
いまや誰もが当たり前に利用しているインターネット。だが、そんなインターネットの存在がもしかしたらその人の歴史や社会に、大きく関わっている可能性があるかもしれない…。この連載では、さまざまな方面で活躍する方のこれまでの歴史についてインタビューしながら「インターネット」との関わりについて紐解く。いま活躍するあの人は、いったいどんな軌跡を、インターネットとともに歩んできたのだろう?
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今回話を伺うのは、タレント、作家として活動するモモコグミカンパニーさん。2025年9月には、自費出版で詩集『氷の溶ける音』を刊行、自身がプロデュースした展示『言葉をひろう』を同年10月から11月にかけて開催した。
ガールズグループ・BiSHにいた頃にはSNSで積極的に自分の言葉を発信してきたが、今は少しだけ言葉とインターネットに対する向き合い方に変化があったという。
SNSから始まったBiSH時代
最初にインターネットに触れたのはいつですか?
小学校4年生くらいのときですね。パソコンでゲームをしていました。そのときのタイピング技術が、今の仕事にも活きていると思います(笑)。
当時、SNSはされていましたか?
高校は帰国子女が多い学校で皆がFacebookをやっていたので、その流れに乗ってやり始めました。でも当時はまだガラケーだったので、今のようにスマートフォンで手軽にアクセスするという感じではなくて。SNSも知り合い同士で繋がっているだけでした。
大学生でBiSHに入ってからは、Twitterをめちゃくちゃ頑張りましたね。とにかくフォロワーを獲得するのに必死、みたいな。
デビュー時にもフォロワー4444名達成で顔が解禁される、という流れがありましたよね。
そうなんです。幸い、BiSHのプロデューサーがこれまでにBiSというグループをしていて知名度もあったのでゼロからのスタートではなかったんですが。
当時のTwitterは今のXともちょっと雰囲気が違っていて、私はその頃のTwitterが大好きでした。面白い言葉が沢山あったり、Twitterから作家になる人がいたりとか、Twitterを頑張れば良いことがあるんじゃないかと思っていました。だから全然苦じゃなかったんですよ。

SNSを通じたファンからの反応は、どのように感じていましたか?
とくにコロナ禍に入ったときに、インターネットの大切さが身に沁みましたね。SNSなどで自分が発した言葉に誰かが反応してくれたことで、繋がりを感じることができました。現実世界に制限があるなかで、SNSを介すると一言声をかけやすいこともあったと思います。
私のファンの方は全国にいらっしゃるんですが、SNSのやりとりでは、すごく近く感じられます。逆に地方のイベントで会ったりすると、こんな遠いところにいたんだってびっくりするくらい。
一方で誹謗中傷みたいなものを受けたことはあるので、付き合い方のバランスは重要だと思いますね。それで落ち込むこともあったけど、メンバーと話して笑い話にしていました。どんなことでも嫌な思いをしたときは誰かにそのモヤモヤを話して消化するということが大切ですね。

言葉に助けられて生きてきた
BiSH時代には、メンバーのなかでも1番多く作詞を手掛けられていました。もともと、作詞に興味はあったのでしょうか。
自分がずっと言葉に助けられて生きてきたという実感があって、自分もそんな言葉を綴りたいと思いました。とくに影響を受けたのは、合唱曲からJ-POPまで様々な音楽の言葉でした。『春に』とか、谷川俊太郎さんの書く詩が好きで、それが自分のルーツのような気がします。私は読書家じゃなかったので、音楽のほうが言葉と触れ合いやすかったのかも。
当時はサブスクもないので、1曲ずつ買ったり、TSUTAYAに行って借りたりとか、ひと苦労でしたが、そういうのも含めて自分でプレイリストを作るのは楽しかったですよね。BiSHに入ってからは、ロックバンドの方ともご一緒する機会が増えて、より色んな歌を聞くようになりました。ロックバンドはすごく生きた言葉を歌っている人たちが多いなと思います。
昔から言葉を綴ることは好きだったんですか?
得意というか、まあ、書く方だったというか。昔から私は、嫌なことやモヤモヤすることがあるとノートに書き出すことが習慣でした。自分のために言葉をしたためるのが好きだったんです。逆に校内の作文とか、人に見せるための文章を書くのは苦手でしたね。自分に自信もないし、いい自分を見せようとしてしまう。
そんななか、作詞をすることは勇気が要りませんでしたか?
そうですね。BiSHの歌詞では自分の弱い部分を書いていたので、めちゃくちゃ恥ずかしかったです。でも、実際にライブでその歌やったら、目の前でお客さんが泣いてくれて。それまで生きづらさや弱い心は自分だけが感じてるんだって思ってたんですけど、自分の心を偽らずに出すことが他の人にとってもすごい価値があることなんだって気づいてからは、その恥ずかしさを取っ払って書いていました。
ファンの方に「歌詞に救われました」という言葉を頂くこともありますが、それは私自身が自分を救うための言葉でもあったんです。それが結果的に人の目に入って共感を呼ぶこともあるんだと知りました。

巡り巡って、知らない誰かに言葉が届けば
それからBiSHに所属されている間にエッセイの刊行を経て、小説も出版されましたよね。
小説を書くってすごいことだし自分はできないって決めつけていたんですけど、書いてみてからできないかどうか決めようと、最初の小説は、自分で出版社に原稿を送ったのが始まりです。とりあえず手を動かし始めた感じですね。編集者さんにアドバイスをもらいながら本にしていきました。
最新作として詩集を自費出版されました。その経緯を伺っても良いですか。
この本は、巡り巡って誰かに届けばいいなと思って作りました。小説はエンタメとしてたくさんの人に読んでほしいと思って書きましたが、今回の詩集はよりクローズドな形で出しています。
いまはモモコグミカンパニーを知っている人が本を買っているかもしれませんが、たとえばその人の子どもがたまたま本棚で手に取って読んでくれたら嬉しいなと。モモコグミカンパニーが書いた本、というよりも、特別ではないひとりの人間から出た言葉を残したいと思いました。
この本にはあえてモモコグミカンパニーという著者の名前は書いていないんです。出版社で出すなら出来ないことですよね。

