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マイクロマネジメントがハラスメントになる?現代社会での課題と対策

マイクロマネジメントとは、上司による部下への過度な干渉と細かい管理を指す。従業員の能力への信頼欠如と絶え間ない監視が特徴で、従業員の自主性低下、生産性や創造性の低下、離職率上昇などの深刻な影響をもたらす。 また、マイクロマネジメントは場合によってはハラスメントとされることもある。そこで本稿では、マイクロマネジメントの原因や対策、ハラスメントに達するほどのマイクロマネジメントを受けた場合の対応方法などについて解説する。

マイクロマネジメントとは

マイクロマネジメントという言葉を聞いたことがあるだろうか。近年、職場環境において注目されている概念であり、上司と部下の関係性に大きな影響を与える問題として認識されている。

マイクロマネジメントの定義

マイクロマネジメントとは、上司が部下に対して過度な干渉と細かい管理を行うことを指す。これは、従業員の能力への信頼の欠如と過剰な監視をを特徴とし、従業員の自主性を大幅に低下させることにつながる。

マイクロマネジメントの特徴

マイクロマネジメントには、いくつかの特徴がある。上司は常に部下の所在や行動を把握しようとし、頻繁な業務報告を要求する。また、メールや文書の細部まで指摘し、すべての業務を上司の指示通りに進めることを要求するのが一般的だ。

これらの行為は、部下の創造性や自立性を抑制し、生産性の低下を招く。さらに、職務満足度と士気の低下により、高い離職率につながることもある。

マイクロマネジメントとハラスメントの関係

マイクロマネジメントは、ハラスメントの一種として捉えられることがある。上司と部下の信頼関係を損ない、ストレスや不安を増加させるため、メンタルヘルスの問題を引き起こす可能性もあるのだ。また、キャリアへの関与や幸福度にも影響を与え、職務満足度の低下を招く場合もある。 Trinity Solutionsの調査によると、79%の職員がマイクロマネジメントを経験しており、そのうち69%が転職を考慮しているという結果が出ている。(※1) このデータからも、マイクロマネジメントがハラスメントとして認識され、深刻な問題であることがわかる。

※1 参照:Harry・E・Chambers「My Way Or the Highway: The Micromanagement Survival Guide」p.22, 
https://www.bkconnection.com/static/My_Way_or_the_Highway_EXCERPT.pdf

▼マイクロマネジメントについてより詳しく知る

マイクロマネジメントが与える影響

マイクロマネジメントは、従業員の生産性と創造性に深刻な影響を及ぼす。以下では、その具体的な影響について詳しくみていく。

生産性と創造性への影響

マイクロマネジメントは、従業員の自主性と自律性を著しく阻害する。マイクロマネジメントにより、部下は自らの判断で行動することが困難となり、常に上司の承認を求めるようになってしまう。これにより、業務の遂行スピードが低下し、生産性が大幅に下がってしまうのである。

さらに、マイクロマネジメントは、従業員の創造性をも抑制してしまう。新しいアイデアを生み出し、革新的な解決策を見出すためには、ある程度の自由度と失敗の許容が不可欠である。しかしながら、マイクロマネジメント下では、部下は上司の指示通りに行動することを強いられ、自らの発想を試す機会を奪われてしまう。その結果、組織の創造性は著しく損なわれ、競争力の低下につながりかねないのだ。

ここで、株式会社リクルートマネジメントソリューションズが経営者・役員を除く会社勤務の正社員を対象に行った調査結果をみてみたい。 上司からの管理過剰感に関する「これがなければもっと、高い成果が出せるのにと想うような上司からの管理がある」という項目では、「とてもそう思う」「そう思う」「ややそう思う」と答えた人が、全体の三分の一以上に該当する38.4%であった。(※2)

