よりよい未来の話をしよう

「政治、理解するにはどうすれば?」セイジドウラクの二人に聞いてみた。|セイジドウラク インタビュー(前編)

「政治、理解するの難しすぎない…?」

日々のニュースや選挙のたびにそう感じる若者は少なくないはずだ。理解しようと思っても、何から勉強すればいいのか分からないし、そもそも政治とどう関わっていけばいいのかも分からない。

そこで今回は、“趣味について語るように政治を語る”Podcast番組『セイジドウラク』のパーソナリティ、澤田大樹さん・宮原ジェフリーさんに「政治を楽しく理解するために何が必要か」を中心に話を伺い、前後編の2回に分けてお届けする。

前編は、インターネット黎明期の政治ウォッチ、インターネットで情報を摂取することの功罪、「政治家の良い仕事はなぜ報道されにくいのか?」など、政治に関する素朴な疑問を中心に伺った。

政治を「面白おかしく見てもいいコンテンツ」として最初に受け取った

まず初めに、お二人が政治に興味を持つようになったキッカケを教えて欲しいです。

宮原:僕の場合は親が政治好きで、子どもの頃から、選挙の開票速報を楽しく見るような家庭だったんです。後から聞いた話ですが、おじいちゃんも選挙のたびに興奮するような人だったらしくて。

おじいちゃんが亡くなったときに、部屋の掃除をしてたら結構大事そうなA4の封筒が置いてあって。中身を見ると、県議会議員選挙の候補者一覧だったんです。

澤田:やってることが一緒だね(笑)。

血は争えないですね(笑)。澤田さんは?

澤田:うちも割と食卓で政治の話が出る家でしたね。両親もそうだし祖父母とも政治の話をしてました。選挙だけでなく、いまの政治状況についても会話してました。

親が話してるのをみると、子どもとしてはその話についていきたいじゃないですか。そのためには、自分でも勉強しないといけなかったので、ニュースや新聞を見るようになったんです。最初は背伸びしたいから見始めたというのもありましたけど、それが苦痛ではなかったんですよね。

そこから、学校の社会科が得意になったんです。で、得意になったらもっと知りたいと思って次々知ろうとする。それが好循環になってどんどん知識が増えていったんです。

宮原:あと、当時はテレビメディアで、政治にまつわる面白コンテンツを色々と取り扱っていました。テレビ朝日の『TVタックル』や『ニュースステーション』とか。それこそ議員が変装して時代劇をやったりみたいな。

澤田:あったあった。

宮原:僕はそれに影響された部分もありましたね。

澤田:『TVタックル』は当時、月曜の夜に放送されていたので、その前週の国会の振り返りもやってたんですよ。そこで1週間の国会の様子がまとめて見れたんです。

ただ僕は『TVタックル』を見せてもらえない家だったので、日曜日に日テレでやっていたワイドショーを見てました。「永田町劇場」みたいな感じで、政治を扱う定期的なコーナーがあって、そのなかで、議員にキャッチフレーズをつけながら面白おかしく質疑や会見のやり取りをまとめてくれてたんです。それを楽しみに毎週その番組を見ていました。国会の会期中以外はそのコーナー自体が無くなるので、「国会は無い時期があるんだ!」ということをその番組で知りました。

私たちは政治を「面白おかしく見てもいいコンテンツ」として最初に受け取ってるから、政治を身近に感じているんですよね。

2ちゃんねると、政治

年齢を重ねるにつれて、情報を得る手段は変わりましたか?

澤田:ネットになりましたね。というのも、僕らの青春時代の始まりぐらいと、ネットが使えるようになる時期がちょうど重なるんですよ。なので、そこからは自分で調べて情報を得られるようになりました。

宮原:2ちゃんねるとかも使ってたね。

当時のインターネットは、いまのように“嘘八百”だらけという感じではなかったのでしょうか?

