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ジェンダーバイアスとは?その意味と具体例、男女平等な社会を目指すための対策を解説!

ジェンダーバイアスとは何か

ジェンダーバイアスとは、「男らしさ」「女らしさ」といった性別から連想されるような固定的な価値観や、それに基づいた偏見や差別のことをさす。「バイアス(bias)」とは偏り、偏見、先入観のような意味を持つ。ジェンダーバイアスを直訳すると「性別への偏見」「性への先入観」などとなり、ジェンダーバイアスがどんなものか想像がしやすくなるのではないか。

「バイアス」の日本語訳は「偏り」であるが、ジェンダーバイアスは偏った考えの人が持っているものではなく、誰もが持つ可能性のある偏り、偏見、思い込みである。

なぜジェンダーバイアスが問題なのか

ジェンダーバイアスは、無意識のうちに私たちの中に根付き、固定化されている。ジェンダーバイアスに基づいた行動を他人に要求し、自分にも当てはめようとすることで、個性よりも前に社内的・世間的な「こうあるべき」「これが普通だろう」という感覚が優先されてしまう。

また、「こうあるべき」「これが普通だ」に当てはまらない人は社会から排除されやすく、困難を抱えやすいという場合もある。

例を挙げれば、「女子学生は制服でスカートを履くべき/履くはずだ/履いているのが普通だ」といったジェンダーバイアスがあるために、スカートを履きたくない女子学生は苦労しなければならない。「女性の方が感受性が豊かである。男性はあまり泣くことがない」といったジェンダーバイアスは、「男泣き」という言葉を生み出し、男性は何か特別な場面だけ泣くものと認識され、涙を流すことをためらってしまう。

ジェンダーバイアスがあることで、人の行動や意思決定が制限され、生きづらさを感じる場合も多い。誰でも、1度は経験したことがあるのではないだろうか。

ジェンダーバイアスの種類

社会には、さまざまな種類のジェンダーバイアスが存在している。

生活に根付くジェンダーバイアス

ジェンダーバイアスは私たちの生活に根付いている。男の子は青、女の子はピンクが好き、というジェンダーバイアスを例にとって考えてみよう。

インターネットで「男の子 おもちゃ」「女の子 おもちゃ」と検索してみてほしい。おもちゃの色や種類が男女ごとにはっきりと分かれている。電通ダイバーシティ・ラボと株式会社こどもりびんぐが681人の保護者に対して実施した「子どもに対する『女の子らしさ』『男の子らしさ』意識調査」において、60.2%がジェンダーバイアスを知らないという結果が出た。(※1)

子どもが自分でほしいおもちゃを選べない時期に、保護者が無意識に「男の子/女の子 おもちゃ 人気」と検索して、上位に出てきたおもちゃを子どもにプレゼントすることもあるだろう。幼い頃から「男の子」「女の子」のおもちゃを与えられて育ってきた子どもたちは、「これが自分に合ったおもちゃで、これが普通なんだ」と思う可能性も高い。あまりにも普通になった意識は、途中で疑われることが少ない。

医者は男性で看護師は女性のイメージや「主人」「嫁」「奥さん」という言葉の中にも、ジェンダーバイアスがみて取れる。

※1 参考:Dentsu「電通、子育て情報サイトの会員を対象に、 子どもにまつわるジェンダーバイアスに関する意識を共同調査」
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2022/0422-010515.html

ステレオタイプに基づく偏見

ステレオタイプとは、私たちが「そうだ」と思い込んでいる固定観念のことであり「国籍・宗教・性別など、特定の属性を持つ人に対して付与される単純化されたイメージ」(※2)をいう。性別に基づく偏見と重なる部分も多いが、ステレオタイプに基づく偏見は要素が多面的に絡まっている場合も多い。

例えば、イタリアの男性はロマンチックだ、日本の女性は優しいといったステレオタイプに基づく偏見がある。このように聞くと、ネガティブなイメージは持たないだろう。「ロマンチック」「優しい」といった概念自体は、決してネガティブなものではない。しかし、それを他人に押し付けることで、ネガティブな問題が生じてくる。

