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わたしの歴史と、インターネット|「わたくし96歳」が伝えたい、戦争反対と若者への思い

いまや誰もが当たり前に利用しているインターネット。だが、そんなインターネットの存在がもしかしたらその人の歴史や社会に、大きく関わっている可能性があるかもしれない…。この連載では、さまざまな方面で活躍する方のこれまでの歴史についてインタビューしながら「インターネット」との関わりについて紐解く。いま活躍するあの人は、いったいどんな軌跡を、インターネットとともに歩んできたのだろう?

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今回お話を伺うのは、「わたくし96歳」というXのアカウントで自身の被爆体験や戦争反対の思いを投稿する、現在96歳の森田富美子(以下、富美子)さん。1945年8月9日、16歳の頃に長崎県で被爆し、両親と3人の弟を亡くした富美子さんの壮絶な戦争体験談や、政治に対する率直なコメントが大きな話題となり、Xでは約8.5万人(2025年6月時点)のフォロワーを持つ。2025年6月4日には、長女である森田京子(以下、京子)さんと共同で製作した『わたくし96歳 #戦争反対』(講談社)が発売された。

戦争体験者が減少しているなかで、戦争の記憶や反戦への思いをどう受け継いでいくのか。これは、これからの世代が考えなければならない重要な問いである。そんななか、SNSという言葉が残り続ける場で、戦争の記憶を発信する富美子さんは重要な存在だろう。

そこで、「わたくし96歳」としてXで発信する富美子さんと、長女の京子さんに、インターネットとの関わりを紐解きながら、SNSで戦争反対への思いを発信するきっかけなどについて伺った。

富美子さんの人生が綴られた著書『わたくし96歳 #戦争反対』

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【書籍のご紹介】

「実は先生にお願いがあります。私は原爆で両親と弟3人を亡くしました。みんなの分も生きないといけません。これから先、2度とあんな戦争が起きないように、核兵器がなくなるように声をあげていこうと思っています。私を長生きさせて下さい。みんなに会った時、平和になったよ、そう言えるよう頑張りたいんです」

長崎で生まれ育った「わたくし」。
78歳のとき家出して東京にきて、
90歳で持ったiPadが人生を変えた。
20歳の女性の反戦デモの投稿で反省した。
「私たち戦争体験者が、言わなくてはならない」と。
戦後戦争体験記、被爆体験機とは一線を画した、96歳がいま伝えたいこと。

絶対言い続ける。#戦争反対。
サンキュー、グッナイ。

【書籍概要】
『わたくし96歳 #戦争反対』
発売日:2025年6月4日
著者:森田富美子、森田京子
出版社:講談社

70歳のときに出会ったWindows98

富美子さんが最初にインターネットに触れたときのことを教えてください。

富美子:70歳のとき、娘から突然ノートパソコンが送られてきたんです。そのときに初めてインターネットに触れました。パソコンの使い方を勉強して、娘にメールを送ったりしていました。

すごいですね。京子さんはどうして富美子さんにパソコンを送ろうと思ったのですか。

京子:私の父は新しいもの好きで、ウォークマンとか新作の機械が出れば何でもすぐに買うような人でした。私も父と同じく新しいものに興味津々で、よく父と新しいものを共有していました。でも父が亡くなってからは、新しいものを共有する相手がいなくなってしまったので、母にパソコンを送ってみるのはどうだろうかと思ったのがきっかけです。

私はWindows95以前からパソコンを使っていたのですが、Windows98がリリースされて使ってみたところ、とても使いやすくなったと感じたので、「これなら母も使えるかも!」と思ったんです。そこで、当時の説明書はとても厚かったので、母でも分かるように手書きの説明書を作って、パソコンと一緒に送りました。

母がパソコンを使い慣れるには時間がかかるだろうなと思っていたのですが、届いた日にパソコンの設定を終えて、たった1日で私にメールを送ってきたんです!想定していたよりも、すぐにパソコンを使うことができていて、とても驚きました。その後は、ブラインドタッチもマスターしていましたね。

富美子:「魔女の島渡り」という、ブラインドタッチの練習ソフトをよくやっていました。指定された文字を打ち込んでクリアすると、次の島に移ることができるゲームで、とても楽しかったです。ゲーム感覚でやっていたら、いつの間にかブラインドタッチもできるようになっていました。

