- トーンポリシングとは?
- トーンポリシングはなぜ起きるのか
- トーンポリシングとモラハラの共通点
- トーンポリシングと詭弁の共通点
- トーンポリシングの影響
- トーンポリシングの対策と対応方法
- トーンポリシングをなくすために
- まとめ
あなたは学校で、会社で、家庭で、「そのような言い方はよくないよ」と口調や態度を批判され、話の内容をきいてもらえなかったり、話し合うことを拒否されたりした経験はないだろうか。また相手に「そのような言い方はよくないよ」と話の内容への言及ではなく、相手の口調や態度について指摘してしまったり、話し合うことを退けてしまったことはないだろうか。
無自覚であっても、口調や態度を批判し、論点をずらす行為は「トーンポリシング」に該当する。論点をずらす行為によって、本来伝えたいことが伝わらず、議論が発展しないのである。この記事では、日常的に起こる「トーンポリシング」について、モラハラとの関係性やその影響、それらの対策などを交えて紹介していく。
トーンポリシングとは?
トーンポリシング(Tone Policing)とは、意見を表明した相手に対し、主張内容ではなく、話し方や態度(Tone)を批判することで、論点をずらすことである。
話し方(Tone)を取り締まる(Policing)という意味から「話し方警察」などと言われることもある。つまり、「何が」主張されているかではなく、事象が「どう」主張されているかに焦点を当てて言及し、話し方を批判する行為だ。
▼トーンポリシングについてより深く知る
トーンポリシングの特徴
トーンポリシングの特徴は2点ある。
1点目は、つらい思いや理不尽なことを体験した人、何かに抑圧されたり、声をあげづらい状況下にいたりする人が、感情的に自分の思いを表現したいときに発生する点。
2点目は、関係性が対等ではない場合に起こりやすい点である。マジョリティ側がマイノリティ側に対して無意識的に行なってしまうケースが多く、当事者と非当事者、上司と部下、先生と生徒、親と子ども等、関係性が対等ではない場合に、自分の立場を守る手段として使われることがしばしばある。
トーンポリシングの具体例
故ジャニー喜多川氏の性加害問題を受け、2023年10月、旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)は記者会見を開いた。その中で会見に出席していた井ノ原快彦氏のある発言に、論点をすり替える行為だったと一部批判があがったのだ。
会見に参加した記者たちは質問をしようと、熱心に手を挙げていたが、次第に状況は過熱。そういった状況を鎮静化する為に井ノ原氏は、「子どもも見ているので、落ち着いていきましょう」とたしなめた。この発言後、一部の報道陣から拍手が起こり、場は鎮まった。
しかし、この井ノ原氏の発言は、「性加害問題」から「記者の態度」に問題をすり替える行為だと、SNSを中心に批判があった。他にもジャニーズ事務所の性加害問題を扱う会見で、加害者側が記者たちの態度を批判するのは適切ではないという指摘もあった。
井ノ原氏には、論点をすり替える意図はなかった可能性もあるが、意図していなくてもトーンポリシングは起こってしまう。
トーンポリシングはなぜ起きるのか
トーンポリシングは意識的にも、無意識的にも引き起こされる言動である。議論を交わす中で、相手の言い方や態度に納得できず、否定的な態度をとってしまったという経験はないだろうか。トーンポリシングを行ってしまう主な原因について、以下3点を解説する。
自分の立場を守る手段として論点をずらす
不要に相手の態度や言い方を非難することで、自分の立場を優位にしようとしたり、強引に自分の意見を押し通そうとしたりするケースもある。話し合いは当事者同士の関係性やパワーバランスに依存せず、お互いが相手の意見を尊重しながら、まずは受け入れて、理解しようとする姿勢が必要だ。
相手のネガティブな感情を許容できない
相手の怒りや悲しみなどの感情を受け止めきれず、「落ち着いた方がよい」「感情的になっても仕方がない」と、相手の意見を受け入れることをつい無意識的に放棄してしまい、トーンポリシングが起こるケースがある。
確かに誰かを傷つける言動や誹謗中傷を見過ごしてはいけないが、意見を交わす際や、議論をする際は必ずしも冷静でいる必要はない。ネガティブな感情が発生してしまうことは誰しも起こりうることであるため、共感する姿勢で、相手の感情を正面から受け止めることが重要である。
ジェンダーバイアスの二次被害
「女性は感情的である」というステレオタイプ的なジェンダーバイアスによって、トーンポリシングが起こってしまうケースがある。この場合、「感情的」と周りから勝手に評価された女性が、言動を抑圧されるトーンポリシングに巻き込まれやすい。
