「66個も捨てさせられるのに、一口食べたらクビになる」
アメリカのある若者が、TikTokに投稿した。ドーナツ店で数多くの商品を廃棄しなければいけないのを目の当たりにし、批判的に述べた言葉だ。
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飲食店や食品売り場で働いたことのある人なら、食品ロスが出るのを目にしたことがあるだろう。
たとえば筆者が働いたことのあるコンビニでは、決まった時間になったらカゴを持って期限切れの商品をかき集める。パンでも惣菜でもホットスナックでも、期限が切れた商品は廃棄登録され、ビニール袋にまとめて処分される。日によってはゴミ袋が3つにも4つにもなる。
「まだ食べられそうなのに。捨てるくらいなら持ち帰りたい…」。お金のない学生時代にはそう感じたのだが、同じような経験をしたことのある人も多いのではないか。
なぜ、これらの食品はただただ捨てられるしかなくなってしまうのだろうか。
食品業界の3分の1ルール
そもそも食品には消費期限と賞味期限の2つの期限があることは多くの人が認識しているだろう。
・消費期限:袋や容器を開けないままで、書かれた保存方法を守って保存していた場合に、この「年月日」まで、「安全に食べられる期限」のこと。
・賞味期限:袋や容器を開けないままで、書かれた保存方法を守って保存していた場合に、この「年月日」まで、「品質が変わらずにおいしく食べられる期限」のこと。
引用:農林水産省「消費期限と賞味期限
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/kodomo_navi/featured/abc2.html
賞味期限が過ぎたからといって、すぐに食べられなくなるわけではないのだが、賞味期限が過ぎた食品はあまり販売されていない。販売されているとしてもセール品の場合がほとんどだろう。
まだ食べられるのにも関わらず、賞味期限前にロスにされてしまうのはなぜなのか。それには、消費期限・賞味期限の他にある、2つの期限「販売期限」と「納品期限」が関係している。
販売期限とは、その期限を過ぎると商品を販売できない期限のことである。消費者が商品購入後に、賞味期限内に食品を食べられるように逆算して設定されている。納品期限は、食品メーカーが小売店に商品を納品するまでの期限のことだ。できるだけ長く販売期間を確保し、ロスを減らすために、製造から一定期間を納品期限としている。納品期限を過ぎた商品は、小売店側が納品を拒否することができる。
この2つの期限は法律で定められたものではなく、食品業界が独自に定めている商慣習だ。納品期限は商品の製造から賞味期限までの3分の1の期間、販売期限は3分の2の期間に該当するため、「3分の1ルール」と呼ばれている。
海外では3分の1よりも長い納品期限が設定されている場合が多い。そのため、海外と比較しても日本では食品ロスが発生しやすいとして、問題視されてきた。
実際のところ、日本でどのくらいの食品ロスが発生しているかというと、農林水産省の2020年時点の推計では、日本における食品ロス量は522万トンであった。そのうち、スーパーやコンビニなどの小売店での売れ残りや規格外品、飲食店での食べ残しなどの事業系食品ロスは275万トンだった。これでもかなり多く感じるが、推計を開始した2012年以降で最小とされている。(※1)
※1 出典:農林水産省「食品ロス量が推計開始以来、最少になりました」https://www.maff.go.jp/j/press/shokuhin/recycle/220609.html
廃棄を持ち帰るとどうなる?
