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「やりたいことは全部やる!」『チェンソーマン』デンジ役・戸谷菊之介さんにきいた「声優」という職業

藤本タツキさんによる少年漫画『チェンソーマン』(集英社)。大きな人気を誇る本作は、2022年にアニメ化され、2025年9月には劇場版『チェンソーマン レゼ篇』が公開予定だ。

そんな『チェンソーマン』のアニメ版で、主人公・デンジ役を演じたのが、声優の戸谷菊之介さん。戸谷さんは声優業以外にも、アイドル活動・ラジオパーソナリティ・音楽活動など幅広く活躍されている。そんな戸谷さんに、声優にとどまらず活動の幅を拡げられた理由や、「声優」という職業への向き合い方などを伺った。全力でいまを楽しみながら活動ができる理由とは。

お笑い芸人志望から声優の道へ

まず戸谷さんが声優を志した理由から伺いたいです。学生時代から、もともと声優を目指していたのでしょうか?

実は中学生のころはお笑い芸人になりたいと思っていたんです。バカリズムさん、劇団ひとりさん、東京03さんが出演されていた「ウレロ☆未確認少女」(東京テレビ系列)(※1)という番組の影響が大きいです。みなさんがすごく楽しそうに出演しているのを見て、「この人たちみたいになりたい!」と強く思ったことがきっかけです。

高校では有志のお笑い団体を結成して、コントや漫才を文化祭で披露していました。

そこから、現在の声優の道に行かれる間に、どんな変化があったのでしょう?

高校卒業後はお笑い芸人になろうと思って、オーディションも受けていましたが、最終的にはお笑い養成所に入る必要があると分かりました。でも養成所に入るお金もなくて。そこで役者ならコントと同じ要領でできる気がして、役者のオーディションも受けるようになり、お笑い芸人志望から役者志望へシフトしていきました。

「人を楽しませる」という根本的な部分は役者でも実現できると思いましたし、オーディションを受けるにつれて演技が自由であることが分かって、役者の道に進むことを決意しました。役者のオーディションを受けていく中に声優のオーディションもあって、受けてみたら特別賞をいただいて。そこで声優としてお芝居を頑張ろうと決めました。

声優のオーディションで特別賞を受賞した理由として、ご自身ではどういったところが良かったのだと思いますか。

受賞したときは僕もびっくりしたんですが、強いて挙げるなら、声がすごく大きく出せたところが良かったのかもしれません。大きい声が出せると表現の幅が広がるし、声優として1番といっても過言ではないくらい大切な要素だと思っています。

※1 参考:2011年10月から12月まで、テレビ東京系列で放送されたシチュエーションコメディドラマ。

「演じないこと」で掴んだ、アニメ『チェンソーマン』デンジ役

その後、オーディションに受からない時期も続いたと聞きました。

はい、2017年からいまの事務所に所属していますが、デンジ役をいただく2022年まで約5年間、オーディションに受からない時期が続きました。何を変えたらいいんだろう?と考えてはいましたが、オーディションに受からないことへの苦悩はあまりなかったです。

オーディションに受からない中でもできることは精一杯やりたいと思って、緒方恵美さんが開設した俳優塾に参加し、3年間全力で取り組みました。

緒方恵美さんの俳優塾ではどんなレッスンを受けていたのでしょうか。

生徒同士の掛け合いのなかで求められる演技のクオリティは高かったです。なかでも1番印象的だったのは、緒方さんと演技の掛け合いができたことですね。全力で気持ちを表現することで、初めて相手に伝わるし、それが演技のなかでの「会話」になっていくんだなと。自分のステップアップになったし、オーディションに受からない期間もすごく充実した日々でした。

その後、オーディションで勝ち取ったのが、初主演となる『チェンソーマン』のデンジ役ですよね。役が決まったときの当時の心境を教えてください。

本当にめちゃくちゃ嬉しかったです。事務所に所属してからオーディションに初めて受かったのも嬉しかったし、それが僕たちの世代から支持を集めている『チェンソーマン』だったので、信じられませんした。「実はドッキリでした!」って発表があるんじゃないかと、1ヶ月くらいはビクビクして過ごしました(笑)。

デンジ役を演じてみていかがでしたか?