トーンポリシングによって意見が抑圧されると、議論が進展せず、公平性を損なってしまう。ジェンダーバイアスの浸透は次のトーンポリシングを誘発することにもつながりかねない。「男らしさ」「女らしさ」の枠に当てはめて、相手と接していないか考えてみて欲しい。
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▼ステレオタイプについてより深く知る
トーンポリシングとモラハラの共通点
相手の言い方や態度を批判し、論点をずらすトーンポリシングには、言葉や態度で精神的に相手を追い詰めるモラハラの要素を含んでいるといえる。
モラハラの定義と特徴
モラハラとは「モラルハラスメント」の略称で、倫理や道徳に反した嫌がらせやいじめのことである。言動や態度などで相手に精神的苦痛を与えることを意味する。
体を傷つける物理的な暴力ではなく、個人の人格や個性を否定する態度、威圧的な言動で相手を追い詰める行為がモラハラに該当する。モラハラの被害にあっても、被害者が自分にだけ責任があると思いこんでしまい、表面化せず、可視化されないケースも少なくない。
▼モラルハラスメントについてより深く知る
モラハラとの類似点
相手の言い方や態度を批判することで、主張そのものを拒否するトーンポリシングはモラハラのひとつとして機能するケースがある。個人の構成要素である、言葉遣いや話し方、態度、感情の否定は、個人の価値観や個性の否定と言い換えることができるだろう。
個人の価値観の否定は、自尊心を傷つけ、精神的に大きなダメージを与えるという点において、モラハラと類似している。問題の構造が似ているため、被害者の心理も同じような状況だと推測できる。批判や拒否されたことを真に受けすぎてしまったり、それらを内面化し、自分だけに責任があると思い込んでしまう。こういった悪循環から脱却するためにも、客観的に自分の状況を把握することが大切である。
トーンポリシングと詭弁の共通点
相手の言い方や態度を批判し、論点をずらすトーンポリシングには、相手を困惑させ、議論を回避する詭弁の要素を含んでいるといえる。
詭弁の定義と特徴
詭弁とは、論理的で有効な根拠がないのにも関わらず、強引に正当化しようとする弁論のことである。
詭弁は、自分の主張を正当化させることや相手を論破することを目的に行われることが多い。詭弁の手段は様々だが、相手の意見を歪曲して、その歪曲した意見をもとに論破するストローマン論法などが有名である。
詭弁との類似点
トーンポリシングと詭弁の共通点は「対話の阻害」であり、両者とも、議論の本質から注意をそらす手法を用いる。
詭弁は誤った論理や不正確な情報を使い、トーンポリシングは話し方や態度を批判することで、本来の論点から逸らす。また両者とも、ある種の優位性を利用して議論をコントロールしようとする心理が働いている場合もある。知識や論理力を使う詭弁に対し、トーンポリシングは社会的地位や権力を利用する傾向がある。
トーンポリシングの影響
トーンポリシングはコミュニケーションにおいて、どのような影響を与えるのだろうか。具体的に2点注目したい。
自己表現の抑制
自分の意見が内容ではなく、言い方などについて批判されることで、自分の意見や感情を素直に表現することや、相手に伝えることをためらうようになってしまう。また、それにより以下のような状態に陥ることも考えられる。
・相手からの批判によって、自尊心が傷つき、自信を失ってしまう
・行き場を失った感情や意見が、自分の中に存在し続け、自分を苦しめることなる
・批判されることへの不安、自分の感情を素直に表現できないこと、心理的安全性が担保されていない相手とのコミュニケーションにより、日常的に過度にストレスを感じてしまう
問題解決の難航化
感情的な表現を抑制することで、問題の重要性や緊急性が適切に伝わらず、問題解決が遅れてしまう可能性がある。感情的な訴求をした際に相手が話を聴いてくれない場合は、1人で問題解決を推進するのではなく、友人、同僚、上司など信頼できる第三者に介入してもらってもいいだろう。客観的な視点から、新たな意見を述べてもらったり、議論をまとめてもらったりすることもできる。
これらのトーンポリシングの影響は、当人だけでなく、組織や社会全体にも波及する可能性がある。例えば、職場環境では、生産性の低下や離職率の増加に、社会的な議論においては、意見を封殺することによって、多様な視点や意見が排除され、偏った主張が形成される可能性がある。
トーンポリシングの対策と対応方法
ここまでトーンポリシングが与える影響を紹介してきたが、実際にトーンポリシングが発生することを避けるために私たちが取れる行動はどのようなことがあるだろうか。トーンポリシングを未然に防ぐ対策と、発生してしまった場合の対応方法について紹介する。
トーンポリシングの対策
