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スマートシティを進める自治体一覧から何が見えてくる?持続可能な都市開発

現在、都市開発のモデルとしてスマートシティが注目されている。ICT技術やデータ利活用の重要性が高まっている一方で、地域ごとに抱える課題は多岐にわたるため単なるデジタル化だけでは十分な効果が得られにくい。本記事では、国内外でスマートシティに先行的に取り組む自治体や都市の動向を考察しながら、持続可能な都市開発につなげる道筋を探っていく。

スマートシティの基本構造

スマートシティは、デジタル技術を活用した持続可能で効率的な都市設計の総称であり、センサーやカメラによるデータ収集と、それらをもとに都市のインフラを最適化する取り組みを含む。では、なぜいまスマートシティが注目されているのだろうか。

都市部や地方を問わず、人口減少や高齢化にともなう財政負担の増大が差し迫っていることから、従来の方式でインフラや公共サービスを提供するだけでは成り立たなくなるケースが増えている。スマートシティの考え方を適切に導入すれば、効率の高い運営と住民サービスの向上を同時に目指せる可能性があるため、スマートシティは持続可能な都市開発の切り札として、国内外での関心が一段と高まりを見せているのだ。

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スマートシティを構成する主要要素

スマートシティを具体的に構築するうえで重要となるのが、スマートインフラの整備エネルギーマネジメント、そしてスマートモビリティであり、いずれも地域の実情と将来的なビジョンを踏まえた計画が欠かせない。これら3つの柱は、それぞれの自治体の資源や予算、技術的な成熟度によって導入方法が異なるため一律には進まないが、共通の目標としては持続可能性と効率性の向上が挙げられる。

スマートインフラ

スマートインフラとは、高度情報収集・処理システムやセンサーネットワークなどを活用し、リアルタイムで得られるデータを分析することで、道路や橋梁などの老朽化点検や災害時の状況把握を高速化しようとする概念である。一方で、導入にはインフラ自体の更新費用やシステム管理のコストも掛かるため、公共予算の制限が厳しい自治体ほど先に住民へのサービスのメリットを説明する必要がある。

エネルギーマネジメント

エネルギーマネジメントは、スマートシティのなかでも欠かせない分野として位置づけられる。エネルギーの使用状況の把握(見える化)、再生可能エネルギーや蓄電池システムを活用することで、効率的な電力需給管理を実現するとともに、都市全体の脱炭素化に貢献する取り組みが期待される。 温暖化対策やエネルギーコスト削減の観点でもこの分野の進展は多大な効果をもたらすが、現実の運用段階ではデータの収集には一定期間が必要であることや、モニタリング運用には専門的なスキル・知識が必要であることが課題となっている。

スマートモビリティ

スマートモビリティは交通網における混雑の緩和や移動の効率化を図るだけでなく、環境負荷の低減に不可欠な要素として注目が集まっており、自動運転システムやMaaS(Mobility as a Service)などの最新技術との連携が焦点になっている。 公共交通の維持が困難な地方部であればオンデマンドの乗り合いサービスを導入するなどの具体策が挙げられるが、その際に自治体や交通事業者だけでなく、住民自身の利用意識やデジタルリテラシーも問われる。

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スマートシティを進める自治体・国の事例

国内各地で進められているスマートシティ関連の活動は自治体ごとの歴史や地理的条件に支えられ、独自の特色をもって発展している。しかしながら、計画段階では意欲的な目標を掲げながら運営コストや住民の理解不足によって停滞する事例も見られるため、先進事例の分析が不可欠となる。本章ではいくつかの事例を解説する。

1. 先進都市の具体的取り組み

札幌市は、スマートシティ化を目指し2017年に「札幌市ICT活用プラットフォーム」を構築した。データ活用による民間や行政サービスによる効果の向上、コストの抑制などによる、社会の最適化が目的だ。 またプラットフォームの構築と並行して、地域特有の課題解決を目的としたICTを活用した実証実験も行われている。具体的には、観光、健康、雪対策の3分野で実験が実施された。これらの実証事業を通じて、効果検証や事業内容の見直しを行い、実用化・社会実装に向けて各事業が進められている。

渋谷区では「シブヤシティダッシュボード」の運用により、多様なデータをリアルタイムで視覚化し、関係機関との連携を強化している。(※1)。人口が増加傾向にある大都市圏でのスマートシティ化は、既存インフラの混雑や拡張などの課題を抱えるが、データの一元管理による効率化が推進されている。

※1 参考:渋谷区「SHIBUYA CITY DASHBOARD」 
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/contents/kusei/shibuya-data/

2. 特徴的な施策を進める自治体

兵庫県加古川市は安全・安心な街づくりに重点を置き、市内に約1,500か所の見守りカメラを設置した。さらに、AI機能が活用された「高度化見守りカメラ」を新たに設置したことにより、悲鳴や車両接近などを検知し、必要に応じて迅速に対応できるようなシステムを構築している(※2)。

また、行動確認が可能な見守りタグサービスを導入しており、高齢者や子育て世帯など見守りが必要な層に寄り添う施策が拡充している。認知症により行方不明の危険性がある高齢者および小学1年生は無料で利用可能だ。

次に紹介するのは、長野県伊那市の事例だ。人口減少と高齢化が進む伊那市では、将来的な労働力不足が懸念されている。そこで、デジタル技術を活用した課題解決に取り組んでいる。

具体的な取り組みの1つがモバイルクリニック事業。この事業では、看護師がオンライン診療専用の車両で患者の自宅を訪問し、車内でビデオ通話を通じたオンライン診療を実施する。移動には、オンライン診療専用車両「INAヘルスモビリティ」が活用されている。(※3)

