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オーバーツーリズムの現状と対策は?持続可能な観光地域を守るためにできること

観光産業の成長が世界規模で加速する一方で、観光客集中による地域社会への圧力が深刻化している。このようなオーバーツーリズムの背景を明らかにしつつ、日本のインバウンド動向や世界の主要観光地で発生している課題について整理し、具体策を紹介する。

オーバーツーリズムの定義と背景

オーバーツーリズムは「旅行地全体又はその一部に対し、明らかに市民の生活の質又は訪問客の体験の質に悪い形で過度に及ぼされる観光の影響」である。(※1)一部地域で顕在化した都市化課題のひとつでもある。

オーバーツーリズムの背景

世界全体の国際観光客数は2019年に約14億6,000万人に達し、コロナ禍で一時減少したものの2024年には14億人まで回復。(※2)その背景には旅行規制緩和と新興国の所得水準向上があるとされている。さらに人口増加と経済成長にともなって観光需要が伸び続ける可能性が高い。

観光客が世界的に増加している要因には、LCC(格安航空会社)の普及、国際経済の活性化、SNSでの情報共有などがあり、これらが重なり合うことで、ある特定地域に短期間で大量の旅行者が押し寄せるケースが急増している。

観光地での実態

観光地は、増大する需要をどこまで受け止められるのか、受け入れ可能数とインフラ整備の整合性をどう保つのかという根本的な問題に直面している。実際、主要な観光地では以下のような影響が顕在化している。

  • 公共交通機関の混雑に伴う通勤・通学への支障
  • 歴史的建造物や自然環境の劣化、保護管理費用の増大
  • 住宅価格上昇による住民の流出とコミュニティの空洞化
  • 騒音やマナー問題、治安悪化など住民との摩擦

各地域は文化財保護と観光による経済効果のバランスに苦慮しており、観光客制限や入域税導入などの対策を講じている。しかし、持続可能な観光には、単なる規制ではなく、観光客の回遊ルートの分散化などの工夫が必要とされている。

この問題の背景には、観光資源の地域的集中という構造的問題に加え、SNSによる特定スポットへの観光客集中という現代的要因がある。特にインフラが整備されていない地域では、観光客の増加が地域コミュニティの劣化や観光資源の毀損につながるリスクが高まっている。

※1参考:UNWTO 「「オーバーツーリズム(観光過剰)」?都市観光の予測を超える成長に対する 認識と対応 要旨」
https://unwto-ap.org/wp-content/uploads/2019/11/overtourism_Ex_Summary_low-2.pdf
※2 参考:国連世界観光機関「国連世界観光機関(UN Tourism)世界観光指標(World Tourism Barometer)2025 年 1 月号について」
https://unwto-ap.org/cms/wp-content/uploads/2025/01/Barometer-Final-20250127.pdf

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国内外のオーバーツーリズムにおける現状と課題

日本では近年インバウンド需要が拡大し、2023年の訪日外国人数は2507万人に達しており、消費総額は5兆3,065億円にのぼるという巨大市場に成長している(※3)。インバウンド観光が地域経済を下支えする存在になっているが一部都市圏に著しい集中が起こっている。

この都市部集中は、労働力確保や観光の利便性向上には一定のメリットをもたらす一方で、公共交通や生活インフラへの負荷増大、住民との摩擦など、典型的なオーバーツーリズムがもたらすリスクも拡大する。外国人旅行者への対応を強化する必要があるため、人材不足や多言語対応の不備といった課題が顕在化しやすい状況にもなる。

例えば、京都市の人口は約147万人に対し、2019年には約8700万人以上の観光客が訪れたため、住民数の59倍以上の来訪者を受け入れたことになる(※4)。観光客による交通混雑や騒音はもちろん、生活利便施設や住宅の観点から見ても観光需要が不動産価格や賃料を押し上げ、新たな居住者や従来の住民が街から離れざるを得ないケースも報告されている。

日本のオーバーツーリズムの原因と背景

インバウンド施策を推進した背景には、経済効果の波及や各地域のグローバル化を期待する要素があったが、一方で十分な受け入れ体制や長期的な観光資源管理のシミュレーションが後手に回った面が否めない。日本固有の文化や食事、観光地が世界的に注目を浴びる一方、宿泊施設や観光案内所のキャパシティを超える観光客をどうコントロールするかが喫緊の課題となる。

日本政府は観光ビジョンを打ち出して高付加価値志向の誘致や地方誘客策を掲げているが、都市部と地方の格差は継続しており、問題の根本的解決はまだ道半ばである。よってオーバーツーリズムへの抜本的な対策を講じることなく観光客を増やし続けるならば、日本でも深刻な住民への影響が広がる懸念がある。

海外の主要観光地の現状

海外の主要観光都市に目を向けると、バルセロナではオーバーツーリズムの結果、旧市街地の住環境や景観、文化的行事への影響が警戒されており、不動産価格の上昇や住民コミュニティの空洞化が進行していると指摘する声がある。