90歳の頃に手に入れたiPad。Xの投稿はiPadから富美子さん自身が行っている

新しいものを使い始めるときは「難しいな」と感じてしまう方も多いと思いますが、最初からパソコンを抵抗なく、使用されていたんですね。

京子:そうですね。母はなんでも抵抗なく使い始めていたと思います。ガラケーも使いこなしていましたし、2012年にスマホに変えたときも全然抵抗なく使用していました。2020年にはコロナの給付金でiPadを購入しましたが、iPadも使いこなしてYouTubeを見たりしていましたね。もともとタブレットは以前から持っていて、母が東京に来た2007年頃に購入し、使っていたんです。

スマホやタブレットは10年以上前から使用されていたんですね。『わたくし96歳 #戦争反対』の書籍のなかでは、2001年に京子さんがAIBO(※1)を送ったお話も印象的でした。

富美子:パソコンが届いた翌年に、娘からAIBOが送られてきたんです。AIBOの「ラッテ」はとても可愛かったです。

京子:母は起動したらすぐにメロメロになっていましたね。

さまざまなデジタルツールを使いこなしている富美子さんですが、現在はどのようにスマホやタブレットを使用していますか。

富美子:スマホの健康管理アプリに毎朝測定した血圧を記録したり、買い物時のポイント管理アプリなどを使っています。病院に行くと、お医者さんにアプリの血圧のグラフを見せて、診察してもらっていますよ。あとは、スマホやiPadでニュースを見ています。

SNSへの投稿も毎日行っていますよね。

富美子:今日も、ここに向かうタクシーの中で投稿しました。以前はスマホで投稿していましたが、iPadを購入してからはiPadで投稿しています。

京子:Xへの投稿がないと心配する方がたくさんいるので、毎日投稿するようにしているんですよね(笑)。あとは、基本的に私との連絡ツールはLINEなので、「大谷選手が打ったよ」とか、石破首相が言ってた内容などをLINEでよく送ってくれますね。

スマホを取り出し、健康管理アプリの血圧のグラフを見せてくれた富美子さん

※1 用語:「AIBO」とはソニーが開発した犬型ロボット。初代AIBOは世界初の家庭用ロボットとして1999年6月に発売された

国会中継を見ているからこそ気付くニュースへの違和感

2019年の90歳のときにTwitter(現X)のアカウントを作り、2020年にはSNSで綴った被爆体験が大きな話題となりましたが、どうしてSNSでの投稿を始めようと思ったのでしょうか。

富美子:長崎で開催された平和記念式典と、その数日前に広島で開催された平和記念式典で当時の首相がほとんど同じスピーチを行ったんです。地名だけを変えたおざなりの挨拶に誠意がないと、Twitterで批判が巻き起こりました。「何も知らない、知ろうとしないからだ」と私も腹が立ち、ちゃんと戦争のことを伝えないといけないと思って、被爆体験を投稿しました。それがきっかけで、いまもSNSで自分が思っていることを発信するようになりました。

現在では約8.5万人ものフォロワーがいますよね。反響も大きいかと思いますが、発信してみていかがですか。

富美子:投稿すると、たくさんの方からコメントをいただけて嬉しいです。私が「#核兵器廃絶」と書くと、同じように「#核兵器廃絶」と書いてくださる方も多いですし、私のコメントに共感してくださる方も多くて、励みになります。私自身もコメントに返信することがあるので、コミュニケーションができてとても楽しいです。いつかコメントくださる方に会いたいなと思っています。

週に3回、運動や習字などの趣味を楽しんでいるという富美子さん

固定ポストについても教えてください。Xでは、20歳の女性が反戦デモに参加したことに対する思いを綴った投稿が固定されていますよね。

富美子:この投稿を多くの人に読んでもらいたいと思っています。いま9万ぐらいのいいねがついていて、たくさんの人がこの投稿に対して自分の思いを書いてくださっているのが嬉しいです。

インターネットに触れる上で、気をつけていることはありますか。

富美子:娘から言われたのですが、インターネットでは自分に興味のあるものばかりが出てくるようになってしまうので、いろんな媒体から情報を得るようにしています。

京子:インターネットでニュースを見ていると、サービス側がそのニュースに興味があると予測して、関連情報をどんどん促してくるじゃないですか。同じ情報ばかり見ていたら、偏った考えになってしまうので、母には「インターネットで情報収集するときは気をつけてくださいね」とよく言っています。

