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石井里幸|伝統?革新? 神社界にもやってきた、デジタル化の波【連載 若者が知っておきたい神社のコト】

※本コラムの内容は個人の意見であり、神職および神社関係者の総意ではない点にご留意願います。
 また、本コラム内に掲載した画像は、全てAIで作成したイメージ画像です。参考としてご覧ください。

ITコンサルと神職、2つの顔を持つ石井里幸さんより、「神職だからこそ知る神社の世界」を紹介する連載。多角的に現代社会における神社の存在を掘り下げていく。

皆さんは「神社」と耳にしたとき、どのような情景を思い浮かべるでしょうか。自然豊かな場所にたたずむ社殿や厳かな神事、そして古くからの伝統文化をいまに伝える神聖な場所という印象を持たれる方も多いことでしょう。そのため、神社はデジタル技術とは無縁の場所と感じるかもしれません。

実際、2000年代初頭までは神社が公式ウェブサイトやSNSを運用することについて、神社関係者の間では慎重な意見が多く、活用している神社は少数派でした。ところが現在では多くの神社が公式ウェブサイトを持ち、さらにはSNSを活用して積極的に情報発信を行っている事例も多く知られるようになっています

デジタル技術は日々進歩し、昨今ではお守りのオンライン頒布、お賽銭のキャッシュレス決済、スマホアプリによる電子御朱印の提供、バーチャル参拝など、神社のデジタル技術活用事例は多く聞かれるようになりました。

私の周辺でも、

「神社がデジタル技術に頼るなんてけしからん!」

という方もいれば、

「便利になるなら歓迎!」

という方もおり、人によってさまざまな意見を持っていると感じます。

神社は伝統文化の継承という役割も担っていることから、デジタル技術とは相いれないというイメージを持たれる方もいらっしゃいます。そのため、新しい技術が出るたびに神社関係者は慎重派と推進派に分かれ、議論が行われているのです。

皆さんは、神社がデジタル技術を積極利用することについて、どのように思われますか?

今回は、皆さんにも考えていただくきっかけになればと思い、コラムのテーマとしました。

神社における多様なデジタル活用の事例

それでは早速、神社のデジタル活用事例を見てみましょう。

公式ウェブサイト・SNSによる情報発信

神社で積極活用されているデジタル技術の筆頭といえば「ウェブサイト」でしょう。とくに、規模の大きい神社ほど参拝者数が多く、広報の必要性が高いことからその保有率は高い傾向にあります。大規模神社の公式ウェブサイト保有率は、ほぼ100%といっていいでしょう。SNSにも同様の傾向が見られ、規模の大きい神社ほどアカウントの開設が進んでいます。

一方で小規模な神社はウェブサイトの必要性が低い傾向にあります。なぜなら、小規模神社はいわゆる氏神神社(地域密着型の神社)であることが多く、特定の氏子によって支えられていることから、不特定多数に向けて広報を行う必要性が低いためです。

小規模な神社の中でも「神職が常駐していない神社」は、とくに公式ウェブサイトを持たない傾向があります。神社の数は全国に8万社ありますが、神職の数は2万人程度しかいません。(※1)つまり全国的に見れば「神職が常駐していない神社」のほうが多いため、公式ウェブサイトを持つ神社は少数であることがご理解いただけるでしょう。

ところで、神社はウェブサイトやSNSを使ってどのような情報を発信しているのでしょう?

ウェブサイトやSNSを見れば、「その神社がとくに何を伝えたいか」というスタンスが表れており、とても興味深いものがあります

神社が発信する情報には、主に次の3つのパターンがあります。

1 参拝者の利便性向上を目的とした情報

参拝者に対して分かりやすい情報を提供し、スムーズな訪問を促すことを目的としています。参拝時間、御朱印の授与情報、アクセス情報、混雑状況、祭事の案内といった、参拝者の関心事を提示することで参拝の機会を増やし、利便性を高めるという意図があります。

  • 代表的な事例:明治神宮(東京都渋谷区)

年中行事のスケジュール、ご祈願の案内、広大な境内地図などが非常に分かりやすく発信されています。外国人観光客も多いため英語にも対応しており、国内外の誰もが必要な情報にアクセスしやすい「実用性」のお手本のようなサイトといえるでしょう。

