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スマート農業とは?最新テクノロジーが変える農業の未来と導入メリットを徹底解説

ICT・AI・IoTなどの最新テクノロジーを用いたスマート農業が広がっている。導入の背景や代表的な技術、成功事例、メリット、課題、政策支援まで、スマート農業の全体像と未来を紹介する。

スマート農業とは何か

近年、農業の分野においても急速な技術革新が進んでいる。そのなかでも注目を集めているのが「スマート農業」である。スマート農業とは、ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)などの先端技術を活用して、農業の生産性や効率性を向上させる取り組みである。

従来の農業では、熟練の農業者の経験や勘に頼る部分が大きかった。しかし、少子高齢化に伴う担い手不足や、異常気象による不安定な気候条件など、現代の農業を取り巻く環境は厳しさを増している。こうした課題を解決する手段として、スマート農業の導入が進められている。

スマート農業が必要とされる背景

前述の通り、社会情勢や気候変動などによってスマート農業が広がっている。ここではスマート農業が必要とされる背景をより詳しく紹介する。

少子高齢化と担い手不足

農林水産省によれば、2024年の基幹的農業従事者数は111万人であり、2000年の240万人という従事者数の半数以下で、年齢構成のピークは70歳以上の層となっている。(※1)このままでは、農業の持続可能性が危ぶまれる状況である。

若者や新規就農者が農業に参入しやすい環境を整えるには、労働負担の軽減や収益性の向上が不可欠である。スマート農業は、こうした課題に対して大きな効果を発揮する可能性を秘めている。

※1 出典:農林水産省「食料・農業・農村基本計画(案)」 
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/bukai/attach/pdf/250321-11.pdf

気候変動と農業リスクの増大

近年、地球温暖化の影響により、集中豪雨や猛暑、台風の大型化などが頻発している。これにより、作物の生育不良や病害虫の発生リスクが高まり、農業経営における不確実性が増している。

スマート農業は、環境センサーや気象データの活用により、リアルタイムで圃場の状況を把握し、迅速な対応を可能にする。これにより、被害の軽減や収量の安定化を図ることができる。

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スマート農業の主な技術

スマート農業においては様々な技術が活用されている。主な技術を紹介する。

センサーとIoT技術

スマート農業において最も基本となるのが、センサーとIoT技術である。土壌の水分量や温度、日射量、気温、湿度などをリアルタイムで測定し、データとして蓄積・分析することで、的確な農作業の判断が可能になる。

例えば、きめ細かな水管理によって節水と収量向上の両立を実現することができる。また、病害虫の兆候を早期に検知することで、防除作業のタイミングを最適化し、農薬の使用量を削減することもできる。

ドローンとロボット技術

農業用ドローンは、広範囲の圃場を短時間で撮影・分析し、病害虫の発生箇所や作物の生育状況を把握することができる。これにより、的確な施肥や防除が可能になる。

また、自動走行のトラクターや草刈りロボットなども登場しており、重労働であった農作業を機械化・省力化する動きが進んでいる。これにより、高齢者や女性でも扱いやすい農業環境が実現しつつある。

AIとデータ解析

AI(人工知能)は、過去の気象データや作業記録、収量実績などをもとに最適な栽培計画を提案することができる。これにより、経験が少ない農業者でも高品質な作物を安定的に生産できるようになる。

また、収穫予測や需要予測の精度が向上すれば、出荷のタイミングを最適化し、価格変動リスクを軽減することにもつながる。

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スマート農業の導入事例

すでに複数のスマート農業の事例ができ始めている。国内の事例をいくつか紹介する。

北海道:大規模農業における自動化の活用

北海道では、広大な農地を活かした大規模農業が展開されており、自動操縦のトラクターやドローンの導入が進んでいる。これにより、作業時間の短縮や精密な作業の実現が可能となり、効率的な農業経営が実現している。

千葉県:施設園芸での環境制御システム

千葉県のトマト農家では、温度・湿度・二酸化炭素濃度などを自動制御する環境制御システムを導入している。これにより、年間を通じた安定的な生産が可能になり、品質の向上にもつながっている。

長野県:スマートグラスを活用した農業支援

長野県の一部地域では、スマートグラスを使って熟練農家と若手農家が遠隔で作業指導を行う試みがなされている。これにより、技術の継承や教育の効率化が図られている。

スマート農業のメリット

スマート農業は、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ロボット技術などの先端技術を活用し、農業の効率化や省力化、高品質化を実現する新しい農業の形態である。この章では、スマート農業の具体的なメリットについて詳述する。

労働力不足の解消と作業効率の向上

日本の農業は、高齢化や若者の農業離れにより、深刻な労働力不足に直面している。スマート農業は、こうした課題に対する有効な解決策となる。

例えば、自動運転トラクターやドローンを活用することで、少人数でも大規模な農地の管理が可能となる。農研機構の「スマート農業実証プロジェクトの成果」によれば、ぶどう農家においてスマート技術を導入した結果、ハウスの作業時間が22%削減できた 。(※2)

