- マイクロマネジメントとは
- マイクロマネジメントの実態
- マイクロマネジメントの問題点
- マイクロマネジメントに陥りやすい上司の特徴
- マイクロマネジメントから脱出するための方法
- マイクロマネジメントが解消できない場合の対処法
- まとめ
マイクロマネジメントとは
「マイクロマネジメント(micromanagement)」とは、部下をマネジメントする立場である上司が、部下の業務に過度に干渉したり、事細かに管理をしたりするマネジメント方法を指す。「micro」は英語で「非常に小さな」という意味で、自主性を重んじて部下に大きな裁量を置く「マクロマネジメント(macromanagement)」と対比されることもある。
マイクロマネジメントの定義
マイクロマネジメントは、上司が部下に頻繁に業務の進捗を報告させたり、業務内容に過度に干渉したりするマネジメント方法であり、一般的に否定的な意味として使われる。マイクロマネジメントを受けることによって、部下の業務パフォーマンスや精神状態に悪影響を与えることもある。
マイクロマネジメントの具体例
マイクロマネジメントの具体例には以下のようなものが挙げられる。
・部下がどこにいるのか常に把握しようとする
・部下が今何をしているのか常に把握しようとする
・頻繁に業務報告をさせる
・メール文章や発表文章の隅々までチェックし、些細な点を指摘する
・自分をメールのCCに必ず入れるよう指示する
・電話やメールのやり方を管理する
・すべて自分の指示通りに業務を進めることを求める
教育とマイクロマネジメントの線引きは曖昧なところがあるものの、過度な監視や管理は部下のやる気を低下させ結果的に業務の質を下げることにもつながる。
マイクロマネジメントの問題点
マイクロマネジメントの問題点は、マイクロマネジメントをしている上司(マイクロマネージャーとも呼ばれる)がマイクロマネジメントを自覚していない部分にある。また、前述のようにマイクロマネジメントを受けることで部下の仕事の質やメンタルヘルスに悪影響を及ぼすこともあり、メンバーの成長低下や離職につながる場合もある。
マイクロマネジメントの実態
マイクロマネジメントが理由で、仕事に対するやる気が低下したり、深刻な場合には離職や休職を余儀なくされたりする事例が発生している。ITコンサルティング会社Trinity Solutionsがアメリカのある会社の職員に対して実施した調査によると、職員の79%がマイクロマネジメントを経験したことがあると回答し、そのうちの69%はマイクロマネジメントを原因に転職を考えたことがあることも明らかになっている。(※1)
それでは、マイクロマネジメントが行われる理由や背景、具体的なマイクロマネジメントの事例にはどんなものがあるのか。
※1参照:Harry・E・Chambers「My Way Or the Highway: The Micromanagement Survival Guide」p.22
https://www.bkconnection.com/static/My_Way_or_the_Highway_EXCERPT.pdf
マイクロマネジメントが行われる理由や背景
マイクロマネジメントが行われる背景には、さまざまな要因が複雑に存在している。ただ、大抵の場合マイクロマネジメントは、上司のリーダーシップとメンバーへの信頼感の欠如、そして上司が既存の役割や権力を失うことを恐れている場合に生じることが多い。(※2)
より良いリーダーシップやマネジメント方法に関するコンテンツを配信するManagement3.0では、マイクロマネジメントを行う人物(マイクロマネージャー)の特徴について以下の5つをあげている。
1.マイクロマネージャーは、部下よりも同じ時間でより良い仕事をできると考えている
2.マイクロマネージャーは、部下よりも同じ時間でより多くのことができると考えている
3.マイクロマネージャーは、部下のミスを正すことを好む
4.マイクロマネージャーは、いつも誰がその業務をやっていて、具体的には何をして、どこにいるのかを知ることを望む
5.マイクロマネージャーは、部下が自分ほど多くのことを知らないと考えている
(筆者訳)(※3)
