気候変動が起きている。
いまや、「その事実を知らない」人はいない。それなのに、「日々の生活のなかでその問題を意識し、行動できているか?」と問われたら、胸を張って手を挙げる人は少ないのではないだろうか。
気候変動って、どうして自分ごとにならないんだろう?
この連載では、すでにみんな知っているにも関わらず「日々意識して対策に取り組んでいる!」となかなか宣言しきれない…そんな気候変動というトピックについて、6/5の世界環境の日を機に立ち止まって考えてみたい。
- Q1 気候変動って、つまり何のこと?
- Q2 何が原因で起きてるの?
- Q3 この危機に対して、世界はどう動いている?
- Q4 日本はどう取り組んでいる?
- Q5 もう希望はないの?何をしたらいいの?
- 連載1回目のおわりに
- 気候変動についてもっと知りたい!
Q1 気候変動って、つまり何のこと?
まずこの図を見てほしい。この縦縞には、ある意味が隠されている。
ただのストライプ模様のように見えるが、答えは世界の平均気温の推移を表している。それをグラフ化したのが以下の図だ。1850年から2022年にかけて、世界の平均気温がどう変わってきたかを示している。
1980年代頃から、前年比で気温が上昇していることを示す赤色のバーが増えている。実際に、世界の年平均気温は過去100年あたりで0.76℃、日本の年平均気温は過去100年あたりで1.35℃上昇しているそうだ。(※1)
これはまさに、「気候変動」の様相を表したものの1つ。気候変動とは、気温・気象パターンが長期的に変化することを指す。それによって自然環境や生物多様性の変化、生活環境への影響など幅広い脅威が生まれているのが現状だ。産業革命前と比べて気温上昇が1.5℃を超えると、温暖化が連鎖的におき、 以降の気温上昇が抑えられなくなる。この1.5℃のラインは「転換点」だと言われている。(※2)
そして、この気温は今後も上がり続け、なんと世界の平均気温は、2100年には1850〜1900年の平均気温に比べて1.4~4.4℃程度気温が上昇する可能性もあるという…。この変化と連動してより強い雨が降り、北極圏などの氷河が溶け、海面が上昇することも予測されている。(※1)
※1 参照:気候変動適応情報プラットフォーム「気候変動と適応」※2024年現在の数値
https://adaptation-platform.nies.go.jp/climate_change_adapt/index.html
※2 参照:国際環境NGOグリーンピース・ジャパン「気温上昇1.5℃と2.0℃でこんなに変わる未来の災害頻度」
https://www.greenpeace.org/japan/campaigns/story/2022/07/26/58496/
データを見てみると…
「最近暑いな…」「台風ってこんなに脅威的だったっけ…?」など、日々の生活のなかでも異常気象を痛感することは増えてないだろうか?これらも、気候変動の影響であるとみられている。たとえば、こんなことが挙げられる。
大雨の年間発生数が増加!「強い雨」が増え、屋外スポーツがたびたび中止に?
大雨の被害は年々高まっている。身近な例を挙げると、Jリーグの試合では、大雨などの理由で中止になった数がこの10年で約4倍に高まったそうだ。(※3)1時間の降水量が50mmを越える大雨が降った年間件数の記録を見ても、大雨の頻度が上がっているのは明らかだ。
熱中症の件数・死亡率が増加!運動会は「10月」が定番へ?
熱中症の件数や死亡率も年々増えている。学校では5〜6月に運動会が開かれるケースが多いが、練習中に熱中症で倒れる児童が多く、「今後も温暖化は続くため、運動会は10月ころが適している」と述べる専門家もいるそうだ。(※4)
コーヒーが飲めなくなる?コーヒー2050年問題
気温や湿度の上昇、降水量の減少などにより、コーヒーの栽培にも大きな影響が出るとされる。国際調査機関のワールド・コーヒー・リサーチは、2050年には品種によって栽培地が現在の50%以上も減少する可能性を示唆している。(※5)
ここに挙げたのはあくまで一例。気候変動の影響と見られる事象は、世界中のあらゆる場所で、多岐にわたって生じているのだ。
※3 参照:公益社団法人 日本プロサッカーリーグ(Jリーグ) 「Jリーグ気候アクション」
https://www.jleague.jp/climateaction/
※4 参照:TBS NEWS DIG「『体育祭は10月が適している』5月、6月の開催に気候変動の専門家が“警鐘”」
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/518271?display=1
※5 参照:Columbia Center on Sustainable Investment Staff Publications
“Ensuring Economic Viability and Sustainability of Coffee Production ”
https://scholarship.law.columbia.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1052&context=sustainable_investment_staffpubs
Q2 何が原因で起きてるの?
