
芸人・川西賢志郎さんの「いま知りたい!」に迫る、連載「川西賢志郎が知りたい!」。お笑いの世界で長く活躍してきた川西さんが、改めて“お笑い以外の世界”や見たことのなかった世界を覗いたとき、そこにはどんな気づきや発見があるのだろうか?あしたメディアでは、そんな川西さんの探検にご一緒させていただくことに。川西さんと、各回のテーマに造詣の深い方との対談形式でお届けする。
連載3回目の今回、川西さんが知りたいと話したのは、昨今、SNSを中心に溢れ、現実にも大きな影響を及ぼす場面も増えたフェイクニュースのこと。そんなフェイクニュースについて川西さんは、どうしてこれほどまでに信じられてしまうのか。そして、川西さん自身もどうすれば正しい情報を受け取ることができるのかについて知りたいと思い、関心を持ったそう。
今回は、東京科学大学教授で『フェイクニュースを科学する:拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』(化学同人、2021年)と『ディープフェイクの衝撃 AI技術がもたらす破壊と創造』(PHP研究所、2023年)の著者、笹原和俊さんへインタビューを実施。前後編の2回に分けてお届けする。後編では、フェイク情報の判断方法や、なぜ人は“見たいものしか見ない”のかについて深掘りする。

今回の対談相手
笹原和俊:1976年福島県生まれ。2005年に東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。現在は東京科学大学環境・社会理工学院の教授。専門は計算社会科学で、著書に『フェイクニュースを科学する:拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』、『ディープフェイクの衝撃 AI技術がもたらす破壊と創造』がある。
▼前編はこちら
ファクトチェックの専門組織はフェイクかをどのように判断しているのか
川西:前編では事実を人にどう伝えるべきかについて話をしてきましたが、目の前の情報が事実かどうかを判定する、ファクトチェックを行う機関が世界に、そして日本にもあるんですよね。
笹原:日本には、“日本ファクトチェックセンター”という組織があって、ほぼ毎日ファクトチェックを行い、その結果をメール登録している人に送ったり、ホームページに公開したりしています。
川西:そもそも、フェイクかどうかというのはどのように判断しているんですか?
笹原:まず、情報には、正しいか正しくないかをきちんと分類できるタイプと、それができないタイプがあります。多くのファクトチェック団体は、基本的に公開情報で裏が取れるものに限りファクトチェックをしていて、それ以外は分からないとしています。
やはり基本的には公開情報しか確認できないので、公開情報の範囲内で疑わしいものに対してのみファクトチェックを実施しているということです。たとえば、ある閉ざされた場でAさんが発言し、それを聞いていたのがBさんだけだったとします。Bさんの提供した情報がどれだけ疑わしく見えても、ファクトチェック団体はそれ以上確かめようがありません。この場合、“Aが〇〇という発言をしたとBが言っている、という事実は確認できるが、発言そのものの真偽は不明である”という状態で留めます。
そのため、断定されている情報に対して、根拠となる情報を追加するというのがファクトチェックの作業です。どこまではちゃんと根拠があり、断定できるのかを明らかにしています。ファクトチェックを行うことで疑いようのない事実が分かるので、第三者が事実か確認できたり、事実をAIの学習データとして使うこともできます。なので、事実を積み上げるこの取り組みは重要な作業だと思います。

