私たちは、「政治」や「選挙」とどう接点を持ち、そしてどう関係し合っていけるのだろうか。2022年夏に参議院議員通常選挙を控え、あしたメディアでは「わたしと選挙」をテーマに連載を掲載する。あなたと政治との関わり、あなたと社会との関わりのヒントになると嬉しい。第4回は、ユーグレナ社初代CFOを歴任し、FORBES 30 UNDER 30 Japan 2021-日本発「世界を変える30歳未満」の1人に選出された、小澤杏子さんに思いを寄せてもらった。
前回の衆議院議員選挙の投票率は55.93%。これは、戦後3番目の低水準だと多くのメディアで話題になった。とはいえ、投票率が低迷していたのはここ数年だけの話ではないのに、なぜここまで話題を呼んだ(ように見えた)のだろうか。それは、今までの投票期間前で1番盛り上がっていた(これもまた、“ように見えた”)からだと考えるのが自然だろう。
Twitterでは「#投票に行こう」「#わたしも投票します」というハッシュタグがトレンドになったり、「目指せ!投票率75%」や「VOICE PROJECT 投票はあなたの声」などといったプロジェクトが話題になったりしていた。他にも、Instagramで投票に行った人たちがストーリーを頻繁に投稿していたり、YouTubeではYouTuberやインフルエンサー、芸能人までもが投票に行くよう呼びかけたりしていた。とにかく、SNSの中ではみんなが投票に関心を持っていた。いや、持っている“ように見えた”。そう見えていたから、「今回こそは、これだけの注目があるのだから、低迷していた投票率も少しは回復するだろう」と私も疑いなく思っていたのである。
しかし、実際の投票率は莫大な期待には見合わなかった。正直なところ、期待が高かったゆえに「ここまでやってもだめなのか」という閉塞感を抱くことになった。これだけの著名な方々が現代には必要不可欠なインターネットを全力で活用しているのに、その波に国民も乗っていると思っていたのに、数字は相変わらずの低水準。メディアなどでよく話題の導入として「このままの日本で大丈夫なのか」「若者に活力のない国をどうするのか」「日本人は政治に関心がない」などと使われているフレーズを、そのまま鵜呑みにはすまいと自分に言い聞かせてきたが、やはりそうなのかもしれない、もうだめなのかもしれないと絶望した。これが投票率の開示後数日間の心情だった。
とはいえ、何が問題だったのか、どのようなアプローチがより適切だったのか、そこを見出すことや次に活かそうと努めることを怠ってはならない。私はたまたま日本で生まれた若者の1人として、これからの日本に少しでも貢献できる人でありたい。その未来を左右する大きな1つの要素が、政治なのである。そんな思いで頻繁に多種多様な見解や議論に目を通しながら、ここ数年の投票率をどのようにすれば改善できるのかを考えていた。そんな中、日本若者協議会代表理事の室橋祐貴さんの『「投票に行こう!」という呼びかけは誰に届いていないのか?』 という記事に目が止まった。少なくとも私のTwitterのタイムラインではよく拡散されていた記事の1つだった。その記事では、私が感じていた違和感が、これまでとは異なるデータを用いて分析されていた。傾向として、政治参加に消極的になりやすいのは中高卒などの非大卒層であること、一方で、社会経済的に恵まれた家庭の子どもほど政治関心を持ちやすいことなど、「なんとなく分かっていたけど、それが数値的に根拠付けられた」ものだった。
政治的な支援をより必要とするであろう層ほど政治に関心を持てておらず、現代の政治状況を把握できていない。言われてみればそうなのだが、それでも非常に勉強になった記事の1つであった。そして、私はそこから記事のタイトルである呼びかけが「誰に」届いていないのかではなく、呼びかけが「なぜ」届いていないのかを時代背景とともに考えるようになった。
結論から言うと、本題の「選挙に行くことの意味」だったり「価値」を本来伝えたい人々に、より伝えにくくなっているのはSNSが原因であると考えている。
インターネット自体は、これまであった情報の不公平さを無くしてくれた便利なツールだと感じているが、SNSはそれとは少し種類が違うと最近感じる。というのも、もはや今では一般的になりつつあるInstagramやTwitter、TikTokなどのソーシャルメディアはそれぞれ独自のアルゴリズムを駆使しており、これがSNSの利点でもあり欠点でもある同質性を高めたコミュニティを創っているからだ。
