て取れる。ここでは、神戸大学の研究を参照したが、他の発達障がいの人々に対しても根拠のないスティグマが存在しているのが現状である。

また、スティグマにもいくつかの種類があり、国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センターは就職活動を例にとってスティグマの紹介をしている。

・知覚したスティグマ:「多くの人は、精神疾患の診断のある人は就労できないと考えている」と感じる時

・経験したスティグマ:実際に就職活動で受けた差別・偏見の体験

・予期するスティグマ:知覚したスティグマや経験したスティグマのために、「ハローワークに相談に行っても精神疾患の診断が原因で嫌な思いをするのではないか」と不安になる

・内面化されたスティグマ(あるいはセルフスティグマ):精神疾患に関する誤った情報を自分自身に当てはめて、「自分には就職する価値がない」と思い込む

(※9)

※9 参考:国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域精神保健・法制度研究部「スティグマについて」
https://www.ncnp.go.jp/nimh/chiiki/about/stigma.html
※10 参考:神戸大学大学院人間発達環境学研究科 鳥居研究室「スティグマ改善プログラム」
http://www2.kobe-u.ac.jp/~snowbird/stigma.html

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ニューロダイバーシティの利点

ニューロダイバーシティの促進は、性的少数者や人種のダイバーシティを求める運動と比べてまだまだ進んでいないのが現状である。利点の有無に関わらず、ダイバーシティを促進するのは当然のことである。しかし、ダイバーシティの促進とともに社会・当事者にメリットがもたらされるならばそれに越したことはないだろう。

それでは、ニューロダイバーシティに取り組むことで、社会にどのような利点をもたらすのだろうか。

ニューロマイノリティーの強みとスキル

経済産業省が発表したニューロダイバーシティに関する資料では、既往研究に基づいてニューロマイノリティーの人々にはさまざまな強みがあることが記載されている。

例えば、以下のようなものだ。

自閉スペクトラム症(ASD):

・細部への注意力が高く、情報処理と視覚に長けており、仕事で高い精度と技術的能力を示す
・論理的思考に長けており、データに基づきボトムアップで考えることに長けている

注意欠如・多動症(ADHD):

・リスクを取り、新たな領域へ挑戦することを好む
・ 洞察力、創造的思考力、問題解決力が高い


限局性学習症(LD、学習障がい):

・脳が視覚処理に長けており、イメージで捉える傾向が強く、より多角的に物事を考えられる
・アイデアを繋げて全体像を把握する能力に長けており、データのパターンや傾向を見抜くこと、洞察力や問題解決能力に長けている

(※11)

今まで、ニューロマイノリティーの人々に対して「他の人と違うから一緒に働きにくい」「普通の子と違って扱いにくい」といった意見が多く浴びせられていたが、むしろ「他の人と違う」という部分こそが、ニューロマイノリティの人々の強みでありスキルであることが研究で明らかになってきているのである。

イノベーションと創造性への寄与

ニューロマイノリティの人々の雇用には、彼らの特性を生かすための環境づくりや周囲の理解が欠かせない。特に、心理的安全性の確保はニューロマイノリティが職場で働く上でもっとも重要な指標の1つとして考えられる。心理的安全性とは、「失敗したり新しい挑戦をしても白い目で見られない文化的環境」を指す。

経済産業省のニューロダイバーシティに関する報告書から、

「得手不得手のある発達障がいのある方が活躍できている企業では、『できないことよりできることで評価する』『できなかったときは、なぜうまくいかなかったのか一緒に考える』」という工夫が実践されていることがわかっている。

このような工夫は職場の心理的安全性を高め、ニューロマイノリティが会社の生産性を高めていることにもなるだろう。

結果として、「ニューロダイバースなチームは、そうでないチームに比べ、約30%効率性 が高い」「障がいを持つ同僚の『仲間』またはメンターとして行動する『バディシステム』を実装している組織では、 収益性は16%、生産性は18%、顧客ロイヤリティは12%上昇している」ことが前述の経産省の報告書に記載されている。(※11)

つまり、ニューロダイバーシティが実現されている組織では、そうではない組織と比べて、より良質なイノベーションが生じていることが分かる。

ニューロダイバシティがチームと組織に与える影響

先の経産省の報告書には、Harvard Business Reviewの研究結果から、ニューロマイノリティの人々を採用することで、「発達障がいのある人物のみならず、以前から雇用されている社員においても、社員のエンゲージメントの向上や退職率低減にポジティブな影響が生じている」といった報告もなされている(※11)。

ニューロダイバーシティを促進することで、イノベーションや創造性といった業務成果だけに留まらず、チーム全体への好影響や成功につながるといった研究成果も出てきている。

ただ、このようなチームへの好影響や成功には、本文内でなんども言及しているようにニューロマイノリティへの配慮が必須である。特にチームにおいて、心理的安全性や物理的環境を整えようとする際、リーダーシップ教育が欠かせないことがわかっている。ここで必要とされているリーダーシップとは、

