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ゼロエミッションとは?その意味と詳細、社会に与える影響を解説

ゼロエミッションとは

環境問題に関するニュースなどでよく耳にする「ゼロエミッション」という言葉。どんな意味を持っているのか。また、なぜ「ゼロエミッション」が重視されているのか、紹介する。

ゼロエミッションの意味

ゼロエミッションとは、人間の生産活動から生まれる廃棄物の排出(エミッション)をゼロにしようとする考え方を指す。具体的にはある産業から生まれた廃棄物を、リサイクルしたりアップサイクルしたりすることで埋め立て処分量ゼロを目指す。また、近年ではCO2の排出ゼロに向けた取り組みを指してゼロエミッションと呼ぶことも多い。

ゼロエミッションの概念が提唱されるきっかけになったのは、1992年の国連環境開発会議(地球サミット)である。地球サミットには当時の国連加盟国のほとんどが参加し、世界のあらゆる環境問題を対象に話し合いが行われた。ここで採択されたのが、アジェンダ21と名付けられた行動計画である。森林破壊や砂漠化、大気汚染、水質汚染の防止などを含む、持続可能な開発をしていくための指針が示されている。アジェンダ21はその後の環境問題への世界的な動きに影響を与えている。ゼロエミッションもアジェンダ21を受けて、1994年に国際連合大学によって提唱された日本発の概念である。

ゼロエミッションの重要性

これまで、世界中で大量生産・大量消費が行われてきた。日本も大量生産・大量消費によって高度経済成長を遂げた国のひとつだ。そして、それに伴って増えたのが、廃棄物だ。国内の状況に着目してみると、高度経済成長期の始まりとされる1955年には621万トンだった廃棄物の量は、1980年には約7倍の4394万トンまで増加している。(※1)その後、バブル期に突入するとペットボトルの普及も広がり、一般家庭でも産業においても廃棄物の量は増えていった。このような廃棄物の増加は2000年ごろまで右肩上がりで続いていた。

出典:環境省「日本の廃棄物処理の 歴史と現状」p.15

廃棄物が増えると問題になることの1つが、埋立地のキャパシティーだ。1970年代後半から1990年代半ばにかけて、廃棄物の最終処分場の容量が逼迫(ひっぱく)していた。当時の最終処分場の残余年数(※2)はほとんどの年において10年以下となっており、すぐにゴミで溢れてしまうような状況にあった。

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出典:環境省「日本の廃棄物処理の 歴史と現状」p.8

このような背景があり、ゼロエミッションへの挑戦は重要な課題とされてきた。なお、2000年代以降は循環型社会への注目が高まり、ゴミの排出量減やリサイクル量の増加によって、廃棄物の量は徐々に減少している。

また、CO2も産業廃棄物の一部である。大量に排出されたCO2によって地球温暖化が起こり、台風や集中豪雨などの気候変動による災害も発生している。加速する気候変動を抑止し、人間・動物・植物が暮らす環境を守る意味でも、ゼロエミッションが重要視されている。

※1 参照:環境省「日本の廃棄物処理の歴史と現状」p.5(2023年1月15日閲覧)https://www.env.go.jp/recycle/circul/venous_industry/ja/history.pdf
※2 用語:現在日本にある埋立処分場が満杯になるまでの残り期間の推計値。

ゼロエミッション達成までの課題

ゼロエミッションを実現するためにはどんな方法があるのだろうか。さらに、ゼロエミッションを完璧に達成している国や地域はいまだにないが、それはなぜなのだろうか。

ゼロエミッションはどうすれば実現できるのか

ゼロエミッションの概念が登場してから世界中の自治体や企業がゼロエミッションの達成に向けて技術を開発してきた。例えば、プラスチックをリサイクルして作られた衣服や雑貨は数多く登場している。また、CO2排出削減の面でも、太陽光発電や風力発電の研究も進んできた。
これらの技術がもっと広がれば、ゼロエミッションの達成に近づけられるだろう。では、これらの技術が広がりきらない背景には、どんな課題があるのだろうか。

ゼロエミッションの実現が難しいとされる理由

課題としては大きく2つのポイントがある。1つは、産業廃棄物の再生や運送に新たにエネルギーがかかってしまうことだ。例えば、ペットボトル素材であれば各地から回収するのにもエネルギーがかかるし、細かくフレークやペレット状に砕くのにもエネルギーがかかる。

さらに日本の事例で言えば、ペットボトルの国内リサイクル処理にはすでに限界がきており、中国、韓国、東南アジア諸国に輸出してリサイクルをしてきた。リサイクルの増加を上回る勢いでペットボトルの販売量が増加しており、国内だけではリサイクル処理が追いつかないのだ。2021年は国内で回収されたペットボトルのうち、約25%が海外でリサイクル処理されている。(※3)運送に大きなエネルギーをかけて海外でリサイクル処理を行なっていたが、2018年より中国が環境対策としてプラスチックごみの受け入れを禁止した。また、それを追うように東南アジア諸国でも輸入制限が始まっている。この流れも受け、日本国内でのリサイクル処理体制の強化は喫緊の課題とされている。