例えば、Instagramでは検索ページがあり、アプリ側が勝手に「好きそうな、見たそうな投稿」を集めてくれる。さっきまで調べていたカフェやファッションの投稿はすぐ検索欄の系統に反映され、とにかく使い勝手がいい。また、Twitterでもランダムでいいねしたツイートと同系統のものをタイムラインに表示してくれるので、自分から新たに探しにいかなくとも、自分好みの情報やコミュニティが自然と集められる。自分の意志に関わらず、SNSの中を自分色に染めることができるのだ。
コミュニティは人々にとっての居場所で、それぞれの社会である。「社会」という言葉を定義するとき、人々が集まって持続的に生活を営む集団、とよく説明されている。SNSは、近年の多様な社会をより一層多様にした。これは素敵なことで、私自身も、好きなこと、好きな話題、居心地のいい場所を見つけやすい今の社会は好きである。しかし、SNSを日頃から使っているからこそ、自分の画面に映っているコンテンツやタイムラインそのものが社会の全体だと錯覚しやすいという危険が潜んでいるのを忘れてはならない。現代特有の「一見同じように見えて何層にも分かれて重なり合っている社会」こそ、様々なメッセージが届きにくくなってしまう原因の1つだと考えている。
私のタイムラインでは、投票前に「投票にいこう」という呼びかけが活発に拡散されていたが、ユーザーが違えば画面の中の景色も変わる。日頃から政治や社会に関する情報収集をソーシャルメディアで行っているからこそ、私のタイムラインには投票率を上げるためのプロジェクトや政治に関する有識者の意見などが流れていた。そもそも、Twitterなどのトレンドは毎日変わっている。私が関心のある事柄だとトレンドのページをチェックしているものの、普段はトレンドのページはめったに閲覧しない。常に世間ではなんらかのトレンドがあるものの、その内容が自分にとって価値があるのかないのかによって干渉度が変わる。そして、干渉度が低いと、そのトピックが存在しないのが広範な社会であると錯覚していたのだ。このような構造だからこそ、ネット社会での投票率をあげるために行われた様々なプロジェクトが政治に関心のある人たちの間では話題になり、期待も高まっていたのだ。少なくとも、私はそう“錯覚してしていた”と当時を振り返って思う。
だからこそ、投票に行って欲しい人たちに声を届けるため、本質的に投票率を上げるためにはアプローチを工夫しなければならない。これまでの素晴らしいプロジェクトは継続しつつ、SNSなどのフィルターで排除されない、物理的で全員に等しく届く取り組みを増やしていかなければならない。
その根本にあるのは「教育」と「意外性」だと私は考えている。投票権が得られる年齢が18歳以上に引き下げられたが、それに相応して投票に関する教育も早まったのか? 義務教育課程での政治にまつわる教育は足りているのか? 学校などといったいわゆる“選べないコミュニティ”でこそ、必要なメッセージを全体に届けることができる。また、意外な事柄と政治をセットにすることで、少しでも多くの人に「投票に行こう」というメッセージを届けられる。 意外性は色々なところに潜んでいて、VOICEプロジェクトの芸能人と政治もそうだが、スイーツと政治も面白いかもしれない。
地道ではあるし、すぐ目に見える効果は出ないかもしれない。しかし、今までのプロジェクトもこれからの取り組みも続ければ、きっと日本の政治的関心度を向上させることができる。そう信じて活動している人々が社会には見えていないだけで、気付いていないだけで、意外と多くいるのだから。
小澤杏子
2002年生まれの帰国子女。東京学芸大学附属国際中等教育学校在学中の19年10月に株式会社ユーグレナの初代CFO(最高未来責任者)に就任。将来世代の視点から「消費者が意識せずとも環境に配慮した行動を取れる仕組み」を提言した。21年4月に早稲田大学社会科学部入学。日本原子力学会誌ATOMOΣや日経ESGのコラムを担当。21年11月に株式会社丸井グループのアドバイザーに就任し、現在も活動中。その他マルチにメディア出演や取材対応、執筆も行っている。FORBES 30 UNDER 30 Japan 2021-日本発「世界を変える30歳未満」の一人に選出。
寄稿:小澤杏子
編集:おのれい
(注)
本コラムに記載された見解は各ライターの見解であり、BIGLOBEまたはその関連会社、「あしたメディア」の見解ではありません。