「強権的なリーダーとは相反し、自分の得手不得手を理解しており、自分にはない部下の長所を素直に認め、活かせるリーダーの姿勢」

を指す。また

「自分の弱さや限界を開示できる謙虚なリーダーのもとでは、部下もまた弱さや限界を開示して援助希求をしやすくなり、結果として心理的安全性が高まり物理的環境の整備に繋がる」

と考えられている。(※11)

心理的安全性の確保や、謙虚なリーダーの姿勢など複数の要素が揃って初めて、ニューロマイノリティの当事者としては今まで認められていなかった自分の特性を発揮し認めてもらうことができ、企業としてもイノベーションの加速化や退職率の低減につなげることができるという利点が生じるのだ。

※11 参考:経済産業省「イノベーション創出加速のためのデジタル分野における『ニューロダイバーシティ』の取組可能性に関する調査」p 3.9
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/neurodiversity/neurodiversityreport2021.pdf

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ニューロダイバーシティのためのサポート

ニューロマイノリティの人々は、集団に馴染めなかったり、規則を守ることが極度に苦手だったり、多種多様な特性を持っている。ニューロダイバーシティを促進していくためには、事細かな周囲のサポートが必要になってくる。

個別のニーズに対応した支援

ニューロダイバーシティにおいて、一般的にニューロマイノリティとされる発達障がいの特徴について政府は以下のような例をあげている。

自閉スペクトラム症(ASD)

・言葉の発達の遅れ
・コミュニケーションの障害
・対人関係・社会性の障害
・パターン化した行動・こだわり

注意欠陥・多動症(ADHD)

・不注意(集中できない)
・多動・多弁(じっとしていられない)
・衝動的に行動する(考えるよりも先に動く)

限局性学習症(LD、学習障がい)

・「読む」、「書く」、「計算する」等の能力が、全体的な知能発達に比べて極端に苦手

(※12)

ここに記載した以外にも、ニューロマイノリティの種類はまだまだあり、特徴も記載しているものよりはるかに多種多様である。ニューロマイノリティの人々の特徴を配慮できていない環境においては、学校であれば不登校や退学につながることや、職場であれば休職や退職、ひいては就職困難につながることもある。

そのため本人や周囲の人と話し合ったり、一緒に過ごしたりしていくなかで、1人ひとりの特性を理解し、個別のニーズにあった支援を行うことが、ニューロダイバーシティ実現のための肝となってくる。

※12 引用:政府広報オンライン「発達障害って、なんだろう?」
https://www.gov-online.go.jp/featured/201104/index.html

コミュニケーションと相互理解の促進

ニューロダイバーシティの実現に際して、一方的にニューロマイノリティを理解しようとしたり、偏見やスティグマに基づいて政策を決めていると失策をもたらす可能性もある。

ニューロマイノリティの人々の中にはコミュニケーションを苦手とする人たちもいる。

そのため、単純に「コミュニケーションを取りましょう」と歩み寄ることは簡単な方法ではないかもしれない。ただ、個別の特徴に向き合った対応がどうしても必要になってくる場面はあるだろう。そして、個別化する過程によって生じる相互理解や、結果としてもたらされるコミュニケーションはニューロダイバーシティを実現する大きな1歩になる。

ニューロダイバーシティの取り組み事例

性的マイノリティへの支援や、人種差別の解消など、ダイバーシティの実現に関してあらゆる分野で取り組みが行われているが、ニューロダイバーシティの分野ではどのような取り組みが行われているのだろうか。

企業・団体における先進的な取り組み

ニューロダイバーシティに関して海外ではマイクロソフトコーポレーション、Google LLC、SAP SE、IBMコーポレーションなど、日本ではヤフー株式会社や武田薬品工業株式会社を中心とした「日本橋ニューロダイバーシティプロジェクト」(※13)などにおいてさまざまな取り組みがなされている。

その中から、ヤフー株式会社が取り組んでいる事例を経済産業省の資料を引用しながら紹介する。

  • 発達障がいのある社員1人ずつにカルテを作成し、運営担当者が変わっても継続性を担保して、特性に合わせてアサインできるようにしている(内容:実績、体調)
  • サポートする側が人事異動するリスクを考え、支援のノウハウ集『秘伝のタレ』を作成(専門書などを読んでも、実際の支援は難しい。マニュアル通りにいかない日々のサポートの実経験を記録し、蓄積、可視化、ノウハウ化)
  • コンディション管理表を適宜更新し、発達障害のある社員の日々のサポートに活用
  • ストレングスファインダーを実施し、結果に表れる各個人の特性を業務アサインや支援、コミュニケーションに活用(試行段階)

(※11)

出典:日本型ニューロダイバーシティマネジメントによる企業価値向上(後編)p.5 図3  https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/publication/chitekishisan/2021/04/cs20210407.pdf?la=ja-JP&hash=A77885B5069CB46D7374EEBF8B42EB82A86EAEFE