他に例を挙げるなら、女性は文系であるという考え方も、ステレオタイプに基づいた偏見だ。「女の子なのに理系?!すごいね、頭いいね」というような発言はよくあるものだ。だがこの発言の中には、さまざまなステレオタイプが存在している。

「女の子=文系」「男の子=理系」「理系=頭がいい」「理系=文系より優っている」「理系の方が頭がいい→理系といえば男の子→男の子の方が女の子よりも頭がいい(場合が多い)」

「女の子だから理系は大変だけど、それでも頑張って理系を選んだ」という評価を受けたり、そのような雰囲気を感じたりした場合、その発言を受けた人は「別に性別に関係なく理系科目が好きだったから理系を選んだんだけどな」という気持ちになることもあるだろう。「男性で看護師になるのは珍しいね」「さすが医者の息子」といった言葉にもステレオタイプが垣間見える。ステレオタイプに基づく偏見の問題点は、人によって「褒められた」と捉える人もいるために、傷ついたり違和感を覚えたりする人の存在が見えにくくなるところにあるとも言えるだろう。

※2 参考:IDEAS FOR GOOD「ステレオタイプとは・意味」
https://ideasforgood.jp/glossary/stereotype/

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メディア上でのジェンダーバイアス

メディアにおけるジェンダーバイアスにも着目する必要がある。メディアにはテレビ、映画、広告、雑誌、SNSなどさまざまな媒体が存在しているが、それらはジェンダーバイアスを助長する手段としても機能してきた。例えば、以下のようなものが挙げられる。

・ステレオタイプの強化:「イクメン」「キャリアウーマン」「リケジョ」「女性起業家」「美容男子」といった言葉はメディアによって拡散され世間に浸透し、ステレオタイプの強化を後押しする

・ジェンダーアイデンティティの軽視:特定のジェンダーに属する人を否定的に描写したり、偏見を持って報道することで、特定のジェンダーグループの差別や偏見につながり、ジェンダーに基づく不平等を招く可能性がある

ソーシャルメディアの発展前までは、マスメディアが圧倒的な影響力を持っていた。マスメディア内で前述したようなジェンダーバイアスがかかった報道をすることで、大衆にジェンダーバイアスが助長されることになった。現在では、個人が発信できるメディアが発展し始め、大きな影響力を持つようになった。その点では、マスメディアだけに影響力が集中し、その情報だけが浸透する状況は改善しているとも言える。しかし、ソーシャルメディア上では個人の興味に寄った情報ばかりが集まり、フィルターバブル状態に陥りやすいため、注意が必要だ。

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メディアを運営するものは会社であれ個人であれ、ジェンダーバイアスを強化することがあることを自覚し責任を持った発言をすることが重要であろう。

特に影響力を持つメディアは、第三者の意見を取り入れながら人々を偏見や差別から守るための対策を組織の内部・外部からとっていく必要がある。学校教育の中でメディア利用について教える時間もことも重要だ。

職場におけるジェンダーバイアス

私たちが「ソフトウェアエンジニア」「起業家」と聞いたとき、思い浮かぶのはどのような人だろうか。なんとなく、男性ではないだろうか?

もし、会社でエンジニアを採用することになったら?起業家に投資をすることになったら?ジェンダーバイアスに基づいて採用や投資が行われるといったことは100%ないと言い切れるだろうか。

キング・アブドゥラ科学技術大学が実施した「ディアAI」という実験において、「AI画像生成ソフトウェアをサーチした際、『起業家を描いて』『発明家を描いて』『ソフトウェアエンジニアを描いて』といったプロンプトを使用すると、返ってきた画像のうち女性は平均1%」(※3)という結果が出た。AIさえも特定の職業に対して、特定の性別が担うものだと認識しているのである。

また、職場内でもジェンダーバイアスは存在しているだろう。同じ役職なのに女性だけがお茶くみ、というのはなくなった(と信じたい)が、暗黙の了解的に男女別の役割分担が存在していないだろうか。