また、スマートセンシング技術により、土壌の状態や作物の生育状況をリアルタイムで把握できるため、適切なタイミングでの施肥や灌水が可能となり、作業の効率化が図られる。

※2 出典:農研機構「スマート農業実証プロジェクト 令和2年度スタート課題の概要 果2F04:JA大阪中河内ぶどう栽培同好会【大阪・柏原市】」 
https://www.naro.go.jp/smart-nogyo/r2/results/kaju-cha/155347.html?utm_source=chatgpt.com

生産性と品質の向上

スマート農業は、農作物の生産性と品質の向上にも寄与する。AIやビッグデータを活用した生産管理システムにより、作物の生育状況や気象データを分析し、最適な栽培方法を提案することが可能となる。

例えば、温度や湿度、日照量などの環境データを基に、最適な施肥や灌水のタイミングを自動で判断し、実行するシステムが開発されている。これにより、作物の品質を均一に保ちつつ、生産量の増加が期待できる。

さらに、ドローンによる空撮画像を解析し、病害虫の早期発見や生育不良箇所の特定が可能となるため、迅速な対応が可能となり、収穫量の最大化が図られる。

経営の安定化とコスト削減

スマート農業の導入は、農業経営の安定化にもつながる。自動化や省力化により、労働時間の削減が可能となり、人件費の削減が期待できる。

また、センサーやAIを活用した精密農業により、必要最小限の資材投入が可能となり、肥料や農薬の使用量を削減できる。これにより、資材コストの削減だけでなく、環境負荷の低減にも寄与する。

さらに、スマート農業により得られたデータを活用し、収穫量や品質の予測が可能となるため、販売計画の立案や価格交渉において有利に働く。これにより、収益の安定化が図られる。

技術継承と人材育成の促進

農業分野では、熟練農業者の高齢化に伴い、技術継承が課題となっているが、スマート農業は、こうした課題の解決にも寄与する。

例えば、作業手順や栽培ノウハウをデジタルデータとして蓄積し、共有することで、若手農業者や新規就農者への技術継承が容易となるのだ。また、VRやAR技術を活用した教育プログラムにより、実践的な技術習得が可能となる。

さらに、スマート農業の導入により、農業に対するイメージが近代的で魅力的なものとなり、若者の農業への関心を高める効果も期待される。

環境負荷の低減と持続可能な農業の実現

スマート農業は、環境負荷の低減にも貢献する。精密農業により、必要最小限の資材投入が可能となり、過剰な施肥や農薬の使用を防ぐことができる。

また、ドローンを活用した農薬散布は、従来の方法に比べて散布量を抑えつつ、均一な散布が可能となるため、環境への影響を最小限に抑えることも叶うのだ。

さらに、スマート農業により得られたデータを活用し、気候変動への適応策を講じることが可能だ。例えば、異常気象時のリスクを予測し、適切な対策を講じることで、被害の軽減が期待できる。

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スマート農業の課題と展望

導入コストと教育の問題

スマート農業機器やシステムの導入には、初期費用がかかることが多い。また、機器の操作やデータ分析には一定のITスキルが必要であり、年配の農業者にとってはハードルとなる場合もある。

このため、国や自治体の補助制度の活用や、普及員による現地支援、研修会の開催などが重要である。

データ連携と標準化の必要性

複数の機器やサービスが連携し、効率的にデータを共有するためには、共通のデータ形式や通信プロトコルの標準化が不可欠であるが、現在はベンダーごとに仕様が異なっており、相互運用性に課題がある。

農林水産省は、スマート農業の標準化に向けたガイドラインの整備を進めており、今後はよりスムーズな導入が期待される。

農業の価値観と文化の変化

スマート農業の導入により、農業の在り方そのものが変化しつつある。経験や勘に頼っていた農業から、データとテクノロジーに基づく農業へと移行する過程では、価値観の対立や文化的な軋轢が生じる可能性もある。

しかし、それを乗り越えることで、農業はより開かれた産業へと進化する可能性を秘めている。

今後の展望と政策的支援

政府は「みどりの食料システム戦略」において、持続可能な農業の実現を掲げており、スマート農業の普及促進を重要な柱と位置づけている。2022年度からは「スマート農業実証プロジェクト」も本格化しており、先進的な取り組みが各地で展開されている。(※3)

また、地方自治体や農協も、補助金や支援制度を通じてスマート農業の導入を後押ししている。これらの支援を活用しながら、地域の特性に応じたスマート農業のモデルを構築していくことが求められる。

※3出典:農林水産省「みどりの食料システム戦略」 
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/

まとめ

スマート農業は、現代農業が直面する課題を克服し、持続可能な農業を実現するための重要な鍵である。先端技術の導入は決して簡単なことではないが、それによって得られる効果は非常に大きい。今後は、技術と人との調和を図りながら、農業の未来を築いていく必要がある。

 

文・編集:あしたメディア編集部

 

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