トーンポリシングを未然に防ぐにはどうすればいいのだろうか。言い換えると、聴き手としてどういった点を意識すれば、トーンポリシングを防ぐことができるのだろうか。
・アクティブリスニング(積極的傾聴法)の実施
相手の感情や経験を理解しようと努力を行うことが大事である。その手段として、コミュニケーションスキルの1つの、アクティブリスニング(積極的傾聴法)を紹介する。
アクティブリスニングとは、聴き手が話し手に必要に応じて質問したり、言葉を添えたりして話し手の本心や思考を引き出し、話し手をより深く理解するためのコミュニケーションスキルである。
アイコンタクトや相槌を挟みながら、相手の非言語情報にも注意を払うことで、相互理解の促進に役立てることができる。耳だけではなく、全身で話を聴く姿勢は、相手の表情や仕草や声色などから、相手の心理状態を推測するため、トーンポリシングを防ぐことに効果的だ。
また相手の話を理解しようとする姿勢は、相手にとっても安心して話ができる環境を形成しており、より建設的な議論が進むだろう。加えて、自分自身がトーンポリシングを行っていないか常に意識して、コミュニケーションを重ねていくことも大事である。
・心理的安全性の確保と拡大
心理的安全性を高めながら、構築範囲を拡大していくことも効果的だろう。心理的安全性とは、組織のメンバーから非難や否定されることに不安を感じることなく、安心して自分の気持ちを表現できる状態のことである。
心理的安全性が高い状態を維持することで、感情的な表現も含めて、自由に安心して発言することができる。そのため相手に敬意を持って接し、包括的な環境をみんなで目指すことが重要である。
また心理的安全性が担保されている空間であれば、仮にトーンポリシングが起こってしまった場合でも、指摘できる可能性が高く、トーンポリシングの対策につながるだろう。
トーンポリシングの対応方法
トーンポリシングを受けた場合、実際にどのように対応したらいいのだろうか。言い換えると、話し手として、論点がすり替わるのをどのように防げばいいのか。
・自分の感情の正当性を主張する
自分の感情や表現方法が正当だと主張することが大事である。「この問題について怒るのは当然のこと」と毅然とした態度で主張することで、自分の感情を守ることができる。
誰しも怒りを感じることはあり、その怒りを抑える必要は必ずしもない。また第三者も自分の怒りを抑える権利を有しているわけではない。自分の感情を表現することで、誰かの背中を押すことにも、誰かの過ちを気づかせるきっかけにもなるだろう。
・「問題点」について議論する
話し方や態度について批判された際は、動じずに、「私の言い方ではなく、〇〇について話し合いたいです。」と指摘することで、論点を本題に戻すことができる。
直接的な指摘が難しい場合は、一度批判を受けとめた後に、「〇〇という点について、あなたの考えをお伺いできますか?」と、具体的な質問を投げかけ、論点を本題に戻す。質問をすることで、自然な会話の流れで論点を本題に戻すことができる。
トーンポリシングをなくすために
トーンポリシングの対策として、心理的安全性の確保が重要だと説明したが、企業は具体的にどのようにして、心理的安全性を築いているのだろうか。
自分の内面をブロックで表現「レゴシリアスプレイ」|株式会社メルカリ
株式会社メルカリでは、2019年に「レゴシリアスプレイ」を実施したようだ。レゴで作品を完成させる「レゴシリアスプレイ」とは、その作品を通じて、自分の感情や考えを相手に伝えながら関係を築くワークショップである。
メンバーの作品を通じて、作品(相手)をリスペクトする気持ちを自然に育んだり、他者との違いを楽しむことができる。自分と他者とが根本的に違う存在であることを理解し、組織としての共通認識を形成する。遊び感覚で取り組め、チームの結束力が高まることが期待できそうだ。
※1 参考:レゴ(R)で思考が丸わかり? メルペイPRメンバーでチームビルディングをしたよ #メルカリな日々 | mercan (メルカン) (mercari.com)
https://mercan.mercari.com/articles/183000/
まとめ
議論の論点をずらすトーンポリシング。生活の中で言葉を交わしていれば、トーンポリシングをしてしまう、される可能性は誰にだってある。
トーンポリシングが起こらないように注意を払い、相手が言語化できていないことまで理解しようとしてほしい。なぜ相手が怒っているのか、悲しんでいるのか、傷ついているのか、当事者意識を持ち、相手のことを想像してみてほしい。そうすることで、トーンポリシングを防ぐだけではなく、ハラスメントやマイクロアグレッションなどの相手を脅かしたり、傷つける行為を未然に防ぐことにつながるだろう。
▼マイクロアグレッションについてより深く知る
文:安井一輝
編集:吉岡葵