
街中で見かけることのあるヘルプマーク。東京都福祉局によると、ヘルプマークとは「義足や人工関節を使用している方、内部障害や難病の方、または妊娠初期の方など、外見からは分からなくても援助や配慮を必要としている方々が、周囲の方に配慮を必要としていることを知らせることで、援助を得やすくなるよう、作成したマーク」(※1)と記載されており、2012年に東京都が作成・配布してから、現在は全都道府県で導入されている。
近年、ヘルプマークを見かけることが多くなった一方で、ヘルプマークを所持している人にどう対応していいのか分からない瞬間も多々ある。そこで、ヘルプマークを所持し、SNS等でも普及活動を行う佐藤弘道さんへ、ヘルプマークの実態について伺った。

※1 引用:東京都福祉局『ヘルプマーク』(2025年7月15日閲覧)
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/shougai/shougai_shisaku/helpmark
公的支援の対象外の僕にも障害があることを示すためのヘルプマーク
ヘルプマークを取得された経緯を教えてください。
2024年6月に脊髄梗塞(※2)という病気を発症し、下半身麻痺になりました。現在も、歩くときは身体のバランスを意識していますし、走ることはできなかったりします。なので、もし震災や事故等が起こった際に走って逃げたりすることができないんです。
ただ、僕の症状は生命保険や障害者手帳の対象基準を満たさず証明書をもらうことができなかったり、歩くこと自体はできたりするので、自分自身の症状を他人に示すことが難しくて。そのため、自分の身に何かがあっても、誰も助けてくれないんじゃないかと不安がありました。そのことについて家族と話しているなかで、ヘルプマークがあったことを家族が思い出してくれたんです。取得基準を設けていないヘルプマークだったら取得できると思い、役所へ申請しに行きました。
佐藤さんのように障害者手帳をもらうほど、症状が重度ではない方にとって、ヘルプマークは対外的に自身の症状を示す存在として重要なんですね。
そうですね。ヘルプマークは、身体的な症状がある方だけでなく、妊娠初期の方、内臓疾患やパニック障害を持つ方などもいらっしゃいます。見た目は健常者と変わらないですが、ヘルプマークを持っている方は、何かしらの症状を持っていたり、日常生活で不自由な瞬間があったりする方になるので、何かあった際は手助けしてほしいなと思います。
僕の場合、ヘルプマークをつけていますが、必ず電車で席を譲ってほしいわけじゃなくて、何かあったときに「助けてください」と言うので、そのときにそっと手を差し伸べてもらいたいと思っています。もちろん、電車で必ず席を譲ってほしい人もいるように、その人によってどんな助けが必要なのかは変わってくると思うので、ヘルプマークを持っている人を見かけたら、まずは「大丈夫かな?」と気にすることから始めてほしいなと思っています。
また、ご家族の方からヘルプマークの存在を教えてもらい、取得されたのですね。
僕が病気になる前に家族が駅でヘルプマークのポスターを見かけて、「これは何だろう」と思って調べていたようです。取得する前は、日常生活でヘルプマークを見かけたことはあっても、「あのマークは何だろうな」というぐらいの認識だったので、教えてくれた家族に感謝しています。

取得するまではどういう手続きが必要でしたか。
取得するのはすごく簡単でした。予約もせず、役所に行って、「ヘルプマークが欲しいんですけど」って言ったら、窓口に案内されて、渡された紙に名前や住所を書いたら、その場でもらえました。
そんなに簡単に取得できるんですね。
そうなんです。診断書も必要なくて驚きました。逆に、「こんなに簡単に取得できて大丈夫?」と思うほどでしたね。診断書などの証明もなく、その場で簡単に手に入ることはとても良いことですが、僕みたいに本当に困っている方が使うべきものだと思うので、興味本位で取りに行ったりすることはやめてほしいなと思います。

※2 用語:「脊髄梗塞」とは、脊髄にある血管が詰まることで壊死する病気。麻痺や感覚障害などを引き起こす
何かあったときは、まずヘルプマークをチェックして
これまでにヘルプマークをつけて良かったと感じることはありましたか。
僕は下半身麻痺で排泄障害を持っているので、尿や便がいつ出て止まっているのかを目視しないと分からず、トイレは座らないとできないんです。男性用トイレだと個室の方は混んでいることもあるので、多目的トイレを使うこともあって、その際にヘルプマークを持っていると入りやすくなりました。
一方で、ヘルプマークをつけていることで困ったことはありましたか。
とくに困ったことはないですけど、僕がヘルプマークをつけて電車に乗っていても、誰にも席を譲っていただいたことはないです(笑)。そもそも電車の中で、目線が合うことがなく、ヘルプマークにも気づいていないと思います。優先席の前に立っても、ちらっと目を向けてくれるだけで、とくに席を譲っていただくわけでもなくて。
僕の場合は、全然問題ないんですが、僕よりも重症な方がいらっしゃるので、まずはその方のことを観察して、大変そうな方には「席を譲りますよ」や「大丈夫ですか?」などと声をかけてほしいなと思いますね。声をかけることで、「何かあった際はこの人を頼ろう」と思ってもらえることが大事なので。

