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18歳、大人の仲間入り。  成人年齢引き下げは、私たちの生活にどう影響するのだろう

2022年4月1日、民法改正により、成人年齢の引き下げがなされた。

これまで20歳だった成人年齢が18歳に変更されるということで、話題になったことも記憶に新しいだろう。1876年から140年以上もの間、変わることのなかった成人年齢が一体なぜこのタイミングで変更されたのだろうか。また、その変更は私たちの生活に一体どのような影響を与えるのだろうか。成人年齢の引き下げに至るまでの流れ、議論と「成人」とは、という視点から探ってみたい。

成人とは?

成人年齢引き下げの前に、まずは民法が定める成人の意味を確認してみよう。

2022年3月に法務省民事局より発行された民法改正の資料には、次のように記されている。

「民法が定める成年年齢には、①1人で有効な契約をすることができる年齢という意味と、②父母の親権に服さなくなる年齢という意味があります。未成年が契約締結するためには父母の同意が必要であり、同意なくして締結した契約は、後から取り消すことができます。また父母は未成年の監護および教育をする義務を負います。」

(※1)

契約締結を1人で行えること、父母の親権から離れられること、という点が民法における成人の定義だ。ではどんな経緯でこのように定義されるようになったのか、歴史を見ていこう。

※1 引用:法務省 「民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)について パンフレット」(2023年1月20日閲覧)
https://www.moj.go.jp/content/001300586.pdf

成人年齢制定に関する歴史

成人年齢が20歳に制定されたのは1876年。当時の太政官(現政府の類似機関)にて制定されたのが始まりとなり、2022年4月まで1度も変動することはなかった。20歳成人の年齢設定の理由として当時の文献や調査資料によると以下のような内容が見受けられた。

  • 当時の欧米の成年は21歳から25歳を基準としており、これを基準にした
  • 諸外国よりも日本国民の平均寿命が短かった
  • 日本人は世間的な知識が発達しており、精神的な成熟度が早いと考えられていた
  • 奈良時代から続く元服の年齢が15歳であったことから慣行的な年齢との間をとった(※2)

では一体なぜ、約150年もの時を経て、2022年に「成人年齢」が変更されることになったのか。

成人年齢の引き下げの理由

成人年齢引き下げの理由はいくつかある。

公職選挙法改正による選挙権付与年齢の引き下げと法制度の一貫性

2015年6月の公職選挙法改正により18歳以上の国民に選挙権が交付された。成人年齢引き下げの改正法に関する国会答弁で、当時の法務大臣・上川陽子氏は若年者の積極的な社会参加を促すという観点から、十八歳、十九歳の者に国民投票法の投票権及び公職選挙法の選挙権が既に与えられています。(省略)法制度としての一貫性や簡明性といった観点からは、市民生活の基本法である民法においても、十八歳、十九歳の者を経済取引の面で一人前の大人として扱うことが適当であると考えられます」と述べている。選挙権の18歳への引き下げをきっかけに、成人年齢引き下げの議論が始まり、変更するに至ったのだ。

世界基準に合わせた引き下げ

次に挙げられるのは、世界のスタンダードに合わせた変更であるということ。成年年齢のデータがある国・地域(187か国と地域)のうち、成年年齢が18歳(16、17歳も含む)の国 は141か国にものぼり、G7に注目すると、日本以外のすべての国が成人年齢を18歳としている。また、141か国のうち、134か国が選挙年齢も18歳であるという。(※2)

出典:法務委員会調査室 内田亜也子「民放の青年年齢引き下げの意義と課題
ー未来を担う若年者の自立への期待と新たな支援対策の必要性ーp67「図表1 主要国の各種法定年齢一覧」(※2)

これらの統計をみても、世界基準が18歳であるということが分かる。今回の引き下げは、世界水準に則ったものであるのだ。

シルバー民主主義の是正のための引き下げ

少子高齢化によるシルバー民主主義を是正することも、成人年齢引き下げの理由の1つとされている。

シルバー民主主義とは、有権者の中で高い割合を占める高齢者の声が他の世代に比べ優先される政治のことを指す。少子高齢化に歯止めがかからない日本社会において、世代間の格差を広げていると問題視されている。今回の成人年齢引き下げは、そんなシルバー民主主義の是正の効果も期待されているという。

出典:内閣府 「令和4年版 高齢社会白書 第1章 第1節 高齢化の状況」
図1−1−1 高齢化の推移と将来設計(※3)