もう1つのポイントは、コストだ。廃棄物の輸送や再生にかかるエネルギーを再生可能エネルギーに変えようにも、莫大なコストがかかる。世界的には太陽光発電や風力発電のコストダウンが進んでいる。しかし、日本ではこれらの再生可能エネルギーのコストは依然として高いままだ。資源エネルギー庁の2020年の試算(※4)では、火力発電と比較して、太陽光発電や風力発電などの「自然変動電源」はおよそ1.5〜2倍のコストがかかるとされている。ただし、この試算では2030年には風力発電や太陽光発電のコストがもう少し下がることが予想されている。

2020年の電源別発電コスト試算結果の構成
出典:資源エネルギー庁「電気をつくるには、どんなコストがかかる?」

コストが高いままだと、企業レベルでの取り組みに落とし込みにくい。企業は利益を求めるので、当然できるだけコストがかからないものを選ぶ。廃棄物の再生や運送にかかるエネルギーの削減および、再生可能エネルギーのコストダウンがゼロエミッション達成のキーとなるだろう。

※3 参照:PETボトルリサイクル推進協議会「リサイクル率の算出」
https://www.petbottle-rec.gr.jp/data/calculate.html
※4 参照:資源エネルギー庁「電気をつくるには、どんなコストがかかる?」(2023年1月15日閲覧)https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/denki_cost.html

ゼロエミッションの取り組み事例

国内外問わず、ゼロエミッションへの取り組みは盛んに行われている。国や自治体が主導している取り組みと、企業が主導している取り組みをいくつか紹介したい。

海外でのゼロエミッション取り組み事例

ノルウェー・オスロ

ノルウェーの首都、オスロでは2030年までに世界初のゼロエミッション達成国になることを目指した取り組みが盛んに行われている。車の電動化が進んだ国として知られるノルウェーだが、オスロでは飛行機・船・公共交通機関などあらゆる交通機関の電動化を目指している。すでにフィヨルドを航行するフェリーのほとんどが電動化されている。また、公共交通機関や徒歩での移動を促すために、駐車場を減らしたり駐車場の料金を値上げしたりするなどの動きもある。先進的な取り組みを数多くしているが、コスト面の条件などをどのようにクリアしていくのか注目だ。

EU

欧州委員会は2030年までに、温室効果ガス排出量を1990年と比較して55%削減させる取り組み「Fit for 55」を策定している。この一環として、すべての新築建築物をゼロエミッションとすることを義務付ける規則を発表した。建物は非常に多くのエネルギーを消費するものであると同時に、簡単に作り替えることができない。そのため、建築時から断熱材を活用してエネルギー消費を抑えた作りにすることや、再生可能エネルギーを活用できる作りにすることを義務付けた。

また、2022年10月には、EU内で登録されるすべての新車を2035年までにゼロエミッションとすることも発表した。電動化に加え、合成燃料などの炭素中立な燃料(CN燃料)のみを使用する車両の開発・使用を呼びかけている。

日本での国や自治体によるゼロエミッション取り組み事例

エコタウン

エコタウン事業は、ゼロエミッションを基本構想として位置づけ、各地域による環境に調和したまちづくりを支援するための政策だ。1997年に政府により創設された。各地域は「エコタウンプラン」と呼ばれる計画を策定し、環境省と経済産業省に共同承認されることで支援を受けられる。

現在、エコタウン事業が承認されている地域は以下の26地域だ。

出典:環境省「エコタウンの歩みと発展」p.5
https://www.env.go.jp/recycle/ecotown_pamphlet.pdf

政府からの支援金は、リサイクル施設の整備や再生エネルギーの研究開発などに使われている。この事業により、実際にCO2を含む産業廃棄物削減の効果が出ている地域もある。例えば、北九州市はエコタウン政策が始まった年に認定を受けた地域だが、元々は高度経済成長期に重化学工業を中心に発展した地域であり、一時はひどい大気汚染が問題になっていた。しかし、市民や企業、行政が一体となって環境の改善に取り組んだ。そこに加えてエコタウン事業にも乗り出し、近年では以下の図のようにCO2の削減に成功している。

出典:北九州市ホームページ「北九州エコタウン事業による温室効果ガスの削減効果について」
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/kankyou/29100024.html

ゼロエミ・チャレンジ

ゼロエミ・チャレンジは脱炭素社会の実現に向けて活発な動きを見せる企業を「ゼロエミ・チャレンジ企業」としてリスト化する取り組みだ。経済産業省が経団連や国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と協働して行っている。2020年10月の第1弾のリストでは上場・非上場合わせて320社のリストが公開された。その後、2021年10月に第2段のリストが公開され、624社がリストアップされた。