この他にも採用計画の策定から面接段階に至るまでニューロダイバーシティを実現するために、あらゆる工夫をこらしながら取り組みを行っていることが分かる。

※13 参考:日本橋ニューロダイバーシティプロジェクト
https://www.n-neurodiversity.jp/

教育現場でのアプローチ

2016年4月、障害者差別解消法が施行され、障がいを持つ子どもが他の子どもと平等に学べるため国公立の学校が「合理的配慮」を行うことが義務化された。

内閣府によると合理的配慮とは「障がいのある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応すること」を指す。

文章だと理解が少し難しい定義だが、NHK福祉情報サイト ハートネットの特集記事「発達障害の子どもたち 学校での合理的配慮とは?」(表記まま)によると、ある学校においては以下のような取り組みがあることが紹介されている。

登場人物の『Aくん』は発達障がいで、『ともぞうさん』はAくんの母親。

掃除の時間、紙しか入れてはいけないゴミ箱に別のゴミを捨ててしまったこと。それを友達に注意されたことがきっかけで、Aくんはパニックになってしまいました。

ともぞうさんがAくんに話を聞くと、「紙ゴミ」と書かれたゴミ箱を「紙」と「ゴミ」ととらえ、紙とゴミを入れていいものだと思ったというのです。発達障害の子と他の人との間にはとらえ方のズレがあることを、ともぞうさんは先生に丁寧に説明しました。

するとこの出来事をきっかけに、担任からの報告の内容に変化がありました。できなかったことではなく、できたことをみつけ、伝えてくれるようになったのです。Aくんは少しずつ落ち着いて過ごせるようになっていきました。

交換ノートを通じて教師と保護者が連携し、Aくんの学びにくさや行動の意味を一緒に考えることが、学校を過ごしやすい場所に変えました。

(※14)

本文の前段落でも述べたように、ニューロダイバーシティの実現には個別に対応したコミュニケーションや相互理解が必須になってくる。上記の例のように、1人ひとりの特性にあった対応をすることでニューロマイノリティの当事者だけではなく、両親や周囲の人々、さらにはこれから学校に入学してくるニューロマイノリティ当事者や保護者にも過ごしやすい環境を提供することができる。

※14 引用:NHK福祉情報サイト ハートネット「発達障がいの子どもたち 学校での合理的配慮とは?」
https://www.nhk.or.jp/heart-net/article/8/

民間のコミュニティにおけるプログラム

ニューロダイバーシティに関して、多数のコミュニティの結成やプログラムの実施がなされている。

千葉工業大学変革センター所長の伊藤穰一氏が率いる Henkaku Discord Community の中で形成された「ニューロダイバーシティ・サロン」では、「社会におけるニューロダイバーシティの理解、受け入れ、そして尊重を促すことを目標に、国内外からニューロダイバーシティに関わる専門家を招き、定期的にワークショップやイベントを開催」している。(※15)

また、臨床心理士・公認心理師の村中直人氏はニューロダイバーシティゼミを開催しており、会員に向けて定期的にニューロマイノリティに関する勉強会やワークショップを提供している。今までに「ニューロダイバーシティ視点の対人支援~脳・神経由来の「異文化相互理解」の支援という視点~」や「『働く』とニューロダイバーシティ~あらゆる人の「脳や神経由来の特性を活かした働く」を実現するために出来ること~」などニューロダイバーシティに関するテーマでさまざまな講演会を実施している。(※16)

他にも民間のコミュニティにおいてはニューロダイバーシティの情報交換のための定例会の開催、意見交換会の実施、プログラムにおいてはニューロダイバーシティおよびニューロマイノリティの専門家を招いての理解促進やワークショップなどが行われている。

※15 参考:ニューロダイバーシティ・サロン
https://neurodiversity.salon/
※16 参考:一般社団法人 子ども・青少年育成支援協会「ニューロダイバーシティゼミ | 発達障害サポーターズスクール」
https://cysa.or.jp/saposuku/ndsemi/

まとめ

臨床心理士・公認心理師の村中直人氏はニューロダイバーシティに関してこのように述べている。

人間は多様です。そして、「多様でないものを多様にしてあげましょう」とか「すごくマイノリティな可哀そうな人たちを、私たちの仲間に入れてあげましょう」という話でもないです。

(※17)

マジョリティでないことを理由に権利を認められていなかったり、個性を生かせなかったりといった現象はあらゆる分野において生じてきた。

近年では少しずつ、1人ひとりの特性を尊重するダイバーシティの実現に向けた取り組みも進んでいる。しかし、神経学の分野ではまだまだ社会的な理解や認知が十分とはいえないのが現状だ。だからこそまずは、ニューロダイバーシティの特性を知り、多様な人々と交流し、お互いが違うことを分かり合うことが大切だ。そうすることで、他のダイバーシティの分野が少しずつでも前進しているように、ニューロダイバーシティも着実に次のステップへ進んでいくのではないだろうか。

※17 引用:ログミーBiz「安全に無難な仕事をするか、リスクを取っても『個を活かす』か ニューロダイバーシティの第一人者が語る、組織の多様性との向き合い方」
https://logmi.jp/business/articles/328068

 

文:小野里 涼
編集:三浦 永