※2 出典:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「会社や上司の管理過剰感が高いと、社員の適応感や主体性は低下し、疲弊感や離職意向が上昇『会社や上司からの管理に関する意識調査』の結果を発表」 https://www.recruit-ms.co.jp/assets/images/cms/news/upload/3f67c0f783214d71a03078023e73bb1b/9f1ee16d4f0c4ff494e7652bc7a12c83/20240528-pressrelease-01.pdf

従業員の士気とメンタルヘルスへの影響

マイクロマネジメントは、従業員の職務満足度を大幅に低下させる。上司からのいきすぎた干渉と監視により、部下は自分の仕事に対する誇りや達成感を失ってしまう。また、自分の能力を発揮する機会を奪われ、成長の実感を得られなくなる。その結果、仕事へのモチベーションが著しく低下し、士気の低下にもつながるのだ。

また、常に上司からの批判や指示にさらされることで、部下はストレスや不安を感じるようになる。さらに、自分の判断や能力に対する自信を失い、自己効力感が低下することにもつながる。長期的には、燃え尽き症候群や抑うつ症状など、深刻なメンタルヘルスの問題を引き起こしかねない。

上司と部下の関係性への影響

マイクロマネジメントは、上司と部下の間の信頼関係を著しく損なう。上司が部下の能力を信じず、常に細かな指示を出すことは、部下に対する不信感の表れである。一方、部下も上司を信頼できなくなり、自分の意見や提案を言い出しにくくなる。その結果、上司と部下の間にはコミュニケーションギャップが生じ、良好な関係性を築くことが困難となるのだ。

さらに、マイクロマネジメントは、上司と部下の力関係をも歪めてしまう。上司からの過剰な干渉により、部下は自分の権限や裁量権を奪われたと感じるようになる。その結果、上司に対する反発心や不満を抱くようになり、職場の人間関係は悪化の一途をたどり、長期的には、部下の離職につながりかねない深刻な問題へと発展してしまうのである。

マイクロマネジメントの背景と要因

マイクロマネジメントが発生する背景には、さまざまな要因が複雑に絡み合っており、それらを理解することが、問題の解決に向けた第一歩となる。

要因1:テレワークの増加

コロナ禍は今までの職場環境を大きく変化させ、テレワークを導入する企業が急速に増加した。自宅での仕事が増えることにより、オフィスで部下の様子を確認できていた上司は、部下の就業状況を把握できなくなった。その結果、部下の仕事ぶりや進捗状況を不安に感じ、こまめな進捗報告を強要するケースが増えた。

特にテレワークへの理解度が浅くこれまでオフィスでの仕事が当たり前であった上司ほど、マイクロマネジメントを強める傾向にある。

要因2:働き方改革の促進

働き方改革により長時間労働の見直しが求められるようになった。定められた上限を超えると企業側に罰則が科される可能性もあり、部下に残業を強要することが難しくなった。しかし、働き方が改善されてもそもそもの業務量に変化がないケースも多く、人員の増加が行われずに労働時間だけが削減される状況では、今までの業務は滞る。残った仕事は、上司が残業して取り組むため、業務に追われ部下を育成する余裕がなくなり、成果が求められる上司はミスが起きないように部下の行動を管理する。その結果、上司の指示通りに動くようにマネジメントする意識が働くのだ。

要因3:多様化する人材

職場のダイバーシティが推進により、年代や国籍、価値観の異なる人材が共に働くようになると、これまでは暗黙の了解で済まされていたルールが通用しなくなる。その結果、会話によるコミュニケーションよりも、マイクロマネジメントで部下の行動を制限する方が近道だと考える上司が増えているという。

また中途採用の人材は前職の経験を活かし会社を活性化させることもある一方、前職のやり方にこだわり今の企業の風土やルールにスムーズに馴染めないケースもある。その結果、一人ひとりの行動を細かく管理するマイクロマネジメントに向かう傾向があるのだ。

▼コロナ禍は働き方改革に影響を与えたのか? 

