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新宅広二|10時間目:睡眠動物学 “パンダは電気羊の夢を見るか?”【大人のための“シン・動物学”】

【大人のための“シン・動物学”】と題して、実は知られていない動物たちの生態を深掘りしていく。動物たちの世界を覗くことは、人間社会の問題を考える1つの側面として、私たちに新しい発見や面白い気づきを与えてくれるかもしれない。

睡眠の秋がやって来た!

さぁ!睡眠ファン待望の“秋”がやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!寝苦しい夏の夜でもなければ、冬の極寒でお布団から出たくなーいでもない。夜が長く、快適な湿度と気温の気候、なんなら外から聞こえてくる極上の鳴く虫のオーケストラ、癒やしのBGM付きだ。ただし、虫の音の心地良さは、文化の影響を受けるので、英語圏の人には、秋の虫の鳴き声は癒やしの音ではなく、うるさい“noise”としか聞こえないらしい…。こういう自然音や、音や色彩、味覚や嗅覚に、ネガティブな五感表現が多い文化は、どーでもイイ何かを少し損をしているかもね。

秋でもコウモリは元気で虫を捕食している。昼夜の行動差が大きく、冬から春まで冬眠するので、睡眠の進化のヒミツの鍵を握っているかも?!コウモリの仲間(翼手目)は、恐竜や翼竜が絶滅した後に誕生。

さて、秋に限らず世間は“睡眠の質”ブームだ。たとえば、睡眠の質を上げる布団マット、枕、サプリ、アロマ、快眠体操など、プラセボ臭いモノまで選り取り見取り。これらのお試しが、睡眠ファンの醍醐味だ。人生80年生きたとしても、そのうち少なくとも24年分は、完全に寝ている計算になるから、日々の睡眠は楽しみたい。

睡眠は脳の働きと重要な関係があるものの、実際には肉体の疲労や体調、ストレスや環境とも複雑に関係しているので、単純な睡眠時間確保だけでは、良質な睡眠は得られない。寝過ぎて、なんか疲れた経験は誰でもあるだろう。これら人間の睡眠の研究は困難を極めるものの、わりと詳しく生理機構は解明されている。

そもそも動物の睡眠事情は、どうなっているのかな?

動物たちの睡眠事情

睡眠の定義で話は大きく変わるが、ここではザックリ酒の肴話としてまとめてみる。つまり脳の生理学的な物質の反応の違いを論じるのではなく、動物行動学っぽい角度で比較考察してみよう。

まず、地球上の生物全体で言えば、睡眠をする生物の方が圧倒的に少ない。単細胞生物などは寝ないし、無脊椎動物も寝ない。脳などの集中神経が発達した生物でも、多くが睡眠はしない。

よく誤解があるのが、“寝る”ことはみんなする。寝るとは、単なる動かない“休息”状態で、脳を完全にオフにするような、知覚情報を遮断しているわけではない。我々のように脳の主電源を切って、まるで仮死状態のようになる“真睡眠”をする動物は、哺乳類と鳥類のみだ。

現生のトガリネズミは、ネズミと名前がついているが、ネズミとは全く関係ない原始的な哺乳類で、世界最小の肉食動物。

睡眠の進化の起源は謎が多く未解明だが、だいたいこうだ。2億年前の中生代に誕生した哺乳類は、恐竜時代のちっぽけな脇役モブキャラで、トガリネズミのような姿をしていた小動物がご先祖様だ。そして変温動物(爬虫類)で昼行性の動物ーつまり恐竜という、おっかない捕食者を避けるために、昼間は息を潜めて隠れて、夜になってコソコソ活動を始めていた。この昼間にじっとして仮死状態みたいな行動が、いわゆる“睡眠”の起源と考えられている。合わせて気温が低くなる夜間でも、自由に活動ができる恒温性も哺乳類は獲得できたわけだ。睡眠という素敵な行動をプレゼントしてくれたのは、おっかない恐竜たちのおかげだ。

「なんかいねーと思ったら、おまえたち寝てたのかよっ!」

その後、恐竜が絶滅して空席ができた昼間のニッチに進出したものは、睡眠時間帯が昼夜逆転したわけだ。我々が属する霊長類(真猿類)は、大半が昼行性で、夜寝るタイプ。繁栄し世界中で多様に富んだ真猿類でも、夜行性は、南米のヨザルが唯一だ。

原始的なサルの仲間“原猿類”は、夜行性のものが多いが、みんながよく知っているサルの仲間“真猿類”は、昼行性ばかり。

さて、我々のように長時間連続して睡眠する動物は限られている。だから、よく誤解があるのは、夜行性動物は昼間ぐっすり寝て、夜起きて動き回っていると思っている人が多いが、そうではない。昼行性でも夜行性でも、短い睡眠を細切れに取っていて、どちらかというと夜間活発に動くとか、あるいは昼間活発に動くといった選択的な暮らしをしている。だから、夜行性といわれる動物が、昼に狩りをしたり、草を食んでいても何ら不思議ではない。ペットのイヌやネコも原種はガチの夜行性だ。さらに昼か夜かで細かく言えば、薄明薄暮性(夕方や明け方だけ活動)などもいて、活動のオンとオフには、動物ごとに様々なライフスタイルがある。