宮原:嘘はありましたよ(笑)。ただ、いまのように“誰しもが使っている”というツールでは無かったんです。むしろ、どちらかと言えばマニアックなツールだったかも。

当時、インターネットではどのような情報にアクセスできたのでしょうか。

宮原:僕は他の記者さんよりも、独立系候補やいわゆる“泡沫候補”と呼ばれる大きなメディアでは扱われない候補者に詳しいんです。

そのキッカケが、『週刊プレイボーイ』の特集で、大川興業の大川豊総裁と、ライターの畠山理仁さんがインディーズ候補を取材する連載だったんです。それを見て、選挙って面白いなと思ってたんですけど、それまではそういう情報をなかなか見る機会が無くて。ただインターネットの登場で、そういう情報に少しずつアクセスできるようになったんです。

澤田:当時、その手の候補者の人たちは、ご当地キャラだったんですよね。

宮原:あー、そうかもしれない。

澤田:「何度も選挙に出てくる人」という感じで。インターネットがこれほどに普及するまでは、基本的にメディアはマスメディアしかないから、そこで報じられないと、地方の候補者を全国の人が知るってことはまずなかったんです。たとえば、ネットから有名になった人だと、又吉イエスという沖縄出身の候補者がいてですね。

宮原:自分を「イエスの生まれ変わりだ」とか言ってたんですよ。

澤田:総理大臣に対して、すごく細かい字で物申したポスターで話題にあがったんですけど、彼のことは沖縄に住んでなかったら、知る由もない人だったんです。

それを誰かが「こんなヤバいポスター見つけたよ」って投稿したことが発端になり、ネタやアスキーアートになったりして。つまり、ネットがキッカケで地方の話も日本中に広がるようになっていったんです。

宮原:政治がカルチャーっぽくなっていったのも、そのあたりからかもしれないですね。

同じ“政治好き”でも、見る観点が違う?

お二人が政治に関心を持ち初めてから、最初に興味を持った特定の分野はありますか?

宮原:特定の分野というよりは、僕は「選挙」っていう事象自体が面白かったんですよね。

よく例えるのが、鉄道マニアなんですけど、鉄道マニアってやっぱり鉄道が好きなわけじゃないですか。かれらも鉄道に触れていくと徐々に、都市開発のことが見えてきたり、メカニカルなことが分かってきたりすると思うんです。鉄道マニアが「電車が好き」みたいな感じと一緒で、僕は「選挙が好き」っていうのがスタートで、そこから徐々に政治課題とかも結び付いていった感じでした。

澤田:僕は新聞を読んでたので、政策から入ったんじゃないかな?そこから政治家が気になり始めたんですよ。「この人、いつも失言して怒られてるな」みたいなところが始まりでした。

先ほども話に挙げたワイドショーの政治コーナーでは、国会質疑が取り上げられることもあったんです。それを見ていると、この人の質疑を見てると楽しいな、逆にいつも怒ってる人だなとか、痛いところを突くのが上手い人だな、ということが、なんとなくわかるようになってくるんです。

それもあってか、人の名前を覚えるのは苦手なんですけど、国会議員だけは覚えられる。〇〇大学出身、どこの政党に所属していて、何系の政策に強くてみたいな、その人の経歴を覚えちゃうんですよ。もう、スカウター状態で。

見れば分かるんですね。

澤田:だから、同じ“政治好き”でも、実は僕たちは見る観点が結構違うんですよね。

宮原:基本僕は「選挙に出るまで」で、澤田さんは「選挙で受かってからの仕事」という観点で政治を見ているんです。

澤田:鉄道マニアも、撮り鉄・音鉄という風に分かれていくじゃないですか。それと同じ感じで考えると分かりやすいでしょうか。

政治家の「〇〇系の政策が強み」とか、「〇〇に着手してきた人」って、どうやって覚えればいいんでしょうか…?テレビや新聞だけでは、なかなか頭に入らずでして。

澤田:うーん、興味のない人が覚えるのは難しいかもしれないですね。僕は仕事としても当然ありますが、覚えることが好きになってる部分もあるので。子どもが昆虫の種類や原産地、大きさなどを詳細に覚えているのと同じです。