※2 参考:Management 3.0「top Micromanagement: It Destroys your Team」https://management30.com/blog/micromanagement/#causes
※3 引用(筆者訳):Management 3.0「top Micromanagement: It Destroys your Team」 https://management30.com/blog/micromanagement/#causes
マイクロマネジメントが生じる具体的な場面や事例
メールを出す際、会議をする際、新しい業務を実施する際……などマイクロマネジメントはさまざまなシチュエーションで発生する。
例えば、上司が今までやったことのない方法で資料を作ろうとした際、「このやり方をした方が良い。自分がやってきた方法でやれば効率よく、かつ適切に資料を作ることができる」と言われる。また、「今日行った業務に関して分単位で報告する」「社内外に出す全てのメールのccに上司のメールアドレスを入れる」などがあげられる。
もちろん経験者の意見を聞くことや、リスクを減らすために業務報告を頻繁にすること、連絡内容を共有することは重要だ。しかし、上司の意見を聞くことを毎回のように要求してきたり、業務を行うよりも連絡や共有に時間と労力を割かなければいけなくなってくると、メンバーのストレスにつながる。
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マイクロマネジメントの問題点
SNSなどで、マイクロマネジメントは止むを得ないという意見も散見されるが、マイクロマネジメントを行うことでどんな問題が生じるのかを知っておくことも重要だといえるだろう。
チームのモチベーションを下げる
まず、マイクロマネジメントはチームのモチベーションを下げる大きな要因の1つだ。自主性や意見、アイディアが無視され過度に管理されることによって、メンバーは意見や主張をすることを好まなくなり、結果として1人のモチベーションの低下が複数人に波及し、結果的にチーム全体のモチベーションが下がっていく場合も多い。
創造性や自主性を奪う
上司は部下よりも経験豊富な場合が多く、経験に基づいたマイクロマネジメントをすることで、無難な意思決定を促すことができるかもしれない。しかし、長期的に考えると、自分でアイディアを生み出す創造性や、自ら先に動く自主性を奪ってしまっていることになりかねない。もし、その上司がいなくなったとき、そのメンバーはチームを率いることができるか、その点を視野にマネジメントすることが重要になってくる。
ストレスや不満を引き起こす
業務に対して事細かに指摘を受けたり、管理されたりすると部下がストレスを受けるのは当然のことだ。部下は自由かつ積極的に業務を遂行することができず、結果的には上司に対してだけではなく会社に対しても不満を引き起こすことにもなりかねない。
マイクロマネジメントに陥りやすい上司の特徴
部下に暴言を吐いたり、大勢の前で叱ったり、などという行為はパワハラに当たり、マイクロマネジメントに含まれない。そのような経験をしたら、即時組織や会社の担当部署に報告をしてほしい。
では、マイクロマネジメントに陥りやすい上司にはどのような特徴があるのだろうか。大前提として、マイクロマネジメントを行っている人は善意が空回りしてしまっている場合が多い。
上司の不安や自信の欠如
マイクロマネジメントを行う上司は不安を抱えている場合や自信が欠如している場合が多い。事細かに部下を管理することでなるべく失敗が起きないようにしたり、自分の指導方法に自信がないために1番無難である自分と同じ方法を取らせる、という手段を選ぶ場合も少なくない。
過剰なコントロール欲求
上司自身の成功体験がある程度確立されているために、部下にも自分と同じように行動させたいという過剰なコントロール欲求を抱えている場合もある。また、コントロールすること自体に、上司としてのやりがいを感じているケースもある。
経験不足や能力不足
ひとえに、上司の経験や能力が不足している場合がある。部下をマネジメントしたことがなかったり、成功体験がなかったりすると、もっとも簡単に部下を管理しやすいマイクロマネジメントの方法をとる場合がある。