マイクロマネジメントへの対処戦略

ここでは、マイクロマネジメントに対処するための具体的な戦略について、組織レベルと個人レベルの両面から解説する。

組織レベルでの対策

組織レベルでのマイクロマネジメント対策には、明確なコミュニケーションチャネルの確立リーダーシップトレーニングの実施、そしてマイクロマネジメント抑制ポリシーの導入が含まれる。

明確なコミュニケーションチャネルを確立することで、部下は上司に対して自身の業務の進捗状況や問題点を率直に伝えやすくなり、上司は部下の能力や自主性を信頼しやすくなる。加えて、管理職を対象としたリーダーシップトレーニングを実施することで、マイクロマネジメントの弊害や適切な部下との関わり方について理解を深めることができる。

さらに、ポリシーを導入することは明示的にマイクロマネジメントを抑制することにもつながるため、管理職に意見しづらい職場環境であっても、過度な干渉や監視を控えるよう管理職に促すうえで有効な対策となる。これらの対策は、マイクロマネジメントを抑制する組織文化を醸成することにもつながるだろう。

個人レベルでの対策

個人レベルでのマイクロマネジメント対策として、上司と信頼関係を構築することが挙げられる。上司とのコミュニケーションにおいて、自身の業務に対する考えや提案を率直に伝え、上司の意図や期待を正確に理解するよう努めることも1つの手段だろう。他にも、業務の目標設定や進捗報告の頻度・方法について上司と調整し、過度な干渉を避けつつ適切な情報共有を図ることも効果的である。

また上司に意見を伝える前に、上司が自分の行動を監視しようとする理由が自分自身にないか、仕事に取り組む姿勢を分析することが必要かもしれない。遅刻や締め切りに遅れることが頻発している場合は、その改善からはじめることも1つの解決手段だろう。

マイクロマネジメントの具体的な防止策

では、自身が管理者になった場合、何に注意すればマイクロマネジメントを行わずにすむのか。具体的な防止策を見ていこう。

明確なガイドラインと期待値の設定

マイクロマネジメントを防ぐためには、明確なガイドラインと期待値を設定することが重要である。これは、SMART目標(※3)の設定によって達成できる。SMART目標を設定することで、従業員は自身に期待されていることを明確に理解し、自主的に業務を遂行できるようになる。

※3 用語:Specific(具体的)、 Measurable(測定可能)、 Achievable(達成可能)、 Relevant(現実的)、 Time-bound(時間制約)の頭文字から成る単語。簡単かつ正確な方法でKPIや目的を伝える手法として知られる

オープンなコミュニケーションの促進

オープンなコミュニケーションを促進することは、マイクロマネジメントを防ぐ上で重要な役割を果たす。上司と部下の間に透明性のある対話の場を設けることで、お互いの懸念や期待を共有し、信頼関係を築くことができる。また、定期的なフィードバックセッションを実施することで、部下の成長を支援し、自主性を育むことができる。

定期的なチェックの実施

定期的なチェックを実施することは、マイクロマネジメントを防ぐ効果的な方法である。チェックでは、部下の進捗状況を確認し、必要な支援を提供することができる。ただし、チェックの頻度は適切に設定する必要がある。過度なチェックは、かえってマイクロマネジメントにつながってしまうだろう。

チームへの信頼構築と自主性の尊重

チームへの信頼を構築し、自主性を尊重することは、マイクロマネジメントを防ぐ上で不可欠である。上司は、部下の能力を信じ、彼らに適切な自由裁量を与える必要がある。これにより、部下は自身の判断で業務を遂行し、創造性を発揮することができる。また、上司は部下の意見に耳を傾け、意思決定プロセスに参加させることで、チームの一体感を高めることができる。

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解決困難な場合の選択肢

様々な対策を講じても、マイクロマネジメントを解決できない可能性は十分にあるだろう。また過度な干渉が、ハラスメントに達するケースも考えられる。ハラスメントの域に達するマイクロマネジメントを受けた場合どのような行動を取るべきなのだろう。