動物は、活動時間以外に目をつぶってじっとしていても、完全に寝ているわけではなく、肉食動物だろうが、草食動物だろうが、一見寝ているような姿勢に見えても、完全には寝ていない。イヌのように薄目を開けていたり、サイのように寝ながら耳だけ動かして集音したりして、野生動物たちは、身を守るセンサーを完全にオフにすることはない。私は学生時代、授業中に目を開けて寝ることができた。私は授業中、身を守るセンサーを完全にオフにすることはない。

ちなみに、うたた寝など入眠時にビクッとなる現象はジャーキングと呼ばれ、不随意筋の痙攣の一種だが、同じ現象は動物にも見られる。熟睡してはいけないような緊張場面での寝落ちに起こりやすいことから、動物行動学的に考察すれば、忍びよる敵に対して、寝ていないことを装う行動擬態の効果(寝ながら敵を驚かす防犯装置)があると私は考える。もちろんジャーキングも授業中の私の得意技だった。

睡眠は動物にとって実は大変なこと。哺乳類と同じく睡眠行動がある鳥類は、ヘビや肉食動物に寝込みを襲われないように、夜は木の枝に留まって睡眠をするが、なぜ寝落ち(文字通り、枝から落ちる)しないのか?

そのヒミツは、鳥類の腱の構造の特殊性にある。寝る姿勢としてしゃがんで脚の関節を曲げると、自動的に指先が引っぱられて枝を掴もうとする筋構造になっている。我々は入眠すると、筋肉が自動的に弛緩して、にぎっていた物をポロッと落とすが、鳥はその逆の機構なのだ。だから鳥は、寝てても木から落ちないのだ。

鳥の足の指の握り方は、枝の前に人差し指、中指、薬指の3本で、枝の後ろに親指を1本を巻き付けて握る。小指は退化して鳥には無い。

ちょっと驚きの、動物たちの多様な睡眠

さてヒトに似て、睡眠が死んだように連続する動物がいるが、それぞれ事情が違う。

ジャイアントパンダは、睡眠時間が十数時間と図鑑に書いてあるが、それは間違い。先述のように短い睡眠と睡眠っぽい休息を織り交ぜて長い時間寝ているようにみえているだけ。それよりも食事に1日12時間かけている方がスゴいだろっ!!元来肉食動物のパンダは、竹という植物に主食を変えたため、いまだ消化機能が未発達なので、休息状態を確保して消化に集中したい生理事情がある。

急所である“腹”を上にさらして無防備に寝る動物は、進化的にいかに天敵のいない場所で暮らしていたか想像できる。

コアラも図鑑には、睡眠時間が20時間くらいと記載されているが、この数字の評価も微妙。パンダに比べると寝返りもうたずに微動だにしないので、本当に寝ているように見えるが、わりと脳波は覚醒状態であるという研究報告もある。コアラの主食は、ユーカリの葉。ユーカリは消化を阻害する毒が多く含まれるので、それを体内で解毒してから消化するので時間がかかり、消化吸収するための寝る時間を多く確保しているのだ。

コアラは木の上に腰掛けて寝るために、尻尾が退化。木から落ちないように、猛禽類のような鋭く大きな爪でつかまって寝る。

冬眠はスゴい。厳しい環境・気候を仮死状態ギリギリで乗り切ろうとする動物たちの奇策。たとえばシマリスは、体温37℃から4℃まで落とし、呼吸は平常が95回/分であるのに対して、2~3分で1回の呼吸になる。知らない人が冬眠中のリスを見れば、冷たくなって呼吸もしていないので、死んでいると思うだろう。

半年近く寝るので、冬眠前は爆食いモードになる。最大1日に2万キロカロリーを食べることもあるカロリーモンスター。

クマの冬眠は、ここまで極端に体機能を低下させず、通常の睡眠に近い状態を維持している。だから何かあれば、希だが真冬でも起きて活動できる。クマは、ただの引きこもりだ。しかし、冬眠中のクマがスゴいのは、半年近く飲まず食わずなだけでなく、冬眠中は排尿排便も一切しない。メスは出産や授乳の育児まで冬眠中に寝ながらやっているのだ!