女性のキャリア形成やダイバーシティを専門とする東京家政学院大学の野村浩子教授、経済学を専門とする桜美林大学の川﨑昌准教授による2019年の研究では、組織リーダーは「望ましさ」という観点から「男性向きで、女性はふさわしくないというジェンダーバイアスが存在している可能性が示唆され」、「リーダーとしての望ましさと、女性としての望ましさの乖離が、女性の幹部登用の大きな壁となっていることがうかがえる」という結果がでた。これは、「望ましさ=男性/女性はこうあるのが望ましい」という意識を実際に調査した上で出た結果である。また、この研究では、女性の方が男性よりもジェンダーバイアスが強い傾向があることもわかった。

論文の言葉を引用すれば

「女性の側が、社会的に求められる女性らしさに沿う行動を続ける限り、リーダーとなるチャンスは巡ってこない。管理職や経営陣もまた、女性社員に対して無意識のうちに、日本社会に刷り込まれた女性らしさを求めるならば、女性リーダー育成はおぼつかない」

(※4)

※3 参考:ARAB NEWS「AIにおけるジェンダーバイアスを対象にしたサウジのキャンペーン」https://www.arabnews.jp/article/features/article_87613/
※4 引用:野村浩子 ・ 川﨑昌(2019)「組織リーダーの望ましさとジェンダー・バイアスの関係
― 男女別、階層別のジェンダー・バイアスを探る」p.23
 https://cir.nii.ac.jp/crid/1050282814145696768

ジェンダーバイアスの影響

外見、昇進、家庭での役割、さまざまな面において男性も女性も、ジェンダーバイアスによる影響を受けることになる。

女性に対する影響

「女性は感情的な生き物である」「女性は細かいところによく気がつく」「女性は共感力がある」「女性には愛嬌(あいきょう)があった方がいい」。このようなジェンダーバイアスは、女性が進もうとしている道を安易にふさいでしまう。女性に対するジェンダーバイアスによって、いくつもの差別が生まれてきたことは説明するまでもない。

独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査によると、2021年の管理職(課長相当職以上)に占める女性の割合は12.3%(※5)であり、OECD加盟国の中で最下位だ。また、毎年発表される世界経済フォーラムによるジェンダーギャップ指数では、2022年146カ国中116位(※6)で、先進国の中で最低レベルだった。「女性はこのようであるべきだ」というジェンダーバイアスが、社会の中に根付き、日本の女性の地位を低くしていると言っても過言ではないだろう。

※5 参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「課長相当以上の女性管理職がいる企業割合は約53%で、管理職に占める女性割合は約12%」
https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2022/10/k_05.html
※6 参考:内閣府男女共同参画局「世界経済フォーラムが「ジェンダー・ギャップ指数2022」を公表」https://www.gender.go.jp/public/odosankaku/2022/202208/202208_07.html 

男性に対する影響

女性に対するジェンダーバイアスが注目を浴びるようになり、男性に対するジェンダーバイアスも顕在化されるようになってきた。男性には熾烈(しれつ)な競争社会が待ち構えている、男だから一生懸命働いて家庭を支えないといけない…。

男性学研究者 田中俊之氏はあるインタビューにおいて男性の苦しみをこう表現する。

“とにかく勝てば幸せになれる”というメッセージしか受けてこないから、負けた後にどうしていいかわからないし、泣くな!と教わってきているから、弱音も吐けない。これが社会で多数派を占める男性の悲しみでもあります。

(※7)

ジェンダーバイアスによる偏見を解消する流れは女性に対しては敏感になっている印象を受けるが、男性に対してジェンダーバイアスを振りかざすことはいまだにまかり通っているのが現状だろう。

※7 引用:FNNプライムオンライン「競争から降りられない…男性の生きづらさに気づいていますか 『男性学』第一人者に聞く」
https://www.fnn.jp/articles/-/206733

組織に対する影響

女性は「出産して育休をとるから職場離脱するんじゃないか?」という前提で女性に接したり、男性だから「必ず出世欲がある」と考え厳しく接したり…。ジェンダーバイアスに基づいて社員に接することで、社員の発言力を低下させたり機会を奪ったり、意思を無視してしまうことになる。

本来生み出せるはずの価値を制限してしまうだけではなく、企業イメージも落ちることにつながる。

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ジェンダーバイアスを排除する方法

前述のように、ジェンダーバイアスは誰もが持っているものであり、無意識的に私たちの価値観に根付いているものだ。ジェンダーバイアスを可能な限りなくすにはどのような方法があるのだろうか。