他の上司や組織へのアプローチ

マイクロマネジメントがハラスメントの領域に達し、上司との直接対話でも改善が見込めない場合、他の上司や人事部門などの組織へのアプローチをすることも1つの選択肢だろう。

まず、直属の上司以外の管理職、例えば部長や課長などに相談することが考えられる。その際は、具体的な事例を挙げて、マイクロマネジメントによる業務への支障や精神的な負担を説明することが重要だ。また、人事部門に相談し、社内のハラスメント相談窓口や労働組合などを通じて解決を図ることも一案である。

ただし、他の上司や組織へのアプローチは、慎重に行う必要がある。上司との関係悪化や、問題が表面化することによる職場環境の変化など、リスクを十分に考慮したうえで、最善の方法を選択すべきだ。また、事態の改善には時間を要する可能性があり、粘り強く状況を見守る必要がある。

部署異動や転職の検討

他にも部署異動や転職を検討するのも1つの手段だろう。特に、マイクロマネジメントが長期化し、メンタルヘルスに深刻な影響を及ぼしている場合は、環境を変えることが望ましいかもしれない。

部署異動の場合、人事部門と相談し、適切な異動先を探ることが重要である。その際、異動の理由をマイクロマネジメントの問題に限定せず、キャリアアップや新たな業務経験の獲得など、前向きな理由を併せて説明することで、円滑な異動につながるだろう。

異動の他に、環境を変えることを目的に転職をするという方法もある。ただし、職場を変えたとしても、同じようなマイクロマネジメントが常態化した環境であっては意味がない。たとえば、転職先の就業状況や雰囲気、上司と部下の関係などについて、転職エージェントを通じて入念にリサーチするのも、マイクロマネジメントを避けるための一つの手になるだろう。 メンタルヘルスの問題を抱えるほどのマイクロマネジメントを受けた場合は、その環境から離れることも視野に入れながら、必要に応じてカウンセリングを受けるなどのセルフケアを行うことも大切だ。

法的措置の検討

マイクロマネジメントがハラスメントとして認定され、組織内での解決が困難な場合、法的措置を検討することもある。ただし、これは慎重に判断すべき選択肢であり、弁護士など専門家の助言が必要なケースもある。

法的措置を取る場合、マイクロマネジメントの事例を詳細に記録し、証拠を収集しておくことが重要だ。電子メールやチャットのログ、同僚の証言など、客観的な証拠があれば、訴訟や労働審判での有利な材料になるだろう。ただし、法的措置を取る場合は、費用や時間、精神的な負担が大きい点には注意したい。

マイクロマネジメントがハラスメントの域に達した場合、上記のような選択肢を視野に入れながら、状況の改善を図ることが重要だ。職場環境の改善には時間を要するかもしれないが、自身の尊厳とキャリアを守るために、粘り強く解決策を模索していくことが肝要である

まとめ

マイクロマネジメントは、上司による部下への過度な干渉と細かい管理を指す概念であり、現代の職場環境において深刻な問題として浮上している。絶え間ない監視と従業員の能力への信頼欠如を特徴とするマイクロマネジメントは、従業員の自主性を大幅に低下させるだけでなく、生産性や創造性の低下、離職率の上昇などの深刻な影響をもたらす。

マイクロマネジメントに対処するためには、組織レベルと個人レベルの両面から多角的なアプローチを取ることが求められる。また、マイクロマネジメントを防止するためには、明確なガイドラインと期待の設定、オープンなコミュニケーションの促進、定期的なチェックインの実施、チームへの信頼構築と自主性の尊重などが重要なポイントとなる。

マイクロマネジメントがハラスメントの域に達し、解決が困難な場合には、他の上司や組織へのアプローチ、部署異動や転職の検討、法的措置など、さまざまな選択肢を検討する必要がある。自身の尊厳とキャリアを守るために、粘り強く解決策を模索していくことが重要だ。

 

文・編集:あしたメディア編集部

 

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