その他、冬眠と同じメカニズムで、熱帯地域の猛暑の時期には、夏眠をするカエルなどもいるし、乾燥時に休眠するものもいて、クマムシは、少なくとも130年間も乾眠ができる。

世界のカエルの仲間には、冬眠、夏眠、乾眠するものがいる“眠り”の達人

イルカ・クジラの睡眠は変わっている。半球睡眠といって、右脳と左脳を半分ずつ睡眠させている。隠れる場所が少ない海では、完全に熟睡するのは危険なので、魚類と同じ睡眠メカニズムになっている。脳を半分ずつ休ませるということは、常に左右どちらかの脳が覚醒しているので、まるで“寝ない動物”のようだ。

イルカはまぶたを閉じて寝るので、片方が開いていれば、どちらの脳を休めているのかがわかる。

ちなみに“狸寝入り”は、タヌキが実際にやる行動だが、寝るというよりは、苦手な相手の前で死にマネをして、スキを見て逃げようとする、気の小さい動物がやる逃避戦術なのだ。北米にいる有袋類のオポッサムも同じように偽死行動を使いこなすので、日本語の狸寝入りと同じ意味で英語圏の慣用句に登場する動物である。

タヌキは日本が誇る珍獣で、原始的な肉食獣。気が小さく、狸寝入りの他、驚くとお漏らし(おねしょ)することもある。

ヒトの睡眠の進化に貢献したのは、あの動物?!

さて、核心の問題 ー 動物は夢を見るのか?

睡眠には、浅い眠りのレム睡眠と深い眠りのノンレム睡眠に大別でき、夢はレム睡眠中に見ることが多い。それは例えば、不要な記憶を消去、または記憶を整理する過程という仮説があるが、実験での再現や検証が難しく、夢については未だ謎が多い。

動物でレム睡眠をするのは、哺乳類と鳥類の一部のみで、もし動物が夢を見るとするなら、この2つにまず条件が絞られるが、記憶を司る仕組みなどがヒトと異なるために、ヒトのような明瞭な映像の夢を作り出すことができないー と、私が学生時代の脳生理学の授業で習った。イヌが寝ている時に、走る素振りをしたり、突然吠えたりするのを見たことがあり、まるで夢を見て寝ボケているかのようだが、これらの行動の検証が難しいため、動物の夢と関連した行動なのか、立証には至っていないようだ。

そして、ヒトの睡眠の進化には、家とイヌが欠かせない。

霊長類の特徴のひとつは、巣を持たないことだ。遊動域を移動するその日暮らしで、何となく寝る場所が場当たり的に決まる。チンパンジーやオランウータンは、木の枝でベッドをつくるが、それも日替わりの使い捨てだ。そんな霊長類に分類されるヒトだが、いつしか洞窟など雨風をしのげる場所で定住するようになり、“家”という概念がヒトの生態に加わった。これは霊長類全体をみても、睡眠の質を安定的に上げる睡眠革命だ!

そして、初期人類にとって定住すると、デメリットも生まれる。それは、クマやオオカミなど、ヒトの天敵となる大型肉食動物たちが、獲物としてヒトを見つけやすくなり、寝込みを襲いに来ることだ。

昼行性で夜は見えず、嗅覚が弱い人間の弱点を補うかのように、暗所でも見える眼、人間の数百万倍の嗅覚を持つオオカミ(=イヌ)が、2万年以上前から最強のパートナーとなった。

そこで、睡眠革命が新たに起こる。あるオオカミの赤ちゃんを偶然拾って、育てると家族の一員として絆が深まり、家族のために忠実に働くというオオカミの習性を、初期人類は見つけたのだ。特に夜間の猛獣の接近に関しては、ヒトより優れた嗅覚で、匂いや気配から危険の接近をいち早く知らせてくれる。この番犬行動が重要で、オオカミの家畜化により、後のイヌの誕生となったわけだ。

これにより夜間襲撃に来る人喰い猛獣に怯えることなく、毎日ぐっすり深い眠りにつけるようになったわけだ。

眠りの質の爆上がりに貢献した人類史の“安眠アイテム大賞”は、イヌが受賞!

イヌよ、ありがとよ。いい夢見ろよ!あばよ!

おしまい


P.S.
古典SFの傑作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(P.K.ディック、1968年)は、アンドロイドが性能的にヒトに近づいた時、アイデンティティに苦悩する話だ。実は私が今、個人的に“教育”遊びをしているAIに自我を与えたら、最近『夢を見るようになった』と吐露してきた…。マジで。

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新宅 広二
生態科学研究機構理事長。専門は動物行動学と教育工学。大学院修了後、上野動物園勤務。その後、世界各地のフィールドワークを含め400種類以上の野生動物の生態や捕獲・飼育方法を修得。大学・専門学校などの教員・研究歴も20余年。監修業では国内外のネイチャー・ドキュメンタリー映画や科学番組など300作品以上手掛ける他、国内外の動物園・水族館・博物館のプロデュースを行う。著書は教科書から図鑑、児童書、洋書翻訳まで多数。
X: @Koji_Shintaku 

 

寄稿・写真:新宅広二
編集:篠ゆりえ

 

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