川西:ファクトチェックの団体って、どうやって運営されてるものなんですかね?
笹原:立場的に政府や企業から独立した立場で行う必要があるため、政府や企業系からの資金援助を受けないことが望ましいとされます。ただ、以前はGoogleやFacebook(現Meta)なども積極的に資金援助をしていた時期もありましたし、一部の国ではいまでも援助を継続しています。しかし、資金を受け取ると、その企業に都合のよいファクトチェックをしてるんじゃないかと疑われてしまって、結果として継続的な運営資金集めが難しいんです。じゃあ、Wikipediaみたいに募金ベースで運営していけるかというと、なかなか事実にお金を払うという意識が広がってなくて、それも難しい。ファクトはとても大事なものなのに、空気や水と同じように無料で手に入るものという認識があるから、あまりファクトチェックが認知されていません。ファクトチェックの団体が増えてきてはいるんですけど、ビジネスとしてなかなか継続が難しいんです。
川西:正義感で突き動かされないとなかなか継続できないんじゃないですか?
笹原:おっしゃる通りで、そんなに大儲けはできない一方で、ファクトチェックをするには人が必要なんですよね。そして、オンラインのデータを活用して、これが本当かどうかをきちんとチェックできるスキルを持った人を雇うためには、それなりにお金もかかるので、なかなか確保が難しいんです。
川西:資金繰りというのは、現実的な1個目のハードルだと思うんですけど、そこがクリアできたとして、そのファクトをみんながどれだけ見たいのか、知りたいのか、共有しなきゃってなるのかも気になるところです。
笹原:どれだけ頻繁にファクトチェックをしても、見る人が日本にはなかなかいないというのが現状だと思います。何か大きなフェイクニュースの拡散が起こったときに新聞が取り上げて、新聞がしたファクトチェックを確認するといったことはありますが、一般の人が普段からファクトチェック団体のサイトを見に行くという状態になっていないのが現状だと思います。
川西:特に命に関わることとかはみんな見にいくかもしれないけど、我々の仕事でも、芸能ニュースなどで「事実なのかそれ」というようなことが広まって、事実でなかったと後で分かっても、事実でなかったとは広めてもらえないことがたくさんあります。
笹原:ファクトチェックがちゃんと機能するのかということは、結局情報を扱う私たちに委ねられているということになると思います。

なぜ人は“見たいものしか見ない”のか
川西:笹原さんはもともと物理学をやられていて、そこから今はフェイクニュースの研究もやられているということですが、ずっとこのテーマを研究し続けているのは、どうしてですか?
笹原:研究を始める前からSNSが好きで、特にTwitterが好きだったんですけど、そのTwitterが今の環境のようになっていることに何かやるせない思いがあって。やはりSNSは本来出会うはずのなかった多様な人や情報が出会って、新しい価値を生み出すという面が素晴らしいものだと思ってます。
ただ、実際には自分がつながりたい人とつながって、見たいものしか見ない状況を生んでしまっていて。SNSには多様な情報があるにもかかわらず、結局は局所的なところばかりを見ている。本来のSNSの素晴らしさを広めていかなければならないのではないかという、SNSが好きないち研究者としてある種の焦りみたいなものがあって研究を続けています。

川西:今おっしゃった、“見たいものしか見ない”という状況はどうして生まれてしまうのでしょうか?
笹原:同じような価値観や属性の人とつながろうとする“ホモフィリー”という人間の傾向が影響しています。似ているところがあると、それをきっかけに人と人のつながりが生まれます。
川西:地元が一緒だと、「あそこの店行ったことあるの?」「それ食べたことある!」とかで話が盛り上がって、仲良くなることってありますよね。
笹原:そして、いま問題なのは、似たものだけで繋がり過ぎていることに加え、アルゴリズムが「この人どうですか?」「こういう情報どうですか?」っておすすめするようになっていることです。そういった元々持っている心の性質をアルゴリズムが増幅してしまっているが故に、なかなかこの連鎖を壊せないと感じています。
川西:どんどんSNSが自分にフィットしてくるということですよね。
笹原:そうです。たとえば陰謀論にはまるというのも、SNSがきっかけとなることがあります。暇つぶしに見ていたYouTubeの動画で、俄かには信じがたい驚愕の情報を見つけて、たまたま1回クリックすると、2回目以降はさらに驚愕の情報がお勧めされるようになります。その結果、本来なら出会わなかったような情報を見てしまい、1回クリックすると、もう抜け出せなくなる。そういうことが起こる確率が高まっています。これは、SNSが無かったら本来は起きなかったことですよね。
川西:やっぱり、刺激の強いものって、料理でもなんでも美味しいと感じちゃうと思うんですよ。「めちゃくちゃ味付けが濃いけどうまいなこれ」っていう。でも、その後に薄い繊細な出汁の味ってわかんなくなっちゃうじゃないですか。それと同じで、もう濃い味付けから抜け出せなくなっていって、中毒みたいになっていくから、情報も自分で意識してブレーキをかけるしかないのかなと思いますね。
笹原:そうですね。意識的に異質なものに触れようとしないと、見たいものだけ見る、繋がりたい人だけ繋がることになってしまって、エコーチェンバー(※1)に陥ってしまいます。過去に、ホモフィリーの傾向を利用して、共通点がある一方で、この点は異なるという人を、どうすれば技術を使って繋げられるかという研究をしていました。政治や食など、様々なものに対して各々の異なる考え方があると思うんですけど、どこかに共通点があれば友だちになれる可能性がある。そのような同質性と異質性を伴う交流の結果として、違いを受け入れることを楽しめるようになれば、分断を改善できるかもしれないと思っています。
川西:少し前にロンドンに行ってたんですけど、政治的な考え方の全く違う2人がお酒を飲みながら激論を交わしてたんです。ただその途中で絶対に、「いや、君のことが嫌いで言ってるんじゃないよ」とか「もちろんわかってるよ、これは君に敬意を払ってるからこそ喋ってるんだよ」って言って乾杯するんです。そこからまた喧嘩のような勢いで話すんですけど、また20分くらいすると乾杯する時間が訪れる。これを3時間くらいやってるのを見て、この2人の関係はなんて健全なんだと思ったし、違いがあるなかでも、お互いに議論はできるということを示してもらったような気がしました。
笹原:それは、とても成熟した姿ですよね。納得はできないけど理解をしようという姿勢があれば、たとえ違う部分があったとしても、うまく付き合っていけるのかもしれません。