だから、これを一般化するのは結構難しいと思うんですよ。鉄道が好きじゃない人に、「鉄道マニアになれ!」って言っても難しいじゃないですか。それと同じで、ハマる人はハマる感じなのかなと。だからこそ僕は「推しを見つけろ」とよく言うんですけどね。やっぱり、興味がないと自分の引っ掛かりを作れないと思うので。

宮原:それでいうと、僕は議員に関する話を覚えやすくなるようなものを作りたいんですよね。プロ野球でいうところの「選手名鑑」みたいな。実はそれに近しいものが毎年出てるんですけど、その道のプロ向けなので、全く面白くなくて。

たしかに、議員に関して分かりやすくまとまった書籍があると、一般の人でも興味を持ちやすいかもしれません。

宮原:なかには自分の経歴やこれまで取り組んできた政策を積極的に発信してる人もいます。ただ、国会議員1人ずつのウェブサイトを見るのは大変だし、そもそもウェブサイトを持っていないような人もいるんです。メディアの責任として、取っ掛かりやすい読み物を作っていくというのは、大事なことの1つじゃないかなと思うんです。

ネットで政治の情報を見ちゃダメですか?

どのようにして「政治の情報」に触れればいいのか、オススメの方法があれば教えてください。

宮原:いくつかありますが、『荻上チキ・Session』は大事ですかね。ちょっとこの場所(本取材はTBSラジオ・会議室にて実施)で言うのも手前味噌ぽくなっちゃいますけど(笑)。あとは新聞。僕は『沖縄タイムス』と『琉球新報』をとっています。雑誌だと、『ニューズウィーク日本版』ですかね。そこで海外のニュースをタイムリーに見てます。

Podcastだと、『News Connect』。毎朝5分間で、海外のニュースをメインに解説してくれるので、時間が取れない人にもオススメです。

澤田:あえてネガティブなことから言うと、僕はポータルサイトをあまり信用してないんですよ。というのも、報道機関が出している記事と、ざっくり作られた記事がごちゃ混ぜになっていて、結局、自分で“ジャンクボックス”から当たりを探すようなことをしなきゃいけない。だから、あんまりオススメはしていません。

ネットで情報を取るなら、Xで報道機関の公式アカウントをフォローしてチェックするとかはありだと思います。あと記事を見る場合は、「誰が書いた記事なのか」を見ることがすごく大事かなと。

宮原:発信元はどこなのか、誰が書いた情報なのかをチェックするのは、メディアリテラシーの基本ですね。

澤田:ネット上の情報を読むときは線引きをしておくといいと思います。ファクトとして読むもの、読み物として読むもの、分析として読むもの、あと一般の声として読むものという感じで。例えば雑誌のウェブ版は、読み物として読むと、線を引いています。

宮原:政治家のなかでもそれができてない人がたまにいますけどね(笑)。「SNSでも〇〇という情報があった」と発言したけど、いやそれ誰が書いた記事なの?っていう。まあ、半分わざとやってると思うんですけどね。

澤田:間にいろんな人やメディアが挟まってしまった結果、元の情報が分からなくなってしまうということがあるんですよね。ただ、重ねてお伝えしますけど、ネットだけで情報を取ることがダメだと思ってるわけではない。

宮原:どんな内容の記事でも人が書いた時点で、バイアスがかかると思うんです。誰が、どういう立場で書いたものかっていうのを踏まえた上で、情報をインプットしていくことがいいんじゃないかなと思いますね。

あと、自分でお金を払ってニュースを見るようにしてもいいかもしれません。無料で見れる情報って、ある程度表層的なところで終わってしまうことが多いので。

澤田:1つの媒体でもいいと思います。たとえば僕は、新聞社のサブスクリプションサービスで、数千円を課金することで月50本の記事が閲覧できるプランを複数契約しています。読みたい記事が有料で出たときに読めるようにしてるんですけど、月50本ってなかなか読み切ることはないので、通常プランが高いと感じる人にはオススメです。

政治家の「良い仕事」はなぜ、報道されないの?

