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パブリックコメントとは。行政に目を向けるはじめの1歩に

近頃SNSで「パブコメ」という単語をよく見かける。パブコメとは、パブリックコメントの略称だ。行政が定める前の段階で政策や方針に対して住民が意見できる制度だということは理解しているものの、パブリックコメントの効果が分かりづらいと感じていたり、あまり知識がない自分が意見を提出してもいいのかと疑問に感じていたりする人も多いのではないだろうか。

そこで今回は、パブリックコメントの目的や意義について調べることにした。

パブリックコメントとは

パブリックコメントとは、国や自治体などの公的な機関が政策決定を行う前に、その案と関係資料を公開して市民から意見や情報を募集する手続きのことだ。(※1)日本の制度の場合は国、自治体問わず大体1ヶ月ほどの期間が意見の公募期間として設けられている。また基本的には政策がある程度固まった時点でパブリックコメントにかけられることが多く、政策案が出る前の初期段階でパブリックコメントにかけられることは少ないのが現状だ。

行政がパブリックコメントを行う目的は、市民の意見を考慮することで、行政運営の透明性の向上と、公正さの確保を図ることにある。パブリックコメントで市民が提出した意見に対して、行政側はフィードバック、意見の採否を公表する決まりになっている。そのため自身の意見に行政がどのように向き合ったか、その結果意見は反映されたかを市民が確認することができるため、行政運営の透明性向上と公正さの確保に繋がるのだ。

国においては1999年の「規制の制定・海外に係る意見提出手続き」の閣議決定により、全省庁で一般の意見を聞く制度が導入された。その後、2005年に行政手続法が改正され、パブリックコメントが法制化に至ったのだ。また、自治体においては、2000年ごろから導入されすべての都道府県にパブリックコメントが導入されている。(※2)

政府が募集している案件に関してはデジタル庁が運営するe-Govパブリック・コメントでいつでも確認ができる。

※1 参考:e-Govパブリック・コメント「パブリック・コメント制度について」(2023年1月25日 閲覧)
https://public-comment.e-gov.go.jp/contents/about-public-comment/
※2 参考:松井真理子「市民のためのパブリックコメント制度」p1
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpmyu/15/2/15_1/_pdf/-char/ja

パブリックコメントって効果あるの?

ある程度方針が固まった上でパブリックコメントにかけられるとなると「自分たちの意見は本当に反映されるのか」と思った人もいるのではないだろうか。ここでパブリックコメントの意見が反映され、国税庁の案を修正した事例を1つ紹介する。

2022年8月、年間300万円以下の副業収入の所得区分を、「雑所得」として取り扱うとする「所得税基本通達改正案」について、国税庁がパブリックコメントを募集した。(※3)すると、反対のコメントや、300万円という金額ではなく帳簿書類の作成と保存の有無を基準として事業所得に区分するという効果的な意見が提出された。その内容を受けて原案が修正されたという事例だ。(※4)

上記のようにパブリックコメントが効果を発揮して市民の意見が採用されることもある。当然のことながらどのような意見でも採用されるわけではなく、より効果的かつ本質的な意見であるという点が重要だ。一方で、本件は7059件のコメントが寄せられていた。パブリックコメントでは、コメントが10件も集まらないことも多いことを考えるとどれほど多くの関心が寄せられていたかがわかる。

※3 参考:e-Govパブリック・コメント「「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)に対する意見公募の結果について」(2023年1月25日 閲覧)
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&Mode=0&bMode=1&bScreen=Pcm1040&id=410040064
※4 参考:国税庁「「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)」(2023年1月25日 閲覧)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/kaisei/221007/index.htm

地方自治体のパブリックコメントの特徴とは

先程の国税庁の例は国のパブリックコメントの事例であったが、パブリックコメントは都道府県などの地方自治体にも導入されている。国と地方自治体でどのような違いがあるのだろうか。NPO法人などの市民活動について研究する四日市大学教授の松井真理子さんに話を伺った。

国と地方自治体のパブリックコメント制度の違いの1つが、制度を導入している「目的」だと松井さんは言う。「国も自治体も透明性の向上と行政運営の公正さの確保をしようとしている点は一緒です。それに加えてどこに重きを置くかでそれぞれに違いがあります。まず国の場合は行政だけでは把握できない意見や情報を市民から得たいという点に重きを置いています。一方、自治体はパブリックコメントを通して行政への住民参加の機会をつくるという意図があります。」