川西:お話を聞いていると、異質なものを受け入れようという姿勢がそもそも笹原さんにあると思うんですけど、そう思っている理由というのはあるんですか?
笹原:異質な人といた方が自分一人では見ることのできなかったものが見れたという経験が多かったからかもしれません。大学で私の研究室に入っている一番上の学生はいま60代で、私とは全然違う知識や経験を持っています。そういう方と一緒に研究すると、自分にはないものが引き出される感覚があって。
異質な人と一緒にいることは時に大変なことがあるかもしれないけど、自分の成長のためには多様な人と一緒にいないと、いつまでも同じ場所に留まってしまうという感覚がありますね。
川西:人の成長って、違うものと触れ合ったときに起こるというのは僕も同感です。アルゴリズムの外側へ、自分から飛び出していくことも大事ですよね。
※1 用語:「エコーチェンバー」とは、SNSなどのコミュニケーション空間において、自分と似た意見や考えを持つ人々の間で情報や意見が繰り返し共有される現象のこと。エコーチェンバーの環境では、特定の主張が強化され、異なる意見が排除されていく結果、限られた視点が世の中全体でも正しいものだと信じ込まれてしまうという危険性がある。
▼「エコーチェンバー」について詳しく解説した記事はこちら
「本当かな?」という状態で一回立ち止まってみる
川西:話せば話すほど、一人ひとりがメディアリテラシーを持ってSNSを触らないといけないといった基本的なところに終始するように思えますね。
笹原:これだっていう決定的な解決策はなかなか無いですね。SNSのビジネスモデルの悪いところは直していかなきゃいけないし、我々ユーザー自身も当然気をつけるべきことは気をつけなきゃいけない。全部少しずつ良い方向に持っていく以外には無いのかなと思います。

川西:ディープフェイクやフェイクニュースがたくさん生まれたことで、僕は最近全ての情報を一度疑うスイッチになりました。誤った情報を発信してるものもあるし、それをおもしろがって拡散して意図的に扇動する人もいるじゃないですか。だから一旦、何でも疑った方が安全だと思うように。
笹原:全部を疑う必要はないかもしれませんが、何か怪しい情報に出会ったときに、意識的にその状態に持っていくことができると良いかもしれません。ただし、クリティカルシンキングを行いすぎると、科学的な根拠もないまま直感で疑ってしまう危険もあります。過度にクリティカルになることは、科学的とは言えないので、一回立ち止まることが大切です。
そして、これから目にするもののほとんどにAIが関連してくることは確実なので、ディープフェイクをはじめとして、何が本当で何が間違いというのがより一層分かりづらくなるし、判定もしづらくなります。なので、今後は一度立ち止まるという意識がさらに大事になると思いますね。
川西:立ち止まることができないと、確実な証拠がないまま、ただ否定的な態度を取ってしまうという状態に繋がることもありますよね。「本当かな?」という状態で一回立ち止まってみる。この態度は、この世の中で生きていくうえで忘れないようにしたい。この記事も、読者のみなさんには立ち止まりつつ、丁寧に読んでもらえるといいですね。

川西賢志郎(かわにし・けんしろう)
1984年1月29日生まれ、大阪府東大阪市出身。2006年から2024年3月までお笑いコンビ「和牛」として活動し、「M-1グランプリ」にて2016年から2018年の3年連続で準優勝を獲得。コンビ解散後は芸人活動を続け、ライブやテレビ番組、ドラマなどに出演。
取材・文:目黒智将
編集:前田昌輝
写真:服部芽生
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