気候変動の要因で最も大きいものは、化石燃料の使用等から排出される温室効果ガス。石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料を直接燃やしたとき、プラスチックなど石油から製造されたものを燃やしたときなどが該当する。
「牛のゲップが温暖化に影響している」という話も聞いたことがあるかもしれない。牛のゲップから排出されるメタンガスも、温室効果ガスの1つに分類される。
この「温室効果ガス」が毛布のように地球全体を包み、それによって熱が宇宙へ放出されず、地球の温度が上がっていくというのが温暖化の仕組みだ。
人間が影響しているの?
「地球環境の話」と聞くと、日々の生活の延長線上でイメージすることは難しいかも…「正直、人間が影響しているの?」と思う人もいるかもしれない。
残念ながら、気候変動や地球温暖化は人間活動によるものと断定されている。気候変動による科学的な知見を提供する、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2021年に発表した報告書では、「人間活動が主に温室効果ガスの排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことには疑う余地がなく、1850〜1900年を基準とした世界平均気温は2011〜2020年に1.1℃の温暖化に達した」という危機的なコメントが出された。(※6)
産業が発達し、私たちの生活が多くのエネルギーを消費するようになった結果、気候変動が生じ「気候危機」と呼ばれるまでの状況になってきたのが、まさに「いま」なのだ。
ちなみに人間活動の中でも、特に温室効果ガスを排出しているのは「富裕層」だとされている。たとえば、富裕層の移動手段として使われるプライベートジェットは、1時間当たりのCO2排出量が2トンと推定されているが、これは欧州連合(EU)域内における1人の平均的なCO2排出量の数ヶ月分に相当する。(※7)あるデータは、世界の人口の上位10%の富裕層が、世界の排出量の50%に相当する温室効果ガスを排出する一方で、下位50%の人々は12%程度にとどまると示しており、富裕層がいかに気候変動への責任を担っているかが分かる。(※8)
自分たちが当たり前に送っている便利な生活が、回りまわって地球の遠い誰かの困難に繋がっているかもしれない。
※6 参照:環境省「IPCC 第6次評価報告書(AR6)統合報告書(SYR)の概要」https://www.env.go.jp/content/000126429.pdf
※7 参照:Transport & Environment「Private jets: can the super-rich supercharge zero-emission aviation?」
https://www.travelvoice.jp/20240116-154939
※8 参照:グレタトゥーンベリ編著「気候変動と環境危機 いま私たちにできること(河出書房新社、2022年)」p.406
Q3 この危機に対して、世界はどう動いている?
最新の世界各国の協定は?
COPと呼ばれる国際会議(※9)では、気候変動に関する国際条約を締結した国同士が世界規模で対策を話し合っており、2023年11月時点で198か国と地域が参加している。COPでこれまで議論されてきた主な枠組みとしては、以下2つだ。
- 2020年までの枠組み:京都議定書
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- 先進国のみ、条約上の数値目標を伴う削減義務を負う
- 2020年以降の枠組み:パリ協定
- 途上国を含む、全ての国に削減目標を課す
パリ協定では、「世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃以内に抑える努力をする」という長期位目標が定められた。日本でも「1.5℃」というワードを聞くのは、パリ協定によるものだ。まず私たちが目指すべきは「1.5℃以内に抑える努力」。この目標を守れない場合、極端な気象や熱波の爆発的発生が不可避になる。
※9 補足:COPとは「Conference of the Parties」の略で、ある国際条約に基づき、その加盟国が物事を決定するための会議。「気候変動に関する国際条約」のCOPの他にも「生物多様性に関する国際条約」のCOP、「干ばつによる砂漠化を防ぐための国際条約」のCOPながある。
▼2021年に開催されたCOP26と、「1.5℃目標」についてレポートした記事はこちら
「時間がない」ってよく聞くけど…実際は「あと2年」?!
