俺たち何?え?チーム友達!
“チーム友達”の流行語化がとまらない。始まりは、2021年にKOHHとしてのラッパー活動を引退した千葉雄喜が、今年2月に本名名義でリリースした曲「チーム友達」に由来する。——と断りを入れなければならないくらいに、1つの楽曲の域を超えて街中でもさまざまな人が“チーム友達”と口にしているのはご存知の通り。もはや発信元である千葉雄喜のこともKOHHのことも知らない層にまで伝播しているのが興味深い。
絶妙なタイミングでリリースされた「チーム友達」
元々“チーム友達”とは大阪拠点のラッパー・Jin Doggが仲間内で使っていた言葉で、大阪滞在時に彼と会った千葉雄喜がその場のノリでレコーディングして作ったようだ。千葉は事前にDJらに音源を配布しており、クラブでは局所的に認知されていたところ、リリースされ一気に全国区でヒット。Spotify国内バイラルチャートにて初登場1位を奪取したと同時に、Chris Brownをはじめとした多くの海外アーティストも反応した。
Jin DoggとYoung Cocoを客演に迎えた「チーム友達 (Dirty Kansai Remix)」を皮切りに公式・非公式問わず膨大なリミックスも作られ、この春のヒップホップシーンを席巻。千葉は4月19日にTHE FIRST TAKEにも出演したが、この頃にはもう一般層にまで“チーム友達”というフレーズが浸透し、ひとり歩きしていた。みるみる拡大していくなかで、良くも悪くも、本来とは離れた使われ方をされはじめている。
そもそも、リリースされたタイミングが絶妙だった。昨年の後半から年始にかけてヒップホップシーンではBAD HOPと舐達麻の熾烈なビーフ(ラッパー同士が楽曲を通じてディスり合うこと)が展開されており、ただならぬ緊張感が漂っていた。1月の舐達麻のイベントが中止になったあたりでその殺伐とした空気は最高潮に達したが、そこに無邪気なピース姿で写る千葉雄喜が“チーム友達♪”と言って現れたのだから、皆がなびかないわけがない。その後2月にBAD HOPが解散ライブを行なったのも絶好のタイミングだった。近年ヒップホップゲームの頂点に君臨しシーンを仕切っていたグループがいなくなることでの空白感や不安感に、千葉雄喜が“チーム友達”と歌い現れたことの心強さがあったからだ。
もちろん、それを言ったのが元KOHHである千葉雄喜であった、というのも大きい。日本語ラップ史に脈々と受け継がれている「どの口が何言うかが肝心」という価値観があるが、彼には、北区王子を出自とし、国内ヒップホップにおけるゲームチェンジを一度成功させ、BAD HOPやAwichといったラッパーが現れる前のシーンで一度天下を獲ったからこその説得力がある。
背景として、昨今ヒップホップの盛り上がりを受け、全国津々浦々で演者が爆発的に増えている点も見逃せない。客演交流によるラッパー間の相関関係もかなり入り組み複雑になってきているなかで、ビートも多様化しシーンは蛸壺化。そのような状況下で、派閥を超えてラッパーが皆乗っかり参加できるゲームの発信者として、千葉雄喜は最適だったのだろう。「チーム友達」には「関西関東 西東、北南」というリリックがあるが、KOHHを引退し一度ゲームから退いた千葉だからこそ、日本中それぞれのコミュニティに伝播するだけのことが言えたのだと思う。
音の面から見る「チーム友達」
そういったヒップホップシーンの様相は、分断が叫ばれ孤独を感じることが増えている社会全般にも当てはまるのだろう——といったチーム友達から考える社会論は、これから量産されるであろう様々な記事に譲るとして、ここでは音の面からもう少しチーム友達を紐解いてみたい。
というのも、千葉雄喜の「チーム友達」を初めて聴いた時、あまりにも徹底したKOHHらしさに驚いてしまったからだ。元来KOHHが打ち立てたトラップミュージックの日本語発音の面白さは、丁寧な母音の扱いと並列に織り交ぜられる破擦音・破裂音という、対比のユニークさにあったと思う。