デンジは感情に素直なキャラクターなので、演じていて楽しかったです。自分の内面を隠さず一気に喋ることも多いので、僕も心のまま素直に演技していましたね。

たとえば、デンジは寂しい生い立ちから人一倍怒りを抱えているので、デンジが怒るシーンはデンジに合わせて、僕も最大限、怒りながら演じました。デンジのおかげで感情を爆発させる演技が身に付いたと思います。

緒方さんのレッスンとデンジ役を経験して、いま、役を演じる際にこだわっている部分を教えていただきたいです。

緒方さんから教わったことでもありますが、演じない。リアルにやることです。リアルというのは、役柄になりきって役本人としてマイク前に立って話すという考え方です。自分の言葉として喋ることで、ひとつひとつが自然であるような表現を心がけています。お芝居の基本ですが、これを1番大切にしています。

かえって分かりにくくなってしまって、監督から指摘を受けるときもありますが、自分が最初に行う演技はリアルな表現になるよう、心掛けています。

「やりたいことは全部やる!」が叶う職業、声優とは

UniteUp!』では、アイドル活動もされていますよね。

はい、アイドル活動もとても楽しいです!ダンスも歌もレッスンを重ねて上達して、それをお客さんの前で披露するのがやっぱり楽しいですし、活動のモチベーションになっています。メンバーも全員仲がいいので最高です。

 

『UniteUp!』のメンバーは個性や職業、得意なことがそれぞれ異なっていますよね。

メンバーの中にはアーティストや俳優もいるので、バランスを取りながら演技をしています。アニメっぽく大袈裟に演技をすると僕だけ浮いちゃうので、テレビドラマのイメージを思い出しながら、演技の温度感の調整を行うときもあります。

戸谷さんは声優に限らず、本当に活動の幅が広いですし、器用ですね。

舞台で体を動かしてお芝居やダンスをすることも、歌を歌うことも、声優の演技に活きると思っているので、毎日楽しく活動をさせていただいています。

 

どんなことでも楽しめてしまうのが羨ましいです。戸谷さんは苦手なことがあるのでしょうか?

実は人見知りというか、初対面の人と仲良くなる方法があまり分からないんです。声優の現場でも、ベテランの方や初対面の方が大勢いると極度に緊張してしまいます。自分が他人にどう見られるかを、過剰に気にしている部分があるのかもしれません。

意外ですね!お話させていただいて人見知りな印象は受けませんでした。

それならよかったです(笑)。

声優業界の方は年齢関係なく、みんな優しくて、助けられている部分もあります。みんなで作品を作り上げるので、演技がやりやすいように違いに配慮するなど、リスペクトがちゃんとあるんですよ。だからやっぱり楽しいです。

そんなふうに、どんな場所でも楽しみを見出せることが、戸谷さんがマルチに活躍されている理由の1つかもしれませんね。積極的に自身の活動領域を拡げている理由を教えてください。

やりたいことがいっぱいあるし、やりたいことは全部やりたいんです。たくさんある「自分のやりたいこと」に挑戦できて、楽しく活動ができる「声優」という職業が好きだし、自分に合っているなと思います。

やっている活動全部が楽しいから続くし、楽しく活動するためにはどうすればいいのか考えています。誰かに楽しんでもらえたら、自分も楽しくなるので、全部楽しみ尽くしたいです。

頑張れない日もあるけど、一緒に前へ

今後、挑戦したいことはありますか。

新しいお仕事は楽しいし、とにかくなんでも挑戦していきたいですが、なかでもいま挑戦し始めていることは音楽ですね。去年から作詞と作曲をやりながら、DTM(※2)というパソコンを使った音楽制作を勉強中です。たまにライブでも披露していますが、もっと注力していきたいです。

あとは機会があれば、ドラマなどの映像作品にも出たいです。以前、ドラマに出させていただいた際に、同じシーンをいろんな方向からカメラチェンジしながら撮影したのが新鮮でした。声優だと1回テストをして、すぐに本番をやって終了なので、ドラマは声優とはまた違う視点から演技をしていくことになり、面白そうです。

これからの戸谷さんの活躍が楽しみです!最後に読者に向けてメッセージをいただけますか。

頑張れない時期もあるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう!

僕も常に頑張れるわけではないし、頑張れないときもあります。仕事の準備しないといけないのにずっとYouTubeを見てしまって、直前まで準備しちゃう日もあるんですよ。

その反面、自分のイベントが控えているときは頑張っています。曲の練習をしたり、披露するお笑いのネタを考えたり、イベントの内容をプロデュースしたり…。頑張っているいろんな僕に会いに来てくれると嬉しいです。

※2 用語:デスクトップミュージックの略。パソコンを使用して楽曲を制作するという音楽制作手法。

 

戸谷菊之介(とや・きくのすけ)
1998年11月30日、東京都生まれ。2017年ソニー・ミュージックアーティスツ主催の声優オーディション「第6回アニストテレス」で特別賞を受賞。2022年、TVアニメ『チェンソーマン』の主人公・デンジ役で初主演を果たし、2024年には「第18回声優アワード」新人声優賞受賞。声優としてアニメやゲーム作品への出演、ナレーションを中心に活動しながら、コンテンツ内のライブパフォーマンスや個人での作詞作曲など、音楽面でも表現の幅を広げている。
Instagram:https://www.instagram.com/kikunosuke_toya/
X:https://x.com/Kikunosuke_Toya

 

取材・文:安井一輝
編集:大沼芙実子
写真:服部芽生

 

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