自費出版ならではの苦労もあったのではないでしょうか。
そうですね。紙選びから流通方法まで全て自分でやったのでめちゃくちゃ大変でした。
でも、だからこそ本づくりを一から体験できたのでとても貴重な経験でした。ひとつひとつの作業に意味を込めてできたと思います。本って重苦しいものだと思っていて、その「重さ」を感じてみたかったんです。
いま、SNSでは分かりやすい言葉が目立って届きやすいですよね。そうやって手軽に共感できる言葉ばかりが拡散されることにも疑問を感じていました。自分の心をそっちには使いたくないという思いがあって。必要な人や巡り会った人だけが呼んでくれたらいいなと思っています。
SNSとの付き合い方にも変化があったんですか。
BiSHの頃は、SNSに自分の心の内をたくさん書いていました。もちろん当時はそれがグループにとっても自分にとっても良かったんですが、今は自分の言葉は、本に残していきたいと思っていますね。

「自分」から出た言葉を大切にしたい
自費出版後にはすぐ、詩集に書かれた言葉を使った展示『言葉をひろう』もプロデュースされていましたよね。
詩は余白のある言葉なので、そう言った感覚を空間で表現してみたかったんです。でもこれも自分でやったので、会場選びから何から、自費出版よりもっと大変でした(笑)。
展示作品では、言葉が浮遊していたり、反転していたりといった表現も印象的でした。
見せ方をデザイナーさんと一緒に考えながら、どの言葉をどこに載せるか決めました。たとえば深海をイメージして感情の重い言葉は下の方に置いてみたり、軽めの言葉は上に配置したり。

ほかには光の当たり方によって言葉が見えたり、床に言葉を散りばめたりしました。展示タイトル『言葉をひろう』のとおり、言葉を印刷した紙をひろえるようにしました。

訪れたときによって紙の配置が変わっていて、見え方が違う仕掛けも楽しいですよね。
私自身、ただ見るだけの展示は苦手なので、何回来ても面白いと思ってもらえるように工夫しました。私の活動を見てきてくれた人のなかには、普段活字に慣れていない人もいますが、そんな人も、動作をひとつ加えるだけで真剣に言葉を探してくれて。自分で動いて言葉を見つけるという行為によって、その人の大切な言葉になっていたらいいなと思います。
今回の展示は私のSNSだけの発信だったので広く告知はできなかったんですけど、信頼のおけるフォロワーの方々にきちんと届けられたという実感もありました。今の気分としては、インターネットでも、自分のファンとの繋がりを大切にしたいなって。色んな意見も飛び交うSNSですが、嫌なことを目にしても気にならなくなったのは、普段ずっと繋がっているフォロワーがいるからかなと思います。
オンラインのファンクラブも、クラス日報のように報告ができる大切な場だなと感じています。だから今は、この場所をきちんと大事にしていきたいです。
素敵なインターネットとの向き合い方だと思います。ご自身での自費出版・展示も終えられた今、このさき挑戦したいことはありますか?
今回裏方もやってみて、細部にこだわってゼロから作り上げることが好きなんだと感じました。小説においても世界観を作り上げていくことが好きですが、同様に空間で世界観を作ることも楽しかったし、文字以外のクリエイティブな企画もやってみたいです。
もちろん、言葉もしっかりと残していきたいです。今はAIで正確な言葉や上手い文章は書けますが、生きた人間から出た言葉も重要なんじゃないかと思い始めていて。だからこそ、AIとも、他の人から出た言葉とも優劣をつけずに、自分の言葉を躊躇わずに出していくことを頑張りたいです。

<今回のインターネットポイント>
2000年代後半以降、SNSの普及は個人の創作活動やエンターテインメントのあり方を大きく変化させました。とくにTwitter(現X)の登場は、活動者本人が日常的に言葉を発信し、ファンと直接つながる文化を一般化しました。とくにアイドルにおいては、投稿内容の工夫や継続的な発信がファン層の拡大に直結するなど、SNSが活動の中心的な役割を担うようになりました。
SNSはユーザーの反応を即時に把握できる特性から、双方向的なマーケティングが可能になりました。企業やクリエイターがファンの声を取り入れながらプロモーションを行うことが一般化し、SNSは単なる告知媒体を超えて、コミュニティと価値を育てる場所へと発展しました。
一方で、SNSの匿名性や拡散力の高さは誹謗中傷などの問題も生み、活動者が精神的負担を抱える事例も増えています。こうした状況から、最近ではSNSの「開かれすぎた」環境とは距離を置き、ファンクラブやイベントなど、よりクローズドで安心できる場でファンと交流する動きも広がりつつあります。

モモコグミカンパニー
2015年3月、ガールズグループ・BiSHとして活動開始。エッセイとして『目を合わせるということ』(シンコーミュージック・エンタテイメント、2018年)『きみが夢にでてきたよ』(日販アイ・ピー・エス、2020年)『解散ノート』(文藝春秋、2024年)を上梓。2022年に『御伽の国のみくる』(河出書房新社)で小説家デビュー。2023年には2作目となる『悪魔のコーラス』(河出書房新社)を出版。2023年のBiSH解散後も、執筆活動やメディア出演など、多岐に渡る活動を行う。
取材・文:conomi matsuura
編集:佐野楓
写真:新家菜々子、Yuta Kono(展示写真)
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