同様の状況はヴェネツィアやアムステルダムなどの歴史的な観光都市でも見られ、特に観光シーズンには路地や広場が観光客で溢れ、地域住民の日常生活に支障をきたすケースが報告されている。これらの都市では、クルーズ船の寄港制限や宿泊税の導入など、観光客数の抑制に向けた取り組みを進めているが、観光産業への依存度が高いため、急激な規制強化は経済への影響が懸念される。

また、アジアの観光地でも同様の課題が顕在化しており、タイのプーケットやベトナムのホイアンなどでは、急速な観光開発による環境負荷の増大や、伝統的な生活文化の変容が問題視されている。これらの地域では、持続可能な観光の実現に向けて、観光客の受け入れ数の調整や、文化遺産の保護に関する新たなガイドラインの策定が進められている。

※3 出典:株式会社第一生命経済研究所「オーバーツーリズムの現状と対策(前編)」
https://www.dlri.co.jp/report/ld/340002.html
※4 出典:毎日新聞「京都府2019年観光客」(2020年6月18日)
https://mainichi.jp/articles/20200618/k00/00m/040/033000c

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政府や自治体によるオーバーツーリズム対策

世界各国の事例を参照するとオーバーツーリズム対策としては、公共交通機関の混雑緩和や入域規制、柔軟な料金設定などが考案されることが一般的であり、特に中心部に人が集中する大都市や観光名所では実施率が高まっている。観光需要が急増するタイミングはシーズンや祝日などに偏りやすいため、混雑期を避けるための料金変動制や、オンライン予約による入場制限などが導入されるケースも多く見られる。

日本政府も地方誘客推進策として11のモデル地域を選定し、高付加価値な観光資源の整備や交通アクセス改善、多言語対応強化とセットで施策を進めるなどして、著名観光地だけに集中していた旅行者を地域へ分散させようとしている。

以下に、日本の政府が考案している対策の代表例を示す。

対策項目 具体例 期待される効果
混雑対策 分散利用キャンペーン、オンライン予約システム、ピーク時料金割増 主要時間帯の来訪を平準化し、交通網や観光施設の過度な混雑を回避
地方誘客推進 交通費補助、観光地間ルートの周遊パス、ローカル文化体験ツアー 都市圏依存のリスクを緩和し、地域経済の多角的発展を促進
多言語対応の強化 多言語案内所の増設、音声ガイドアプリの導入、外国語研修への補助金 言語の壁を低減し、ストレスの少ない旅行体験を提供


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持続可能な観光地域を守るためにできること

オーバーツーリズム問題を克服する鍵は、観光客・住民・行政の三者が協力して観光拠点のキャパシティを超える需要を分散化するとともに、観光資源と地域コミュニティの保護を最優先に考えることである。さらに、他地域からの学びを共有しながら課題解決に取り組むことで、長期的視点から持続可能な観光を実現できる。

具体的な対策

第一に、観光客側の選択としてもオフシーズンやピークタイム以外の旅行を計画することが重要であり、宿泊施設や航空券が比較的割安になる時期を狙うことで費用を抑えながら混雑を回避できる利点がある。

第二に、自治体や観光事業者は季節やエリアごとの旅行プランを幅広く提案し、メジャーな観光地だけでなくローカル地域の魅力的な体験やイベントを積極的に発信する必要がある。

第三に、地域住民と観光業界が協働しコミュニティを尊重する観光マナーを明文化するなど、双方向の理解を深める仕組みが求められる。

加えて、テクノロジーを活用してリアルタイムで混雑状況を把握し、観光客同士が訪問前に情報を得られるシステムを作ることも有用である。来訪者の多いエリアの歩行者数や交通機関の混雑度合いを可視化することで旅行者が自発的に旅程を調整しやすくなり、少し離れた地域へ足を伸ばすきっかけにつながる可能性が高まる。

持つべき心構え

観光資源の保護にも注視しなければならない。過度な摩耗や破壊が進めば修復が困難になるため、入場制限や利用ガイドラインを厳密に設定する必要がある。特に環境に対する影響を軽視すれば、結果的に地域全体が観光地としての魅力を失い、長期的な経済損失を招く恐れがある。

結局のところ、オーバーツーリズムを回避するためには、旅行者を抑制し続けるだけでなく新たな観光資源の発掘と活用が重要である。遠隔地や観光未発達エリアを結ぶ交通アクセスを改善し、そこにしかない自然や文化を磨き上げることで、旅行者の選択肢を広げるとともに、地域の自立性を図ることが不可欠だ。

まとめ

世界各地で観光客の急増による地域社会への過度な負荷が問題となっており、主要観光地では住民数を大きく上回る観光客が訪れ、インフラ負担やコミュニティの空洞化が懸念されている。

この課題に対し、混雑対策や地方誘客などの施策が実施されているが、より柔軟な対応が必要とされている。持続可能な観光の実現には、観光客自身がオフピーク期の利用やローカルスポットの訪問を意識し、特定の観光地に集中しない旅行スタイルを実践することが重要である。また、観光客、住民、行政が一体となって観光の質と持続可能性を追求する取り組みを進めることが不可欠だ。

 

文・編集:あしたメディア編集部

 

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