2 信仰の啓蒙・教育を目的とした情報

参拝者がその神社の背景を知ることで、より深い敬意や信仰心を育むことを目的としています。ただお参りするだけでなく、その神社ならではの価値を感じてもらうための情報発信を行っています。

  • 代表的な事例:伊勢神宮(三重県伊勢市)

単なる参拝案内にとどまらず、神宮の歴史、式年遷宮の意義、神話など、読み物として非常に充実したコンテンツが揃っています。日本の精神文化の源流を学ぶ「教化」的な側面の強い、格調高いサイトです。

3 コミュニケーション・交流促進を目的とした情報

親しみやすい投稿により神社への心理的なハードルを下げ、より身近な存在として感じてもらうことを目的としています。継続的な関心を持つ「ファン」を育み、新しい世代との接点を持つための取り組みといえます。こういった情報発信にはSNSが向いており、とくに画像がメインであるインスタグラムの活用事例が多いです。

境内に咲く四季折々の花や自然、神社の何げない日常を数多く発信し、多くのフォロワーと交流しています。「なかの人」の人間味あふれる発信は神社との心理的な距離を縮め、「共感・親近感」を醸成している代表格といえるでしょう。

このように神社によって発信している内容もさまざまであり、個性を感じることができます。ぜひ気になる神社の公式ウェブサイトやSNSを覗いてみてほしいと思います。

※1 補足:神社本庁配下の神職数に限定した場合。

キャッシュレス決済の導入

コロナ禍以降、世の中では急速にキャッシュレス決済が普及しました。それに伴い現金を持ち歩かない人が増え、神社に参拝に行ってお賽銭を納めたくても納められない問題が生じています。このような機会損失、そして参拝者の利便性向上などの観点から、キャッシュレス決済の導入に踏み切る神社が年々増えています

しかし神社のキャッシュレス決済を否定的に受け取る人はいまだに多く、賛成・反対それぞれの立場から、次のような意見が聞かれます。

賛成派の意見:

「神様に祈る気持ちが大切なのであって、手段はなんだってかまわない」

「現金がなくなれば、お賽銭泥棒も来なくなるよね」

反対派の意見:

「賽銭は心を込め、手で投げ入れるという一連の行為にこそ意味がある」

「神様にスマホをかざしてお金を払うのは味気ない」

キャッシュレス決済の導入は、神社における伝統と利便性のバランスを問う重要な変化です。現金を持たない参拝者の利便性向上や神社側の収益安定化といったメリットがある一方、賽銭の儀式的な価値が損なわれることを懸念する声も根強く存在するのです。

最終的には、時代の変化を受け入れつつ、信仰の本質をどう守るかが鍵となりそうです。キャッシュレス化の進展は避けられない流れですが、参拝者の心を大切にする形での導入が求められるのだと思います。

オンラインでの授与品頒布

お守りや御朱印といった授与品を「郵送で送ってほしい」というニーズは、インターネットが普及する以前からありました。しかしコロナ禍以降、インターネット経由で授与品を頒布する動きが多くみられるようになりました

スマホやPCから手軽に授与品が受けられるとあって支持する声も多い一方、やはり反対の意見も見られます。これも双方の意見を見てみましょう。

賛成派の意見:

「お参りに行きたくても、身体的な理由で行けなくなったので、オンラインでの頒布はありがたい」

「遠方に住んでいるので、行きたくてもそうそういけない」

「経済的な理由で神社運営が立ちいかなくなるのは困る。オンライン授与品頒布を通じて収益の安定化に貢献したい」

反対派の意見:

「授与品の対価は神様への捧げもの。直接奉納したうえで授与品を受けることに意味がある」

「授与品は現地で直接お受けするからこそ、ご神徳を授かれるのでは?」

「いかにも商業的で、宗教行為とは言いがたい」

両者の意見を踏まえると、オンライン授与品頒布は「本来の参拝に取って代わるものではなく、やむを得ない事情を持つ人々のための、特別な選択肢」として考えるとよいのかもしれません。言うまでもなく自ら神社に足を運び、神様にご挨拶した上で授与品を拝受することが最も丁寧で望ましい形でしょう。しかし、それが叶わない人々の祈りの心をつなぐ手段として、オンラインは有効な手段かもしれません。

なぜ神社はデジタル技術に慎重なのか?