母音が多いがゆえにラップしにくいという日本語の弱点を逆手にとり、むしろ丁寧に延ばされ発される母音の合間で、トラップミュージックの特徴であるチキチキ鳴るハイハットと共鳴するような形で「チ」や「ツ」の(無声)破擦音、カ行やタ行の(無声)破裂音が弾けていた。
一般的な会話においては母音を明瞭に発音することで勤勉さや快活さ、丁寧さといった印象を与えるという研究結果があるが(※1)、そこに破擦音や破裂音の猥雑な音が挿入されることによるアンビバレントなフィーリング——しかもそこで歌われるのはかつて“小学生の作文のよう”と評された本能そのままの内容である——がKOHHの魅力だった。最も象徴的な曲は「ビッチのカバンは重い」(2015)で、「チ」の破擦音とともにしつこく伸ばされる「い」の母音が強烈な印象を残す。
そして驚くべきは、「チーム友達」が、「チーム」の「イ」の長音を間に挟みながら、徹底した「チ」の破擦音で構成されている点である。「チーム友達/チーム友達」と繰り返される「チ」の連呼は、その後「契り/契り/契り/契り/契ろう/契ろう/契ろう/契ろう」と続き、聴く者をひたすらに「チ」のループへ引きずり込む。
「チーム友達」は歌われている内容に反してダークなメンフィス・ラップの空気を感じさせるのもアンビバレントな点だが(実際、メンフィス・ラッパーのDuke Deuceも5月3日にリミックスver.をドロップ!)、とにもかくにも、ここまでKOHHらしさを突き詰めたようなサウンド感の楽曲でヒットしたのが面白い。「チーム友達」はkoshyがプロデュースしているが、曲の最後にお馴染みの「koshyあっつー」というプロデューサータグで「ツ」の破擦音を聴かせて終える点も、この曲の魅力に合った締め方として心地よい。
カ行やタ行は、効果的に発することによって猥雑で荒々しく、時にけばけばしい印象を与えることができる音である。それら(無声)破擦音や(無声)破裂音を巧みに操っているラッパーとして、それこそ現在のメンフィスを代表するGloRillaは抜群だ。国内では、Elle Teresaが圧倒的だろう。「Tsukema」「Who’s She? -seafood」「Nail Sounds」といった曲のすばらしさは筆舌に尽くしがたく、アルバム『Pink Crocodile』(2023)は、日本語ラップにおける破擦音/破裂音の使い方として1つの到達点を示したと言ってよい。同時に、次世代ではMIKADOにも注目したい。粗く乱暴な発音はカ行やタ行の荒々しさを一層引き立てており、これまでのラッパーにはない光る可能性を見せている。
※1 内田照久(2011)「音声中の母音の明瞭性が話者の性格印象と話し方の評価に与える影響」, 「心理学研究」 82巻5号, pp.433-441.
ピンポン玉のように、「チーム友達」は軽やかに越境を続ける
そう考えると、千葉雄喜もElle TeresaもMIKADOも、どこか共通点が感じられないだろうか。優れたラッパーたちは前述した無声音の発音によって猥雑さとともに軽さも醸し出しており、ゆえに「チーム友達」は、皆がその軽薄さをもって口ずさめるものになっているのだ。
どこまでも広がっていく「チーム友達」は、リリックの軽さとともに発音の軽さも相まって、弾むように世界中を伝播していく。ことばとは、ある側面においてピンポン玉である。発話者の想像を超えてどこまでも遠くに弾み飛んでいくその現象は、ことばの持つ発音面の魅力——ラップの醍醐味そのもの——を際立たせながら、いまこの瞬間も誰かの会話に影響を与えているだろう。
つやちゃん
文筆家。音楽誌や文芸誌、ファッション誌などに寄稿。メディアでの企画プロデュースやアーティストのコンセプトメイキングなども多数。著書に、女性ラッパーの功績に光をあてた書籍『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)等
文:つやちゃん
編集:Mizuki Takeuchi