世界的な取り組みが進んではいるものの、「気候変動は待ったなし」という言葉もよく聞く。危機なのは分かるけど、どれだけ、どんなふうに時間がないか、正直イメージが湧きづらい…。
再度、IPCCの第6次評価報告書(※6)を見てみよう。そこには驚くべき事実が記載されている(以下、報告書の内容を筆者にて抜粋)。
- 継続的な温室効果ガスの排出は更なる地球温暖化をもたらし、最良推定値でも、2040年までに1.5℃に到達する。
- 温暖化を1.5℃又は2℃に抑えられるかは、主にCO2排出正味ゼロを達成する時期までの累積炭素排出量と、この10年の温室効果ガス排出削減の水準によって決まる。
- この10年間に行う選択や実施する対策は、現在から数千年先まで影響を持つ。
(※6)
ここでいう「次の10年間」は2023年発表時点の10年間。つまり、まさにいま取り組まない限り、気候変動に効果的な打ち手を打つことは難しい。ちなみに国連の国連気候変動枠組条約事務局長からは、「あと2年しかない」という声も発せられている。
しかし同報告書では同時に、「将来変化の一部は不可避かつ/又は不可逆的だが、世界全体の温室効果ガスの大幅で急速かつ持続的な排出削減によって抑制しうる」というコメントも出ている。もう元に戻ることはできないが、なんとかすることはまだできる、ということだ。
Q4 日本はどう取り組んでいる?
この状況に対して、日本はいまどんな地点にいるのだろう。
日本企業は「本気」でやってる?
国際NGO・WWF(世界自然保護基金)が2024年3月に調査・発表した記事に、「日本企業の脱炭素への取り組みの本気度」を調べたものがある。(※10)
WWFをはじめとするNGO等により設立されたイニシアチブが審査・認定する指標(SBT)を軸に測った報告で、企業がどれだけの量の温室効果ガスを、いつまでに、どのくらい削減しなければいけないのか、科学的知見と整合して評価している。この基準は現在では世界的な基準として認められており、2024年3月時点で日本企業は1000社以上が参加。一定の脱炭素化の取り組みを進めているというお墨付きを得た「認定」を受けた企業も900社を超える。
そのなかでも、社会的にインパクトが大きい企業が取り組んでいるか、日経平均株価構成企業に限定して状況を確認した結果、2024年3月時点で該当する企業225社のうち参加しているのは約半数の110社、そのうち90社が既に認定を受けている状態だった。半数の企業が効果的な取り組みを進めている一方で、残りの半数は未参加である実態も明らかになった。
この報告では同時に、技術分野の中では自動車産業の水準が低いこと、環境インパクトが大きいとされる素材産業の参加水準が低いことなども指摘された。同報告では、具体的な企業名も挙げて参加・認定状況をレポートしている。あなたの知っている会社はどうだろう?
※10 参照:WWF「日本企業脱炭素本気度ウォッチ」
https://www.wwf.or.jp/activities/activity/5512.html
▼脱炭素化として日本の地熱発電の取り組みを紹介した記事はこちら
電気自動車って、最近どうなってるの?
では実際、企業の対策はどれほど進んでいるのだろうか?日本の主要産業の1つで、世界的にも多量の温室効果ガスを出し、気候変動に対する鍵の1つとなるのが「自動車」だ。先ほどのWWFの報告でも、自動車業界のコミットメントは高くないことが指摘されているが、環境負荷が低いとされる「電気自動車」は、普及しているのだろうか?
国際NGOグリーンピースが発表したある報告書(※11)では、販売台数が多い世界自動車メーカー15社を取り上げ、その動向を分析している。そこでは以下の点が指摘されている(報告書の内容を筆者にて抜粋)。
- 電気自動車は急速に普及しているものの、世界の自動車市場における主流は依然としてガソリンをはじめとする内燃機関車。
- SUVの販売台数が急速なペースで伸びており、燃費の悪さから気候変動への大きな脅威となっている。
- 自動車メーカーが現在掲げている脱炭素化目標は、世界の平均気温上昇を1.5℃以下に抑えるには不十分。
世界的に電気自動車は普及しつつも、現状の努力では1.5℃目標の達成が難しいようだ。
この分析の対象となっている日本企業は4社だが、販売台数に占める電気自動車の割合が1%を超えていたのは1社のみ。サプライチェーンの脱炭素化についても具体的な目標を設定していない企業が複数あり、気候変動対策を網羅的に評価した総合評価では、なんと対象企業の15社中、日本企業の4社全てが10位以下となる結果となった。
なお、現時点での各国の自動車電動化目標は以下の通りとなっている。先進他国に比べて、日本が掲げる目標は決して高くないようにも見える。一方、アメリカは2024年3月に、新車販売(普通乗用車)のうち電気自動車の比率の目標を大幅に引き下げることも発表している。(※12)全世界的に、環境負荷の小さい自動車の選択を並行していくことには、まだまだ課題が大きそうだ。
日本は現状、「2050年までにCO2などの温室効果ガスの排出を、全体としてゼロ」という目標と、その達成に向け「2035年までに、乗用車新車販売で電動車100%」という目標も出しているが、電気自動車の販売状況は芳しいとは言えないだろう…。
※11 参照:GREEN PEACE「自動車環境ガイド2023」
https://www.greenpeace.org/static/planet4-japan-stateless/2023/10/b876a4d0-aeg2023_jpfinal.pdf
※12 参照:ロイター「米政権が2032年までのEV比率目標大幅に引き下げ、大統領選が影響か」https://jp.reuters.com/world/environment/F2FQ4K6UQNP57D4WXOJGWKD6FI-2024-03-20/
▼モビリティと気候変動について考察した記事はこちら
Q5 もう希望はないの?何をしたらいいの?