佐藤さん自身もヘルプマークをつけられたことで、同じくヘルプマークをつけている方に対して意識の変化はありましたか。
ヘルプマークをつけている方を見ると、その方のどこが悪いのだろうかと観察するようになりました。歩き方を見て足が不自由なのかなとか、見かけではとくに気になるところがないと内臓や精神的な障害を持っているのかなと考えています。その方がどんな不自由さを抱えているかを想像することで、何かあった際にすぐ対応できるようになると思っているので。
想像することで、その方に何かあったときにより丁寧に対応しやすくなりそうですね。
ただ、ヘルプマークをつけている方の中には、裏に名前や住所、自分自身の症状や対応方法について書いた紙を貼ってる方もいらっしゃるので、倒れていたりしたら、まずはヘルプマークをチェックしてほしいと思います。たとえば、「てんかん(※3)なので、 発作が起こったら、けいれんが収まるまで見守っていてください」のように具体的な対処方法を記載されている方もいます。中には、連絡先を書いている方もいらっしゃいますし、記載内容はその方次第です。
なので、観察したり、想像してみることも良いですが、間違っていることもあるので、助ける際などは、まずヘルプマークをチェックしてみてください。
※3 用語:「てんかん」とは、脳の神経細胞の活動が突然乱れて、発作が繰り返し起こる病気
「ひろみちお兄さんもヘルプマークを持っているんだよ」と言えるように
ヘルプマークを取得するまでに不安だったことはありましたか。
どうやってヘルプマークを取得できるんだろうかというのは不安でした。ただ、実際は簡単に取得することができたので、ヘルプマークの取得は全然ハードルが高くないということを伝えたいですね。
また、僕ではないですが、ヘルプマークを持っていることで、いじめに遭ってしまった子どももいるんですよ。精神的な病気があったのでヘルプマークをつけて学校に行ったら、周りに持っている子どもが少ないので、「これはなんだ」と言われたみたいで。
その話を聞いたときに、「ひろみちお兄さんもヘルプマークを持っているんだよ」 と言うことができるようになれば、いじめも減るのかなと思いました。それで、ヘルプマークの発信を始めました。
「ひろみちお兄さんも持っているんだ」となれば、ヘルプマークの認識の仕方も変わりそうですね。
そうですね。それに、「ヘルプマークを持っている人には優しい気持ちになってね」と呼びかけていて、このヘルプマークをきっかけに、優しい世界になるんじゃないかなとも思っています。
実際に、僕がヘルプマークをつけたことで、2人の息子もヘルプマークをつけている人を見かけると、「大丈夫かな」と周囲を気にかけるようになりました。身近な人にヘルプマークをつけている人がいることで、周囲に配慮できる優しい人が増えることにもつながると思います。

佐藤さんのヘルプマークの発信には多くの方からコメントがありましたが、発信してみて反響等はいかがですか。
多くの反応をいただいて、ヘルプマークを持っている方はこんなにいるのかと驚きました。ただ、認知度は低いとも感じています。東京だと、持っている方を見かけることは多いですが、とくに地方は少ないように感じます。なので、ヘルプマークの存在を全国に広めたいなと思っていますね。
ヘルプマークの認知を広げていくためにはどうすればいいと思いますか。
小学校や中学校などの教育の場でもヘルプマークのことを知る機会を積極的に作ってほしいと思います。ヘルプマークの存在を通して、障害を持っている方を知ったり、考えたりする機会になるし、社会で困っている人がいたときに助けようという優しい思いを持つ子どもが増えると思うので。
最後に、ヘルプマークを取得しようかと悩んでいる方がいたら、どんな言葉をかけますか。
申請も簡単なので、悩んでいるならまずは取得しに行って、つけてみてほしいなと思います。つけてみても、意外と注目を浴びるわけでもなくて、世の中って思っているよりも冷たいので(笑)。ただ、ヘルプマークを通して、そういう社会を一緒に変えていければいいなと思っています。
それに、やっぱり見かけだけでは気づかれないこともあって、下半身麻痺で不自由なことも多いんですが、「治ったんだね」と声を掛けられることがあります。なので、自分が何かしらの症状を抱えていることに気づいてもらうためにも、ヘルプマークをつけてみるのが良いかなと思います。
自分の状態を発信するためにもヘルプマークを持つことは重要ですね。
僕の場合、手すりを使わずに階段を降りる際は危ないので、ゆっくりじゃないと降りられないんです。ただ、周りの人から見ると、「なんで降りるの遅いんだろう」とイライラされる方もいらっしゃると思います。ただ、このヘルプマークをつけていれば、「何かの症状を抱えているから、降りるのに時間がかかっているのかもしれない」と理解することができると思うんです。
そうやって理由が分かれば、イライラすることも無くなるだろうし、中には助けてくれる人もいるんじゃないかなと思います。なので、取得しようか迷っている人は、ぜひ取得してみてください。

佐藤弘道(さとう・ひろみち)
1968年生まれ、東京都出身。日本体育大学卒業。1993年4月よりNHK Eテレ「おかあさんといっしょ」の第10代体操のお兄さんを12年間務める。2015年に弘前大学大学院医学研究科博士課程を修了し、医学博士を取得。大垣女子短期大学客員教授や名城大学薬学部特任教授も務める。2024年6月に脊髄梗塞で入院し、下半身麻痺となる。
取材・文:前田昌輝
編集:安井一輝
写真:新家菜々子
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