このような食品ロスの現状があるにも関わらず、多くの小売店では販売期限が過ぎた廃棄食品の持ち帰りが禁止されている。なぜなのだろうか。
1点目に、健康上の問題がある。なまものやお弁当などは食中毒などの防止の観点から、賞味期限が設定されている。賞味期限から消費期限の間もそれほど長くはないため、廃棄登録された商品を持ち帰るのは危険だ。健康上のリスクを防ぐために、持ち帰りが禁止されていると考えられる。
2点目に、廃棄商品の持ち帰りを自由にしてしまうと、多めに発注したりして故意に廃棄を出す不正の発生が考えられる。性悪説に基づいた考え方ではあるが、わざと廃棄を出し、多めに持ち帰って家族や友人に配るといった可能性がないとは言えない。小売店の利益を守る観点から、廃棄食品の持ち帰りが禁止されていると考えられる。
そして3点目に、法律的な問題もある。廃棄とはいえ、お店の商品はそのお店のオーナーの財産である。そのため、オーナーの許可なく勝手に廃棄商品を持ち帰ったり食べたりすれば、「業務上横領罪」や「窃盗罪」に問われる可能性がある。
業務上横領とは、業務として他人の物を預かっている人が、その物を自分のものとしてしまうことを指す。食品以外の例だと、集金の担当者が集金した金銭を横領してしまったり、売上の管理者が売り上げを少なめに会社に報告して差分を横領してしまう例などがある。業務上横領罪の場合は、10年以下の懲役に処せられる。
一方で、窃盗は預かっているわけでもない他人のものを勝手に自分のものにしてしまうことを指す。窃盗罪と判断された場合には、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる。
なお、フランチャイズで個人オーナーが運営するお店など、店舗によっては廃棄商品の持ち帰りが公式に認められている場合もある。とはいえ、多くの小売店では廃棄商品の持ち帰りは認められていない。「もったいない」と感じる人が多いだろうが、現状は上記のような理由から、一度廃棄登録された食品を持ち帰るのは難しそうだ。
日本で食品ロスを減らす取り組み
そんな状況において、もっと早い段階から食品ロスを減らしたり、個人の動きではなく企業や組織の仕組みとして食品ロスを減らす取り組みを実施している人たちもいる。
セブン&アイグループ
食品を取り扱う大手ブランドを持つセブン&アイグループ。「GREEN CHALLENGE 2050」という独自の環境宣言に則り、食品リサイクル率を2030年に70%、2050年に100%にすること、食品廃棄物量(売上100万円あたりの発生量)を2013年度と比較して2030年50%削減、2050年75%削減することを目標に掲げている。
具体的な取り組みの1つとして、3分の1ルールを2分の1まで見直す取り組みを進めている。2012年から開始された取り組みで、すでにセブン-イレブン・ジャパン、イトーヨーカドー、ヨークベニマル、ヨークで、商品の納品期限の緩和を実施しているという。
また、2020年5月からは全国の店舗で食品ロス削減を目的に「エシカルプロジェクト」に取り組んでいる。おにぎりやパン、総菜、スイーツなど合計7つの分類において、販売期限が近づいた対象商品に店頭税抜価格5%分のnanacoボーナスポイントを付与する取り組みだ。販売期限に達する前に、商品が売れるようにすることで、食品廃棄物の発生を抑制するのである。
ロイヤルホスト
レストランチェーンのロイヤスホストもフードロスへの取り組みをしている。全国のロイヤルホストの店舗において、環境に優しいパッケージで食べ残しを持ち帰ることのできる「mottECO(モッテコ)」という取り組みが実施されている。
この取り組みは環境省とコラボレーションした取り組みで、デニーズや和食さと、日本ホテルグループなどのレストランも取り組んでいる。
スターバックス コーヒー ジャパン
大手カフェチェーンのスターバックスは2030年までに店舗などから出る廃棄物50%削減を目指している。スターバックスで出る食品廃棄物のほとんどはコーヒーを抽出した後の豆かすだが、約15%は期限切れフードが占めているという。
そんな状況に対し、同社は2021年8月からドーナツやケーキ、サンドイッチなどのフードを、当日の在庫状況に応じて、閉店3時間前をめどに20%OFFで販売する取り組みを開始した。
取り組みに対しては、消費者からも喜びの声が上がっている他、店舗のスタッフからも誇りを持って商品を勧められるといったポジティブな反応が上がっているという。
まとめ
食品ロスの問題はよく話題になるが、現状その半分は小売店や外食事業の仕組みのなかで発生している。「廃棄になるのなら、スタッフに持ち帰ってもらおう」といった流れになるのにはまだまだ時間はかかりそうだ。しかし、それ以前のところから根本的に仕組みを変えたり、売り方を工夫することで食品ロスを減らすこともできる。
2022年には、納品期限の緩和に踏み切る事業者が大幅に増加していることが、農林水産省の調査(※2)によってわかった。2022年10月時点で、240の事業者が納品期限を緩和(または緩和を予定)していると回答している。この他にも、賞味期限の延長やフードバンクへの寄付などの取り組みを盛んに行う事業者も出てきており、この流れがさらに加速していきそうだ。
食品ロスの削減はSDGsのターゲットにも含まれている。今後どのような動きが生まれていくのか注目だ。
※2 参照:農林水産省「納品期限の緩和を進める事業者が大幅に増加!」https://www.maff.go.jp/j/press/shokuhin/recycle/221102_17.html
文:武田大貴
編集:篠ゆりえ