メディアと市民の連帯
ここまで読んだ人はもう、政府も企業も個人も、みんなで取り組む必要がある現状が分かっただろう。それでも「気候変動はうそだ!」なんていう声も、SNSで見かけることもある。しかしこれだけのデータで科学的にも証明され、実際に食物や健康の具体的な被害も見えて来ているなかで、待ったなしに取り組まなければならないと、改めて感じる。
多くの人が取り組むきっかけを得るためには、メディアの存在も重要だ。国内外では、メディアや市民が連携して気候変動を発信する重要性を叫び、活動する動きも出てきている。アメリカで2019年に創立されたCovering Climate Nowという国際的な気候変動報道連携ネットワークや、日本で2022年に立ち上がった一般社団法人Media is Hopeなどがそうだ。
「メディアが報じないなんて!だから知らなかった!」というのは簡単だが、受け手側も、より正しく情報が発信されているメディアを求めたり、調べたりすることはできるはずだ。
また、身近な題材から気候変動について伝えてくれるメディアも増えている。たとえばYouTubeで配信を続ける「RICE MEDIA 」。「フードロス生活」「プラなし生活」などを続ける動画の発信等を通じて、見やすいながらも問題を身近に感じられる情報発信をしてくれている。
メディアと市民の連帯も、多様な角度の情報に触れられることも、インターネットが発達した現代だからできること。SNSを通じて国を超えた連帯も当たり前になった。自分の見える範囲だけでなく、世界全体で向き合うべき課題だからこそ、インターネットを介した情報連携も1つの希望だと感じる。
慢性病と同じ。「お付き合いし続ける」
もはや気候変動は「どうにかなるもの」ではない。残念だけれど、もう今後も長くお付き合いし続けるしかない。そのお付き合いの仕方として言われているのが、「緩和」と「適応」だ。
「緩和」は気候変動の原因を減らしていくこと。生活の中で少しでも温室効果ガスを減らすため、再生可能エネルギーを家庭に引き入れたり、ゴミを減らしたり、自家用車ではなく公共交通機関を使うことを心がけたりといったことがある。
「適応」は、避けられない気候変動の影響を認識し、自分や周りの人にとって被害を小さくできる行動を取ること。「人間がやってしまったこと」として受け入れた上で、自分や周りを守る行動をとることも重要だ。災害に備えたり、熱中症対策をしたり、畑で植える農作物を熱に強い種類に変えて行ったりといったことがある。
▼気候変動に関するビリー・アイリッシュらの取り組みを紹介した記事はこちら
連載1回目のおわりに
デンマークの環境活動家で、気候変動の動きに大きな前進をもたらしたグレタ・トゥーンベリは、「個人ができること」として、「年がら年じゅう、うるさいほど、邪魔なほど語ろう」と呼びかけている。(※13)邪魔なほどはハードルが高いが、1日に1回、少し言葉に出してみるなども、自分の意識を変える1つになるのではないだろうか。
「1人ひとりができることをやる」というのはとても大切なこと。だけどもはや、それだけでは変化が難しいところまで来ているのが現状だ。
この連載では、これから気候変動に取り組む「人」に話を聞いていく。日常生活のヒントになるような視点やアイデアもご紹介していきたい。
※13 参照:グレタトゥーンベリ編著「気候変動と環境危機 いま私たちにできること(河出書房新社、2022年)」p.433
気候変動についてもっと知りたい!
もっと専門的な情報を知りたい!と思ったときには、インターネットでもさまざまな情報を探すことができる。今回この記事の参考にしたもののうち、主なものはこちら。
- 気候変動適応情報プラットフォーム https://adaptation-platform.nies.go.jp/
- WWF https://www.wwf.or.jp/
- エコジン https://www.env.go.jp/guide/info/ecojin/
文:大沼芙実子
編集:conomi matsuura