よりよい未来の話をしよう

資本主義から離れたローカルな暮らし。未来の村・obama village

「あれ、このビルいつの間に建設してるんだろ?」「ん?ここにこんなデカい建物、建ってたっけ?」街を歩くとこのように思う人は少なくないはずだ。

2023年11月に開業した麻布台ヒルズ、2024年夏に開業予定の「赤坂トラストタワー」、同年11月に浜松町でオープンを控えた「WTC annex」など、東京では新しいビルの建設ラッシュが続いている。

そんななか、鹿児島県霧島市の小浜で「新しい村」を作ることを試みている工務店の存在を知った。その名も「obama village」。HP上には「都市部への一極集中や成長前提の資本主義経済から少し距離を置き、自分たちの暮らしは自分たちのサイズで作る」との記載がある。

「都市部への一極集中」「成長前提の資本主義経済」これら2つから距離を取るとはどういうことなのか、またそもそもなぜ「新しい村」を作ろうと考えたのか。気になった筆者は、obama villagaeの村長を務める有村健弘さんに話を伺った。

きっかけはアメリカの住みたい町No.1「ポートランド」

obama viilageは、鹿児島県霧島市隼人町小浜地区にある「未来の村」だ。ただし、村といっても市町村単位の正式な村というわけではなく、オフィスや、パン屋、服屋などが入るいわゆる“商業施設のようなもの”をイメージするとわかりやすい。(もちろん、大型商業施設とは異なる点がいくつもあるがその点は後述)

周りは海や山、田んぼに囲まれており自然を360度どこからでも体感することができる。その一方、鹿児島空港から車で約15分という立地の良さだ。

©FUJIWALABO

先述のとおり、obama villageの主催は町の工務店「おばま工務店」だ。工務店がこのような村を作ろうと考えたのはなぜなのか、有村さんに伺った。

「父親が倒れたことをきっかけに、東京で勤めていたIT企業を退社して実家の工務店を引き継ぎました。引き継いだのはよかったのですが、その後あるデータを目にしたんです。

そのデータには鹿児島の人口どんどん減少していくこと、それに伴い鹿児島の住宅市場が8割近く縮小することが示されていました」

このまま何もしないだけでは霧島の人口はどんどん流出し、町の活気もなくなっていく。そこで有村さんたちは、自分たちの理念とビジョンを見直した。

「理念を“居食住を通した幸福への貢献”、ビジョンを“霧島を照らす希望の星となる”に決めました。そこから、小浜の人たちの幸福に貢献し、自分たちが小浜の希望になるためのヒントを得るために色々な場所を視察しました」

国内だけでなく、海外にも及んだ視察。そのなかで1番刺激を受けたのが、アメリカのポートランドだった。アメリカで住みたい町No.1とも評されるこの町のどこに魅力を感じたのか。

「ポートランドの人たちは、とにかく幸せそうでした。たとえば、ポートランドの食べ物は基本的にローカルなもの、つまりほとんどが地産地消。だから街中にはチェーン店ではなくローカルな店がほとんどで、ビールもバドワイザーじゃなくて地元のクラフトビールが主流なんです。

さらに良かったのが、そのローカルな感じが誰かから押し付けられたものではなく、自分たちから進んでやってるということ。楽しそうに生活するポートランドの人たちを見て、これを小浜でも実現できれば、自分たち含め霧島の未来をなんとかできるのではないかと考えました」

霧島でポートランドのような町を作りたいと考えた有村さん。町を作るのは現実的ではないが、それよりも小さな単位の村ならなんとかなるかもしれない。その後、霧島にある小浜と出会ったことで着想が広がり「obama village」に繋がったのだ。

「資本主義経済から少し距離を置く」ためには?

obama villageではポートランドに倣って、「ローカルな暮らし」を心がけている。そのため、大手チェーン店は出店していない。しかし意外にも、出店している人たちは、元々小浜にゆかりがある人ばかりではないそうだ。

「小浜にゆかりがあるから、というよりも“ローカルな暮らし”に惹かれて集まっている人が多いですね。テナントによっては、なるべく地元の食材を使うようにしてくれています」

obama villageに店舗をかまえる「BAKER SHIMOFUL

また、obama villageのコンセプトである「成長前提の資本主義経済から少し距離を置く」ことがテナントとの関係にも反映されている。obama villageでは、テナントに対して営業時間の縛りを一切課していない。obama village全体の盛り上がりを考えれば、1日でも多く営業して欲しいはずだが、なぜ縛りを課さなかったのか。

「そうでないと面白い人たちが集まって来てくれないんです。例えば大きな商業施設だと、基本は365日10時から20時などの営業時間がマストな場合が多い。そうなると、大手チェーン店しか入れず、全国どこの商業施設でも、テナントの内容もサービスの質も均質化されていてきます。そのコピーを小浜に作っても、わざわざ小浜に足を運んでもらう意味がない。

だったら、あえてそういう縛りを設けずに、いろんな面白いことやりたい人たちに店を構えてもらおう、そしてそれをobama villageならではの色にする。そうすることで、来る意味がある場所、もう1度来たいなと思ってもらえる場所にしていきたかったんです」

なかには週休2日を実現し子育てなども充実しながら営業している店舗もあるそうだ。働いている人たちのウェルビーイングも実現されているのだ。

ここで少し疑問に感じたことが。店の営業日が自由ということは、せっかくobama villageに足を運んだのに開いているお店が少ない、という事態に陥らないかということだ。仕事が休みの際に、SNSで見つけたお店に出かけたが、臨時休業で無駄足になった…という経験をした人もいるのではないか。