各自治体のパブリックコメントを調べてみると、制度の中身自体に大きな差はないものの制度名やホームページでの公表の仕方に若干の差があることがわかった。制度名で特徴的なのが福島県だ。福島県では1991年から県のイメージアップ事業として「うつくしま、ふくしま。」というキャッチフレーズを掲げ、県のさまざまな制度にこのフレーズを使用している。福島県のパブリックコメント「うつくしま県民意見公募」も、そのうちの1つだ。(※5)県民に馴染みのあるフレーズを取り入れることは、パブリックコメント制度に対する市民の関心向上につながる。

また、群馬県のパブリックコメントのホームページは、他自治体のホームページよりも案件一覧の表が見やすく市民がよりアクセスしやすいように感じた。(※6)群馬県の制度には「予告期間」が存在し、意見募集を行うおよそ60日前にホームページでパブリックコメント実施の予告が行われる。その後の流れは他の自治体と変わらないものの、予告期間があるだけ政策に関心を持つ機会も増え、パブリックコメントを行う場合でも幾分準備ができる。またホームページには「実施を予告したが意見募集を実施しないこととしたもの(実施しない理由)」の項目も存在する。この欄を設け、実施しない理由を公表することで、行政の透明性が向上しているのではないだろうか。

制度の内容自体に大きな差はないかもしれないが、これらの取り組みは、市民に関心を持ってもらうことに多少は影響しているのではないかと考える。

※5 参照:福島県庁「パブリック・コメント(うつくしま県民意見公募)」(2023年1月25日 閲覧)https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/01010e/koucho1-004.html
※6 参考:群馬県庁「令和4年度県民意見提出制度(パブリックコメント)」(2023年1月25日 閲覧)
https://www.pref.gunma.jp/page/16405.html

若い世代のパブリックコメントには意義がある

このような取り組みをしている自治体もある一方で、パブリックコメントの件数は国、自治体問わず多くの案件において、1桁しか意見が集まっていないのが現状だ。パブリックコメントの件数が増えない課題はどこにあるのだろうか。

「パブリックコメントの際に政策の補足事項として添付されている資料の内容は、比較的理解するのが難しいです。学術論文などの要約のようなものが各政策にあってもいいのではないか」と松井さんは言う。

地方自治体の制度を調べると、自治体によっては市民には馴染みのない単語を説明するための用語集や、政策を少ないページ数にまとめた概要を添付している。より多くの市民にパブリックコメント制度に目を向けてもらうためには、このようにして参加へのハードルを下げる工夫が必要だろう。

普段行政に関心を持っていない人にとっては、知識の少ない自分たちが意見を提出していいのかという心理的なハードルもあるはずだ。知識の少ない人たちでも意見をすることに意義があると松井さんは言う。「パブリックコメントに参加することで、様々な人、特に普段意見を聞き取りづらい若い世代が行政に対してどのような意見を持っているのかを行政が把握できます。また意見が未熟な場合でも、どのような政策であれば多くの市民に伝わるのかを行政側が考えるきっかけになります」

コメントを提出するきっかけは、SNSで見かけたからでも、自分の友達が教えてくれたからでもいい。自分が望む社会にするには自分ができる限りの行動をすることが大切ではないか。

「学校の授業やSNSなどを含め、近年選挙に行き投票することの大切さを発信する人が増えていますよね。もちろん投票することは政治に参加する上で大切なことですが、選挙に行った後に、国や自治体の行政がどうなっているかをしっかりと観察し、それに対して自分の意見を述べてほしい」と松井さんは言う。

「地方自治は民主主義の学校」と言われている。身近な自治体への参加は地方政治の上積みの上に成り立つ国政を支える上でも非常に重要だ。

行政に目を向けるはじめの1歩

理想のパブリックコメントのあり方について以下のように松井さんは語った。

「国全体の民主主義は地方の民主主義の上に成り立つと考えています。そのためパブリックコメントが、地方の民主主義のレベルを底上げし、国全体の民主主義の水準向上につながればいいのではないでしょうか。」

選挙後、市民が行政に自由に意見を述べ、フィードバックをもらえる機会はパブリックコメントぐらいしかない。自分が住む国や自治体の行政に目を向け自分の考えを持つことは、今後の社会を作っていくひとりとして大切なことだ。そのはじめの1歩にパブリックコメントがあるのではないだろうか。

 

取材・文:吉岡葵
編集:柴崎真直

 

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