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アファーマティブアクションとは?問題点や日本での取り組み事例を徹底解説

 

本記事では、アファーマティブアクションの定義と基本概念を解説した上で、日本における具体的な事例を紹介する。さらに、アファーマティブアクションをめぐる問題点を整理し、真の平等社会の実現に向けた展望について考察する。

アファーマティブアクションとは

アファーマティブアクションとは、社会的・構造的な差別による不利益を被っている者に対して、一定範囲で特別な機会を提供し、実質的な場面の平等の実現を目的とする取り組みのことである。日本語では「積極的差別是正措置」や「積極的差別反対」と訳されることもあり、主な対象としては、有色人種、少数民族、女性、障害者などが含まれる。

つまり、アファーマティブアクションとは、競争などにおけるマイノリティに対する差別を歴史的経緯や社会環境を考慮して救済しようとする努力であり、機会の平等を実質的に保障するための政策的介入といえる。

歴史的背景と発展

アファーマティブアクションの起源は、1965年にアメリカのジョンソン大統領が大統領執行命令のなかで、職業における積極的な差別撤廃を求めたことに始まる。(※1)その後、就職や昇進などの雇用面だけでなく、大学の入学者選抜においても、少数派に対して合理的な判断基準が設定されるようになった。

現代では、社内の多様性を確保するための施策として、女性のみを対象とした研修や特別なプログラムなども実施されており、労働者の立場による格差を解消し、平等な機会や場所を確保するための重要な手段となっている。

各国での呼称と国際的な位置づけ

国際連合では、アファーマティブアクションは「暫定的特別措置(temporary special measures)」として定義され、男女の実質的な平等を促進する一時的な措置として位置づけられている。

呼称に関しては、以下のような違いがある。

  • アメリカ・カナダ:アファーマティブ・アクション
  • EU諸国・日本:ポジティブアクション
  • フランス:差別ポジティブ
  • アメリカ(非合法の場合):積極的差別

思想的背景

アファーマティブアクションの理論的基礎としては、『正義論』で知られる哲学者ジョン・ロールズの考え方が基盤となっている。ロールズは、努力に対する報酬は努力の価値そのものではなく、「努力すれば報酬がある」というルールの存在に依存すると主張した。

つまり、個人の努力だけでは不平等な結果が生じてしまう現実を是正するためには、アファーマティブアクションのような政策的介入が正当化される、という論理に基づいているのである。

※1 参考:法学館憲法研究所「「アメリカのアファーマティブ・アクション—これまでとこれから」https://www.jicl.jp/articles/opinion_20240820.html

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アメリカにおけるアファーマティブアクション

アメリカにおけるアファーマティブアクションの導入には、長い歴史的背景がある。

先述の通り、ジョンソン大統領が大統領執行命令の中で職業における積極的な差別撤廃を求めたことが、アファーマティブアクションの始まりとされる。(※1)その後、雇用面だけでなく、入学者選抜においてアファーマティブ・アクションを取り入れる大学もあった。

アメリカにおけるアファーマティブアクションの代表的な事例としては、クオータ制(採用・入学試験における割当制)が知られている。マイノリティの割合を一定以上確保することで、多様性の実現を目指すものである。現在もクオータ制は採用されており、企業のほか、州レベルでも取り組みが存在している。ただし、アファーマティブ・アクションに対する否定的な意見もあり、1980年頃になると人種配慮を「逆差別」とする白人層からの批判が増加。(※2)また、アメリカの最高裁は2023年6月、大学入学選抜時に人種や民族を考慮するアファーマティブアクションを違憲とした。(※3)

社会的弱者に対する差別の解消と、実質的な平等の実現に向けた重要な一歩として評価されている面がある一方で、ネガティブな反応もあり、評価が揺らいでいるのが現状だ。

※2 参考:岡本葵・藤田英典「アメリカにおけるアファーマティブ・アクションの展開」https://icu.repo.nii.ac.jp/records/2342
※3 参考:ビジネスインサイダー「ダイバーシティと教育の機会平等に逆風。米大学のアファーマティブ・アクション廃止で今起きていること」
https://www.businessinsider.jp/post-276509

日本におけるアファーマティブアクション

日本におけるアファーマティブアクションは、他の先進国と比較すると、まだまだ発展途上の段階にあるといえる。政治、行政、民間企業の各分野において、男女格差の解消に向けた具体的な取り組みが求められている。

政治分野での男女格差の現状

日本では、政治分野においてアファーマティブアクションは取り入れられていない。

一方で、日本の政治分野における女性の参画は、世界的に見ても非常に低い水準にとどまっている。2024年10月の衆議院選では、女性73人が当選した。これまでよりも増加しているものの、衆院議員の女性比率は16%にとどまっている。(※4)この数字は、他の先進国と比べても著しく低く、政治分野でのアファーマティブアクションの必要性を示唆するものといえる。