政治に関する報道でいうと、汚職や倫理観の欠如による言動はニュースになりますが、その逆の「良い仕事」は報道されづらいですよね。入ってくる情報の偏りを無くすことはできないのでしょうか…?

澤田:それは多分難しくて。というのも、新聞記事やニュース番組は、基本的には多くの人に伝える価値がある情報なのかという観点から作られていて、「良い仕事」はその観点で言うと、政治家が本来やるべき仕事であることが多いんですよ。だから、良い仕事をした場合は「良いことかもしれないけど、それは当然の仕事ですよね。それで給料もらってますよね」となる。逆に、汚職や適切ではない言動をした場合、「税金から給料を貰ってるのにふざけるな!」と記事になるワケです。

だから、「良いこと」を評価するためには、能動的に情報を取りにいかないといけないんですよね。それもあって、『荻上チキ・Session』で、「国会論戦珍プレー・好プレー!」という企画をするときは、1つか2つは、「良いこと」を入れるようにしているんです。国会議員からすると、良いことをしたって言ってもらえないことが多いらしくて、質疑を取り上げたことを報告すると、すごく喜んでもらえます(笑)。

政治家の人たちからしても、ありがたいんですね。

澤田:国会の質疑を追いたいときは、X上で「国会クラスタ」と呼ばれる人たちをチェックしてみるのもオススメです。ほとんど趣味のように国会中継をウォッチしている人たちで、有益な質疑をピックアップしてくれたりします。与党寄りの人もいれば、野党寄りの人、どちらもフラットに見ている人もいるので、自分の関心に合うアカウントをフォローしてみるといいかもしれません。

宮原:少し話は変わりますが、与党と野党の役割の違いは、それなりにあるんですよ。

澤田:野党は批判することが仕事だもんね。「野党は批判ばかりしやがって」という意見を見かけることもありますけど、それが野党の仕事。それこそ自民党が野党だった時は、めちゃくちゃ批判して、国会審議を邪魔してましたからね(笑)。

宮原:直近の具体的な話でいうと、都議会議員選挙での水道料金の値下げが分かりやすいかもしれません。与党がこのタイミングで実現した政策である一方で、共産党はずっと前から提言していたという話です。これに関してはどちらも真実なので、それらの情報を踏まえた上でどう判断するかは、有権者一人ひとりの話だということにつきるんですよ。

「政治を理解するための最初の一歩を間違えないためには?」という質問も事前にいただいていましたが、まずは基本的な仕組みを改めて理解することが必要かなと思います。公民の教科書に書いてある、議会制民主主義や二元代表制の話とかですね。学校の勉強って、意外と大事なんですよね。基本を抑えておけば、ショート動画や声高な情報に踊らされることもグッと減ると思うんです。

最近であれば、「二元代表制なんだから、議員の側には政策を実現できない」という発言が話題になりましたよね。前提知識がない状態だと、「そういうものか」と納得してしまうのかもしれませんが、惑わされないためにも、公民の教科書に書いてある原理原則を抑えておくことが大切だと思います。

▼後編はこちら

TBS Podcast『セイジドウラク』
【毎週月曜17時配信!】TBSラジオ記者の澤田大樹さんと、選挙ライターの宮原ジェフリーさんがお送りする「政治を道楽として楽しむ」番組。
X:@ssd_tbsradio

澤田大樹(さわだ・だいき)
TBSラジオ国会担当記者。『荻上チキ・Session』『武田砂鉄のプレ金ナイト』などに出演。取材範囲は政府、国会、省庁のほか、新型コロナ、東日本大震災、高校演劇など。
X:@nankuru_akabeko

宮原ジェフリー(みやはら・じぇふりー)
選挙ライター、キュレーター。大学教員、美術館学芸員、専門学校教師などを経て現在フリーランスで選挙と現代美術を中心にライター、コメンテーターとして活動。
X:@ichiro_jeffrey

 

取材・文:吉岡葵
編集:篠ゆりえ
写真:服部芽生

 

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