ここであげた例は一部にすぎない。Trinity Solutionsの調査によると、マネジメントをする役職にある職員の71%がマイクロマネジメントを経験したことがあることがわかった。つまり、自身もマイクロマネジメントを受けてきたために、そのやり方が正解だと思い込み、部下にも同じようなマネジメントをしている場合があるということだ。(※1)上司がマイクロマネジメントをする背景や理由を理解することも、マイクロマネジメントから脱出する重要な方法だといえるだろう。
マイクロマネジメントから脱出するための方法
解決が難しく思えるマイクロマネジメントだが、解決あるいは脱出する方法も存在している。具体的にマイクロマネジメントから脱出するためにどのような方法を取る必要があるのか。
上司とのコミュニケーション改善
前述したように、上司は無意識のうちにマイクロマネジメントを行ったり、自身もマイクロマネジメントを受けていたために、そのほかのマネジメント方法を知らなかったり、という場合が多くある。
まずは上司に自身が感じていることを共有し、コミュニケーションの改善を図ってみることが重要だ。もし、上司が状況を理解できる人物だと判断したら、「マイクロマネジメント」という言葉を紹介してみるのも方法の1つだろう。
目標設定の共有や進捗報告の頻度調整
マイクロマネジメントにおいては、過度な共有や報告が求められる場合が多いが、その頻度を調整してみることも、マイクロマネジメントから脱出する方法の1つだ。徐々に頻度を減らしていくことで、上司もその状態に慣れ、マイクロマネジメントを受けている本人は業務と精神面の負担を減らすことができるかもしれない。
自己アピールの強化や自己効力感の向上
また、自分自身を少し変化させてみる方法もある。マイクロマネジメントを受け続けると自信がなくなってきたり、自分の強みがわからなくなったりすることがあるが、そんな状況を避けたり、脱出したりするために、自己アピールの強化や自己効力感の向上が効果的だ。
自己効力感とは、自身が自分の目標達成能力や可能性を認知していることを指す。自己アピールをして上司からの認識を向上させたり、自己効力感を向上させて自分のやり方に自信を持ったりすることで、マイクロマネジメントから脱出できる可能性も高まるだろう。
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マイクロマネジメントが解消できない場合の対処法
上記の方法を実施しても、マイクロマネジメントが解消できないことは十分に考えられるだろう。マイクロマネジメントが解消できないとき、どのような方法を取ることができるだろうか。
ほかの上司や組織にアプローチする方法
マイクロマネジメントを行っている上司に改善の傾向が見られないならば、ほかの上司や組織にアプローチしてみることも1つの手段だ。第三者に相談することで、今まで見えていなかった解決方法が得られる場合もある。
部署異動や転職などの選択肢について考える
どうしても解決策が見られないのならば、部署異動や転職などの選択肢を検討してみることも最終手段としては考えられるだろう。人は簡単に変わるものではないため、もちろん期待を持ちながら接しつつ、なかなか望み通りにいかなかったときのために、次に働きたい場所や異動したい部署について考えておくことで心に余裕ができるはずだ。
まとめ
ここまで、マイクロマネジメントの定義や対策法などについて紹介してきた。本記事内で言及しているように、マイクロマネジメントを行う上司はその行為を自覚しておらず、かつ善意で事細かに部下を管理してしまっている場合が多い。そのため、マイクロマネジメントを自覚してもらうために、過度な管理で悩んでいることを上司に相談したり、マイクロマネジメントに気が付いたほかの社員が組織に報告したりすることで問題が解決できる場合も多い。
現在、マイクロマネジメントに悩んでいる方もいるだろう。仕事にやりがいを見いだせなくなったり、自分に自信がなくなったりしている方もいるかもしれない。しかし、それはマネジメント側の問題であって、あなたの能力とは関係のないことである。マイクロマネジメントが解消されれば、仕事にまたやりがいを見いだせたり、自信を取り戻せたりする可能性は存在する。自分を責めずに、マネジメントに問題がないか1度考えてみるのも有効だろう。
文:小野里 涼
編集:白鳥菜都