民間企業における女性の活躍推進

民間企業では、日本国内でアファーマティブアクションに取り組んでいる企業もある。例えば、大成建設では、2007年から女性活躍推進に取り組み、女性社員向けの研修や公募制度などを設置。その結果、技術職女性社員数が157人(2007年)から965名(2024年)まで増加。工事現場に配属されている女性社員数は、29名(2007年)から229名(2024年)に増加した。(※5)

ただし、民間企業においては、女性の役員比率が徐々に上昇してきているものの、その水準は依然として低い。例えば、プライム市場上場企業における女性役員の割合は2023年時点で13.4%であった。(※6)企業における女性の活躍推進に向けた、アファーマティブアクションの導入が期待されている。

具体的な取り組みと制度的枠組み

日本政府は、男女共同参画社会の実現に向けて、様々な取り組みを進めている。1999年に制定された男女共同参画社会基本法を基盤として、男女雇用機会均等法の施行・改正、女子差別撤廃条約への追加と履行など、法律面での整備が進められてきた。しかしながら、アファーマティブアクションの実効性を高めるためには、さらなる制度設計の工夫と社会的合意の形成が不可欠である。

※4 参考:日本経済新聞「衆院議員の女性比率、政府目標3割遠く どう増やす?」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD227NL0S4A021C2000000/
※5 参考:大成建設「女性のエンパワーメント」
https://www.taisei.co.jp/about_us/dei/diversity/gender_equality/empowerment/
※6 参考:男女共同参画局「女性役員情報サイト」https://www.gender.go.jp/policy/mieruka/company/yakuin.html

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アファーマティブアクションの問題点

アファーマティブアクションにより引き起こされる問題というのも存在する。ここではその内容について詳しく触れていく。

逆差別問題と批判

アファーマティブアクションは、逆差別であると指摘される場合がある。ここでは、その問題点について詳しく見ていく。

アファーマティブアクションは、社会的に不利な立場にある特定のグループに対して優遇措置を講じることで、実質的な平等の実現を目指すものであるが、その過程で、多数派である白人男性などが不利益を被る可能性が生じる。アメリカでは、アファーマティブアクションの導入後、白人からの逆差別の訴えが多発した歴史もある。(※2・3)

この問題に対しては、連邦最高裁判所が、大学の入学選考におけるアファーマティブアクションの合憲性を認める判断を下したものの、社会的な合意形成の難しさを示す事例として注目されている。日本においても、女性の社会進出を推進するための施策が進められているが、男性の不利益を懸念する声も根強く、慎重な議論が求められている。

能力主義との矛盾

アファーマティブアクションのもう一つの問題点として、能力主義との矛盾が指摘されている。ここでは、その論点を整理してみよう。

アファーマティブアクションの過程で、個人の能力よりも属性が重視される可能性がある。特に、クオータ制(割当制)の導入により、能力評価が軽視され、本来の目的である実力主義が損なわれるのではないかという批判がある。

一方で、アファーマティブアクションの支持者は、歴史的・社会的な差別によって蓄積された不利益を考慮すれば、一時的な優遇措置は正当化されると主張する。アファーマティブアクションと能力主義のバランスをどう取るかは、今後の重要な課題と言えるだろう。

数値目標達成の限界

アファーマティブアクションの実施においては、数値目標の設定とその達成が重要な意味を持つが、ここにも問題点が存在する。以下、その内容を見ていこう。

日本では、政府の男女共同参画基本計画において、2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%とする目標が掲げられていたが、達成されていない。(※6)単に数値目標を設定するだけでは、実質的な平等の実現には不十分であり、目標達成のために無理な施策を行えば、かえって弊害を生むおそれもある。

社会的合意形成の難しさ

前述の「逆差別問題」のように、アファーマティブアクションの是非をめぐっては、各方面から賛否両論の意見が出され、議論が分かれるのが常である。

日本でも、女性の社会進出を推進する施策には、一定の理解が得られつつあるが、男女雇用機会均等法の施行から30年以上が経過した現在でも、根強い反対意見が存在することも事実である。

アファーマティブアクションの導入にあたっては、十分な議論を尽くし、社会的な合意を形成していくことが不可欠であり、そのためには、関係者の理解と協力を得るための地道な努力が求められる。

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まとめ

アファーマティブアクションとは、社会的に不利な立場にある特定のグループに対して優遇措置を講じることで、実質的な平等の実現を目指す政策のことだ。その一方で、逆差別の問題や能力主義との矛盾など、様々な課題が指摘されている。

そして、日本におけるアファーマティブアクションは、まだ発展途上の段階にある。政治、行政、民間企業の各分野において、男女格差の解消に向けた具体的な取り組みが求められている。その実現のためには、制度設計の工夫と社会的合意の形成が不可欠だ。

 

文・編集:あしたメディア編集部

 

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