ジェンダーバイアスに対する教育・トレーニング

まずは、ジェンダーバイアスが無意識のうちに存在しているという事実を認識することが重要である。最近では、ジェンダーバイアス解消のためのトレーニングを実施している企業も増えてきた。

株式会社メルカリでは、役職や性別に基づいて生じる偏見などを例に挙げながら「無意識バイアスワークショップ」という研修を社内で行っており、その社内研修資料を無料で公開している。(※8)

※8参考:株式会社メルカリ「メルカリ、「無意識(アンコンシャス)バイアス ワークショップ」の社内研修資料を無償公開」
Unconscious Bias Workshop

採用プロセスの改善

履歴書の性別欄や顔写真は、ジェンダーバイアスを作動させ潜在的に採用に影響している場合も少なくない。そのような問題を解決するために、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス合同会社は、2021年から履歴書における顔写真やファーストネーム、性別の記載を廃止した。

ユニリーバの採用担当者はあるインタビューで、ファーストネームや顔写真といった項目は「採用担当者が見ると無意識に志願者の性別や容姿を思い浮かべてしまいがちだ。本来、審査で必要としないこれらへの関心を排除し、重視すべき個性や能力の見極めに集中できるようにするのが目的」だと話している。(※9)

ジェンダーバイアスは無意識的に存在しているために、すぐにそれを認知することは難しい。しかし、名前や写真などジェンダーを特定しやすい項目に注意深く対応することは簡単ではないながらも実践に移しやすい方法の1つだろう。

※9 引用:日経ビジネス「履歴書に性別も顔写真も不要、ユニリーバの本気」https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00340/080500002/

組織文化の改善

マッキンゼー・アンド・カンパニーが発表したレポート「Women Matter」のなかで、ある企業の業務評価の基準に「確実な利用性と地理的な移動可能性(unfailing availability and total geographical mobility)」という項目がある。(※10)

職場で確実に動けるのは誰だろうか。呼んだらすぐに来てくれそうなのは女性だろうか、男性だろうか。「確実な利用性と地理的な移動可能性」とはこのような観点から、仕事において可動性が高い人を評価する基準である。ここにも、女性よりも男性、子どもがいる人よりもいない人、を高く評価する潜在的なジェンダーバイアスがあると言えるだろう。

組織全体の評価基準やルールを形成する際に、全ての性別、そして専門家や第三者委員会などの意見を取り入れることで偏った項目を減らす手助けになるだろう。

※10 参考:International Labour Organization「Breaking barriers: Unconscious gender bias in the workplace」p.6 
https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---ed_dialogue/---act_emp/documents/publication/wcms_601276.pdf 

ジェンダーバイアスの監視・評価

ジェンダーバイアスを監視するために、さまざまな手段が取られている。例えば日本では、2022年から従業員数301人以上の企業を対象に「男女賃金格差の開示」が義務化された。女性活躍推進法の改正に基づくもので、男女の賃金格差を視覚化し是正していく狙いがある。

政治界や企業などにおいて、女性の比率を定めるクオーター制などもジェンダーバイアスを監視し、評価するための基準の1つだ。

まとめ

最後に、ランドセル「天使のはね」を生み出している株式会社セイバンが作成した「ランドセル選び」の動画を紹介する。ここにも、私たちは子どもから大人まで、世代を超えたジェンダーバイアスを持っていることを見ることができる。(※11)

この動画に悪人は登場しない。むしろ、とても心温まる動画だ。ジェンダーバイアスという言葉は「偏見を持った悪い人」のようなイメージを連想させる。しかし、そうではなく、私たちが、本当に自然に持ってしまっている価値観なのだ。

男性も女性も、そしてこれからたくさんの希望ある人生を送っていく子どもたちが、ジェンダーバイアスに縛られることなく、心のままに選択できる社会が必要だ。

※11 出典:株式会社セイバン「ランドセル選びドキュメンタリー篇」
https://youtu.be/r1Bic3Go2dY

 

文:小野里 涼
編集:白鳥 菜都