日本人口の年齢分布と、今後の高齢化の推移をした上図からも分かるように、赤い棒線が示す65歳以上の人口割合を示す「高齢化率」は上昇する一方で、2047年には、3人に1人が75歳以上になると見込まれている。(※3)この、想像もできない超高齢化社会を支える人材として、18歳以上が新たに「大人」という役割を与えられた、とも言えるだろう。

「十八歳、十九歳の者について経済取引の面でいわば一人前の大人として扱うことは、若年者の積極的な社会参加につながるものであり、我が国の将来を活力あるものにすることに資する」と国会陳述では示されており、(※4)一見若者世代の声に耳を傾けるようにも感じるが、右も左もわからない若者たちを巻き込み混乱を招く可能性もある。少子高齢化の歯止めがきかないこともあり、「成人」の枠を広げることで経済活動を循環させていこうという考えが見え隠れする。

※2 参照:法務委員会調査室 内田亜也子「民放の青年年齢引き下げの意義と課題 ー未来を担う若年者の自立への期待と新たな支援対策の必要性ー」(2023年1月20日 閲覧)
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2017pdf/20171201064.pdf
※3 参照:内閣府 「令和4年度 高齢社会白書(概要版)」(2023年1月20日 閲覧)https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/gaiyou/pdf/1s1s.pdf
※4 参照:衆議院「第196回国会 本会議 第21号」(2023年1月22日 閲覧)
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000119620180424021.htm

成人年齢引き下げに関する賛否

今回の改正も迎えるまでに様々な賛否の声があった。

下図の日本財団が成人年齢を迎える17歳から19歳の男女からへのアンケートを元に作成した資料(※5)によると、62.9%の割合が自身を子どもだと考えているのに対し、成人年齢引き下げについては賛成である層が半数を超えていることが分かる。

引用:日本財団 18歳意識調査 「第1回 - 18歳成人 -」要約版
成人年齢引き下げについての賛否(※5)

また「あなたは、ご自身のことを「大人」だと思いますか、「子ども」だと思いますか。では、なぜそう思いますか。」という設問については、以下のような回答が集まった。

引用:日本財団 18歳意識調査 「第1回 - 18歳成人 -」要約版
自分を「大人」「子ども」と思う理由(※5)

成人年齢引き下げの前に、成人年齢に対するリアルな世代の声をすくい取ったものだが、大人であると考える理由に「自分の周りのことが自分でできるから」とある一方で、子どもと考える理由に「自分の身の回りのことでも、自分でできないことがあるから」という回答もある。やはり当事者たちの間でも不安や混乱が渦巻いていることは明らかである。

では、賛否に対して具体的にはどのような意見があったのか、成人年齢を迎える17歳から19歳までの声を筆頭に、改正案が出された当時の国会でのやりとりも含め、その内容をいくつかみてみよう。

賛成派の意見

引用:日本財団 18歳意識調査 「第1回 - 18歳成人 -」要約版
成人年齢引き下げについての意見(※5)

上記のアンケート結果から、大人の自覚が持てること、社会的な責任感の芽生えなどが賛成意見として挙げられている。しかし賛成派の意見にはそれだけではなく、結果として無責任な大人が増えてしまうのではないかという不安を感じる声も混ざっていた。

反対派の意見

引用:日本財団 18歳意識調査 「第1回 - 18歳成人 -」要約版
成人年齢引き下げについての意見(※5)

一方、反対意見ではネガティブな印象を受けるものが多く見られる。大人としての自覚を持てない、精神的に未熟な人が多い…などこれから成人年齢を迎える層としても、どのような心の準備をすればよいのか当惑している様子が想像できる。

国会陳述やその他の意見

  • 賛成派

元法務大臣・川上陽子氏は、先述の通り「国家法の一貫性と簡明性」に加えて」早めの社会参画によりさまざまな分野で積極的な役割を果たしてもらうことの有意性」といった点から、改正賛成の立場を示している。

(中略)成年年齢を引き下げ、十八歳、十九歳の若年者の社会参加の時期を早め、社会のさまざまな分野において積極的な役割を果たしてもらうことは、少子高齢化が急速に進む我が国の社会に大きな活力をもたらすものであり、大きな意義を有するものであると考えております。

(※6)

  • 反対派

自民党議員・大塚拓氏は「消費者被害の拡大の懸念」という観点から、反対の立場を示した。

民法の成年年齢の引下げによる影響に目を向けますと、十八歳、十九歳の若者が大人としての責任を分担するとともに、大人としての権利、自由を付与され、みずからの判断で契約を締結することができるようになります。これは、若者の自己決定権、社会参画の拡大という大きなメリットをもたらす一方、消費者被害の拡大につながるのではないかとの懸念も指摘されております。

