
個人の生き方、パートナーとの関わり方、そして家族の在り方において、段々と選択肢が広がってきている現代。一方で、多くの人が切実に制度のアップデートを求めていても、なかなか変化は見られない。また恋愛や結婚、子を持ち育てること、あるいはジェンダーにまつわる「こうすべき」といった世間の風潮に対しても、違和感を抱く人は少なくないだろう。
そんななかで、自分と、誰かと、どう生きていくか。どんなパートナーシップや家族を築くか。それぞれがより自分に合った生き方を目指せる社会のために、さまざまな声を取り上げる連載。
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今回話を聞いたのは、モデルのHIBARIさん。パートナーのレインさんと昨年婚約し、現在ふうふとして一緒に暮らしている。2人の関係性において、大切にしていることを中心に伺った。
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「レインと付き合って、人生が変わりました」
友人の紹介で出会ったというHIBARIさんと、パートナーのレインさん。初対面では、不思議な感覚を抱いたという。
「言葉で説明するのが難しいんですけど…この人のこと、すごく好きになりそう!この人はきっと、おいらにとってすごく大きな存在になるんだろうな、と直感しました。たまたまその数日前、友人に『HIBARIってどういう人が好きなの?』と聞かれたときに答えた人物像と、レインがぴったり重なっていたことにもびっくりしました」

それからすぐ、ごく自然な流れで交際が始まり、一緒にいる時間が増えていったという2人。
「レインと付き合って、人生が変わりました。でもとくにはじめの頃は、好きで好きでしょうがなくて、自分でも見たくない自分の弱さを知り、レインにも迷惑をかけたと思っています。嬉しい気持ちも悲しい気持ちも全部、全身全霊で伝えていたので、常に100%で忙しかったですね(笑)。レインにとってハッピーなときもあったと思うけど、おいらに対して『落ち着いて』と言いたくなることも多かったはず。
それから時間をかけて、だんだんと思いやりが一番だって学び直しました。レインの心地よさを優先するために、全部を伝えたいという自分の思いをコントロールできるようになっていったというか。
もちろん全力で愛すけど、レインのことをよく見て、『いまはちょっと忙しそうだな』とか『疲れてるかも』と感じたら、『伝えるのは後にしよう』と思えるようになりました。いいことをシェアしたいという気持ちだったとしても、相手がそういう気分じゃないタイミングだったら負担になってしまうだろうから。
恋っていろいろなことを見失わせる側面があるので、目の前の相手を大切にするために、分かっていたつもりでもできていなかったことを見直しました」
たしかに自分を知り相手を知ることは、心地よい関係性を築くために重要だと感じる。そのために2人はどんなことを心がけたのだろう。
「おいらとレインはとにかくよく話します。いままでどんなことに傷ついてきたか、どんなことが嬉しいか、どんな常識を持っているか。そうするとお互いにあらためて自分を知ることができますし、ベースを共有していれば日常的なことで意見が分かれそうになっても立ち返ることができます。
本当に話すことがいっぱいあって、毎日一緒にいても話が尽きないんです。なにか予定がある日も、出かける前に、もっとレインと話したかったな、と名残惜しい気持ちになることも多いですね(笑)。2人で喫茶店や居酒屋、バーなどに行っても、ずっと話しています」

下の世代に選択肢の1つを見せられたら
そんな2人は、2023年に結婚情報誌の広告にカップルで出演。渋谷駅前に大きく掲出されたこと、広告モデルに同性カップルが起用されたのが媒体史上初めてだったことなどから、話題を呼んだ。
「おいらの友達はみんなメディアに出ることに慣れていたり、LGBTQ+の人がいるのが当たり前だったりするので、『あの写真いいね!』と温かく見守ってくれました。SNSで見てくださる方も、『勇気をもらいました』とか、『ありのままの自分でいいんだと感じました』とか、思いを込めたDMをくれて嬉しかったですね。
日本でもLGBTQ+のことやレズビアンカップルの存在は知られてきているけれど、おいらたちは結婚してますって言ってるから、『どういうこと?』って疑問を持つ人もいると思います。いまは同性婚はできないですが、事実婚しているカップルや、地域によってはパートナーシップ宣誓制度を利用しているカップルもいます。『そっか、そういう人たちもいるんだ』って思ってもらえたらいいのかな。
おいらは、セクシュアリティにかかわらず子どもの頃から結婚というものを意識したことがなかったんですけど、レインに出会って、レインのことが好きで、レインと結婚したくて、家族になりたくて、自然といまの状態になった。
自分が子どもの頃には想像ができなかったことが現実になっているので、たとえば下の世代の女の子が『私は女の子が好きだから家族をつくれないのかな』と思っていたとしたら、『そんなことないよ、家族ができたよ』って選択肢の1つを見せられたらいいなと思います」