ESG投資が盛んになりつつある昨今、企業にとってこのリストへの掲載は1つのアピールポイントになる。投資の受けやすさ、イメージの向上、他社とのコラボレーションの促進を後押しし、企業がゼロエミッションに取り組むメリットを可視化することにもつながっていく。

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ゼロエミッション東京戦略

東京都は2050年までに「ゼロエミッション東京」を実現し、世界の「CO2排出実質ゼロ」に貢献することを目標として戦略を打ち出している。2019年に策定されたこの戦略では、これから起こる気候変動を食い止める「緩和策」とすでに起こっている影響に対応する「適応策」を総合的に展開するという。具体的には以下の6分野に取り組む。(※5)

ゼロエミッション東京戦略の体系
エネルギーセクター ①再生可能エネルギーの基幹エネルギー化
②水素エネルギーの普及拡大
都市インフラセクター(建築物編) ③ゼロエミッションビルの拡大
都市インフラセクター(運輸編) ④ゼロエミッションビークルの普及促進
資源・産業セクター ⑤3Rの推進
⑥プラスチック対策
⑦食品ロス対策
⑧フロン対策
気候変動適応セクター ⑨適応策の強化

各目標の達成のために、具体的なプランや2030年時点の目標なども設定されている。声かけだけではなく、実行へ移すための戦略策定を都が先導して行うことには大きな意義があるだろう。

国内企業によるゼロエミッション取り組み事例

サントリーホールディングス

サントリーホールディングスでは、生産過程で出る廃棄物をできるだけ減らしたり、エネルギーを有効活用したりすることに力を入れている。例えば長野県大町市に建設された「サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場」は、環境配慮型工場として稼働している。太陽光をはじめとする再生可能エネルギー発電設備や、バイオマス燃料を用いたボイラーの導入などにより、CO2排出量ゼロの工場を目指している。

ローソン

ローソングループでは、食品廃棄物やペットボトル、段ボールなどの廃棄物を減らす取り組みを実施。有効な対策を取るために、継続的に店舗廃棄物の量を計測している。その上で、無駄な発注を防ぎ、廃棄となる量を減らしている。また、ホットスナック等に使用する油が廃油となった際にはリサイクルにも取り組んでいる。2006年1月から開始した廃油リサイクルには、2022年3月末時点でグループ計14,306店舗が参加している。回収された廃油は飼料用添加剤(家畜のエサの材料)、バイオディーゼル燃料、石けんなどにリサイクルされているという。

※5 参照:東京都環境局「ゼロエミッション東京戦略」https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/policy_others/zeroemission_tokyo/strategy.html

ゼロエミッションの目標は、気候変動対策として有効なのか

2020年度における日本の温室効果ガス(主にCO2を中心とする)の総排出量は11億5,000万トンであった。最も排出量の多かった2013年度と比較して2億5,900万トンの減少かつ、2014年以降日本では温室効果ガスの排出量は減少し続けている。(※6)再生可能エネルギーへの転換や、リサイクル・アップサイクルなどの取り組みが増え、着実にゼロエミッションが進んでいると言えるだろう。

しかし、実はCO2を減らしたからと言ってすぐに気候変動が止まるわけではない。CO2を減らしても気候変動は起こるが、CO2の排出量が多ければ多いほど温暖化の進行が早まる可能性が高いと予測されている。特に、氷で覆われた極地や、気温の高い地域などは気候変動の影響によって深刻な被害を受けやすい。それらを考慮し、少しでも気候変動を遅らせるために2015年12月のCOP21にてパリ協定が採択され、世界全体の平均気温の上昇を工業化前と比較して1.5度の上昇までに抑えるという目標が提示された。このような目標と合わせ、気候変動を少しでも遅らせるための対策としてゼロエミッションの目標は必要だと言えるだろう。

※6 参照:環境省「2020年度温室効果ガス排出量(確報値)概要」(2023年1月15日アクセス)
https://www.env.go.jp/content/900445424.pdf

まとめ

ゼロエミッションは、個々人の努力や一企業の取り組みだけでは達成できない。世界規模の課題であり、各ステークホルダーが協働して向き合わなければならない。また、大規模な課題だからこそ無謀な目標に向き合うのではなく、具体的な数値計画と実践の積み重ねが必要になる。

無駄なエネルギー消費をしない、廃棄物を出さない、リサイクルできるものはリサイクルに出す、ゼロエミッションに取り組む企業のものを購入・使用するなどの小さな積み重ねがいずれ気候変動の抑止につながるだろう。着々と迫ってくる気候危機に対し、少しずつでも行動していきたいところだ。

 

文:武田大貴
編集:吉岡葵