 本法律案が成立した場合には、十八歳、十九歳の若者が行った契約は、未成年者であることを理由に取り消すことができなくなります。そのために、若者が不当な契約を結ばされ、被害を受けることのないよう、十分な施策を実施する必要があります。また、自立に困難を抱える若者が親権に服さなくなることによってますます困窮することのないよう、自立を促すための施策も重要な課題になるものと考えます。

(※6)

以上のような議論がなされた上で変更された成人年齢。では新しく成人となった18歳、19歳は一体どのようなことが出来るようになったのだろうか。

※5 参照:公益財団法人日本財団 18歳意識調査 「第1回 - 18歳成人 -」要約版
https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2018/12/wha_pro_eig_02.pdf
※6 引用:第196回国会 本会議 第21号(2023年1月22日閲覧)
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000119620180424021.htm

成人年齢が引き下げで、変わったこと・変わらないこと

成人になると、法律が示す2つの成人の定義、①1人で有効な契約を結ぶことができる、②父母の親権に服さなくなる年齢である、という点から、自身の責任を担保にさまざまな選択の権利が与えられる。

〈成人になり可能になる主なこと〉

  • 一人暮らし用の物件などを借りられることが出来る賃貸契約
  • 金融機関での借り入れ契約
  • クレジットカード、携帯電話の契約
  • 10年パスポートの取得
  • 公認会計士や司法書士、行政書士などの国家資格の取得
  • 親の親権に服さない

金銭的に便利な手段を得られるようになったことや、家庭内不和を感じている場合、自分の意思で住む家を決めるなど、自身の責任を担保に、さまざまな選択の権利が与えられた。「未成年だから」と諦めなければならなかったことが減り、人生設計の幅が広がったとも言えよう。

次に、成人年齢の引き下げに関わらず、法律によって20歳まで禁止されていることを見ていこう。主に、健康面への影響や非行防止、青少年保護の観点から維持されたままになっている。

〈法律により20歳まで禁止されていること〉

  • 飲酒・喫煙
  • 賭博(パチンコ、公営ギャンブル)
  • 養子縁組を組むこと

選択の幅は広がったが、自身の選択に対する責任を正しく認識することも同時に求められる。

少し視点は変わるが、法律婚可能な年齢についても今回の法改正で変更があった。男性は変わらず18歳であるが、女性についてはこれまで16歳となっていたところを18歳にするよう引き上げた。男女間でこの差があった理由としては、女性の方が心身の成熟発達が早いと考えられていたことからであるというが、実際には経済的な判断力や成熟度に性別は関係がない。

ひと昔前の家族観は夫は働きに出て、妻は家事育児をするという形がマジョリティーであったが、女性の社会進出が広がり、性別に関わらず社会に出て働いているなど、社会的なスタンダードが大きく変容してきている。またSDGs 目標.5の「ジェンダー平等を実現しよう」という目標達成に向けて、国連から男女差を改正するよう求められたことも理由として挙げられる。(※7)

この差がなくなったことも、今回の成人年齢引き下げを含む法改正による大きな変化であると言える。

自立した生活を送りたい、大きな買い物をしたい、結婚したい。18歳以上であれば、与えられた権利を行使することで叶えられる望みだ。だが多くの選択肢を持つということは、責任を伴う、ということを忘れてはいけない。未成年だった頃は親に同意書を書いてもらい、トラブルが起きたときにも親が介入し、解決してくれていたかもしれない。しかし、成人として自分の意思で選択した場合はそうもいかなくなる。

今まで知る必要のなかったこと、賃貸契約のこと、結婚することの意味やその多様性のこと、金銭管理の仕方や返済方法についてなど、自分の選択に関する多くの情報に触れ、理解しておくことが重要になってくるだろう。

※7 参照:外務省「条約第44条に基づき締約国から提出された報告の審査」p.18(2023年1月22日 閲覧)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/pdfs/1006_kj03_kenkai.pdf

成人になること

2023年1月9日の成人の日。キレイに着飾った振袖や袴、ビシッと決めたスーツ姿など、さまざまな形で成人を祝う人の姿が街に溢れた。新しく社会活動に参加する成人たちが、不安を抱くことなく暮らしていける社会とはどんな姿をしているだろうか。また、先に成人している「大人たち」は、「成人であることとは?」と問われた時に、なんと答えられるだろうかと考えをめぐらした。これまで当たり前のように「成人=20歳(はたち)はたち」という生活を送ってきた中で、急に訪れた成人年齢の引き下げ。今回の改正内容をきっかけに、「成人であること」やその責任について、改めて考えてみてほしい。

 

文:三浦 永
編集:おのれい