パートナーシップ宣誓制度について聞きに行った役所で
一刻も早く同性婚が法制化され、すべての人が平等に結婚を選択できる社会が実現されてほしい。HIBARIさんは日本の法制度に対してこう話す。
「女性と男性が結婚できるんだったら、女性同士、男性同士も、トランスジェンダーの方も、自分のジェンダーで好きな人と、法的に結婚して家族になれたらいいなと思います。
レインと出会った後、何度か引っ越しをした際に、区役所にパートナーシップ宣誓制度について聞きに行ったことがありました。1つの区役所では、『ちょっと待ってください』と言われたまま時間が流れて、後ろで何人かの職員さんが集まって話した後、『ご説明が難しいんですけど、この資料は一応お渡しします』と言われて。制度がある区でも、実際には浸透してないんだと感じましたね。もう1つの区では、『いまここではお話しするのが難しいので、この番号に電話してください』と案内されました。
でも、提出はできないけれど2人の結婚の証として届けをもらいたくてカウンターに行ったら、婚姻届をすぐにもらえたんですよね。もし私たちが男女だとしたらこんなに一瞬で結婚できるんだと知って、いいなあと思いました。
レズビアンカップルやゲイカップルの存在が知られてきて、『パートナーシップ宣誓制度があるから、もう結婚だってできるんだよね』と言われることもありますが、現実はまだまだアップデートしてほしいところがあります」
パートナーシップ宣誓制度も完全ではなく、さらに制度のある市区町村でも対応が不十分な現状を聞くと、課題がたくさんありそうだ。

深い関係だからこそ、日常は軽やかに
これからの2人についても伺った。
「これまで2人でいろいろなことを乗り越えてきた結果、いまはしっかり関係性が深まっているので、日常的には軽やかに、考えすぎずにいたいですね。もちろん、これまで分かりあう努力をしてきたからこそですし、その努力はこれからも続けていきます。そこが適当だと、お互いのことをよく知らない軽い関係性になってしまうから」
レインさんも「HIBARIにはよく『そんなに深い意味じゃない』って伝えるんです」と話す。
「おいらはなんでも、それってどういう意味?って追及したくなったり、自分が言ったことに対してそういう意味じゃなくて…って説明したくなったりするんですけど、レインにそう言ってもらえるとたしかにそうだと思えます」とHIBARIさん。
「いまでもちょっと誤解が生まれそう、喧嘩になりそうっていうときもあります。でも、愛してるし、愛してくれているって知ってるから、些細なことは流せるようになってきました。実は、それもレインから学んだこと。レインはよく『バトルは選びな』と言ってくれるんです。それは、本当に闘わないといけない問題以外は受け流したほうがいい、という意味の言葉です」
その言葉は、レインさんが学校で教師として働いていたとき、子どもたちにもよく伝えていた言葉だそう。レインさんはこう続ける。
「全部闘ったら、自分も疲れちゃうから。本当に闘うべきことにエネルギーを使ったほうがいいよね、という考え方です」

ふうふとして一緒に暮らすうえで意識すること、お互いに学ぶこと
最後に、HIBARIさん自身の、あるいはHIBARIさんとレインさんの関係性において、理想のあり方を続けていくために意識していることを聞いた。
「お互いに愛し合っているのに、おいらはレインが…レインはHIBARIが…って考えすぎて、悩んだ時期もありました。その経験から2人で決めたのは、お互いに、まずは自分のことを一番大切にしようということ」
自分を大切にするために、HIBARIさんはどうしているのだろうか。
「おいらは、自分の気分が上がることをします。やっぱり自分がご機嫌だと家のなかも明るくなる。もちろんいつもそうじゃなくていいけど、できる限り自分の機嫌をよしよしってしてあげるのも大事だと思うんです。
一緒に暮らしていると、自分が悲しんだり怒ったりしていることが相手と関係なくても、そのエネルギーが伝わって、いずれ絶対に相手を疲れさせるじゃないですか。だから、できる限り自分がご機嫌でいることで、家のなかも気持ちいいなと思います。
でももちろん落ち込んでしまうときもあるから、そういうときは無理せず、『いまレインに関係ないことで落ち込んでるんだ』って伝えるようにしています」

レインさんが自分自身を大切にする方法は、HIBARIさんとはまた違うそう。けれど、「自分を愛する方法として、アップになる音楽を聴いたり、外で人と会ったりするのはHIBARIから学びました」とレインさん。
「逆に、おいらはレインの影響で調べるのが好きになりました。自分の状態について、心理学や脳科学を調べると落ち着くことがあるんです。
それは、レズビアンって言葉を知ったときと似たような感じです。もともとは、みんながガールズトークやイケメンの話をしているときに、頭では理解できても心が共感しない感覚があったんです。でも、レズビアンっていう言葉を知って、言葉があるっていうことはおいら以外にも同じような人がいるってことだ、と思って安心しました。そんなふうに、自分の状態をリサーチして落ち着くのはレインから習ったことです。
レインは、2人でいるときに『いまここにいてくれてありがとう。だって知ってる?地球って大きくて、ずっと動いてるんだよ。いまここにこうやって一緒にいるのは本当にミラクルなんだよ』と言ってくれます。おいらも、本当にそうだよね、こちらこそありがとうって思います。お互いに、この当たり前は当たり前じゃないって自覚しながら、大切に生きていきたいです」

HIBARI
1995年、島根県生まれ。お笑い芸人としての活動を経て、モデル事務所PUMP managementに所属。現在はリアルサイズモデルとして、雑誌やファッションショーなどの場で活躍している。
Instagram:@hiparis_oira
取材・文:日比楽那
編集:大沼芙実子
写真:服部芽生
▼連載「心地よいはみんな違う。私たちのパートナーシップ」はこちらから
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