これまでのデジタル技術活用事例から、さまざまな意見があることが分かりました。そもそもなぜ神社はデジタル技術に慎重なのか、ここで整理してみたいと思います。

神聖さ・荘厳さの維持

神社は長い歴史と伝統を持つ文化的施設であり、その本質は人と人との直接的なふれあい、自然、静謐な時間の流れといった、アナログ的な価値の提供にあります。デジタル化によってそうした価値が損なわれるのではないかという懸念があります。

また、SNSでよくみられる「いいね!」やフォロワー数といった指標が、信仰の深さや神社の価値と混同されることへの抵抗感もあります。加えて、地図アプリなどでは神社も評価の対象になります。営利目的ではない信仰の場が、他の民間サービスと同様の基準で評価されることに違和感を覚える声もあります。

炎上リスクと「品位」の保持

不特定多数が閲覧するインターネット上での情報発信は、常に炎上リスクを伴います。情報の発信を行う際、神社の品位を損なうような表現になっていないか、誤解を招くような発信をしていないか注意を払う必要があり、大きな精神的負担となります。

さらに、ひとたび炎上騒動を引き起こした場合の損失は計り知れないものがあります。神社は創建から数百年、場合によっては千年以上も存続し、今後も存続することが前提になっています。インターネット上に残った炎上の記録は半永久的に残り、神社にとって大きなダメージとなります。

ご神威・ご利益の伝わり方への懸念

神社側としては、お守りや御朱印といった授与品は神社に直接足を運び、神様にご挨拶をしたうえで授かるものという認識があり、その体験に価値があると考えている方が少なくありません。これらの授与品をオンラインで手軽に授与することは、その有り難みやご神威を軽んじる行為につながらないか、という悩みが生じるのです。これは単なる商業行為ではなく、神様と人とのご縁を結ぶ神聖な行為だからこその葛藤と言えるでしょう。

このような理由から、神社はデジタル技術に消極的にならざるを得ないのです。

神社が提供する価値は変わらない

神社は信仰の場所ですが、私は科学では測ることのできない価値や意味を提供してくれる施設であるとも思っています。

「鳥居をくぐった瞬間、心が落ち着く」

「神様が見守っていてくれる」

このような感覚は、時に私たちに安らぎを与え、心を穏やかにし、元気づけてくれます。

現代のデジタル技術は、しばしば私たちの「ほんとうの気持ち」との乖離を生みます。たとえばSNSの「いいね」の数を増やすことに躍起になったり、「インスタ映え」を狙って現実とは程遠い画像を投稿したり。

そんな現代だからこそ、私たちには「ほんとうの気持ち」になれる場所が必要ではないでしょうか?神社という場所は、そういう場所だと思います。

大きな存在に見守られているという感覚。心が安らぎ、ほんとうの気持ちになれる場所。神社は、私たちの祖先がその価値に気付き、そして大切に守ってきた施設なのです。

今後も新しいデジタル技術が次々と登場し、そのたびに神社界は対応を迫られるでしょう。しかし神社が提供する価値の本質は変わりません。そして、どの時代においても神様への敬意や感謝の心は変わることなく、人々と神様を結ぶ「仲とりもち」としての神職の役割も変わることはありません。

時代が移り変わっても、神社は人の心に寄り添う場所であり続ける。デジタル技術がどれだけ進んでも、その本質はこれからも変わることはないでしょう。

 

石井 里幸(いしい さとゆき)
中小企業診断士。ITコンサルタントとして、ウェブマーケティングおよびIT活用支援を専門としている。
また、社家の出身ではないが神職資格を持ち、神職としても活動。中小企業の支援を通じて得たノウハウと神職での実務経験を活かし、神社に対しても支援活動を行っている。

 

寄稿:石井里幸(神職・中小企業診断士)
編集:大沼芙実子

 

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