これらの自治体を一覧化すると、導入している技術やサービスは異なるものの、データ活用を基盤とした効率化と、安全安心や健康などの価値提供が両立していることがわかる。最先端の技術だけでなく、住民の主体的な参加意識を高める工夫が鍵になると考えられるが、しかし、導入にかかる運用コストが負担となりやすく、また新技術への抵抗感を持つ住民もいるため、自治体と住民が協働して課題を洗い出し、段階的に実装する枠組みづくりが不可欠である。

※2 参考:加古川市「暮らしをより良く!スマートシティ加古川」
https://www.city.kakogawa.lg.jp/soshikikarasagasu/kikakubu/jouhouseisakuka/ict_1/1535023961752.html
※3 参考:伊那市「モバイルクリニック医療機器高度化」 
https://www.inacity.jp/shisei/inashiseisakusesaku/shinsangyougijutu/mobileclinic/mobileclinicpregnant.html

海外のスマートシティ事例から読み取る視点

デンマークの首都コペンハーゲンは、2000以上のデジタル公共サービスを提供している。2007年には共有型オンラインサービス「Borger.dk」の運用が開始。「Borger.dk」を活用することで、保育園の待機児童リストへの登録、児童手当の申請、確定申告など、様々なことが可能になる。

スマートシティを推進するための実装ステップ

スマートシティ構想を具体化する際には、いきなり大規模なシステム導入を行うのではなく、段階的かつ柔軟なアプローチが求められる。自治体単独で全てを完結するのではなく、企業や大学、地域コミュニティとの協働体制を築くこともポイントとなる。

初動:体制整備と課題特定

組織や関連団体、そして住民の意見を吸い上げるワークショップを開きながら、現行のインフラやサービスの問題点を明確化し、そのうえで、どの分野を優先的にスマート化するかを検討する段階に相当する。この段階で住民に十分な説明や情報提供を行わなければ、後の予算確保や合意形成での摩擦が拡大するため、計画初期ほど丁寧な対話が必要になる。

準備:住民ニーズの把握

住民の声を取りこぼさない仕組みを構築し、個人情報やプライバシーへの配慮を怠らない形でニーズを可視化するとともに、どの技術をどのスケールで導入するかを定める段階であり、住民の日常生活のパターンや高齢化の進度など地域特有のデータ分析が欠かせない。この段階で行政と市民の意識をすり合わせることで、後の開発段階で無駄なリソースが発生しないようにすることが期待される。

計画:具体的戦略の立案

スマートインフラ、エネルギーマネジメント、スマートモビリティなど、複数の要素を関連づけながら総合的な計画を立てる段階となる。大規模投資が必要になる案件も多いため、官民連携で資金調達を行うスキームも検討されるほか、導入スケジュールを複数フェーズに分割してリスクを最小化しようとする動きが見られる。自治体によっては、大企業だけでなく地元の中小企業やスタートアップを巻き込むことで、地方創生に寄与しようと試みるケースも増えている。

実装:段階的導入と評価

計画が整った後は、まず一部地域や特定の分野から導入を開始し、実施結果の評価を踏まえて適宜補正を加えながら他の地域や分野へ拡張する手法が効果的である。このフィードバックサイクルを回す際には、住民からのフィードバックを集める手段を設けなければ、本来目指すべき社会課題の解決方向と乖離する可能性があるため積極的な情報公開と双方向のコミュニケーションが重要視される。

加えて、自治体間での情報交換やノウハウの共有を行うことが望ましい。先行事例で得られた知見を活用すれば、新規にスマートシティを推進する自治体の負担を軽減できるだけでなく、発展的な連携施策を立案する可能性も広がる。とりわけ、同様の地理条件や人口構成を持つ自治体同士が連携すれば、課題に即した解決策を効率的に展開できる。

持続可能な都市開発に向けたスマートシティの展望

スマートシティは持続可能な都市開発を実現するための鍵とみられ、自治体や企業、研究機関が様々な角度から取り組みを始めている。技術の進歩に合わせて次々と新しいシステムが開発されるため、その導入を迅速に進められれば有効性の高い都市運営が期待できる。一方、運用面のノウハウが不足する場合、または住民が変化を受け入れにくい環境にある場合には、思わぬコスト増や社会的摩擦が発生しがちである。

また、予測不能な気候変動や国際的なエネルギー価格の変動が続く現代において、エネルギー供給や交通インフラの革新が進まない都市は、将来的に大きなリスクを抱える可能性が高い。そのため、スマートシティの導入は単なる選択肢ではなく、都市や自治体が持続的に発展し、生き残るための必須課題と捉えられるようになっている。 しかし住民のプライバシー保護や情報セキュリティといった課題も避けて通れない。新たな技術の導入に伴う混乱を防ぐためには、適切なルール整備と透明性の確保が不可欠となる。

国際的にもカーボンニュートラルの議論が加速しており、長期的な環境目標を掲げる自治体や企業が増加しているため、持続可能な都市開発が投資先として魅力を増している。この流れを的確にとらえることができれば、グリーンボンドなどの新たな資金調達手段の活用が可能となり、官民連携を通じて住民サービスの向上と都市の競争力強化を同時に進められる。

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まとめ

ここまで、スマートシティの基本構造や主要要素、国内外の先進事例、そして実装のステップなどを広範に述べてきた。持続可能な都市開発の実現に近づくためには、まず自治体が主体的にプロジェクトを企画し、地域住民の声を反映させながら段階的に技術を導入していく姿勢が不可欠となる。 デジタル技術と地域特有の資源を組み合わせ、行政・企業・住民が協働できる土台を築くことが今後のスマートシティの成否を大きく左右する。読み手としては、地域の勉強会や意見交換の場などに積極的に参加し自ら行動を起こすことで、自分の暮らす都市の未来を形づくる一助となる道が開かれる。

 

文・編集:あしたメディア編集部

 

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