でも、政治については比較的正確に情報を得ていると思います。母は国会中継を観ているので、切り取られたニュースだけを見た人だと気づかないことに気付くことができているようです。メディアが国会中継の内容をニュースで発信すると、一部カットしているところがありますが、実際に国会中継を見ている母からすると「あのとき政治家が話していたことが、どうしてカットされているのか」と疑問に思うことが多いみたいです。

ニュースとして編集される前の一次情報を取得しているということですね。

富美子:そうですね。やっぱりメディアは発信するにあたって、どこか遠慮してしまっていると思うので、言わなきゃいけないことはちゃんと伝えてほしいですね。

写真左側が長女の京子さん

96歳が若者に伝えたいこと

SNSで発信する際に大切にしていることはありますか。 

富美子:一番大切にしていることは、投稿時には必ず「#戦争反対」「#核兵器廃絶」「#核兵器禁止条約」「#メディアの仕事は権力の監視」という言葉を入れることです。

京子:このハッシュタグは、もともと母が手帳に書いていた言葉を、投稿時に手帳を見ながら毎回入力していたんです。手打ちで入力しているので、たまに打ち間違いをしたり、ハッシュタグをつけ忘れたりしてしまうこともあります(笑)。長いので、いまは辞書登録をしていて、「めでかん」と入力すると「#メディアの仕事は権力の監視」と出るように登録しています。

「#戦争反対」「#核兵器廃絶」「#核兵器禁止条約」には、戦争反対の思いが込められてると思いますが、「#メディアの仕事は権力の監視」という言葉を入れようと思ったのは、どうしてですか。

富美子:戦時中、メディアは日本が負けているのに、勝っているような報道ばかりして、国民を騙していたんです。いまの社会でも、メディアが権力を監視できていないんじゃないかと感じることがあったので、投稿に追加しようと思いました。どんな時代でも、メディアが真実を伝えることが、私たちにとってとても重要だと思っています。

普段、富美子さんが投稿しているX。選挙中は「#選挙に行こう」も必ず入れるようにしている

戦争経験者もだんだんと少なくなってきており、今後は若い世代が反戦の思いをつないでいかないといけないと思いますが、若者に向けて伝えたいことはありますか。

富美子:若い方には、しっかりと政治家の方の話を聞いて、良いか悪いかをちゃんと判断する力をつけてほしいと思います。日本では80年間戦争が起こっていないですが、いまの政治家の中には戦争をしたがっている人もいるように感じます。

私は96歳ですから、もう後はないですけれども、若い方たちはこれから長い間生きると思います。私にも20代の孫娘が2人いるんですけど、その孫たちのためにも社会がより良くなってほしいし、そのためにも政治に関心を向けてほしいですね。

 

<今回のインターネットポイント>

インターネット黎明期と呼ばれている1990年代後半から2000年代初頭にかけては、インターネットの普及が急速に進み、私たちの生活や社会は大きく変化した。

そんなインターネットの普及を大きく後押ししたのが、京子さんも使用していたWindows95である。1995年にマイクロソフト社から発売されたWindows95は、パソコン初心者でも分かりやすいようにユーザーインターフェースが刷新されたり、インターネット接続機能が標準設備されたりしたことで、インターネット利用のハードルを下げ、生活に浸透する大きなきっかけとなった。

また、1999年にソニーが発売した自立型エンターテインメントロボット「AIBO」は、人とロボットが共生する未来を感じさせる製品として話題となった。

そんなWindows 95やAIBOは、インターネット時代の到来を象徴するものである。

 

森田富美子(もりた・ふみこ)
1929年生まれ、長崎県出身。1945年8月9日に爆心地から離れた工場で被爆、両親と弟3人は爆心地から200mの実家にいて即死。戦後は、結婚後は家業の経営に加わり、化粧品発売に携わっていた。2007年に長崎から離れ、東京で娘の京子と暮らし始める。コロナ禍を機にiPadを手に入れ、Twitter(現X)で「わたくし90歳」というアカウント名で発信を始める。
X:@lam90yearsold 

 

取材・文:前田昌輝
編集:篠ゆりえ
写真:服部芽生

 

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