この点については、有村さんも課題に感じたそうだ。そこで有村さんはローカルに根付いたobama villageならではの方法でこの課題を解決した。

「例えば、パン屋が休みの日には地元のパン屋やハンバーガー屋に出店してもらう。そうすれば、パンを食べに来た人が何も食べれない事態は防げます。あとカフェのオープンが他の店舗よりも少し遅れてしまった時には、地元のカフェにローテションを組んで出店してもらいました。

obama villageとしても助かることはもちろん、臨時で出店してくれるお店としても自分たちのお店を知ってもらういい機会になります。こうして地域でいい循環を作っていきたいですね」

obama villageが小浜の人たちに愛されるための工夫

obama villageが小浜に根付くためには、小浜の人たちに愛されなければならない。そのためにいくつかの工夫がobama villageには施されている。

「obama villageにある会議室は、災害時の緊急避難所になっています。これはどこの地方も抱えている課題かもしれないですが、耐震性の高い避難所が少ないのです。その点、私たちは工務店なので、会議室なども十分な耐震性を備えている」

他にも、地元の学校に出張授業を行っているそうだ。内容はobama viilageに備え付けられている「バイオジオフィルター」について。バイオジオフィルターとは、より綺麗な水を排水するために、施設内に小川を作り、そこに石や植物を配することで雑排水を浄化する取り組みだ。身近なバイオジオフィルターを通して、人と自然が共存する方法を学ぶことができる。

また、有村さんたちは、obama villageのテナントに地域住民を積極的に雇用するようにお願いしている。都心に比べて地方では新しい雇用の場所が生まれづらいため、家の近くで働きたい人には願ったり叶ったりなのではないか。

ラベリングが難しいけど、“未来”ってこういうことなのかも

obama villageの大きな特徴に、「段階的な開発」が挙げられる。第1期ではオフィスエリアと店舗エリア、シェアスペースの複合施設を建設。その後の第2期で、賃貸住宅や民泊施設エリアを徐々に拡張していくことを計画しているのだ。なぜ開発のタイミングをエリアごとにずらしたのだろうか。

「理由の1つに経済的な側面もあります(笑)。ただそれ以外にも理由はあって。いまの時代はとにかく変化が激しいので、建設予定の段階から実際に完成するまでに町の状況が大きく変化する可能性がある。

であれば、町や住民のニーズの変化も見据えた上で、少しずつ拡張していく方がいいと考えました。建築数を柔軟に増減させることができますし、別の建物に計画変更することもできますので」

段階的な開発のメリットの1つに「世代が固定されないこと」を有村さんは挙げた。大量の住居を一気に建設し一気に売り出すと、そのタイミングでは大きな利益を得ることができる。その一方で、その住宅エリアの世代が固まってしまうため、どこかのタイミングで一斉に人口が減少する恐れがある。日本の古い団地などがまさしくこの典型例だ。

一方で、段階的に開発を進めれば結婚や子育てなどライフステージの変化によって、引越しを決める人が多いため、ある程度住民間の世代にバラツキを持たせることが可能というわけだ。

この先、obama villageをどのように進化させていきたいと考えているのか。有村さんの口から出たのは「耕作」と「空き家」という2つのキーワードだった。

「畑や田んぼの耕作を村民も地元の方も含めてみんなでやっていきたいです。みんなで手を動かしながらコミュニケーションを取ることで、新しいアイデアが浮かんでくるんですよ。1人やどこかのテナントだけでは思いつかない、小浜だからこそできる面白いことをやりたいですね。

あと空き家についてですが、人口減少が進むと必然的に空き家が増えます。ただ、空き家を活用しようと思ってもその地域の人たちに信頼されていないと、空き家を貸してくれない。こういった、“よそ者に対する拒否感”みたいなものはどこの地方でもあると思うんです。

その点、私たちは本社も移して、実際にここに住んで取り組みを進めています。信頼関係を築き私たちの取り組みを理解してもらい、地域住民にも喜ばしい形で空き家活用を進めていきたいです」

最後に、「obama villageとは?」と伺ったところ、「良くも悪くも、ひと言で説明するのが難しい」と答えてくれた。

「商業施設でもあれば、オフィスでもあり、近くに住んでいる人もいるし、海や山、田んぼなどの自然もある。みんなが自分たちで作っていってる感じがすることもあって、いろいろなことに境界線を感じづらいんです(笑)。なので、obama villageを既存の言葉で、ラベリングすることが難しいのですが、でも“未来”ってこういうことなのかもしれないと思いますね」

“obama village”が日本における開発のモデルケースに

自分たちに見合ったサイズ感で段階的な開発を進めるobama village。その根底にあるのは「いかに利益を出すこと」かではなく、「いかに小浜を幸せな町にするか」だ。実際に話を伺った有村さんも、obama villageの仕事に非常にやりがいを感じて取り組んでいると語ってくれた。

これからの日本にとって必要な開発は、加速する資本主義から少し距離を置いた、住民に愛され、町にとって本当に意義のある開発ではないだろうか。鹿児島県霧島市小浜にある未来の村が、これからどのように愛され広がっていくのか注目していきたい。

 

取材・文:吉岡葵
編集:篠ゆりえ
写真提供:obama village